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Qualcomm、ハイエンドだが廉価版になる「Snapdragon 8s Gen 3」

Snapdragon 8s Gen 3

 Qualcommは3月18日、同社の新しいプレミアム・スマートフォン向けSoC「Snapdragon 8s Gen 3 Mobile Platform」(以下Snapdragon 8s Gen 3)を発表したこと。

 Qualcommは昨年(2023年)の10月に、最新プレミアム・スマートフォン向けSoC製品となる「Snapdragon 8 Gen 3 Mobile Platform」(以下Snapdragon 8 Gen 3)を発表し、SamsungのGalaxy S24シリーズなどに搭載されて市場に出回っている。

 今回発表されたSnapdragon 8s Gen 3はプレミアム・スマートフォンの中でも比較的普及価格帯に近い製品向けとされるSoCで、Snapdragon 8 Gen 3の特徴を引き継ぎながら、CPUなどのスペックをやや下げることで低コスト化を実現した。

同じ製品グレードの中でも廉価版を意味する「s」がついたSnapdragon 8s Gen 3が登場

Snapdragonは8シリーズ(プレミアム)、7シリーズ(ハイ)、6シリーズ(ミッド)、4シリーズ(エントリー)と数字で、どのクラス向けの製品かわかりょうになっている

 昨年の10月に米国ハワイ州マウイ島で開催した「Snapdragon Summit」において、Qualcomm最新プレミアム・スマートフォン向けSoCとなるSnapdragon 8 Gen 3を発表した。

 今回発表されたSnapdragon 8s Gen 3は、そのSnapdragon 8 Gen 3の廉価版という扱いとなる。

 QualcommはSnapdragon 8 Gen 1世代で、8(プレミアム)、7(ハイティア)、6(ミッドレンジ)、4(エントリー)など市場のグレードに特化したシンプルなブランドスキームを導入したと説明してきたが、その後Snapdragon 8とSnapdragon 7では「+」、Snapdragon 7では「s」などを導入して、微妙に細分化の手直しをしてきた。

Snapdragon 7シリーズで既に導入されている「+」と「s」。Snapdragon 8シリーズでは「+」の製品例はあったが、これまで「s」の製品はなかった

 「+」は改良版を意味しており、Snapdragon 8 Gen 1の改良版となるのがSnapdragon 8+ Gen 1などの形で展開している。Snapdragon 7シリーズで導入された「s」は、Snapdragon 7の中でも廉価版ということを意味しており、Snapdragon 7 Gen 2の廉価版としてSnapdragon 7s Gen 2という製品が投入されてきた。

Snapdragon 8s Gen 3はsがつかないシリーズよりも下位だが、プレミアム向けという位置づけは変わらない

 今回発表されたSnapdragon 8s Gen 3はそれと同じように、Snapdragon 8 Gen 3の機能の大部分を継承しながら、Snapdragon 8 Gen 3よりはやや廉価版という位置づけの製品ということになる。

CPUの構成と5Gモデムのスペックが大きな違い、プロセスノードは同じTSMC N4

Snapdragon 8s Gen 3のハイレベルの特徴。基本的にはSnapdragon 8 Gen 3の基本的な特徴を受け継いでいる

 今回発表されたSnapdragon 8s Gen 3とSnapdragon 8 Gen 3のスペックの違いは以下の表の通りだ。

【表1】Snapdragon 8 Gen 3とSnapdragon 8s Gen 3の違い(Qualcomm社の資料より筆者作成)
SoCSnapdragon 8 Gen 3Snapdragon 8s Gen 3
CPUプライムコアCortex-X4×1/3.4GHzCortex-X4×1/3GHz
CPU PコアCortex-A720×5/3.2GHzCortex-A720×4/2.8GHz
CPU EコアCortex-A520x2/2.3GHzCortex-A520x3/2GHz
メモリLPDDR5x-4800LPDDR5x-4200
GPUAdreno GPUAdreno GPU(グローバルイルミネーション未対応)
NPUHexagon NPUHexagon NPU
ISP3x18ビットISP3x18ビットISP(8K HDR、4K/120Hz未対応)
5GモデムSnapdragon X75 5G Modem-RF System(下り最大10Gbps)Snapdragon X70 5G Modem-RF System(下り最大5Gbps)
Wi-Fi/BluetoothQualcomm FastConnect 7800 System(Wi-Fi 7/BT5.4)Qualcomm FastConnect 7800 System(Wi-Fi 7/BT5.4)
製造プロセスノードTSMC N4(4nm)TSMC N4(4nm)

 両者の最大の違いはCPUだ。

 CPUはプライムコアがCortex-X4、パフォーマンスコア(Pコア)がCortex-A720、高効率コア(Eコア)がCortex-A520となっており、その構成自体は同じだが、パフォーマンスコアと高効率コアの構成が異なっている。

 Snapdragon 8 Gen 3はプライムコア/Pコア/Eコアが1/5/2という構成になっているが、Snapdragon 8s Gen 3は1/4/3となっている。つまりトータル8コアは一緒だが、Snapdragon 8s Gen 3はPコアが1つ減らされて、Eコアが1つ増えている。

 また、クロック周波数もプライムコア/Pコア/Eコアともに最大周波数が低めに設定されており、CPUの性能が若干引き下げられている。ただし、Snapdragon 7 Gen 2などよりは上という、絶妙なところを狙った構成だ。

 なお、GPU、NPUなどに関しては「ほぼ同等」とQualcommは説明しており、大きな違いはないと考えられるが、そもそもQualcommはSnapdragon 8 Gen 3のGPUの詳細を説明していないため、演算器の数が違うなどの詳細は分からない。

 ただし、Snapdragon 8 Gen 3で導入されたグローバルイルミネーション対応のハードウェア・レイトレーシングには未対応(ハードウェア・レイトレーシング自体には対応している)と明らかにされている。

 また、メモリはSnapdragon 8 Gen 3がLPDDR5x-4800に対応しているのに対して、Snapdragon 8s Gen 3はLPDDRx-4200までに対応と、こちらもクロック周波数がやや抑えられている。

ISP

 ISPに関しても18bitのISPが3基という構造は同等で、基本的には同じ機能をサポートする。ただし、Snapdragon 8 Gen 3では対応している8K HDR動画の撮影機能、4K/120Hz動画の再生機能などには対応しておらず、それらの機能はSnapdragon 8 Gen 3だけのプレミアム機能となる。

モデムはSnapdragon X70

 スペック上のもう1つの大きな違いは5Gモデム。Snapdragon 8 Gen 3では、Snapdragon X75 5G Modem-RF Systemが採用されており、下り最大10Gbpsのデータ転送速度が実現可能だ。これに対して、Snapdragon 8s Gen 3ではSnapdragon X70 5G Modem-RF Systemと1世代前のモデムとの組み合わせになっており、下りの最大速度は5Gbpsになっている。

 ただし、これらの速度は、5Gでキャリアアグリゲーションを利用した場合で、世界中のほとんどの通信キャリアではこの組み合わせを活用できるところは少ないことを考えると、実質的には差がないと言ってもいいだろう。

 Qualcommによれば、Snapdragon 8s Gen 3は既にOEMメーカーに対して出荷済みで、Honor、iQOO、realme、Redmi、Xiaomiなどから搭載製品が登場する見通し。最初の商用ベースの製品は3月中にも発表される見通しとのことだ。