■多和田新也のニューアイテム診断室■
5月28日に店頭販売が開始されたPhenom II X4 945。現在販売されているものは125W TDPの製品となるが、来週、6月12日には95W TDP版の発売も予定されている。今回はこの製品のパフォーマンスを確かめたい。
●3GHz動作のメインストリームCPUこれまでリテール向けに発売されたSocket AM3対応のクアッドコアCPUは、最上位で倍率ロックフリーの「Phenom II X4 955 Black Edition」、L3キャッシュが4MBの「Phenom II X4 810」と、ちょっと個性のある製品のみだった。また、別記事で紹介した本日発表となるクアッドコア製品も低消費電力モデルとなっており、これまた特定のポイントを突いた製品だ。
そのような状況で発売された「Phenom II X4 945」は、Socket AM2+対応製品の最上位モデルと同じ3GHz動作品をSocket AM3対応で単品発売したものとなり、メインストリーム向けのCPUとしての存在感がある。コストパフォーマンスを重視する自作ユーザーにとって興味深い製品となっていることだろう。
このPhenom II X4 945は、5月28日、125W TDPモデルが発売された。そして、6月12日には、同モデルナンバーの95W TDP版の発売が予定されており、今回のテストで用いるのも、その95W TDP版である(写真1)。
【表1】Phenom II X4 945の主な仕様
Phenom II X4 945 | Phenom II X4 955 Black Edition | Phenom II X4 940 Black Edition | ||
OPN | HDX945WFK4DGI | HDX945FBK4DGI | HDZ955FBK4DGI | HDZ940XCJ4DGI |
リビジョン | Rev.C2 | Rev.C2 | Rev.C2 | |
ソケット種別 | Socket AM3 | Socket AM3 | Socket AM2+ | |
動作クロック | 3.0GHz | 3.2GHz | 3.0GHz | |
L1データキャッシュ | 64KB×4 | 64KB×4 | 64KB×4 | |
L2キャッシュ | 512KB×4 | 512KB×4 | 512KB×4 | |
L3キャッシュ | 6MB | 6MB | 6MB | |
HT Linkクロック | 2.0GHz | 2.0GHz | 1.8GHz | |
対応メモリ | DDR3-1333/DDR2-1066 | DDR3-1333/DDR2-1066 | DDR2-1066 | |
動作電圧 | 0.875~1.5V | 0.875~1.5V | 0.875~1.5V | |
周辺温度(最大) | 71℃ | 62℃ | 62℃ | 62℃ |
TDP(最大) | 95W | 125W | 125W | 125W |
仕様は表1にまとめたとおり。両モデルはOPNを見ることで判別が可能だ。具体的にはモデルナンバーを示す“945”という数値に続くアルファベットが“FB”なら125W版、“WF”なら95Wとなる。
仕様の面では、TDPのほか、T.Caseの値が変更されており、より高い温度を許容するようになった。冷却に対する要求がかなり緩和された格好だ。ただし、リビジョンは従来モデルと同じ“C2”が使われている(画面1)。別記事で紹介する低消費電力版の存在といい、45nm SOIの歩留まりが良くなって、素行の良いコアを取得しやすくなったのではないかと想像される。
【写真1】95W TDP版のPhenom II X4 945 | 【画面1】CPU-Zの結果。リビジョンは従来製品と同じ“C2”が使われている |
●Core 2 Quad Q9550sと性能比較
それではベンチマーク結果の紹介に移ろう。テスト環境は表2に示したとおりで、Phenom II X4 945をDDR3環境とDDR2環境それぞれで動作させた場合の性能差、およびCore 2 Quad Q9550sとの性能差の2点をチェックしていきたい。テストに用いたマザーボードとビデオカードは写真2~5に示したとおりだ。
【表2】テスト環境
CPU | Phenom II X4 945 | Core 2 Quad Q9550s | |
チップセット | AMD 790FX+SB750 | AMD 790FX+SB750 | Intel P45+ICH10R |
マザーボード | ASUSTeK M4A79T Deluxe | ASUSTeK M4A79 Deluxe | ASUSTeK P5Q3 Deluxe |
メモリ | DDR3-1333(1GB×2、9-9-9-24) | DDR2-800(1GB×2、5-5-5-18) | DDR3-1333(1GB×2、9-9-9-24) |
ビデオカード | NVIDIA GeForce GTX 280(GeForce Release 185.65) | ||
HDD | Seagete Barracuda 7200.11(ST3500320AS) | ||
OS | Windows Vista Ultimate Service Pack 2 |
【写真2】ASUSTeKの「M4A79T Deluxe」。AMD 790FX+SB750を搭載するSocket AM3マザー | 【写真3】ASUSTeKの「M4A79 Deluxe」。AMD 790FX+SB750を搭載するSocket AM2+マザー |
【写真4】ASUSTeKの「P5Q3 Deluxe/WiFi-AP@n」。Intel P45+ICH10Rを搭載するDDR3対応マザー | 【写真5】ASUSTeKの「ENGTX280/HTDP/1G」。GeForce GTX 280を搭載するビデオカード |
では、CPU性能のチェックから順に結果を紹介していこう。テストはSandra 2009 SP3aのProcessor Arithmetic/Processor Multi-Media Benchmark(グラフ1)、PCMark05のCPU Test(グラフ2~3)である。
【グラフ1】Sandra 2009 SP3a Processor Arithmetic/Processor Multi-Media Benchmark |
【グラフ2】PCMark05 CPU Test(シングルタスク) |
【グラフ3】PCMark05 CPU Test(マルチタスク) |
ここではDDR2とDDR3という環境の違いによる性能差はほとんどない。Sandraによる演算性能比較の結果ではCore 2 Quad Q9550sに分がある格好だが、PCMark05は同等かPhenom II X4 945がやや上回る傾向となっており、実アプリにおける性能に期待が持てる結果だ。
次は、Sandra 2009 SP3aのCache & Memory Benchmark(グラフ4)と、PCMark05のMemory Test(グラフ5)の結果によるメモリ性能のテストである。
【グラフ4】Sandra 2009 SP3a Cache & Memory BenchmarkBenchmark |
【グラフ5】PCMark05 Memory Latency Test(シングルタスク) |
ここは過去に実施したテストと同じ傾向の結果となった。すなわち、L1キャッシュはCore 2が高速で、L2キャッシュはPhenom IIのほうが高速。Phenom IIのL3とCore 2のL2では後者の方が高速といったものだ。この関係は、似たようなセグメントの製品同士では傾向に相違がない。
メインメモリのアクセス速度は、メモリコントローラを内蔵するPhenom IIが優位性を見せている。DDR2とDDR3の速度差も2GB/secに達しようかという差であり、DDR3環境導入の効果を感じさせるものだ。また、Phenom II X4 945とDDR3の組み合わせは、レイテンシテストにおいても、もっとも良好な結果を出している。
続いて一般アプリケーションを用いたベンチマーク結果である。テストは、SYSmark 2007 Preview(グラフ6)、PCMark Vantage(グラフ7)、CineBench R10(グラフ8)、動画エンコードテスト(グラフ9)だ。Phenom II X4 945のDDR2環境において、PCMark VantageのGaming関連テストでエラーが発生したため、テストを省略している。
【グラフ6】SYSmark 2007 Preview |
【グラフ7】PCMark Vantage |
【グラフ8】CineBench R10 |
【グラフ9】動画エンコードテスト |
全体に似たようなスコアが出ているが、SYSmark2007とCineBench R10はCore 2 Quad Q9550sが良好。PCMark Vantageは同等レベルか、ややPhenom II X4 945が上回る格好。動画エンコードは動画の種類によって差が逆転するが、どれをとっても差は大きくない、といったところか。両者の性能に関してはアプリケーションによって逆転する、わりと拮抗したレベルにあるといっていいだろう。
また、Phenom II X4 945に関してはDDR2環境とDDR3環境の性能差が随所に出ている。もちろんCPU側がボトルネックになるようなシーンではメモリ周りの性能差は活きてこないが、多くのシーンで大なり小なり恩恵は受けられそうである。
次は3D関連のベンチマーク結果である。テストは、3DMark 06/VantageのCPU Test(グラフ10)、3DMark VantageのGraphics Test(グラフ11)、3DMark06のSM2.0 TestとHDR/SM3.0 Test(グラフ12)、Crysis(グラフ13)、LOST PLANET COLONIES(グラフ14)である。
【グラフ10】3DMark 06/Vantage CPU Test |
【グラフ11】3DMark Vantage Graphics Test |
【グラフ12】3DMark06 SM2.0 TestとHDR/SM3.0 Test |
【グラフ13】Crysis |
【グラフ14】LOST PLANET COLONIES |
ゲームおけるCPU処理をテストする3DMarkの2つのCPUテストや、CrysisのCPU1/2テストや、LOST PLANETのArea1の結果で、Core 2 Quad Q9550sに対して分が悪い結果になっているのが目にとまる。ビデオカードが同じなのでグラフィック処理が中心のテストでは差が小さいが、総合的に見て、ゲームにおいてはCore 2 Quad Q9550sに優位性があると見てよさそうだ。
ただし、DDR2環境とDDR3環境の性能差は、CPU処理中心のテストで明確に出ており、DDR3環境の導入効果は高い。
最後に消費電力の測定結果だ(グラフ15)。Core 2との比較ではピーク時の消費電力でかなり分の悪い結果となった。マザーボードの違いがあるとはいえ、同じDDR3同士の環境で30~40Wというのは決定的な違いといえるだろう。
【グラフ15】消費電力 |
一方で、DDR2環境に比べて、DDR3環境の消費電力が大きく抑制されているのは好印象だ。マザーボードの違いはあるが、姉妹モデルといっていいほど構成が似通ったマザーを使った結果である。以前のPhenom II X4 955 Black Ediitonのテストでは、DDR3環境のほうが消費電力が高いという結果も出ているので環境に大きく左右されることは間違いないが、似た構成のマザーボードを使用した場合は、やはりDDR3の動作電圧の低さが功を奏するように思われる。
●インパクトは弱いが堅実な魅力を持った製品以上のとおり、95W TDP版のPhenom II X4 945をテストしてきた。性能面ではCore 2 Quad Q9550sと同等レベルか、ゲーム類でやや劣る結果となったほか、消費電力も分の悪い結果が出た。
総合的なパフォーマンスという観点では一歩劣る印象を否めないが、本製品には価格の魅力がある。参考価格で23,000円前後が提示されており、今回比較に用いたCore 2 Quad Q9550sとは1万円以上の差が見込まれるのだ。コストパフォーマンスも製品選択の大きな比重を占めるセグメントの製品だけに、この差は非常に大きいだろう。
Socket AM3のPhenom IIはすでに最上位モデルが出ており、その1つ下にラインナップされるモデルということで、強いインパクトを持った製品とは言い難い。しかし、フラッグシップの1つ下というのは興味を持つユーザーが多いセグメントで、ここが埋められたことは大きな意味を持つ。また、TDPやT.Caseの値が下げられ、使い勝手も良くなった。Socket AM3プラットフォームの着実なステップアップを感じさせる製品といえる。