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Qualcomm「Snapdragon 8 Gen 3」発表。CPUはCortex-X4に、NPU性能も約2倍に
2023年10月25日 04:00
Qualcommは、10月24日(米国ハワイ時間、日本時間10月25日)から10月26日、同社の製品発表の年次イベント「Snapdragon Summit 2023」を、アメリカ合衆国ハワイ州マウイ島において開催している。10月24日午前8時45分からは基調講演が行なわれており、PC向け最新SoCや、スマートフォン/タブレット向け最新SoCが発表されている。
この中で、現在Androidスマートフォンのハイエンドモデルに採用されているSoCとなるSnapdragon 8 Gen 2の後継となる「Snapdragon 8 Gen 3」を発表した。
CPU、GPU、NPU、ISPすべてが強化され性能が向上していることが特徴になっている。また、AIへの対応が強化され、MetaのLlama 2への最適化、PyTorchへの最適化、生成AIのモデルをダウンロードできるHugging Faceで20のモデルにリリース時に対応するなどAI向けのソフトウェア開発キットの強化も明らかにされている。
CPUは従来の1:4:3から1:5:2にバランス変更、プライムコアはCortex-X4に強化
Snapdragon 8 Gen 3のCPUは名称こそ「Kyro」と従来モデルと同じだが、大きく進化している。従来のSnapdragon 8 Gen 2ではプライムコア1、パフォーマンスコア4、高効率コア3という変則8コア構成になっていた。今回のSnapdragon 8cx Gen 3ではプライムコアが1という構成は同じだが、パフォーマンスコアは5、さらに高効率コアが2という構成に変更されている。
通常使われるパフォーマンスコアが増えることになるので、消費電力的な観点ではやや不利になるが、性能面ではやや向上することになる。
CPUはプライムコアがCortex-X4で最大3.3GHz、パフォーマンスコアはCortex-A720で3コアが3.2GHz、2コアが3GHz、高効率コアはCortex-A520で最大2.3GHzとなっている。また、L3キャッシュも8MBから12MBに増やされている。そうした改良によりCPUだけでは約30%の性能向上、20%の電力効率の改善があるとQualcommは説明している。
ブランド | Snapdragon 8 Gen 3 | Snapdragon 8 Gen 2 | Snapdragon 8 Gen 1 |
---|---|---|---|
発表年 | 2023年 | 2022年 | 2021年 |
CPUブランド名 | 新Kryo | 新Kryo | 新Kryo |
プライムコア | Cortex-X4(1) | Cortex-X3(1) | Cortex-X2(1) |
パフォーマンスコア | Cortex-A720(5) | Cortex-A715(2)/A710(2) | Cortex-A710(3) |
高効率コア | Cortex-A520(2) | Cortex-A510(3) | Cortex-A510(4) |
L3キャッシュ | 12MB | 8MB | 6MB |
GPUブランド名 | Adreno | Adreno 740 | Adreno 730 |
メモリ種類/データレート | LPDDR5-4800 | LPDDR5-4200 | LPDDR5-3200 |
NPU | 新Hexagon NPU | 新Hexagon DSP | 新Hexagon DSP |
ISP | 新Spectra | 新Spectra | 新Spectra |
モデム | X75(内蔵5G) | X70(内蔵5G) | X65(内蔵5G) |
製造プロセスルール | 4nm(TSMC) | 4nm(TSMC) | 4nm(Samsung) |
GPUに関しても同様で、「Adreno GPU」という名称は同様だが、従来モデルに比べて性能が強化されている。3D性能では25%の性能向上があり、電力効率では25%改善している。
また、新しく1Hzまでリフレッシュレートを落とす機能が可能になっており、OSがアイドル状態にあるときに1Hzに落とすことで、ディスプレイがリフレッシュする回数を減らすことが可能になり、SoC側とディスプレイ側の両方消費電力が節約できる。
逆に外部ディスプレイに出力する場合には最大では240Hzに新たに対応しており、ゲーミングスマートフォンなどでリフレッシュレートを上げてゲームプレイをすることも可能だ。
さらに、120Hzまでの対応となるが「Adreno Frame Motion Engine 2.0」と呼ばれる機能に対応しており、NVIDIAのG-SYNCやAMDのFreeSyncのような可変リフレッシュレート同期機能が搭載されている。
ただし、現時点ではAdreno Frame Motion Engine 2.0がどんなディスプレイに対応しているのか詳細は不明で、今後明らかになるだろう。なお、内蔵ディスプレイでは最大4K/60Hz、ないしはQHD+/120Hz、外付ディスプレイには8K/30Hzないしは1080p/240Hzの出力が可能になっている。
Snapdragon 8 Gen 2からサポートされたレイトレーシングも強化され、新たにグローバル・イルミネーション(より正確に光の反射などを扱う手法のことで、写真品質なレイトレーシングを可能にする)に対応する。このグローバル・イルミネーションに対応したレイトレーシングには、Unreal Engine 5が対応予定で、今回のSnapdragon Summitの中でデモや詳細などが説明される予定だ。
メインメモリはLPDDR5xでデータレートは最大4,800MHzまで対応。メモリの最大容量は24GBまでとなっている。ストレージはUFS 4.0に対応。なお、SoCのダイは、従来製品(Snapdragon 8 Gen 2)と同じTSMCの4nmプロセスノードで製造されている。
DSPから名称が変更されたHexagon NPUは、従来世代より2倍の性能強化を実現、生成AIへの対応を強化
NPUの性能も大きな強化点となる。従来までQualcommは同社のNPUを「Hexagon DSP」と呼んできたが、今年(2023年)発表した製品から「Hexagon NPU」と他社と呼称を合わせてきた。
AIの行列乗算を高速に行なえるような演算器をNPUと呼ぶのは業界標準となりつつあり、Intelも従来はVPU(Visual Processing Unit)と呼んでいた演算器を、12月14日に正式に発表するインテルCore Ultraプロセッサ(開発コードネーム:Meteor Lake)からNPUに変更しており、1つのトレンドになっている。
そのHexagon NPUは、前世代でINT8+INT16に混合精度に対応したほか、INT4、INT8、INT16、FP16などの精度に対応した特徴を受け継ぎながら、内部の実行エンジン高速化が図られている。
共有メモリへの帯域幅が2倍になったほか、マイクロタイルを利用した推論機能などが強化され、全体的なマイクロアーキテクチャのアップグレードが行なわれることで、従来世代に比べて2倍の性能と40%の電力効率の改善が実現されている。
また、前世代に引き続きソフトウェア面での強化が実現されており、MetaのLLM(大規模言語モデル)となるLlama 2(ラマツー)への最適化が行なわれており、QualcommのAI向け中間言語(Qualcomm AI Stack)を利用して、CPU、GPU、NPUなどを効率よく利用しながらローカルで推論処理を行ない、高速で高機能なAIアシスタント機能を実現することが可能になる。
ほかにも、PyTorchへの最適化、Hugging Faceの生成AIモデルに20以上に対応する計画など、AI/生成AIへの対応が強くアピールされている。
さらに、デバイスがサスペンド状態にあっても、特定のキーワードなどに反応するために常に起きている「Sensing Hub」も強化され、新たにINT4の精度に対応し、メモリ容量が30%増えるなど強化され、従来モデルに比べて3.5倍のAI性能を実現している。これにより、OSがスリープ状態にあってもできる処理が増えるなどしており、よりインテリジェントなAIをバッテリ駆動時にも実現することができる。
扱えるレイヤー数を12に強化したSpectra ISP、コンテンツクレデンシャルにも対応
カメラの制御を行なう「Spectra ISP」は、昨年(2022年)モデルと同じく18bitのISPが3つ用意されている点は同じだが、機能は大きく強化されている。最大の強化点はセマンティック・セグメンテーション時に扱えるレイヤー数が8から12(いずれも1フレームあたり)に増やされていることだ。
Snapdragon 8 Gen 2で、QualcommはHexagon Direct Linkと呼ばれるISPとNPUを直接接続する内部バスを設けたことを明らかにした。それにより、カメラから入力された画像を、NPUに送ってセマンティック・セグメンテーション(画像を複数のセグメントに分割すること)を行ないレイヤー化し、その分割されたレイヤーそれぞれに露光量、コントラスト、明瞭度などを変える処理をリアルタイムに行なえるようにした。
たとえば、撮影した画像が人物と背景があって背景だけが暗い場合、背景だけ露光量を上げるなどの処理をリアルタイムに行ない、Photoshopのようなツールで後処理を行なわなくても高画質な写真を撮影できるようにする機能だ。
新Spectra ISPでは、このレイヤー数が1フレームにつき12も持てることが可能になっているので、より細かな調整が可能になっている。
また、ソフトウェア的にDolby HDR photoに対応し、10bitの色情報で撮影することが可能になるだけでなく、色域としてRec.2020にも対応が可能になる。
また、AdobeやMicrosoftなどが中心になって対応を進めているCAI(Contents Authenticity Initiative)/C2PA(Coalition for Content Provenance and Authenticity)への対応が明らかにされており、写真撮影時にCAI/C2PAで規定されている改変情報(コンテンツクレデンシャル)を持たせることが可能になる。これにより、その写真が生成AIで作られたようなディープフェイクではないことを証明できる。
なお、CAI/C2PAのコンテンツクレデンシャルはAdobe Photoshop/Lightroom(いずれもデスクトップPC版)などで既に編集が可能になっており、Androidスマートフォンのカメラで撮影することが可能になれば、コンテンツクレデンシャルの普及に大きく弾みがつくことになるだろう。
無線関係は5Gモデムが「Snapdragon X75 5G Modem-RF System」に強化されているが、転送速度は下り最大10Gbps、上り最大3.5Gbpsに変化はない。また、Wi-Fi/BTは従来と同じ「Qualcomm FastConnect 7800 System」で、Wi-Fi 7に対応、Bluetooth 5.4に対応という点は同様だ。
Qualcommによれば、Snapdragon 8 Gen 3を搭載した製品は、今後数週間のうちに提供が開始される予定で、具体的なOEMメーカーとしてはASUS、Honor、iQOO、MEIZU、NIO、Nubia、OnePlus、OPPO、realme、Redmi、RedMagic、Sony、vivo、Xiaomi、ZTEなどと明らかにされている。