【COMPUTEX 2009レポート】
AMD、DirectX 11対応ハードウェアをデモ。ウェハも公開

「Fusion」の旗を掲げるチアリーダーのパフォーマンス

会期:6月2日~6日(現地時間)
会場:Taipei World Trade Center Nangang Exhibition Hall
   Taipei World Trade Center Exhibition Hall 1/3
   Taipei International Convention Center



 AMDはCOMPUTEX TAIPEI期間中の6月3日、会場近くのショッピングモールNewYork, NewYorkにおいてプレスカンファレンスを開催。DirectX 11対応GPUのデモやウェハを世界で初めて公開した。また、COMPUTEXのタイミングで発表したサーバ向けの6コアプロセッサ「Istanbul」も紹介した。

●DirectX 11対応GPUのデモを世界初公開

 プレスカンファレンスでは、上級副社長のRick Bergman氏が、同社のDirectX 11サポートに関して紹介した。

 同氏は、AMDがこれまでHDRなどのDirectX APIの機能をいち早くサポートしてきたこと、Radeon HD 4800シリーズの発表から1年に渡ってGDDR5を採用する唯一のベンダーであること、2カ月前に発表したRadeon HD 4770において世界で初めて40nmプロセスのGPUをリリースしたことなど、ソフトウェアとハードウェア両面において新しいテクノロジを積極的に導入してきた実績を強調。DirectX 11世代においても、マイクロソフトやTSMCとの協力のもと、業界を牽引していくとした。

 早速壇上にTSMCのSenior DirectorであるJohn Wei氏を招き、DirectX 11対応GPUのファーストシリコンを受け渡すセレモニーを実施。このシリコンは40nmプロセスで製造されているが、Wei氏は40nmの優位性として、最大のコンピューティングパワーを提供できるほか、1枚のウェハから大量のシリコンを製造できるので低価格にできること、さまざまなデザインのシリコンを設計できることなどを挙げた。

 さらに、DirectX 11対応ハードウェアを用いたDirectX 11 SDKのテッセレーションをデモ。実際にDirectX 11対応ハードウェアを使ったデモが行われるのは世界で初めてという。

 デモで用いられたハードウェアについては言及がなかったが、画面上部にコードネームである「EVERGREEN」の文字を見ることができる。Bergman氏は、2009年中にDirectX 11に対応したいくつかのGPUをリリースすることを正式に表明している。

Products Group Senior Vice PresidentのRick Bergman氏ソフトウェアベンダーとの協力もアピールし、パートナーに対しては6月中にもDirectX 11対応ハードウェアを提供。さっそく対応タイトルの開発が開始されるのだろうTSMCのWei氏(右)からBergman氏へ、TSMCの40nmプロセスで製造されたDirectX 11対応GPUのファーストシリコンが手渡された
DirectX 11対応ハードウェアを用いたデモ。テッセレーションの機能を使っている

 続いてBergman氏は、DirectX 11でサポートされる機能をピックアップして紹介したが、先のデモ同様、ここでもテッセレーションを真っ先に取り上げた。テッセレーションを中心にアピールするのは、いかにもAMDらしいところだ。

 テッセレーションは一度描画したポリゴンを再分割する機能だ。例えば、対象となるオブジェクトが近くに寄ってくるような3D映像において、当初はシンプルに描いておいて近くに来たらポリゴンを微細化して高精細なオブジェクトにする、といったことができる。

 旧ATI時代からRadeonはテッセレーションのサポートを積極的に行なってきたこともBergman氏から語られた。2002年にRadeon 8500でTruFormという機能を実装したのが始まりで、2005年にXbox 360のGPUでテッセレーション処理を行なうハードウェアユニット(テッセレータ)を実装。2007年にはRadeon HD 2000/3000シリーズにXbox 360と同等のテッセレータを実装し、当然2008年発表のRadeon HD 4000シリーズもこれをサポートした。

 これまではATI/AMDの独自サポートという色合いが強かったテッセレーションであるが、DirectX 11ではこれが標準機能として組み込まれる。これに合わせて、AMDでは第6世代のテッセレータを用意しているという。

 もう1つ、DirectX 11でサポートされる機能の紹介としてCompute Shaderをピックアップ。これは、GPUを汎用的に利用するGPGPU技術がDirectX 11に組み込まれるというものだ。DirectX 11世代になると、GPGPU技術がWindows 7の機能であるDirectX 11で標準サポートとなる。

 DirectX 11ではCompute Shader 5.0のプログラミングモデルが利用可能で、グラフィックコードとシームレスに開発ができることから、これを用いたアプリケーション開発も活発になる可能性がある。また、(いち早くAMDが投入する)DirectX 11に対応したGPUなら、この標準的な機能を用いて、高性能なアプリケーションを利用できる、という点をユーザーが受ける恩恵として挙げている。

 このCompute Shaderに絡んで、Microsoft Corporate Vice PresidentのSteve Guggenheimer氏が登壇。MicrosoftとAMDがともにイノベーションを加速していく、と宣言したのち、Compute Shaderのデモとしてビデオのトランスコードデモを実施した。このデモでは、トランスコードの対象となる動画をデスクトップ上に置かれたアイコンにドラッグ&ドロップするだけでトランスコードが開始されるというシンプルなアプリケーションを利用。DirectX 11のCompute Shaderによってアクセラレーションされた場合は26秒程度で処理が完了するのに対し、CPUのみを用いた場合は48秒程度という大きな差を見せつけた。

DirectX 11では、Compute Shader、新しい命令セット、HDR圧縮、マルチスレッディング、テッセレーションといった新機能が追加されるAMDが蓄積してきたテッセレーション技術がDirectX 11で標準化。AMDでは新GPUで第6世代のテッセレータを用意しているテッセレーションとGPGPUを活用したデモ。国内外で何度か披露されているもので、グラフィック描画にテッセレーションを利用し、地上を動くカエルはGPGPUによって自律的に動く
DirectXとCompute Shaderモデルの関係。DirectX 11では標準機能としてGPGPU機能がサポートされるMicrosoft Corporate Vice PresidentのSteve Guggenheimer氏
DirectX 11のCompute Shaderによるアクセラレーションを用いた場合と、CPUのみを用いた場合で、動画のトランスコード速度を比較したデモを行なった

●薄型ノートPC向けのプラットフォームやIstanbulの話題

 今回のCOMPUTEXでは、IntelのCULV版CPUなどを用いた、ネットブックよりもパフォーマンスがよい、安価な薄型ノートPCというジャンルが大きなトピックになっている。AMDのプレスカンファレンスでも、ノートPCプラットフォームに関して言及された。

 AMDは今年の初めにYukonプラットフォームを発表。Blu-ray Discの再生も可能なパフォーマンスを持つ、ネットブックよりも少し上のセグメントに位置づけたプラットフォームだ。このYukonプラットフォームを採用した製品として、HPのdv2があるが、これにデュアルコアCPUを搭載した新モデルを投入することが発表された。

 また、すでにコードネームのみはリークされていたものだが、このYukonよりやや上のセグメントに位置づけられる「Congo」プラットフォームも正式に公開。こちらは今年第3四半期の製品投入を予定している。

 プレスカンファレンスの会場後方には、これらAMDの薄型ノートPCプラットフォームを用いた製品も展示されていた。

 このほか、PC関連の話題としては、COMPUTEX開幕に合わせて発表されたPhenom II X2 550 Black Edition、Athlon II X2 250も、ごく簡単ではあったが紹介された。

AMDが予定する、ノートPCと低消費電力ソリューションの構成。Yukonの上位にCongoプラットフォームをラインナップ。20W TDP以下のデュアルコアCPUが使用されるHP Notebook Global Business Unit DirectorのRay Wah氏。dv2のデュアルコア化と(日本で発表済みだが)ホワイトモデルの投入を発表した
MEDIONの「Akoya Mini E1311」。SempronとRadeon HD 3200を用いたYukon製品BenQの「Joybook Lite T131」。同じくSempron+Radeon HD 3200を使用Acerの「ZA8」。1.2GHz動作のAthlon L120とチップセット内蔵グラフィックを使用
3GHzオーバーのデュアルコアCPU「Phenom II X2 550 Black Edition」を紹介Bergman氏は「素晴らしいオーバークロック能力を持ったCPU」とアピールし、6GHz超のOCを行なうムービーを流したこちらは「Athlon II X2 250」の紹介。パフォーマンス、電力効率ともに向上とアピール

 カンファレンスの最後の話題は、同じくCOMPUTEXのタイミングで発表された「Istanbul」こと6コア版Opteronだ。これまでに利用されているソケットにそのまま利用可能なプロセッサとなる。

 消費電力やコスト効率が重視される環境にはこれまでのクアッドコア版を利用し、Istanbulは仮想化環境のように高い性能や拡張性が求められる場面で使う、という棲み分けがなされる。もちろん、仮想化技術のAMD-VやAMD-Pもサポートされる。

 Istanbulで新しく追加されたフィーチャーとしては、HT Assistという機能が紹介された。プロセッサ間のデータ転送を効率化し、無駄なトランザクションをなくす機能となる。

 パフォーマンス、コスト、消費電力の比較では、2003年に初めて登場したシングルコアのOpteronから14倍のパフォーマンスを達成したほか、現行のクアッドコア版Opteronと比べて、消費電力効率が34%向上するとアピールした。

 さらに、サーバ向けCPUのロードマップも提示された。Direct Connect Architectureが2.0へアップデートされ、コア数やメモリ帯域幅などが向上。このアーキテクチャを用いた製品として、2010年には8~12コアプロセッサとなる「Magny-Cours」、2011年にはプロセスを32nmへ微細化したうえで12~16コアのプロセッサとなる「Interlagos」が予定されている。

Istanbulのシリコンウェハを手にするAMD Vice President & General ManagerのPat Patla氏(左)と、GLOBALFOUNDRIES Vice PresidentのTom Sonderman氏(右)Istanbulを搭載するSupermicroの2Uサーバー「2021M-UR」Istanbulの特徴。現時点で標準版がリリースされるほか、2009年第3四半期にはHE/SE/EE版の提供も予定されている。
IstanbulでサポートされるHT Assist。プロセッサ間のトランザクションを最小限に抑える機能Istanbulは初代Opteronに比べて14倍の性能を持つIstanbulの電力/性能比は、ShanghaiコアのクアッドコアOpteronに対して34%改善している
次世代Opteronで採用されるDirect Connect Archtecture 2.02010年には最大12コアとなる「Magny-Cours」、2011年には32nmで最大16コアとなる「Interlagos」を予定

(2009年 6月 4日)

[Reported by 多和田 新也]