イベントレポート

最新のSPARC64プロセッサや過去最大容量の抵抗変化メモリなどに注目

カンファレンス会期:2月17日~21日(現地時間)

会場:米国カリフォルニア州サンフランシスコ Marriott Marquis Hotel

 大規模半導体集積回路(LSI)の研究開発成果に関する世界最大の国際会議、ISSCC(International Solid-State Circuits Conference)が、米国時間2月17日に米国カリフォルニア州サンフランシスコで始まる。ISSCCでは毎年、プロセッサやメモリ、SoC(System on a Chip)、ミックスドシグナルなどの最新チップとその技術内容が発表される。半導体の研究開発コミュニティにとっては年に1度の大イベントである。

 ISSCC 2013での発表を目指して投稿された論文アブストラクトの件数は、629件である。前年の628件とほぼ同じ件数だ。発表の機会を得られた採択論文の数は209件。採択率は33.2%で、ほぼ3分の1である。採択論文を地域別にみると、北米が74件、欧州が51件、アジア(日本を含む)が84件となっている。最近はアジアの採択論文が増加しており、これまでトップだった北米を前年のISSCC 2012で抜いた。今年はその差をさらに広げている。

 国別のトップは米国で73件。前年の65件から増えた。2位は日本で30件とこれも前年の25件から増加した。3位は韓国で22件、4位はオランダで21件、5位は台湾で19件と続く。上記以外の国はすべて10件未満である。

ISSCCの投稿論文件数と採択論文件数の推移。左端が今回(2013年)、右端が過去(2009年)となっているので眺めるときは注意されたい
地域別の採択論文件数推移。過去5年でアジア地域の論文が増えてきたことが分かる
国・地域別の採択論文数。カッコ内の数値は左がISSCC 2012、中央がISSCC 2011、右がISSCC 2010の採択論文数

 発表組織別の採択論文数トップは、12件が採択された韓国のKAIST(Korea Advanced Institute of Science and Technology)である。9件で2位のベルギーIMECが続く。3位は8件で、米国IBMと米国MIT(マサチューセッツ工科大学)、オランダのデルフト工科大学が並んだ。発表分野は広範囲にバランス良く分散している。高性能デジタル(主に高性能プロセッサ)、高電力効率デジタル(主にモバイルプロセッサ)、メモリ、ワイヤレス通信など、いずれも10%前後の割合になっている。

発表組織別の採択論文数
発表分野別の採択論文数

 ここからはカンファレンスで発表予定の注目論文をご紹介していこう。

2月18日:16コア内蔵の高性能64bit「SRARC64-X」

基調講演(プレナリ講演)のテーマと講演者

 カンファレンスは例年と同様に、初日(18日)午前のプレナリセッション(基調講演セッション)で始まる。今回は4件の基調講演が予定されている。最初の講演は将来の高性能コンピューティングアーキテクチャがテーマである。次の講演では次世代の半導体リソグラフィ技術を展望する。続く講演では、スマートホームとスマート社会を論じる。最後の講演は、技術の革新がテーマである。

 18日の午後は、一般講演が始まる。この時間帯はプロセッサの講演セッション(セッション3)に注目したい。例年、プロセッサの講演セッションではIntelの講演が数件あり、Intelがプロセッサ技術を解説する場ともなっていた。しかし今年はIntelの講演は1件もなく、やや寂しい。

 代わって存在感を示すのが64bit SPARCプロセッサである。富士通と富士通セミコンダクターが共同で、16個のCPUコアを内蔵する64bit SPARCプロセッサ「SPARC64-X」を発表する(講演番号3.8)。動作周波数は3.0GHz。24MBの共有2次キャッシュを内蔵する。製造技術は28nmのCMOS、13層の金属配線である。トランジスタ数は30億個、シリコンダイ面積は588平方mm。OracleもSPARCプロセッサ「T5」を発表する(講演番号3.7、講演番号3.2)。16個のCPUコアを内蔵し、3.6GHzで動く。

 IBMは、動作周波数が5.5GHzと高いZマイクロプロセッサの開発成果を講演する(講演番号3.1)。6個のCPUコアと48MBのeDRAM共有キャッシュを内蔵する。製造技術は32nmのSOI CMOS、15層の金属配線である。トランジスタ数は27.5億個、シリコンダイ面積は598平方mm。

 同じ18日の午後には、米Broadcomが超高速トランシーバの講演セッション(セッション2)で、39.8Gbps~44.6Gbpsの高速動作で消費電力が2W未満のトランシーバチップを発表する(講演番号2.3)。製造技術は40nmのCMOSである。

2月19日:32Gbitと過去最大容量の抵抗変化メモリ

 2月19日の午前は、モバイル用アプリケーションプロセッサの講演セッション(セッション9)が興味深い。Samsung Electronicsが、8個のARM Cortex-Aコアを内蔵するモバイル用アプリケーションプロセッサの開発成果を披露する(講演番号9.1)。4個の高性能コア(Cortex-A15とみられる)と4個の低消費コア(Cortex-A7とみられる)を内蔵し、作業負荷に応じてCPUコア群(クラスタ)を切り換える。高性能クラスタの動作周波数は1.8GHz、低消費クラスタの動作周波数は1.2GHz。製造技術は28nmのHKMGプロセスである。

 ルネサスモバイルとルネサスエレクトロニクスは、LTE対応のベースバンドプロセッサとデュアルコアのアプリケーションプロセッサを統合した大規模プロセッサを共同発表する(講演番号9.2)。動作周波数は1.5GHz、製造技術は28nmのHKMGプロセスである。

 2月19日の午後は、不揮発性メモリの講演セッション(セッション12)に注目したい。SanDiskと東芝が、32Gbitと過去最大容量の抵抗変化メモリ(ReRAM)の共同開発成果を披露する(講演番号12.1)。24nmの製造技術で試作したシリコンダイの面積は130.7平方mm。またMicron Technologyが、3bit/セル方式で128Gbitの記憶容量を達成したNANDフラッシュメモリを発表する(講演番号12.5)。

2月20日:20nmのプレーナ型トランジスタによる微細SRAM

 最終日である2月20日は、埋め込みSRAMの講演セッション(セッション18)が興味深い。台湾のTSMCが、セル面積が0.081平方μmと極めて小さなSRAMセル技術を発表する(講演番号18.1)。製造技術は20nm、トランジスタはプレーナ型、6トランジスタのセルである。112Mbitのメモリセルアレイを試作した。またIBMは、22nmのSOI技術による埋め込みSRAM技術を発表する(講演番号18.4)。64Mbitのメモリセルアレイを試作している。

 このほかDRAMの講演セッション(セッション17)では、米Rambusが入出力ピン当たり6.4Gbpsと高速のDRAM用データ転送技術を発表する(講演番号17.1)。デュアルランクのDIMM用で、シングルエンドで伝送する。転送速度当たりの消費電力は9.1mW/Gbpsと低い。

 このほかにも注目すべき講演が少なくない。PC Watchでは順次、現地レポートをお届けする予定なので期待されたい。

(福田 昭)