ニュース

産総研とNIMS、熱電効果の一種「磁気トムソン効果」の直接観測に世界初成功

トムソン効果および磁気トムソン効果の概念図

 国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)は9月3日に共同で、「磁気トムソン効果」の直接観測に成功したと発表した。世界初の成功例だとしている。

 トムソン効果は、熱エネルギーと電気エネルギーの相互変換を可能にするもので、温度差のついた導電体に電流を流したさいに吸熱・発熱が生じる熱電効果の一種とされる。同様のものとしてゼーベック効果やペルチェ効果などが挙げられ、熱電効果に磁場や磁性体を組みあわせるさらなる効果が発現するため、スピンカロリトロニクスの分野としても研究が進められている。しかし、トムソン効果においては磁場や磁性による影響が明らかにされていなかった。

熱・電気・磁気の相互作用がもたらす熱電効果の代表例
ロックインサーモグラフィー法による磁気トムソン効果の熱イメージング計測。(a)ロックインサーモグラフィー測定の概念図、(b、c)BiSb合金試料におけるトムソン効果の測定結果、(d)矩形波交流電流を試料に流したさいに生じるトムソン信号の時間変化、(e)BiSb合金試料におけるトムソン信号の磁場依存性

 研究グループでは、ビスマス・アンチモン(BiSb)合金を使用として磁気トムソン効果の観測実験を行なった。棒状に加工したBiSb合金の中心部のヒーターを取りつけ、温度勾配が正の領域Aと負の領域Bを作り出した。電流を流すと、それぞれ逆符号の温度変化が生じることでトムソン効果が確認でき、外部磁場によって温度変化にさらなる動きが見られれば磁気トムソン効果が実証できる。

 実験では赤外線カメラで表面温度を測定し、フーリエ解析によって電流と同じ周波数で時間変化する温度変化だけを抽出できるロックインサーモグラフィー法を利用。熱電効果による信号のみを可視化した。その結果、領域AとBで符号反転した吸熱・発熱信号が観測され、トムソン効果が確認できた。

 次に、磁場を加えながら同様の測定を実施したところ、トムソン効果に由来する吸熱・発熱信号が大きく増大することがわかり、磁気トムソン効果が観測できた。0.9Tの磁場では90%以上の増強がみられ、BiSb合金のおいては、磁場に依存しない成分に匹敵するほどに同効果の寄与が大きいことも明らかとなった。

 今回の結果により、熱電分野やスピンカロリトロニクス分野の発展が期待できるとともに、ゼーベック効果やペルチェ効果と近しい大きな出力が磁気トムソン効果でも確認されたことで、新たな熱エネルギー制御技術の進歩につながるとしている。研究グループでは、今回確立した計測・評価技術を利用して、新たなスピンカロリトロニクス現象の発見や熱電変換機能の実証などを進めていくという。