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Adobe AcrobatがArm版Windowsにネイティブ対応

AdobeとQualcommのパートナーシップが拡大

 Qualcommは、例年年末に行なっている「Qualcomm Snapdragon Summit」を、11月15日~11月17日(日本時間11月16日~11月18日)の3日間に渡って、米国ハワイ州マウイ島にあるホテルにおいて開催している。

 11月15日(現地時間、以下同)には基調講演が行なわれ、別記事で紹介している通りSnapdragon 8 Gen 2が発表された。基調講演ではQualcomm CEO クリスチアーノ・アーモン氏などの同社幹部により、Snapdragon 8 Gen 2に関する説明が行なわれた。

 この中でQualcommはAdobeとの協業の拡大について説明したほか、Snapdragon 8 Gen 2で最も注目される機能である、GPUへのハードウェア・レイトレーシング・エンジンのデモを行なった。

AdobeがArm版Windowsのアプリ拡張を発表、SnapdragonベースのXRデバイス向けのアプリも

 Qualcomm CEO クリスチアーノ・アーモン氏は、最先端の技術を開発し、まずそれをプレミアムセグメントのスマートフォン向けに投入し、その後PC、XR、ウェアラブル、自動車と横展開していくことになるという同社の製品ロードマップを説明した上で、今回のイベントでは例年と同じようにその同社の最先端製品が最初に投入されるプレミアムセグメントのスマートフォン向け製品に関する説明を行なうと述べた。

 しかし、そうした製品の発表を行なう前に、アーモン氏は「新しいパートナーシップに関して説明したい」と述べ、Adobe Creative Cloud製品・サービス担当上席副社長 ゴヴィンド・ブラクリシュナン氏を壇上によび、今回QualcommとAdobeが発表した新しい提携に関して発表を行なった。

 今回Adobeが発表したのは「Fresco」と「Acrobat」のArm版Windows(Windows on Arm~向けネイティブアプリを2023年から提供を開始するということ。またXR(VR、AR、MR)向けのSnapdragon製品の開発環境になるSnapdragon Spacesに対応したデバイス上で、Adobeの3Dツールで作成したコンテンツ(USDなど)を視聴したりすることが可能になる。

 これを実現するために、AdobeはAeroアプリケーションをプレミアム向けSnapdragon搭載のスマートフォン上で使えるように拡張する。

Qualcomm CEO クリスチアーノ・アーモン氏
Adobe Creative Cloud製品・サービス担当上席副社長 ゴヴィンド・ブラクリシュナン氏(左)

 現状Arm版Windowsでは、Creative CloudのうちPhotoshopとLightroom CCという2つのアプリケーションだけが利用可能になっており、x64版WindowsがすべてのCreative Cloudアプリが使える状況に比べると「明確に足りない」という状況にある。

 今回PDF文書閲覧/編集ツールのAcrobat(従来もx86版のビューアは使えていたが、今回は編集も可能なフル機能のAcrobatという意味だと思われる)、さらにペンでイラスト作成が可能なFrescoがArmネイティブ版として提供されるというのは良いニュースだと言える。

 また、Adobeは近年Substance 3DやAeroなどの3D/XRコンテンツを作成するツールに力を入れており、USD(Universal Scene Description)などのXR向けのコンテンツをCreative Cloudで作成できるようなソリューションの拡充を行なっている。そのターゲットをAndroidプラットフォームにも拡張するというのも、Android陣営にとっては良いニュースだ。

 ただ、依然としてPhotoshop for Androidはないことなどからも、AdobeはiOSを優先する姿勢は崩しておらず、Qualcommやその顧客となるAndroidデバイス陣営にとっては、次はその状況を変えていく取り組みが必要になると言える。

Snapdragon 8 Gen 2でサポートされるハードウェア・レイトレーシングのデモが行なわれる

 その後、アーモン氏は製品担当の幹部を呼び、今回のイベントに合わせて発表されたSnapdragon 8 Gen 2に関する発表を行なった。

 概要は上記の記事で説明している通りなのだが、今回の基調講演でいくつかアップデートがあった。CPUに関しては既報の通り、Cortex-X3がプライムコア(シングルコアで、低レイテンシ重視の高性能コア)で最大3.2GHz、さらにパフォーマンスコアが4コアで最大2.8GHz、高効率コアが3コアで最大2GHzとなる。

 昨年(2021年)までの製品はプライムコアが1つ、パフォーマンスコアが3つ、高効率コアが4つという組み合わせだったので、パフォーマンスコアと高効率コアのコア数が入れ替わっていることが最大の特徴となる(合計で8コアという大枠は変わっていない)。

Snapdragon 8 Gen 2

 また、L3キャッシュは8MBとなり、Snapdragon 8 Gen 1の6MBから引き上げられていることが大きな特徴。なお、まだ原稿執筆時点ではパフォーマンスコアと高効率コアのCPUがどんなIPを利用しているのかは明らかになっていない。こうした改良により、35%の性能向上と40%の電力効率の改善がGen 1と比較して実現されているとQualcommは説明した。

 GPUのAdrenoに関してQualcommは25%の性能向上と、45%の電力効率の向上と説明したが、それが具体的にどのように実現されているのか(例えば内部の演算器の数がいくつなのかなど)、例年同様まったく説明しなかった。

Snapdragon 8 Gen 2のブロックダイアグラム
CPUの性能改善
GPUの性能改善
ハードウェアレイトレーシングの実装

 ただ、既報の通りハードウェア・レイトレーシング・エンジンが内蔵されていることは明らかにされており、実際にレイトレーシングをオンにしたデモを行なってみせた。このハードウェア・レイトレーシング・エンジンを利用している時の消費電力は5W以下だといい、バッテリで駆動するようなスマートフォンでもレイトレーシングを利用できるのがメリットだと説明した。

リアルタイムレイトレーシングのデモ