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パナソニック、数mmから数十cmに制限可能な近距離無線通信技術。セキュアを実現

PaWalet Linkの実効速度

 パナソニックは、セキュアな環境で数mmから数十cmに制限が可能な近距離無線通信技術「PaWalet Link」を開発した。

 IoTやDX(デジタルトランスフォーメーション)、GX(グリーフントランスフォーメーション)などに求められる通信環境において、活用できる無線技術と位置づけている。

 「高速化、セキュア化、IPネットワーク化といった時代に求められるニーズに即応できるソリューションを提供する。N対Nでの接続も可能になっており、住空間から社会インフラまで最適なネットワーク環境構築に貢献できる」(パナソニック コーポレート戦略・技術部門 事業開発室 主幹技師の古賀久雄氏)としている。

パナソニック コーポレート戦略・技術部門 事業開発室 主幹技師の古賀久雄氏

 PaWalet Linkは、磁界を使った通信方式であり、Wavelet OFDMを応用。エレメントをループ状にしたループアンテナを利用し、その大きさおよび送信電力を制御することで、通信範囲を簡単にコントロールできるのが特徴だ。

 周波数帯域は110MHzまでであり、実効通信速度は数Mbps~数100Mbpsという。最⼤432本のWavelet OFDMサブキャリアを利⽤して通信する。

 PaWalet Linkによって情報が送信されると、ループアンテナに信号(電流)が流れ、磁界が発生。磁界がループアンテナを貫いて、エレメントに信号が流れ、PaWalet Linkによる受信ができる。

PaWalet Link技術の特徴
PaWalet Link技術の仕様

 「近傍界での⾮放射型磁界通信であり、伝送距離は数10cmで、⾼セキュリティな通信が可能である。アンテナサイズとアンテナ間距離は正⽐例の関係にあり、⽤途に応じてパラメータを決定。アンテナ間距離と伝送速度が定義できれば、必要なアンテナサイズは決まる。95Mbpsの速度を保証し、アンテナ距離を75mmにしたい場合には、1辺50mmのアンテナサイズになる。アンテナサイズを小さく収めたいという場合には、距離と速度のバランスを取ればいい。システムの要件にあわせたネットワーク構成が可能になる」という。

 ⾃動接続により、⼀番近い端末同⼠が確実に接続するが、最大9モード、最大15チャネルを選択でき、使用周波数を制限できるため、複数のチャネルを形成することで干渉を回避。隣接機器との距離が極端に近く、相互に干渉させたくない環境での利用にも適している。

 また、Wavelet OFDMによる通信方式には、誤り訂正やダイバーシティ、マルチホップ、伝送路推定技術、暗号を使用したロバスト通信に必要な機能が搭載されており、CSMA/CA利用のキャリアセンスによる干渉回避機能も入っている。

 さらに、幹線に有線の通信ネットワークを構成し、末端にはPaWalet Linkを活用して、無線接続のアクセスポイントを設置すれば、有線通信および無線通信のハイブリッド通信環境を簡単に構築できる点も特徴だ。

PaWalet LinkのモードとチャネルID
OFDMによる通信
アンテナの設計

 たとえば、HD-PLCなどによるワイヤレス電力伝送と併用することで、EVや電動スクーターなどが駐車スペースに停車した際に、位置情報を確認し、PaWalet Linkによるネットワークへの自動接続が行なわれるとともに、認証および登録が行なわれ、正常に接続完了後にEVや電動スクーターへの充電を開始し、同時に高速通信によるエンターテイメント利用なども可能になる。

 「ワイヤレス電力伝送との組み合わせで、産業用ロボットやインフラロボット、サービスロボットなどへの活用も期待できる。将来的には、ワイヤレス電⼒伝送との併用が多くなると想定している」とした。

 無接点での通信接続となるため、保守メンテナンス性が向上するほか、高セキュリティな無接点でのコ ネクションを実現できること、複数のモードおよびチャネル設定による干渉回避ができるため、相互に干渉させたくない環境での利用などに最適だとしている。

 さらには、水中や海中での通信方式としての活用も可能で、アンテナ性能の向上やマルチホップ技術の導入などで海中によって長距離通信を実現。水中IoTシステムへの利用も想定している。「Beyond 5Gなどに向けた新たな展開が期待できる」としており、水中ドローンや水中重機、水中監視カメラ、水中作業者、洋上風力発電とのネットワーク接続の用途などを想定している。

 なお、パナソニックは、九州工業大学と共同で水中や海中での通信技術に関する研究を開始しており、この取り組みは、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の「Beyond 5G研究開発促進事業 令和3年度新規委託研究」の「海中・水中IoTにおける無線通信技術の研究開発」として、10月4日に採択されたという。

 近距離無線通信は、NFCのように密着して使⽤されるものや、Bluetoothのように10m前後をカバーするもの、無線LANのように数100mをカバーするものなどがある。だが、無線LANは、通信速度は超⾼速であるが、広範囲に信号が伝搬し、セキュリティ⾯でも不安があり、Bluetoothでは、電波伝搬範囲はある程度制限されるものの、それでも10m前後は伝搬してしまうこと、NFCでは、電波伝搬の範囲は⼤幅に限定されるが、通信速度は遅いという課題をそれぞれ持つ。

従来技術との差異
PaWalet Linkの利用例
ワイヤレス電力伝送との組み合わせも可能
利用イメージ

 「これまでの無線技術の多くは、長距離通信が主流であったが、昨今ではNFCに代表されるように近距離での利用が増加し、アプリケーションが増えている。活用シーンにおいては、使⽤範囲を厳密に制限しながら、通信速度も向上させたいというニーズがあり、今回のPaWalet Linkは、そうした環境での利用に適している。すでに、技術的には確立できている。アプリケーションとのマッチングによって、用途の広がりを期待しており、パートナーとの実証を進めていきたい」とした。今後は、国際標準規格にも対応していくことになるという。

活用イメージ