イベントレポート
GLOBALFOUNDRIESがマイコンやSoCなどに提供する高密度MRAM
2017年12月6日 14:04
シリコンファウンダリ(半導体製造請け負いサービス)の大手企業であるGLOBALFOUNDRIESは、マイコンやSoC(System on a Chip)などが内蔵するさまざまなメモリ(埋め込みメモリ)を提供している。
同社は今年(2017年)の9月に、埋め込みメモリの製品系列に、スピン注入型磁気メモリ(STT-MRAM)を加えると発表した。
STT-MRAMは、DRAMに近い高速の読み書き性能と、10年を超えるデータ保持期間、100万回の書き換え回数を両立可能な、優れた不揮発性メモリである。
例えばフラッシュメモリの代わりに使えば、プログラムとデータの書き換えが高速になるほか、書き換え可能な回数が大幅に増加する。またSRAMの代わりに使えば、書き換え回数の制限は生じるものの、待機時の電力消費がほぼゼロになる。
この12月3日に開催された国際学会IEDMのショートコースで、GLOBALFOUNDRIESは、同社が提供する埋め込み用STT-MRAMの製品展開や、技術概要などを説明した。その要点をお届けしたい。
フラッシュメモリ代替用とSRAM代替用を別々に用意
GLOBALFOUNDRIESは、埋め込み用のSTT-MRAMを「eMRAM」と呼称している。そこで以下ではeMRAMと呼ぶことにする。
eMRAMには大別すると、2種類の製品系列が存在する。1つはフラッシュメモリの代替用で、「eMRAM-F」と呼んでいる。もう1つはSRAMの代替用で、「eMRAM-S」と名付けている。
eMRAM-FとeMRAM-Sでは、データの書き換え特性とデータの保持特性が大きく違う。
フラッシュメモリの置き換えを想定する「eMRAM-F」は、データ保持期間が15年と長い。データの書き換え回数は10の8乗回(1億回)、データの読み出し時間は25ns(ナノ秒)、データの書き込み時間は200ns以下である。
これに対して、SRAMの置き換えを想定する「eMRAM-S」は、データの書き換え回数が10の14乗回(100兆回)と多い。その代わりに、データ保持期間は1カ月と短めになる。データの読み出し時間は5ns、データの書き込み時間は10nsといずれも高速である。
フラッシュ代替用とSRAM代替用では製造技術も異なる
eMRAM-FとeMRAM-Sでは、製造技術も異なる。
eMRAM-Fは完全空乏型SOI(FD-SOI)技術で製造する。当初は22nm世代のFD-SOI技術を用意し、将来は12nm世代のFD-SOI技術へと微細化する。
eMRAM-SはバルクシリコンのFinFET技術で製造する。当初は14nmのFinFET技術を用意し、将来は7nm世代のFinFET技術へと微細化する計画である。
最初の製品はフラッシュ代替用のMRAM技術
今年(2017年)の9月に発表されたのは、22nmのFD-SOI技術で製造する「eMRAM-F」である。すなわちフラッシュメモリの置き換えを意図したメモリだ。
記憶容量は2Mbit(512KB)~32Mbit(4MB)で、マイコンのプログラム格納用メモリとしては十分な容量だろう。デザインキットの提供はすでに始まっている。試作は来年(2018年)の第1四半期を予定する。リスク生産は来年の年末になるという計画だ。
2018年に生産を予定するのは、民生用と産業用のeMRAMである。自動車用は少し遅れて2020年に提供する計画となっている。
埋め込み用フラッシュの微細化が止まる
ここで重要なのが、埋め込み用フラッシュメモリ(eFlash)の微細化トレンドである。
GLOBALFOUNDRIESが示したロードマップでは、来年(2018年)に40nm世代のバルクCMOSによる自動車用eFlashの提供が始まる。22nm世代のeMRAMとは、2世代ほどの開きがある。フラッシュメモリは、消去動作と書き込み動作に高電圧を必要とするため、微細化が難しくなっているのだ。
言い換えると、2xnm世代のeFlashは今後、提供されない可能性がある。そこで2xnm世代以降でeFlashの役割を担うのが、eMRAMということになる。GLOBALFOUNDRIESは講演で、eMRAMがeFlashと埋め込み用DRAM(eDRAM)、低速の埋め込みSRAMを置き換える候補になると述べていた。
ただし、STT-MRAMの製造はかなり難しい。CMOSロジックの製造プロセスに対するマスクの追加枚数は3枚と少ないものの、nmオーダーの極めて薄い膜を数十層は成膜する必要がある。スループットが低い、すなわち製造コストが高くなるリスクをはらむため、スループットを高く維持する工夫が必要となる。