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NIMSと東北大、電流を曲げて熱制御する「異方性磁気ペルチェ効果」を世界初観測

異方性磁気ペルチェ効果の観測

 物質・材料研究機構(NIMS)と東北大学は5月22日、電流を曲げるだけで熱制御可能とする「異方性磁気ペルチェ効果」を世界で初めて観測したと発表した。

 ペルチェ効果は、金属や半導体に電流を流すと、それに沿って熱流が生じる現象で、電流から熱流への変換効率(ペルチェ係数)が異なる2種類の物質を接合すると、流す電流の方向に依存して接合界面に発熱・吸熱が起こるというもの。電流方向を変えるだけで加熱/冷却をスイッチでき、可動部がないため静音で信頼性が高く、小型化が可能などといった利点を有し、熱制御技術として幅広い用途への応用が期待されている。

従来のペルチェ効果と異方性磁気ペルチェ効果の概念図

 磁性体におけるペルチェ係数が磁化の角度に依存して変化する「異方性磁気ペルチェ効果」が生じる磁性体では、磁化が電流に対して平行な場合と直交している場合とでペルチェ係数が異なる。そこでこの性質を利用し、磁性体中に非一様な磁化分布を作ることにより、あたかもペルチェ係数が異なる物質を接合したかのように発熱・吸熱を発生させることができる。磁気的な仮想接合によって、物質界面のない単一の材料で、ペルチェ効果による温度変化を起こせることがわかった。

 実験では、ニッケル(Ni)を用いて“コの字型”に加工し、一様に磁化させることで等価な状況を制御性良く作り出した。コの字形状の角部分は電流と磁化が平行な領域と直交している領域の境界になっているため、異方性磁気ペルチェ効果が発現すれば、角付近に電流方向に依存した発熱・吸熱が生じる。

 熱計測技術のロックインサーモグラフィ法を利用し、コの字型ニッケル試料の角付近のみに発生する温度変化を観測。この温度変化信号は電流に比例して増大する熱電効果に由来するもので、ニッケルのみで発生している。ニッケルが磁化していないときには温度変化が生じず、従来のペルチェ効果とはまったく異なる振る舞いを示すことができた。

ロックインサーモグラフィ法による異方性磁気ペルチェ効果の熱画像計測
局所磁場印加によって誘起された異方性磁気ペルチェ効果

 異方性磁気ペルチェ効果によって、(1)異なる物質の接合のない単一の磁性体による電子冷却、(2)磁性体の形状や磁化分布を変えることによる熱電変換特性の再構成、(3)局所的に磁化させることによる任意箇所の温度変調が得られ、熱電分野やスピントロニクスの基礎科学や応用技術のさらなる進展、汎用性が高くコンパクトな熱制御デバイスの創出などにつながる可能性があるとしている。