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未来を見据えて「秒」の再定義が議論に――うるう秒は実質廃止、月の標準時など

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まもなく開催、世界の「ものさし」を決める国際会議

 現代社会は社会インフラが同期することを前提に成り立っている。「時間」の定義は、現代社会そのものを支える基盤技術である。

 産業技術総合研究所(産総研)は、2026年7月22日にメディアセミナー「第28回国際度量衡総会 決議案解説会」を開催し、0月にフランス・ベルサイユで開催予定の「第28回国際度量衡総会」(CGPM)の注目議題について紹介した。解説は、国際度量衡委員会(CIPM)幹事を務める産総研計量標準総合センター(NMIJ)総合センター長の臼田孝氏と、同センター物理計測標準研究部門時間標準研究グループ長の安田正美氏が務めた。

 CGPM(General Conference on Weights and Measures、国際度量衡総会)とは世界各国の計量標準機関が集まり、国際単位系(SI)や時間標準など、人類共通の「ものさし」を議論する4年に一度の会議である。第28回は「秒の再定義」、「うるう秒の見直し」、「月の標準時」が議論される予定となっている。

「秒」を次世代へ更新する取り組み

国際度量衡委員会(CIPM)幹事、産総研計量標準総合センター(NMIJ)総合センター長の臼田孝氏

 CGPMの源流は1875年に締結された「メートル条約」にある。メートル法の国際的普及を目的に17カ国で締結され、国際キログラム原器・国際メートル原器の製作、そしてその保管と加盟国への校正を担う機関として国際度量衡局(BIPM)が設置された。以降、科学技術の進歩により国際単位系(SI)として進化・発展を遂げてきた。加盟国は現在67カ国。

 メートル条約下の組織・活動は三層構造で運営されている。国際度量衡総会(CGPM、加盟国は現在67カ国)が最高意思決定機関として決議を行ない、その執行を監督する理事機関「国際度量衡委員会(CIPM、委員数18名)」が置かれる。さらにその下部に、標準に関する国際的課題を具体的に検討する「諮問委員会(CC)」が、主要加盟国の国家計量標準機関(NMI)を中心に構成されている。日本では産総研がこれにあたる。

 秒・協定世界時(UTC)を審議する「時間周波数諮問委員会」(CCTF)は1956年に設置された。BIPMはISO、ITU、IEC、IAEAなどほかの国際機関とも調停・連携を行ないながら、加盟国への校正(標準供給)、情報提供、会議の運営、国際比較の運営とデータベース管理を担っている。決議後は加盟国は誠意をもって対応することになっている。

 150年間にわたる活動の変遷を振り返ると、19世紀は国際原器の製作とメートル法の普及がコアミッションだった。20世紀はそれだけにはとどまらず電気単位と物理定数が事業に追加され、さらにSIの整備と量子標準への移行が行なわれた。そして21世紀は物理定数に基づく定義と国際的な同等性評価と移り変わってきた。臼田氏は「はかるものの正体が分かるに従って再定義が行なわれてきた」と紹介した。

 2018年の第26回CGPMでは、キログラム、アンペア、ケルビン、モルが物理定数によって再定義された。今回の議論は、その流れの中で「秒」を次世代へ更新する取り組みである。

 SIを構成する基本単位の中では「秒」と「UTC」は「割と新参者」だ。長さ(メートル)や質量(キログラム)は1889年の第1回総会から条約上に位置づけられていた。一方、秒の定義確立は1960年であり、セシウム原子遷移周波数に基づく現行の秒の定義の正式承認は1967年、UTCの使用開始は1975年である。時間に関する標準化は地球の自転などがあまり正確ではないことが分かるにつれて、ほかの物理量に比べてかなり遅れて整備されてきた。

第28回CGPMの主な決議案

 今回のCGPMで検討される決議案は5つある。

  • 新たな会員資格・オブザーバーの創設(会費をとらない)
  • 秒の再定義に向けた研究の加速要請
  • うるう秒の見直し
  • 月の標準時
  • 計量DXの推進要請

 このうち決議案B/C/Dの3件が時間と周波数に関するものだ。なお、決議案はあくまで「秒の再定義に向けた研究の加速要請」であり、「今回の会議で『秒の定義』が変わるわけではない」ことは強調された。

なぜ今、「秒」の再定義なのか?

 現在の1秒は、セシウム133原子の遷移周波数(9,192,631,770周期)によって定義されている。この定義は1967年に採択され、半世紀以上にわたって世界中で利用されてきた。

 しかし時計そのものは大きく進歩した。近年実用化が進む光格子時計やイオントラップ時計は、セシウム原子時計より100倍以上高い精度を持つとされる。数十億年に1秒しか狂わないレベルの性能が実証されつつあり、世界各国の標準研究機関が新しい「秒」の候補として研究を進めている。今回のCGPMでは、2030年頃の再定義を見据え、研究開発をさらに加速することが議論される。

 今回の決議案は「秒そのもの」を変更するのではなく、再定義へ向けた研究促進を求めるものだ。この決議案が最終的に影響を及ぼす範囲は、「秒」の定義と二次表現(高精度なセシウム原子時計や光周波数を使った最新の時計による基準)から、国際原子時(TAI)の校正、そしてUTCを経て社会インフラへと連なる一連の時刻生成プロセスの、いわば入り口部分にあたる。

「時刻」と「時間」はどう違うか

産総研計量標準総合センター(NMIJ)物理計測標準研究部門時間標準研究グループ長の安田正美氏

 物理計測標準研究部門時間標準研究グループ長の安田正美氏は、「時刻」と「時間」の違いから紹介した。時刻とは時の流れの中の特定の瞬間を指す。たとえば「13時00分」「13時30分」は時刻である。時間は、もともとは天体現象が基本になっている。太陽の見かけの運動が長らく基準だったが、太陽がどこにあるかは「時刻」である。一方、時間とは「時刻と時刻の間の隔たり」を指す。たとえば「30分間」が時間にあたる。見方を変えれば、時刻とは基準となる時間を積算したものともいえる。

 秒の定義は、この「時間」の基準を定めるものである。歴史を振り返ると、地球の自転から定義する方式(1日=86,400秒、1956年まで)、地球の公転から定義する方式(1年=31,556,925.9747秒、1956~1967年)、そしてセシウム133原子に共鳴するマイクロ波の周期から定義する方式(1秒=9,192,631,770周期、1967年~)へと進化してきた。

 この間、時間の基準の相対標準不確かさは着実に向上している。現在研究が進む「秒の二次表現」に基づく光時計は、セシウム原子時計をさらに数桁上回る精度を実現しつつある。

原子時計の仕組み

 原子時計は、原子が特定の周波数(遷移周波数)の電磁波を吸収して、電子が基底状態から励起状態へと「遷移」する現象を利用している。この現象について安田氏は「水風船を一定の力でぶよぶよさせるのと同じようなものだ」と表現した。この励起状態は発光として検出され、発光強度が最大化する、すなわち電磁波の周波数が原子の遷移周波数と一致するように制御することで、極めて安定した正確な周波数源、すなわち時間の基準を得ることができるというのが原理である。

 この基本原理はセシウム原子時計にも光格子時計にも共通している。光格子時計は可視光域を利用することで、セシウム原子時計より100倍以上高い精度を実現している。

高精度な時計は社会インフラそのもの

 UTCは、世界中の約450台の原子時計のデータを国際度量衡局(BIPM)が集計、計算して公表する仮想的な時刻尺度=「時系」である。「世界中の原子時計の針の平均値」のようなものである。

 問題は、計算して報告するまでに1カ月かかることである。速報値でも1週間くらいかかる。そこで各国/地域は自国の標準時であるUTC(k)を独自に維持し、それを介してリアルタイムに社会へ時刻を供給している。つまり、UTC自体はBIPMが事後に計算・公表する時系であり、リアルタイムの時刻供給はできないのである。

 たとえば、通信では基地局の時刻同期によって通話/データ通信が制御され、電力では発電/送電の監視や制御が正確な時刻を前提に行なわれる。金融では取引の時刻記録やシステムの整合性の確保に、交通/運輸では運行管理や信号制御、運行/運航の安全確保に、それぞれ高精度な時刻同期が不可欠である。つまり「時計の精度向上」は、そのまま社会インフラ全体の性能向上につながる。

 その生成には段階がある。まず、世界中の高安定原子時計の重み付け平均から、速くも遅くもならず一定の間隔を刻む「自由原子時(EAL)」を生成する。ここで使われる原子時計は市販の原子時計である。1台数千万円くらいの価格だが、作られる時刻は「真の1秒」に近いかというとそうではなく、誤差がある。ただし市販の時計は頑健であり、ずっと動かし続けることができる利点がある。

 そこで、一次/二次周波数標準器によってこれを検証/校正する必要がある。標準器は市販の原子時計のような堅牢さはない。半年程度しか動かすことができない。この両者を組み合わせて、一定の時間間隔が秒の定義に合致する「正確な時刻」である「国際原子時(TAI)」を得る。これが我々が使う「1秒」のもとになる。

 さらに、天体観測から地球の極運動の影響を除去して得られる、地球の自転を基にした「世界時(UT1)」を参照しながら、TAIに「うるう秒」の補正値を加えて、地球の自転と同期させたものが「UTC」である。これが世界中に知らされて共通の時計となる。以上が全体像である。

相対性理論の影響

 ここで相対性理論が出てくる。高精度な時計は、「置かれた場所によって進み方が変わる」という相対性理論の効果を無視することができないからだ。重力ポテンシャルの差により、相対論の効果で、地上に置く時計と飛行機内の時計は進み方が同じではない。スカイツリーの上と下でも時間の進み方は異なる。

 具体的には、地上の時計が86,400.000000秒(1日)進む間に、GPS衛星の時計はおよそ86,400.000038秒進む。この差はごくわずかだが、位置情報の精度に直結する。そのため、人工衛星に搭載された時計はあらかじめこの影響を補正して運用されている。また、時計の高さが1cm違うだけでも、進み方は10のマイナス18乗くらい変化する。最新の光時計を使えば、この微小な高さの差、すなわち重力ポテンシャルの差を検出できる。

 つまり、最新の時計は単なる計測器ではない。時計そのものが重力や地球形状を測るセンサーとなり、将来的には測地学や地球観測にも利用される可能性がある。

 以上が、ここからの議論の前提であるイントロとなる。

向上し続ける時計の精度

 時計の再定義が必要な理由は、高精度な時計が作られ続けてきたからである。時計は大きく見ると10年に1度くらいの単位で精度が改善されてきた。セシウム原子時計よりも精度の高い、単一イオン光時計、光格子時計などが作られるようになり、今では「300億年に1秒」くらいの誤差にとどまる時計が出てきている。

 こうなると秒の定義をいつまでもセシウムにしていると、それ以上の精度のやりとりができず、ここが研究ボトルネックになってしまう可能性が出てくる。それが2000年代半ば頃からずっと議論されてきたという。

 9.2GHzのマイクロ波の時計は1967年から秒の定義に使われて来た。一方、イッテルビウム光格子時計の周波数はおよそ518THzで、相対的不確かさは10のマイナス18乗。今のところ最高精度の時計とされている。日本で発明されたものだが、今では海外でも多く使われている。

時計の再定義はどうすれば?

 では、このような超高精度な時計は何に使われるのか。基礎物理学、地殻変動観測、地下資源観測、次世代通信や次世代GNSSなどに使われる可能性がある。だが本当のところは「予想もできないアプリケーションが出てくる可能性がある」と安田氏は語った。

 時計の再定義はどうすればいいのか。良い時計が1つあるだけでは定義にならない。世界との協調が必要となる。新しい定義の提示において定義改定直後で10倍から100倍の改善があること、長期的にもさらに大きな改善が見込まれること、現在の定義の連続性、国際原子時に顕著な改善がみられること、標準供給の保証などが必要となる。

 再定義のためには、ロードマップ上の条件すべてをクリアすることが求められる。正確な時計を作って評価できること、連続性、時計を動かし続けて国際原子時に定期的貢献ができること、比較のための持続可能な技術の実現、評価のための局所的重力ポテンシャルの知見、将来さらに高精度な秒の提示を可能とする定義、そして秒の提示へのアクセスへの利便性である。

 およそ過去6年くらい、多くの研究者がここに向けて努力をしてきた。産総研でも時計を動かし続けたり、可搬型の光格子時計を使った比較研究、光ファイバーネットワークを通した時計の国際検証などを行って来たという。これら地道な研究を積み上げてくることで、だいぶ達成度が上がってきているのが現状となっている。だがまだ半分ほどしか達成していない部分もあるという状況になっている。

 「秒の再定義」の議論が始まった2000年頃から、秒の再定義候補のリストが作られてきた。さまざまな原子やイオンを使った時計である。それぞれの候補となる原子と遷移のリストを作り、研究機関ごとの稼働システム一覧や貢献度など評価ポイントを並べたものだ。この候補リストのなかから選ぶことになるが、まだ決まっていない。

 現在は「良い候補がたくさんあるものの、ズバ抜けた候補があるわけではない」という状況だという。そこでオプションとして、悪くない成績を出しているストロンチウム、イッテルビウムなどを選んで使おうという案が提案されている。一方、ずば抜けた成績を獲得する時計が出てくる可能性もあり、まだ議論が続いている。

 別のオプションとしてさまざまな原子による遷移の集合体を作って、平均値を使って秒を定義しようという案も出てきている。これは新しい案であり、嫌悪感を示す人もいる一方、悪くない案だという意見もあり、まだ定まっていない。基礎物理定数に基づこうとしている案もあるが、まだ不確かさが大きいため、そういう段階ではないと考えられている。

 2022年のCGPMではロードマップを着実に進めることが決められた。2026年は引き続き再定義ロードマップを推進し、新しい「秒」の定義について国際的コンセンサス形成を進めること、そして2030年で新しい秒の定義案と実施時期を提案できるよう準備を進めようとしている。安田氏は個人的な考えとして「何らかのかたちで数値で比較するしかないのではないか」と述べた。

うるう秒の見直し~デジタル社会における非連続性リスク

 今回の議題の中で、もっとも一般社会への影響が大きいテーマが「うるう秒」である。「うるう秒」をやめようという議論である。見直される理由は「デジタル社会における非連続性のリスク」があるためだ。そして現代世界の社会インフラは緊密につながっており、特定の国だけが「うるう秒」をやめるわけにはいかない。

 UTCは原子時計に基づく時間だが、地球の自転は不規則だ。その差を補正するため、1972年以来、必要に応じて1秒を追加してきた。これが「うるう秒」である。2026年7月時点で国際原子時(TAI)との差は37秒となっている。たとえば1972年の頃には地球自転速度が遅かった。この動きに合わせて1秒を追加するなどして時間は対応してきた。

 しかしこの「1秒追加」がコンピュータシステムにとっては扱いにくい。クラウドサービス、金融システム、通信ネットワークでは、突然現れる「23時59分60秒」がソフトウェア障害の原因となる可能性があることが知られている。実際に2012年にはさまざまな障害が発生した。そのため、業界各社で独自の時間システムが乱立することになった。時計をちょっとずつ進める「スミアリング」などのテクニックも生まれた。だが原子時計に基づく協定世界時(UTC)の立場からすると、こんな状況は困る。

 さらに2020年頃からは地球の自転が速くなりつつあることが、観測されている。そうなると今度は「負のうるう秒」を入れなければならなくなる。これは今まで一度も行なわれたことがない。これは度量衡の立場からすると「悪夢」だという。

 そのため、2022年にはCGPMで「2035年までにうるう秒の運用方法を見直す」という方針が採択された。地球の動きとUTCを合わせるべきか否かという議論だ。国際度量衡局(BIPM)が取りまとめとなり関連する国際機関として国際地球回転・基準系事業(IERS)、国際電気通信連合(ITU)などが議論を進めている。

 これまでは議論は先送りだったが、ITUは2035年までにうるう秒をやめようとしている。従来は「0.9秒」だった「地球の自転に基づく時刻(UT1)」と「原子時計に基づく時刻(UTC)」の差の最大値(=ずれの許容)をどうするかが議論となっていたが、それを「3,600秒」とする案が提案された。つまり、1時間である。そこまでズレても問題ないとする。その措置が2027年5月20日に発効する。

 つまり、「負のうるう秒」が発生する前に、そもそも「うるう秒」をやめてしまうことが決まりそうな状況となっている。数世紀経たないとそれだけのズレが生まれることはなく、そのときにはもっと人類の叡智は蓄積されているだろうという判断だという。なお、UT1 - UTCの実際のズレは、IERSのWebサイトでリアルタイムに確認できる。

月の時系、月の標準時

 もう1つの議題が「月の時系」である。アメリカの「アルテミス計画」、中国の「嫦娥計画」など、各国が月面探査や基地建設を進めている。そんな状況なので、地球と月で共通に利用できる時間体系が必要になってきた。月でも標準時を使うほうが利便性が高い。

 月では地球より重力が弱いため、時計はわずかに速く進む。人間の日常生活では無視できるほどわずかな差である。しかしながら宇宙船の航法や自律ロボット、衛星通信では誤差が蓄積してしまう。そのため、月独自の時間体系を定義し、それをUTCと対応付ける国際標準が求められている。また、月は地球の周りをまわっているので、地球からみると月面の時計は約1カ月周期で進み方が変動する。つまり、継時的にも周期的にも月の時計は変化するのである。

 もちろん変化幅はわずかだ。しかしながらGPSが地球社会の基盤となったように、将来の月経済圏を支えるインフラづくりの第一歩ともいえる。影響を及ぼす範囲は、協定世界時(UTC)そのもの、そしてその先の社会インフラへの供給プロセスにまで及ぶ。

 まだ月の時系については議論が始まった段階で、どこで何を定義するのかということは決まっていないという。安田氏は「月の時系も、1つの国ごとではなく、みんなが平等に使えるように、国際標準として整備することが重要だ」と語った。

 なお、今はそれぞれのミッションごとに月の時系は決められている。共同ミッションを行なうなどのときの基本的枠組みとなる。人類の活動領域が拡大してきたことを示すものである。