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PFN、開発中の独自モバイルマニピュレータ「SK01」をロボット学会で公開
2021年9月22日 13:39
ディープラーニングを中核技術とするスタートアップ、Preferred Networks(PFN)は、2021年9月に開催された「日本ロボット学会」のなかで、現在開発中の研究開発用モバイルマニピュレータ「SK01」を発表した。「モバイルマニピュレータ」とは自律移動台車の上にアーム型ロボットをつけた形状のロボットで、腕と移動能力を使うことで多様な作業が可能になることから、産業分野・サービス分野ともに活用が期待されている。
PFNは2018年の「CEATEC」で、「お片づけロボット」のデモを4日間連続で行なった。様々な技術を統合したデモだったが、そのときにハードウェアとして使われていたトヨタの研究開発用プラットフォームロボット「HSR」も、モバイルマニピュレータの一種だ。HSRはトヨタが研究開発用として大学そのほかで共創活動を行なっていることもあり、サービスロボットの研究開発の中で広く使われている。
ただ、PFNでは一連の研究開発を行なうなかで、2017年ごろには既に、もう少し可搬重量(ロボットが持ち上げられる重量)を上げたい、腕の到達範囲を広くしたい、ドアを開けたい、さらに力制御をしたいといったニーズがあり、そのために独自の研究開発用プラットフォームを新たに作ろうとなったという。
目標は、人と共存できる環境で人を代替するタスクが十分に行なえるロボットの開発である。そのためには床の上のものを拾えるだけではなく、棚上のものまで拾うことができ、かつ、人が日常的に運搬作業するレベルの可搬重量を持つ必要がある。エンドエフェクタ(ロボットハンド)もユーザーが自由に変えられるようにした。こうして開発されたのがモバイルマニピュレータ「SK01」だ。2020年6月に、経済産業省の令和2年度「グローバル・スタートアップ・エコシステム強化事業費補助金(ものづくりスタートアップ・エコシステム構築事業)」に採択され「移動型マニピュレーターロボットの量産設計開始」というリリースが出されていたロボットである。
モバイルマニピュレータ「SK01」
「SK01」の外見上の最大の特徴は、伸縮型の昇降ユニットの上の作業用のアームの上に、もう1つカメラ付きサブアームがついていることだ。このサブアームによって、より高いところから、作業を行なうアーム先端のエンドエフェクタ(ロボットハンド)を常時カメラの視野に入れることができる。同時にコンパクトさも両立した。
ロボットは高さ0.9mから1.65m。幅は60cm。重量は80kg。自由度は全部で12。内訳は台車車輪が2、アームの上につけられたサブアームが3、残りがアーム、昇降、台車旋回軸。車輪には荷重センサーが入っていて重心の偏りを検知し、転倒を抑制する。
アームのリーチは0mから1.5m。半径740mm。TCP(ツール・センター・ポイント)速度は1m/s。可搬質量は3kg(エンドエフェクタ含む)。これは人が日常的に仕事として持ち運んでいい質量から設定された。エンドエフェクタは交換可能。ガチャっとはめることで異なる用途向けのエンドエフェクタに切り替えることができる。
移動速度は最大で2km/h。踏破性能は段差5mm、斜面5度。稼働時間は約8時間。バッテリーはリチウムイオン電池(24V)。
手首には6軸力センサーが内蔵されている。機械システムとしては重くなりすぎることを避けるため剛性を求めず、ソフトウェアで補償することを目指した。また、「SK01」はユニット構造となっており3分割できる。現場でパパッと組み立ててロボットの実験ができるものにしているという。人と共存するロボットなので、関節部の挟み込み防止などは配慮されている。
電気システムには一般的なバスを使っており、駆動系とマルチメディア系を分離して分散配置している。メンテナンス性やコストを考慮し基板種類も極力減らし、少ない基板品種で多数のセンサ接続を実現した。制御系には高速かつ大容量データの送受信が可能なCAN-FD(CAN with Flexible Data Rate)を採用している。マルチメディア系は USB 3.1を利用。
ソフトウェアは安全性とリアルタイム性を考えて、下位システムと上位システムを分けた。両者のあいだはCAN-FDで繋がれている。下位システムは実時間性や機能安全に関わる機能を担当し、モータドライバ、センサ、I/O、電源の制御を行なう。上位システムはアプリケーションに関わる機能を担当する。開発基盤にはROSを採用しており、全身動作計画、SLAM、ナビゲーション、マーカーの認識などを担う。
基本的にハードウェア検証用である「SK01」内部には、ビジュアルサーボと制御に必要な計算機しか搭載していない。バッテリーと熱の問題があるためだ。障害物回避などには、以前本誌でもレポートした建設現場用掃除ロボットに使われているような障害物認識・回避機能が使われているとのこと。
安全性についても考慮されており、ISO 13482に準拠。第三者機関による設計レビューも行なっている。協働ロボット(人と空間を共有できるロボット)の安全規格ISO TS 15066を利用して参考値とし、リスク評価を行なった。転倒時のリスクや故障モードなども検討されている。現在策定中のモバイルマニピュレータの安全規格JIS B 8446-4に対して意見を出して反映されているという。
想定用途は?
対象としたアプリケーション(用途)は清拭消毒。つまり拭いて消毒する作業である。現在、新型コロナ禍もあって、感染予防のために現在は人が行なっているこの消毒作業をロボット化するのが良い方向なのではないかと仮説を立てたという。
ロボットは机上や壁に貼られた二次元マーカーをカメラで認識すると、周囲を拭く動作を実行する。実際にはマーカーの周囲を拭くモーションを実行する。この動作を実行するにはアームの到達範囲が広くないとならない。ハードウェアから1体で作っていくとこのような作業が実演できることを示したデモだという。
モバイルマニピュレータの量産・事業化は中止、他事業の可能性を探索中
ただ現時点ではあくまでデモにとどまっている。2020年6月のリリースでは「無人搬送や無人消毒」の用途を探索しているとあったが、今回取材で伺ったところ、ロボットプロジェクト全体の中で事業性を検討/用途探索を行なった結果、現状の機能ではまだ困難だと判断し、このモバイルマニピュレータの開発自体は一時停止しているそうだ。しかしながら「SK01」開発にあたって培われたソフトウェア/ハードウェアの要素技術、すなわちアーム制御や移動関連技術、ロボットハンド等の諸技術は、現在開発中の他のロボットにも転用されて別の用途・機能のロボットとして開発が進んでいるという。
今回、取材を受けてくれた株式会社Preferred Networks 執行役員 ロボットソリューションズ担当VPの海野裕也氏によれば、2016年~2017年ごろは、PFN社内でも深層学習とロボットについて楽観視していたという。当時は世の中でも、Googleなどにより多くの取り組みが行なわれ、各種成果が発表されていた。そして、PFNも2018年に「すべての人にロボットを」というコンセプトを発表した。
しかしながら、ロボットに強化学習を適用して成果を出していたOpenAIが、2021年夏には、文章を生成する言語モデルのGPT-3 (Generative Pre-Training3)と比較しながら、そのようなモデルの欠如、そして「データ収集の難しさ」等を理由にロボットグループを解散したことに象徴されるように、ロボットに対する機械学習技術の適用は、今では以前ほど楽観視されていないのが一般的状況だ。
PFNでも、汎用ロボットの製品化については現時点では「技術のピースが足りていない」(海野氏)と判断。まだまだ製品化まではギャップがあると考え、よりトラディショナルで具体的なアプリケーション寄り、特定業界のクライアントニーズ寄りの発想で、ロボット技術の実用化に取り組んでいるという。たとえば物流や清掃などだ。
だが決して汎用ロボット開発も諦めたわけではなく、昨今注目されている物理シミュレータを活用するアプローチも用いながら、現時点では非公開の様々な取り組みを継続して行なっているとのことだった。モバイルマニピュレータの開発自体は一時棚上げとのことだが、今後に期待している。