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Qualcomm、5G用の通信モデム「X70」で8.3Gbps通信をライブデモ

QualcommのSnapdragon X70 5G modem-RFの5Gミリ波単体での通信で8.3Gbpsの通信が行なえている様子

 Qualcommは、「5G Summit」と題したプライベートカンファレンスを、5月10日~5月11日の2日間に渡って、同社の本社がある米国カリフォルニア州サンディエゴにあるインターコンチネンタル・ホテルにおいて開催している。5月10日の午前9時からは同社の社長 兼 CEOとなるクリスチアーノ・アーモン氏による基調講演が行なわれるほか、各種のブレイクアウトセッションなどが用意されている。

 その5G Summitに先立って、Qualcommは報道発表を行ない、いくつかの新しい発表を行なった。1つは2月に開催されたMWCで発表した次世代5Gモデム「Snapdragon X70 5G modem-RF」に関する新しい詳細と、8.3Gbpsでのライブデモを行なう予定であること、新しいロボティックス向けのプラットフォームとなる「Qualcomm Robotics RB6 Platform」を発表し、そのリファレンスデザインとなる「Qualcomm RB5 AMR Reference Design」の提供を開始することなどを明らかにした。

 いずれもQualcommが強く打ち出している「コネクテッド・インテリジェント・エッジ」(ネット常時接続されているAIによるクライアントデバイス)という方針を打ち出しており、いずれの製品もそうした方向性を後押しするモノとなる。

5Gミリ波を8つ束ねて8.3Gbpsで通信するライブデモを行なう予定、4Kビデオのダウンロードがわずかに34秒

 Qualcommは2月末のMWCにおいて、同社の5Gモデム製品となる「Snapdragon X70 5G modem-RF」(以下X70)を発表した。Qualcommは、5Gの単体モデムで他社に先行しており、多くの5Gに対応したPCには同社の「Snapdragon X55 5G modem-RF」などが採用されており、PC用の5Gモデムの事実上の標準になっている。

 Qualcommの競合になるIntelは、台湾のMediaTekと協業して「MediaTek T700」( MT6880)をPC向けのモジュールに採用することを既に明らかにしており、T700は今年CESで発表されたLenovoのThinkPad X1 Carbon Gen 10の5Gモジュール「Fibocom FM350-GL」に採用されるなど、採用例も出てきているが、それでも現時点ではQualcommの5Gモデムを搭載したPCが大多数というのが現状だ。

 Qualcommが発表したSnapdragon X70 5G modem-RFはその単体モデムの最新製品で、ダウンロードは最大10Gbps、アップロードは3.5Gbpsという現時点で発表されている5Gモデムとしては最高速を誇る製品になっている。

Qualcommが5G Summitで行なう予定のミリ波単体で8.3Gbpsの通信が行なえる様子
サブ6を3CAすることで6Gbpsで通信する様子

 今回QualcommはそのSnapdragon X70Bを利用して8つのミリ波(26GHz/100MHz)の通信を束ねて(CA=Carrier Aggregation)、8.3Gbpsの通信速度で通信することに成功し、実際に5G Summitの会場でライブデモする予定だという。さらに、いわゆるサブ6(6GHz以下の帯域、通常の5G通信で使われる)のTDDチャネルを3つ束ね6Gbpsで実際に通信することにも成功し、それを5G Summitにおいてライブデモする予定だ(いずれも実際には同社のテストラボの中で行われているとQualcommは説明している)。Qualcommによれば前者では120分の4Kビデオをわずか34秒でダウンロードすることができ、後者は48秒でダウンロードすることが可能だという。

 日本ではMNOの4キャアリアすべてがミリ波の5Gを既にサービスしており、今後さらに帯域の割り当てなどが進んでいけば(日本のMNOには400MHzがそれぞれ割り当てられているので、現状は4つの帯域のCAになる)、こうしたさらに高速な通信が実現していく可能性がある。

Snapdragon X70はWi-Fi/BTも含めて通信状況をモデム自身が考えて出力を調整する機能が搭載

Qualcomm Smart Transmit 3.0

 QualcommはさらにSnapdragon X70の詳細に関しても説明した。それが「Qualcomm Smart Transmit 3.0 technology」と呼んでいる新機能で、従来から提供されていたセルラー回線の混み具合などを検知して自動で出力などを調整することで電力効率などを改善するQualcomm Smart Transmit 1.0/2.0の機能を拡張したもの。第3世代となるSmart Transmit 3.0では、BluetoothやWi-Fiの利用状況なども考慮に入れながら、2Gから5G(ミリ波を含む)までのセルラー回線の出力を調整し、消費電力を最小化することで電力効率の改善を狙う。

 どの世代でもそうだが、新しいセルラー回線の仕様が導入された当初は、モデム自体の消費電力が大きく、従来型の回線に比べると消費電力が増えてしまいデバイスのバッテリ時間が短くなってしまう課題がある。3Gから4Gに移る時にも同じ課題があったが、今まさに5Gのデバイスはそうした課題に直面している。最終的にはモデムが製造される製造プロセスルールが微細化されていくことで徐々に解決していくが、Smart Transmit 3.0はそうした課題をソフトウェア実装側の工夫で対処しようというものになる。

ロボット向けの新しい「RB6」の提供を開始、開発ボードの「RB5 AMR」も提供予定

Qualcomm Robotics RB6 Platform

 Qualcommはこの5G Summitにおいて、新しいロボット向けのプラットフォームとなる「Qualcomm Robotics RB6 Platform」を発表した。

 Qualcommは近年まず開発した新しい技術を「Snapdragon 8 Gen 1」のようなハイエンド向けのスマートフォン向けのSoCに搭載し、それをミッドレンジやローエンドのスマートフォンSoCに縦方向に展開していく。それと同時に、PC向けのSnapdragon Compute Platforms、自動車向けのSnapdragon Digital Chassis、XR(VR、AR、MRなどを総称する呼び方)向けのSnapdragon XR computing platforms、ゲーミングデバイス向けのSnapdragon Gaming Platformと各プラットフォームに横展開していくという方法で、同社の強みだってスマートフォンだけでなく、さまざまな機器に文字通り「縦横」に展開していくビジネスモデルをとっている。

 今回発表したQualcomm Robotics RB6 Platformもその1つで、ロボットを開発する上で必要になるAIの推論を実現するコンピューティング環境として提供される。今回Qualcomm Robotics RB6 Platformの詳細(どのようなSoCであるかなど)に関して説明しなかったが、同社がスマートフォン向けのSnapdragonで提供しているQualcomm AI Engineが提供されるというので、スマートフォン向けのSnapdragonと同じようなCPU、GPU、DSPなどが実装されており、それらをミドルウェアが調整してAIアプリケーションを実装していく仕組みになっていると考えることができる。

 Qualcommによれば、RB6では70-200TOPsのAI推論性能が実現されており、サポートするOSはLinuxベースで、その上で開発できるような開発環境が提供されるとのこと。

Qualcomm RB5 AMR Reference Design
Qualcomm RB5 AMR Reference Designを利用して作られた自動走行車

 また、こうしたロボット向けの開発環境としては、Raspberry Pi やNVIDIAのJetsonシリーズのように開発ボードの形で提供され、簡単に開発できるだけでなくそれを元に自社製品に組み込んで製品化まで行くのが一般的だが、QualcommはRB6を搭載した開発環境として「Qualcomm RB5 AMR Reference Design」を提供していく計画を明らかにした。

 既にModalAIで予約可能になっており、今後提供が開始されていく計画だ。また、Qualcomm Robotics RB6 PlatformはThundercomm経由で提供されることになり、既に販売が開始されている。