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PFR、ロボット家具が動く新しいライフスタイルを提案

「カチャカ」は自律移動する「スマートファニチャー」

 自律移動ロボットの開発・製造・販売を行なうPreferred Robotics(PFR)は2月1日、家庭用の棚やワゴンを搬送できる自律移動ロボット「カチャカ」を発売すると発表し、東京都内で記者会見を開催した。

 カチャカは、専用のキャスター付き収納ワゴン「カチャカシェルフ」の下に入り込み、アタッチメントで接続して棚を牽引、指定の場所まで運ぶ。音声認識またはスマホアプリで動作する「スマートファニチャー」だ。

 用途はキッチンから料理をまとめて運ぶ、洗濯物を運ぶ、子どもの遊び道具を運ぶ、読みかけの本を運ぶ、といったものを想定している。家庭用だけではなく、普段ワゴンを使って道具類を収納・活用しているスモールビジネスでの活用も視野に入れる。

 使用場所は基本的にはバリアフリーの床。絨毯は毛足によって変わるので、セマンティックセグメンテーションにより絨毯かどうかを判断して、近くには寄らない機能を実装している。棚の高さの違いも認識して部屋の中を自律移動できるという。

カチャカ本体とカチャカシェルフ
カチャカシェルフを持ってくることができる
シェルフは専用
シェルフ下にバーコードでシリアル番号が示されている
音声のほか、スマホアプリからの操作・設定も可能
手動でマップを作らせることもできる。処理は全てロボット内部で行なう

 本体価格は22万8,000円、または月額4,980円(48回分割払い)。加えて月額980円の使用料が必要となる。専用の棚は3段が2万9,800円、2段が2万3,800円。棚にはパネルが付けられ、そのカラーはライトグレーとダークグレーが選べる。

費用としては本体22万8,000円+月額980円+専用棚が必要
b8ta、蔦屋家電+で実物展示が行なわれている

 2月1日から公式オンラインストアのほか、スタートアップ製品などを店頭で手に取れるb8ta 4店舗、蔦屋家電+で特典付き先行予約受付を開始する。3月1日からは「LIVING HOUSE. アーバンドックららぽーと豊洲店」でも取り扱う。発送・一般発売は5月を予定する。設計は全て内製だが、製造自体は国外で行なっている。

カチャカ(Kachaka)ブランドムービー|Full ver.

「動く家具」スマートファニチャー

株式会社Preferred Robotics 代表取締役 CEO 礒部達氏

 PFRは機械学習(マシンラーニング)・深層学習(ディープラーニング)技術を中心に事業を進めているスタートアップPreferred Networks(PFN)からスピンオフしたロボット開発ベンチャー。今もPFNのグループ会社として、深層学習やセマンティックセグメンテーション、音声認識、独自のグラフベースSLAM(Simultaneous Localization and Mapping、自己位置推定とマップ生成を同時に行なう技術)といった先端技術を組み合わせ、産業用から家庭用までロボット開発に取り組んでいる。

 これまでに業務用床洗浄ロボット「HAPiiBOT」などを発表しているが、今回、業務用ロボット開発で得た知見を投入し、不確定要素の多い家庭でも安定稼働できるようにした。

 PFR 代表取締役 CEO 礒部達氏は最初に「ロボットとは動くコンピュータだ。ロボットは動ける範囲を観測し、計算可能にし、そこにいる人をより自由に、直感的にするもの」と述べた。

 そして「我々は『すべての人にロボットを』のミッションを掲げ、5年間かけて開発してきた。家にロボットが来たらどうなるか。住環境はロボットの視点に立つとエレガントさに欠ける。家は家屋と家具の組み合わせ。どんな家具を置くかで部屋の役割は決まる。一度設置した家具は固定され、人間が家具に合わせて動き回る必要がある。もし家具が動いたら、これらの常識は過去のものとなる。住環境は今よりもはるかに自由で直感的なものとなる。ロボットと専用家具の組み合わせによる全く新しいコンセプト『スマートファニチャー』を紹介する」と語って、デモを行なった。

Preferred Robotics「カチャカ」を呼び込む礒部氏

 「スマートファニチャー」とは「人の指示通りに動く家具」で、「名もなき家事」の手間を減らし、スマホアプリの設定で定刻に起動して移動することでリマインダー代わりに使ったりできるもの。そして「使う人の創意工夫次第でどこまでも生活を便利にできるプラットフォーム」だという。

定刻に自動起動することでリマインダ代わりに

4つの深層学習モデルで家庭内を自律移動

カチャカ本体。前後にカメラ、正面に3Dセンサー、上面にLiDAR

 カチャカ本体の大きさは240×387×124mm、重さは10kg。棚を牽引するため重たく作られている。牽引可能なペイロードは20kg(棚自体の重量も含む)。

 バッテリは充電式リチウムイオン電池を使用し、連続稼働時間は2時間程度で、自動充電機能もある。移動速度は400mm/秒。RGBカメラを2つ装備するほか、レーザーセンサー、3Dセンサー、段差センサー、家具認識センサー、マイク、スピーカーなどを備える。付属品は充電ドック、ACアダプタ、電源コード。

 事前に生成された部屋のマップとセンサー、そして棚につけられたバーコードで各棚を認識して、「ねえ、カチャカ」という呼びかけに応じて指定の場所まで棚を運ぶ。

 住環境は多様なので、自由自在に動くことは難しい。そんな中でも家庭内を移動できるのは、PFR社の自律移動技術によるものだ。4つの深層学習モデルが常に動いているという。

カチャカ側面。重さは10kg
シェルフにはライトグレーかダークグレーのカバーをつけることもできる

 技術の紹介もPFRの礒部氏が行なった。1つ目はカメラ画像とLiDARを組み合わせる独自の「グラフベースSLAM」による自己位置推定とマップ作成。2つ目はナビゲーションシステムだ。

 数多くのセンサー情報を統合し、最適ルートを計算している。障害物回避には深層学習技術を使い、ピクセル単位で物を認識。コードのような物体も正確に認識して回避できるという。棚も深層学習で発見・認識している。

グラフベースSLAM
深層学習を使ったナビゲーションシステム

 3つ目は音声認識技術。自律移動ロボットは自身の位置が変わるため、話者との距離の変化、周囲の雑音、自分の雑音等に対応する必要がある。ここにも深層学習とPFNのハイパーパラメータ自動最適化ツール「Optuna(オプチューナ)」など最適化技術と計算リソースを活用した。

音声認識

 礒部氏は「ロボットの開発は総合格闘技。さまざまな多岐にわたる技術を同時に実現する必要があった。PFNとPFRのシナジーにより実現することができた」と語り、Preferred Networksの西川氏を呼び込んだ。

より多くの場所を計算可能にし、生活を豊かに

Preferred Networks 代表取締役最高経営責任者 西川徹氏

 PFRの親会社であるPreferred Networks 代表取締役最高経営責任者の西川徹氏は、「今日という日を楽しみにしていた」と挨拶。

 「これまでのコンピュータはセンシングだけでアクションできなかった。アクションできるロボットは新しいコンピュータだ。我々がパーソナルロボットにこだわっているのは、より多くの環境でロボットを動かすことができれば、より多くの場所を計算可能にすることができ、生活を豊かにすることができるから。『カチャカ』のリリースは非常に重要な一歩」と語った。

 そして「ロボットを多様な環境で動かすことの難しさ」について述べた。「機械は決められたことをやるのはとても得意。しかし不測の事態には柔軟に対応できなかった。柔軟性を持たせられるようになったのはAI、深層学習の発展により、プログラミングパラダイムが大きく変わったから。データからルールを自分で見つけるその技術があるからこそ、このようなコンピュータ(ロボット)の構築が可能になった」と話した。

 ただしロボットは「深層学習だけでは実現できない」という。「家庭内にロボットを普及させるには、違和感のない自然なデザイン、スムーズな動き、手に届く価格実現のためのハードウェアとソフトウェアのチューニング、さまざまな要素を組み合わせて初めて実現できた。つまりチームワークも非常に重要な要素だった。チームワークによって今回このような新しいコンピュータを提供することができた。非常に大事な第一歩を踏み出した」と強調した。

 その上で「さらにロボットの可能性を広げていきたい。ハードウェアだけでなく、我々はスパコンの開発にも注力している。世界最速のスパコン構築を目指したい。それをフル活用しソフトウェアも進化させる。さらなるロボットの可能性を広げることを実現し、あらゆる場所にロボットを提供し、生活をより豊かで便利にしていきたいと考えている」と述べた。

さまざまなシーンにロボットを提供していきたいとのこと。

暮らしの中の「ちょっとした工夫」を受け止めるプラットフォーム

Takram Japan 株式会社 代表取締役 田川欣哉氏(左)、株式会社GEN SUZUKI STUDIO 代表/プロダクトデザイナー 鈴木元氏(右)

 「カチャカ」の名称は、棚に牽引用アタッチメントをセットするときの「カチャッ」という音に由来する。ロボット自体の移動音はとても静かだ。音、音声、デザイン、いずれもが生活の中に自然と溶け込めるように努力したという。

 デザインについては、デザインイノベーションファームのTakram Japan 株式会社 代表取締役の田川欣哉氏と、株式会社GEN SUZUKI STUDIO 代表/プロダクトデザイナーの鈴木元氏が登壇して紹介した。

 田川氏は「カチャカは世の中に存在しないもの。デザインの最高メンバーを集めてここまで仕上げた。そうやって初めて生活の中に入っていける準備が整った」と述べた。鈴木氏は「静かで生活環境に馴染めるものがいいと思って仕上げた。カチャカ自体は黒子に徹することを意識した」と語った。

 特に「家具が自律的に動き回るときどんな形が自然なのか」と考え、角のとれた四角形としたという。礒部氏は、社内でも数十種類考えていたが、鈴木氏の提案を見たときにそれに一気に収斂したと話した。

あくまで黒子としてのロボット
家庭内に溶け込むデザインを目指した

 田川氏と鈴木氏も、実際にカチャカを使っているという。田川氏は「皆さんもそうだと思うがリモートで仕事することが増えて自宅の中の仕事環境を工夫し始めている。デスク周辺にあるといいが、ずっと置いておきたくないものがある。毛布やカッター、ペンなど。それをスマホで呼び出して、使い終わったら自然と片付けられる。すると机周りの使い方が変わってくる」と紹介した。「ちょっと工夫したいなというところを受け止めてくれるものだと考えている」という。

 鈴木氏は「一番しっくりしたのは子どものおもちゃや絵本。リビングはすぐに子どものおもちゃで埋まってしまう。カチャカがいると子どもにとっては相棒みたいなものになって、自分で楽しく片付けてくれるようになった」とエピソードを紹介した。カチャカの棚にはパネルを張ることができる。「壁に向けて回転させると、すごくシンプルな収納になる。リビングがクリーンになり、子どもとも共存できる」と語った。

 最後にPFR礒部氏からデザイナーとしてのメッセージを求められた田川氏は、「全く新しいプロダクトだ。10年後にこれが普通になったら今日が第1日目。改善していくためには生活の中にエンジニアやデザイナーが入っていく必要がある。新しい時代の幕開けだ。ユーザーの皆さんに喜んで使って頂ければ」と述べた。

 鈴木氏は「家具が動くのは革新。インテリアデザインの考え方を変える。これからの展開はとても楽しみ。壮大な社会実験であり、新しい未来を作っていけたらなと思っている」と語った。

暮らしの中に入る全く新しいプロダクトであり、ユーザーと改善していきたいとのこと

ユーザーと一緒に想像を超える進化へ

左からTakram田川欣哉氏、PFR 磯部達氏、PFN 西川徹氏、デザイナーの鈴木元氏

 最後に磯部氏は「家庭で役に立つロボットは非常に魅力ある分野。だが多様な環境への対応やコストなど、あらゆるロボットの中でも最も難しい。我々も過去に多くの実証と失敗を繰り返し、このコンセプトに辿り着いた」と語った。

 とても大きな可能性があると考えているとしており、「配膳・下膳、紛失防止、習慣化など多くのユースケースが考えられる。より自由で創造的に暮らせるように、素晴らしいパートナー、顧客と一緒に進化させていきたい。過去数十年でコンピュータは想像を超える進化を遂げてきた。次はロボットの番です」と会見を締めくくった。

「b8ta」渋谷店での展示の様子。b8taとしても驚きを感じてもらいたいと考えているとのこと
デモも含めて間近で見ることができる。

 米国ラスベガスで開催された「CES 2023」では、旭化成ホームズと組んで宅配で活用するデモンストレーションを行なっていたが、今はまだ実験段階とのこと(旭化成ホームズのリリースはこちら)。目標販売台数は非公開。「非常に新しいプロダクトなのでしっかりと市場を作っていく活動をしたい」と考えているという。

 スマートホームの共通規格「Matter」への対応やスマートスピーカーと組み合わせた活用などは検討中で、社内でプロトタイピングを高速で繰り返している最中とのこと。なお、社内では「動くゴミ箱」や「動くお菓子棚」として使われているそうだ。

Preferred Robotics 「カチャカ」 配膳棚搬送