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厚さ原子3個分の半導体で励起子の動きを可視化する技術。筑波大ら開発

研究に用いた実験手法の模式図(a)、励起子―励起子消滅過程の模式図(b)

 筑波大学数理物質系物理⼯学域/イノベイティブ計測技術開発研究センター、東京都⽴⼤学理学部物理学科による研究チームは、半導体中の励起子の動きを1nm単位で可視化する技術を開発したと発表した。

 情報技術に欠かせない半導体素子は、微細化によって高性能化を進めており、その大きさは10nm単位にまでにまで達している。一方、従来の技術によるシリコン半導体のこれ以上の微細化は難しくなるなど課題もあり、その中で次世代の材料として、遷移⾦属ダイカルコゲナイド(TMDC)半導体が注目されている。

 TMDC半導体は、1層の厚みが原子3個分ほどしかないシート状物質。高い移動度や高速な光応答などの特徴を持ち、光を吸収すると励起子を生成する。励起子は、従来の半導体材料では低温でしか安定しない一方、TMDC半導体内では室温下でも安定して存在することが分かっており、半導体素子の光吸収や光電子応答に大きく影響を与えるため、状態を詳しく調べる必要がある。しかし、これまでの手法では10nmの精度が限界だった。

 研究チームでは、複数の探針で試料の電気特性を調べるマルチプローブ法、原子単位の空間分解能を持つ走査型トンネル顕微鏡法、100フェムト秒の時間分解能を持つレーザー技術の3つを組み合わせ、新たな顕微鏡「時間分解マルチプローブ⾛査型トンネル顕微鏡法」を開発。原子レベルの厚さしかない半導体中での励起子ダイナミクスを1nm単位で可視化することに世界で初めて成功した。

 励起子は電気的に中性なため、少ない損失でエネルギーや情報を運ぶことができるほか、スピン情報の付加や、高効率レーザー源への活用、100K以上の高温での超流動状態の提唱など、さまざまな応用につながる可能性があり、光電変換デバイスの効率改善やnm単位で励起子を駆動する省電力情報デバイスの開発への貢献が期待されるとしている。