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日本マイクロソフトのクラウド型量子コンピューティングサービス「Azure Quantum」
2022年6月28日 18:11
日本マイクロソフトは、量子コンピューティングサービスのAzure Quantumにおける最新の取り組みを紹介した。
説明会では、Microsoft Technical Program Manager Lead for Optimization Azure QuantumのAnita Ramanan氏、日本マイクロソフト株式会社 クラウド事業開発本部 ビジネスデベロップメントマネージャーおよびAzure Quantum Ambassadorの金光大樹氏、株式会社Jij 代表取締役CEOの山城悠氏が登壇した。
大規模データセンターなどをもってしても計算能力が足りず、解決が困難な課題に対して、量子コンピューティングがもたらす可能性は大きく、その実用化に向けて研究開発が進められている。
現在、量子コンピューティングにおいては、NISQ(Noisy Intermediate Scale Quantum)と呼ばれる小中規模のシステムが主に用いられる。一方同社では、スケーラブルな量子コンピューティングの実現に向けて、トポロジカル量子ビットの研究開発を進めており、2022年3月にはこの実現に向けた基礎技術の実証に成功したことで、より大規模な量子デバイスの製造が期待できるとしている。
Azure Quantumは、同社の量子クラウドコンピューティングサービス。Q#やQiskit、Cirqなどに対応し、開発キットとなるQuantum Development Kitを用意し、量子ハードウェアやシミュレータ上で実行できる。ファーストパーティとしてAzure Quantum Machineの設計や構築のほか、各種パートナーとの提携により、多様なサードパーティハードウェアデバイスへのアクセスも提供している。
加えて、古典的言語やハードウェアを用いて量子プロセスをエミュレートすることで、従来の手法より優れた結果を導き出せる量子着想最適化(Quantum Inspired Optimization、QIO)ソリューションも提供。コスト関数の設計や、パラメータ、係数のチューニングなどは専門性の高い作業とされるが、Azure Quantumでは、パートナーによるミドルウェアソリューションを提供することで、こういった作業を簡易化/自動化できるとしている。
量子着想最適化はハードウェア接続性の制限が少なく、既存のハイスケールで高性能な古典的ハードウェアを活用できるため、拡張性や可用性の問題も軽減できるとしている。27日(米国時間)には、新たに東芝のSQMB+(Simulated Quantum Bifurcation Machine+)の提供を開始すると発表。シミュレーテッド分岐マシン(Simulated Bifurcation Machine、SBM)をベースとしたイジングモデルソルバーで、最大10万変数までの複雑かつ大規模な組み合わせ最適化問題を高速に解決できるとしている。
Case Western Reserve Universityのケースでは、MRIの診断性能向上に向けた最適化を実施し、結果としてスキャン速度の4倍向上や50%の画像精度向上を実現した。医療分野のほかにも、自動車/航空宇宙、政治、経済、製造、エネルギーなどさまざまな産業領域で活用できるという。
同社では、QIOによる最適化とAzure Quantumによる量子計算の2つを提供している。これに加えて、量子コンピューティングの規模が拡大した時に向け、各種パートナーや政府などを含めたエコシステムとして、Azure Quantum Networkを構築。参加はフォームを通じて誰でも可能で、2つの無償クレジットプログラムを用意している。また、スタートアップ向けた取り組みとして、Azure Quantum Networkと並行して、Microsoft for Startups Founders Hubとの連携も図っている。
これらのほかにも、各種ドキュメントやチュートリアル、Azure Quantumや量子コンピューティングを学びたい人に向けた学習コンテンツなども用意。Microsoft製品に関する対話式学習を無償で提供するプラットフォームMicrosoft Learnでは、量子コンピューティングについて座学、ハンズオン、知識チェックを通じて学べるコンテンツなどが利用できる。
説明会では、株式会社Jijによる事例紹介も行なわれた。同社では、数理モデルの構築から量子/イジングマシンでの最適化計算実行までを担うソリューション「JijZept」を提供しており、高次にも対応できるQIOと組み合わせることで、複雑なモデルでも解くことができるという。