イベントレポート

「ROG Ally」に採用されている「Ryzen Z1」の詳細が明らかに

ASUS ROG Allyに搭載されているRyzen Z1、上位モデルのRyzen Z1 Extremeは8コア/16スレッドのZen 4

 AMDは、5月30日~6月2日の4日間にわたって開催されたCOMPUTEX 2023に合わせて、同社の台湾オフィスで記者説明会を行ない、同社が5月に発表した「AMD Ryzen Z1 シリーズ・プロセッサー」(以下Ryzen Z1)に関する説明を行なった。

 Ryzen Z1は、ASUSが5月29日に日本でも発表したハンドヘルドゲーミングデバイス「ROG Ally」(アールオージーエイライ)に採用されており、大きな注目が集まっている。そのRyzen Z1の詳細について、AMD コンシューマ&ゲーミングクライアント事業部 上席部長 レナート・フラゲール氏が解説を行なった。

ROG Allyに採用されているRyzen Z1は、「Phoenix」ベースのAMDの最新SoC

ROG Ally

 ASUSが発表したROG Allyは、AMDのRyzen Z1シリーズをSoCとして採用しているPCゲームがプレイできるハンドヘルドゲーミングデバイスだ。こうしたハンドヘルドゲーミングデバイスはこれまでも発売されているし、PCゲームの配信プラットフォーム「Steam」を提供しているValveが提供しているSteam Deckも日本で提供開始されるなどして注目を集めている。

 そうした意味ではASUSはPCゲームがプレイできるハンドヘルドゲーミングデバイス市場では後発ということになるが、それでも注目を集めているのは、こうしたハンドヘルドゲーミングデバイスとしてはこれまでにない高性能を実現しているからだ。

 その最大の要因はSoCにAMDが提供するRyzen Z1シリーズを採用していることだ。AMDのRyzen Z1は、CES 2023で発表した「AMD Ryzen 7000 シリーズ・プロセッサー」(以下Ryzen 7000)のうち、Ryzen 7040シリーズでも採用されている新チップ「Phoenix」(開発コードネーム)に基づいている。

【表1】Ryzen 7000シリーズ・モバイル・プロセッサーの五つのシリーズ(AMDの資料などより筆者作成)
シリーズ名モデルナンバーアルファベット開発コードネームCPU世代チップ構造CPUコア/スレッド(最大構成)最大キャッシュ(L2+L3)製造プロセスノードGPU(Cu数)メモリUSB4AI EngineTDP
Ryzen 7045シリーズHXDragon RangeZen 4チップレット16コア/32スレッド80MB5nm(IODは6nm)RDNA 2(2)DDR5外付で対応55W+
Ryzen 7040シリーズHS/UPhoenixZen 4モノリシック8コア/16スレッド20MB4nmRDNA 3(12)DDR5/LPDDR5内蔵35-45W(HS)、15~28W(U)
Ryzen 7035シリーズHS/URembrant-RZen 3+モノリシック8コア/16スレッド20MB6nmRDNA 2(12)DDR5/LPDDR5内蔵35W(HS)、15~28W(U)
Ryzen 7030シリーズUBarcelo-RZen 3モノリシック8コア/16スレッド20MB7nmVega(8)DDR4/LPDDR415W
Ryzen 7020シリーズ未公表MendcinoZen 2モノリシック4コア/8スレッド6MB6nmVega(2)LPDDR5未公表

 ノートPC向けのRyzen 7000には、上から開発コードネームでDragon Range(Ryzen 7045)、Phoenix(Ryzen 7040)、Rembrandt-R(Ryzen 7035)、Barcelo-R(Ryzen 7030)、Mendocino (Ryzen 7020)というダイがあり、Rembrandt-RとBarcelo-RはRefreshの頭文字であるRがついていることからも分かるように従来製品のリフレッシュ版であり、CPUコアもZen 3、GPUもRDNA2やVegaという1世代、2世代前のGPUアーキテクチャになっている。

 Dragon RangeはCPUこそ最新のZen 4だが、GPUに関しては1世代前のRDNA2ベースになっており、GPUのCU(Compute Unit)も2コアしかないという構造になっている。ただ、Dragon RangeはそもそもdGPUを搭載するゲーミングPCやデスクトップリプレースメント向けとなるので、特に内蔵GPU世代は問われることはない。

 つまり、CPUとGPUがどちらも最新世代になっているRyzen 7000シリーズは、Phoenixだけとなるのだ(プロセスノードもPhoenixだけ最新の4nmとなっている)。加えて、最大で8コア/16スレッドのZen 4コアCPU、最大12CUのRDNA 3 GPUから構成されている。

 また、「Ryzen AI」と呼んでいるXilinx由来のFPGAをベースにしたNPU(Neural Processing Unit)を内蔵しており、Windows 11で標準搭載されているAI推論を利用したカメラエフェクト機能である「Windows Studio Effects」に対応しているほか、「Ryzen AI software」という開発キットを利用して開発された生成AIプリケーションなどを利用できることも、もう1つの大きな特徴だ。

 ちなみに競合となるIntelの最新製品である第13世代Core(開発コードネーム:Raptor Lake)は、2020年に発表された第11世代Core(開発コードネーム:Tiger Lake)で導入されたGPU(Intel Xe Graphics、Xe-LP)が内蔵GPUとして採用されている。つまり、3世代に渡って同じGPUアーキテクチャが採用されている。

 Xe-LPは、Vegaと比べると性能では上回っていたが、Ryzen 6000シリーズに搭載されていたRDNA 2と比較するとほぼ同等。その進化版であるRDNA 3はXe-LPを上回っていると考えるのが妥当で、その意味で現状Phoenixは、最強の内蔵GPUを搭載したx86 CPUのSoCだと考えられる。これがROG Allyがこれまでのハンドヘルドゲーミングデバイスと大きく異なる点だ。

 ただし、ノートPC向けのRyzen 7040と同じPhoenixのダイを利用しているものの、Ryzen Z1にはRyzen AIは搭載されていない。チップにはFPGAのブロックは用意されているが「Ryzen Z1ではRyzen AIの機能は有効になっていない。これは利用シーンを考えた結果だ」(フラゲール氏)との通りで、今のところハンドヘルドゲーミングデバイスには必要がないと考えられた結果だという。

 なお、ROG Allyにはそもそも前面カメラがついていないので、Windows Studio Effectsへの対応も必要がないので、ユースケースを考えれば必要ないというのはその通りだ。

2つのモデルのうちGPUがフルスペックのRyzen Z1 Extremeがオススメ、最大でTDP 30Wに設定可能

ROG Allyの基板、後ろに見えるのがデュアルファン

 AMDが公表しているRyzen Z1のスペックは以下のようになっている。Ryzen Z1には、Ryzen Z1 ExtremeとRyzen Z1の2つのモデルが用意されており、最大の違いはCPUコア数とGPUのCU(Compute Unit)数にある。

表2 Ryzen Z1スペック
Ryzen Z1 ExtremeRyzen Z1
CPU8コア/16スレッド6コア/12スレッド
GPU(CU数)124
L3キャッシュ24MB22MB
TDP9/15/30W9/15/30W

 元々のダイであるPhoenixのスペックとしてはCPUが8コア/16スレッド、GPUが12CUとなっている。上位モデルとなるRyzen Z1 Extremeはフルスペックの8コア/16スレッド、GPUが12CUとなっているが、下位モデルとなるRyzen Z1はCPUが6コア/12スレッド、GPUが4CUとなっている。

 ここで論点となってくるのは下位モデルのRyzen Z1のGPUが4CUと、かなりCU数が限られていることだ。言うまでもなく、ハンドヘルドゲーミングPCのメインアプリケーションである3Dゲームでは、処理能力を規定するのはCPUではなくGPUだ。つまりGPUの演算器が少ないとそれだけ性能は低下することになる。単純にエンジン数が3分の1だから性能が3分の1になるということではないが、それに近い性能低下があるそう考えて間違えではない。

 その意味で、ゲームの性能を重視してROG Allyのようなハンドヘルドゲーミングデバイスを購入するのであれば、SoCはRyzen Z1 Extremeを必ず選びたいところだ。

ROG Allyのデュアルファン

 AMDのフラゲール氏は「Ryzen Z1シリーズのベースTDPは9W。しかし、同時に15W、30Wに設定することも可能であり、ROG Allyではターボモードに設定した時には30W、パフォーマンスモードで15W、サイレントモードで9Wに動作する」と説明し、Ryzen Z1では3つの熱設計の枠を提供しており、標準では9Wだが、OEMメーカーが15W、30Wも設定として選べるという。

 もちろん、その場合にはOEMメーカー側が30W時や15W時にSoCから発せられる熱を、ファンやヒートパイプなどの放熱機構を利用して放熱できるようにしている必要がある。ROG Allyでは2つのファンに、ASUSが「アンチグラビティヒートパイプ」と呼んでいるヒートパイプ内の液体が気化する特性を活かして水が循環するタイプのヒートパイプを利用して放熱している。それによりターボモードに設定してSoCが30W分の熱量を発生させてもきちんと放熱することを可能にしている。

バッテリの容量は40Wh、AAAタイトルをプレイするときには最大2時間となるため、AAAタイトルプレイ時にはACアダプタを接続して利用する利用シーンが想定される

 なお、バッテリ駆動時間に関してはヘビーゲーム時(つまりAAAタイトルをプレイする時)に最大2時間、クラウドゲーム時と動画再生時に6.8時間とASUSは説明している。実機で確認したところ、バッテリの容量は40Whなので、ヘビーゲームをしている時には、システム全体(つまりパネルも含めて)平均して20Wの消費電力が発生している計算になる。CPUのTDPが最大30Wに設定でき、かつディスプレイパネルも電力を食うことを、妥当な値だろう。

 モバイル環境で2時間というのはすぐに終わってしまうことになる。ただし、クラウドゲーミングや動画再生など、内蔵の動画デコーダだけでコンテンツを再生しているのであれば(CPUやGPUの機能はほとんどオフになっているため)6.8時間のバッテリ駆動が可能になる。移動中にはクラウドゲーミングや動画再生などに利用し、移動先でACアダプタに接続して利用するといった利用シーンが想定されるだろう。

 なお、AMDのフラゲール氏は「Ryzen Z1シリーズはASUS独占契約の製品ではない。今後別の顧客から製品が登場する可能性はある」と述べており、ROG Allyが最優先製品(最初に発売される顧客製品)であることは事実だが、たとえばSteam DeckにRyzen 6000シリーズが採用されているように、今後別のOEMメーカーからRyzen Z1シリーズを搭載した製品が登場する可能性があると示唆した。