イベントレポート

自律運転が無理でも人間がリモートで運転できるNVIDIAの新技術

 NVIDIAは、AI/ディープラーニング(深層学習)関連のテクノロジイベント「GTC 2018」を、米国カリフォルニア州サンノゼ市にあるサンノゼコンベンションセンターにおいて3月26日~29日の4日間にわたり開催している。

 会期2日になる3月27日には基調講演が行なわれて、このなかでTesla V100の32GBとそれを16個搭載して2PFLOPSの処理能力を実現しているDGX-2(NVIDIAがTesla V100の32GB版を投入。AI性能10倍の16GPU搭載サーバーも参照)、GV100を採用したプロ向け最新GPUとなるQuadro GV100を発表(NVIDIA、Voltaアーキテクチャのプロ向けGPU「Quadro GV100」参照)、Armとの提携発表(NVIDIAの深層学習推論アクセラレータがArmから提供。最新開発環境「TensorRT4」も参照)などの多数の新しい発表が行なわれた。

 この基調講演の最後で、NVIDIA創始者でCEOのジェンスン・フアン氏は、「テレポーテーション機能」と呼ぶデモを行なった。それは遠隔地にある自動車を、VRの世界で仮想的に乗り込みながら運転する機能で、GTCが行なわれているサンノゼコンベンションセンターの裏にある閉鎖された道路でリモート運転する様子を公開した。

AI/深層学習界隈の開発者が狂喜乱舞。処理能力を倍にしたDGX-2

 NVIDIAが深層学習を活用したAIで自動運転に取り組んでいることは、本誌の読者にもおなじみだろう。近年のNVIDIAは、2006年に発表した汎用コンピューティングの仕組みであるCUDAをベースにしてさまざまな技術的な提案を行なっている。

 今回のGTC 2018でも、昨年(2017年)発表したTesla V100の32GBメモリ版、さらにはGPUとGPUを接続するインターコネクトを最大で8GPUから16GPUへと拡張する「NVSwitch」を発表し、それを利用して最大2PFLOPS(半精度/FP16)という途方もない処理能力を実現するAI/深層学習用サーバー「DGX-2」を、第3四半期に399,000ドルで発売すると明らかにした。この発表は、処理能力不足で深層学習に膨大な時間がかかっている開発者たちを狂喜乱舞させている。

Tesla V100の32GB版
NVSwitchのコントローラ
DGX-2

 そうしたクラウド上のGPUサーバーが支えているのが、自動車の自動運転。というのも、自動運転というのは、自動車単体でできるものではなく、自動車に搭載されるカーコンピュータ(NVIDIAではDRIVEシリーズというブランドで提供している)とクラウドにあるGPUのサーバーが相互にデータをやりとりすることで、安全に運行されるという仕組みになっているからだ。

NVIDIA創始者でCEOのジェンスン・フアン氏

 フアン氏は「いくら安全に作っても、人間のバックアップが必要になるときがある。そうしたときに、自動運転車に人間が乗っていなくても、テレポーテーションさせればいい」と説明する。冗談のように聞こえるがフアン氏は本気で、この話に続いてデモをはじめたのだ。

Project Holodeckの仕組みを利用してVR HMDで本物の自動車をリモート運転

 フアン氏が用意したのは、NVIDIAが開発している自律運転車。カメラ、レーダー、LiDARなどのセンサーが取り付けられており、それ自体はAIが運転可能だ(いわゆるレベル4の自動運転車となる)。

 この車を運転するのは、会場でVR HMDをかぶった男性。テレポーテーションというのはあくまでVR上でのことで、VRの世界で自動運転車に乗り込んで見せたのだ。

Project Holodeckで用意されたクルマに乗り込む様子、周りには現実世界の映像が表示されている
デモンストレーターはステージ袖でVR HMDをかぶって操作している
デモ側の操作によりハンドルをまっすぐにしたり、切ったりすると、それに連動して車両側のハンドルも動く

 NVIDIAが用意したのは、昨年のGTC 2017で発表したProject HolodeckというVR技術。VR HMDをかぶっている男性は、VRの世界で、自動車を眺めることも、自動車に乗り込むことも可能だ。そして、今回はさらにデモンストレータの持っているコントローラが、自動車の操作系とリモート接続されており、ハンドルやアクセル、ブレーキなどが手元から操作できるようになっていた。

 自律運転車はAIが自動車を運転していることからもわかるように、自動車の操作系がコンピュータから制御可能になっている。それをリモートから“乗っ取って”操作するようなものだ。もう少し時間が経てば、超低遅延(1ms以下)の5Gが利用可能になり、より遅延の少ない操作が可能になると思われる。ただ、現時点では配備されていないので、NVIDIAの関係者は現状ではWi-Fiを利用していると説明していた。

前に駐車している車をよけながら発進して直進し駐車場に入り駐車した
バーチャルドライバーが運転する様子

 VRで自動運転車にテレポーテーションしたバーチャルドライバーは、非常にゆっくりとした速度ではあるが、車を発進させ、左車線に移動して最終的に駐車場に駐車して実証実験を成功させた。

 各国の法令も現時点では人間が運転することを前提にしているため、今回のデモは特別な許可をもらってやっていると思われる(厳重に閉鎖されている道でやっていたので、公道ではないとも考えられる)。これが近い将来に未来の自動車で実現するかどうかは不明だが、5Gのアプリケーションとしてもアリとも言え、要注目のデモだと言えるだろう。