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Microsoft、Armアプリ開発用の小型デスクトップ「Project Volterra」
2022年5月25日 11:31
Microsoftは、年次イベント「Microsoft Build」を5月24日~5月26日(米国太平洋時間、日本時間5月25日~5月27日)の3日間に渡ってオンラインで開催。Windows、パブリッククラウド向けのAzure、そしてメタバース向けの各種ソリューションの説明を行なっている。本講では初日に行なわれた、基調講演の内容を紹介する。
3年連続でオンライン開催となったMicrosoft Build
Microsoft Buildは、Microsoftが例年5月頃に開催している同社のフラグシップカンファレンスで、同社の開発者向けのイベントとしては最大で、多くの参加者を集める。通常であれば、Microsoftの本拠地があるレッドモンドやそのほかの米国の都市などにおいて対面で開催されるイベントだが、2020年に発生したパンデミック以降はオンラインのみで開催されており、今年もオンラインで開催された。
ただ、パリやベルリンといった欧州の地域では一部対面で行なわれており、グローバルを対象とした英語のセッションだけでなく、複数の地域(欧州や日本など)では同時にローカルの言語を使ったローカル向けのセッションが、現地時刻に合わせて行なわれている。
日本もその対象になっており、日本語のBuildWebサイトが用意され、日本向けのセッションを検索、参加することができる。参加費は無料だが、Microsoftアカウント、職場または学校アカウント(いわゆるAzure ADアカウント)LinkedInやGithubなどのアカウントでログインするか、メールアドレスなどで登録が必要になる。
Armネイティブアプリの開発を促すProject Volterra
基調講演において、Qualcommとの共同による「Project Volterra」の取り組みが発表された。Project Volterraは、Arm版Windowsに向けたArmネイティブなアプリを開発するためのデバイスで、Snapdragon compute platform(Snapdragon 8cxなどを搭載した小型デスクトップPCになっている。
Mac miniのような外観で、Project Volterraを複数重ねて利用することも想定されている。
開発者は、Project Volterraと、「Visual Studio 2022」、「VSCode」、「Visual C++」、「Modern .NET 6 and Jav、Classic .NET Framework」、「Windows Terminal」、「WSL」/「WSA」などのArmネイティブな開発キットを利用して、Arm向けのアプリケーションや、「Qualcomm Neural Processing」を利用したSnapdragon AI Engine(CPU、GPU、DSPを異種混合に演算に使うためのエンジン)向けのAIアプリケーションなどを開発可能になる。Visual Studio 2022などのArmネイティブ版開発ツールの最初のプレビューは、今後数週間以内に公開される計画だ。
未来のWindowsはローカルだけでなく、Azure上の演算器を利用して性能を上げられる
イベントの中で、Microsoftは「Hybrid Loop」という構想を明らかにした。例えばAIの演算時にGPUやNPUなどのアクセラレータを使うのが一般的だが、それらの適切な演算器がローカルにない場合に、アプリケーションがシームレスにクラウド上にあるGPUやNPUなどを利用するというものだ。
こうした仕組みに似たものとしては、GPUが利用可能なVDI(Virtual Desktop Infrastructure)があるが、その場合はローカルOSからクラウドOS環境に切り替えて利用する必要がある。
Hybrid Loopでは、OSレベルなのか、アプリケーションレベルなのか現時点ではハッキリしていないが、ローカルアプリからクラウド(Azureベースのサービスとして提供されるAzure Compute)にあるGPUやNPUなどにシームレスにアクセスできる。これにより例えば、AIの学習や推論などを、こうしたハイブリッド環境で行なうことを想定している。
現時点ではそうした概要だけが発表されているだけで、詳細は明らかになっていない。近日中に詳細を明らかにする計画だとMicrosoftは説明している。
Amazon Appstore previewは年末までに日本でも開始
MicrosoftはWindows 11の投入に合わせて、Windows向けのアプリストアになる「Microsoft Store」をリニューアルした。新Microsoft Storeでは、従来型(にして最も使われている)Windowsのプログラミングモデル「Win32」で作られたアプリケーションやプログラムをそのまま公開できるようにしている。
これまでWin32で作られたアプリケーションを公開できていたのは、Microsoftと特別な契約をしたISV(独立系ソフトウェアベンダー)のみとなっていたが、今回それがすべての開発者に門戸が開かれた。
同時に、従来は何らかの有料課金をするとMicrosoftと売上を折半しなければならなかったのを、自社の課金モデルを利用する場合にはその条件を撤廃するなど、プログラマやISVの利便性や実益をもたらす方向に大きく改良された。
実際、「ACDSee」、「Adobe」、「Discord」、「Zoom」、「WinZip」といった定番ツールのWin32アプリや、Microsoft自身の「Edge(Chromium版)」、「Firefox」などのWebブラウザ、さらに最近は「Teams」(企業/学校アカウント向け)がそのリストに加わるなどしており、Microsoft Storeでアプリを公開する例が増えている。
Microsoftによれば、2022年の第1四半期と前年同期比を比較すると、Microsoft Storeに公開された新しいデスクトップアプリの数は50%増加しているという。
また、「Microsoft Store Ads」というMicrosoft Storeでの広告システムが導入されることが明らかにされた。ユーザーがアプリの検索で「写真」というキーワードで検索した時に、検索リストの上位に出稿している写真アプリが表示され、ほかの写真編集アプリをユーザーが見ている時にも出稿しているアプリが関連として表示されるなどの機能となる。
こうしたストアの機能はiOSのAppStoreやAndroidのGoogle Play Storeでもおなじみのだが、それを今後はMicrosoft Storeでも導入することになる。従来の価格モデルだと有償アプリを提供するすべての開発者からなんらかの料金を徴収する「税金型」のビジネスモデルだったのが、今回のAdsの発表により、文字通り「広告型」のビジネスモデルへ転換を遂げることになり、低コストでアプリを提供したいISVにとっても、コストをかけてもユーザーへのリーチを広げたいISVにとっても朗報と言える。
このほかにも、WindowsサーチでMicrosoft Storeのアプリが表示されるようになる機能、さらには新規デバイスのアクティベーション時に前のPCでインストールしていたMicrosoft Storeのアプリを復帰させる機能、ウィジェットをWin32アプリのコンパニオンとして使う機能の実装などのほか、OneNoteのUIの改良や文字起こし機能の実装などもアナウンスされている。
さらに、現在米国でだけベータテストが行なわれている「Amazon Appstore preview」が、年末までに日本を含む5カ国で開始される計画であることも明らかにされた。これによりWSA(Windows Subsystem for Android)を利用して、Windows上でAndroidアプリ(例えばKindleのAndroid版など)が日本のWindows PC上でも利用することが可能になる。
MicrosoftのAzureとHololensを組み合わせてデジタルツインな工場用ロボットを実現した川崎重工
基調講演の最後にナデラ氏は、Microsoftが日本の川崎重工業株式会社と行なっている産業用メタバースに関する取り組みにを発表した。
川崎重工は、鉄道車両、宇宙産業、航空機、2輪、ロボットなどの各種の事業を行なっており、連結従業員数は約3万6千人にも達する大企業の1つだ。ロボット事業は、自動車産業向け、電機・電子産業向けなどさまざまな産業に向けた工場用のロボットを生産して供給している。
今回川崎重工がBuildで行なったデモでは、同社の神戸にある工場で、Azure IoTやAzure PerceptなどのMicrosoftが提供するIoT向けのソリューションとHololens 2のようなMRデバイスを組み合わせることで、ロボットの故障が発生した場合に、遠隔地にいる熟練工員などの指示を受けながらトラブルを解消していく様子などが紹介された。
川崎重工の担当者によれば、設計、開発、試験などを仮想空間で行なっていくデジタルツイン(現実と仮想空間に同じシステムを構築すること)を実現していくことで、現実で起きている問題を仮想空間側で解決してから現実に戻すなどのことが可能になり、トラブルへの対処が早くなり、従来であればロボットを止めなければならなかったような状況でも操業を継続できるなどのメリットがあると説明した。
講演の中で川崎重工業株式会社社長執行役員、最高経営責任者の橋本康彦氏は「ロボットを開発するときに子供のように親である我々開発者がちょっとした動きのおかしさにどれだけ気づくかが極めて大事。ロボットは実は止めてはいけない、ロボットはずうっと働き続けないといけない、そういう使命をもっている。デジタルツインの世界ができると、現場に行かなくてもトラブルの状態が手に取るようにわかってそこで直すことができる。そうしたものが仮想空間の中で全部調べられるようになる。Microsoftさんと産業メタバースをぜひ一緒に実現していきたい」と述べ、今後もMicrosoftと協力して産業用メタバースの推進を実現していくとした。