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新型コロナで激変するオンライン診療を取り巻く環境

~AWSと医療スタートアップのMICINが解説

 アマゾンウェブサービスジャパン株式会社(AWS ジャパン)は21日に、オンライン診療をはじめとするヘルステック領域における取り組みを紹介する記者説明会をオンラインで開催した。

 AWSを活用してオンライン診療サービスを提供しているMICINの原氏も登壇した。オンライン診療を取り巻く環境は新型コロナウイルス感染症で激変しつつあるが、AWSを活用することで対応できているという。

ヘルステック領域におけるAWS活用の広がり

AWSジャパン インダストリー事業開発部 シニア事業開発マネージャー(ヘルスケア・ライフサイエンス) 佐近康隆氏

 まず、AWSジャパン インダストリー事業開発部 シニア事業開発マネージャーの佐近康隆氏が、ヘルステック領域におけるAWS活用の広がりについて紹介した。

 AWSクラウドは、もともとAmazon.com社内のビジネス課題を解決するために生まれた。サービス提供は2006年から。長期視点でインフラ投資を続けている。世界各地のロケーションでホスティングされていて、今では世界24のリージョンを開設、76のアベイラビリティゾーンを持っている。これまでに累計80回以上の値下げをしており、200以上の国と地域で毎月数百万ユーザーが利用している。日本でも数十万のユーザーがいる。

 今回のセミナーのテーマである医療分野においても、研究機関/医療機関、医療機器メーカー/製薬企業、保険者、ヘルスケアデータ基盤など、多くのステークホルダーのインフラとして使われている。たとえば、製薬企業などで用いられている。製薬業界ではAWSが使われているのが当たり前になっているという。DtoDと言われる医師同士のQ&Aサービスなどにも用いられている。

AWSクラウドの現在
ヘルステック領域におけるAWS

 AWSクラウドを活用している具体例として、佐近氏は、アルムでの医療従事者向けコミュニケーションアプリ「Join」と京都プロメドの遠隔画像診断読影センターをあげた。京都プロメドのクラウド読影システムは以前は独自のシステムをつかっていたが、遠隔画像診断業務を通じて開発したツールを今年(2020年)の4月末からAWS上に構築しており、アルム社の「Join」と連携している。新型コロナウイルス感染症対策支援にも使われているという。将来的にはAWS環境上に構築された他システムとの連携や画像共有のプラットフォーム化も計画している。

国内のヘルスケア関連AWSユーザー
京都プロメド「クラウド読影サービス」
アルム「join」と京都プロメドの連携

MICINによるオンライン診療サービス「curon」とその現状

株式会社MICIN 代表取締役 CEO 原 聖吾氏

 続けて、医療機関向けオンライン診療サービス「curon(クロン)」を提供している株式会社MICIN(マイシン)の事業について、株式会社MICINの代表取締役のCEO 原 聖吾氏が解説した。

 MICINは2015年11月に設立された。「すべての人が、納得して生きて、最期を迎えられる世界を。」をビジョンとして掲げている。原氏自身は医師を経て医療政策、ビジネスとキャリアを経てきた。事業領域は大きく2つ。医療や健康に関するデータを収集/分析して、生活習慣と将来かかる病気との関係、熟練の医師の技術や見識など、暗黙知や因果関係をマシンラーニングを使って明らかにし、より効果的/効率的な治療法などを提案するAIを活用したデータソリューション事業と、オンライン診療サービス「curon」を事業としている。

オンライン診療とAI活用を事業としているMICIN

 オンライン診療サービス「curon」は、予約から問診/受診、処方箋の受け取りまでをスマートフォンを使ってオンラインで完結させるサービスだ。医者と患者にそれぞれアプリを提供している。流れとしてはこうだ。医療機関が設定した枠に患者が予約を入れ、チャットで事前に問診する。診察はビデオ通話を使って行ない、請求は登録済みのクレジットカードで決済し、処方箋や医薬品は患者宅に配送される。2020年5月現在ですでに3,500以上の医療機関へ提供されているという。

オンライン診療の流れ

 curonはサービス開始時からAWSを活用している。AWSのメリットとしては、豊富なマネージドサービスを活用することができるのでかぎられたエンジニアリングリソースしかないスタートアップでも必要な機能を容易に実現できること、それらマネージドサービスを使って迅速に新機能開発や新サービスが立ち上げられること、そして今回の新型コロナウイルス関連でユーザー数が急増したときにもアーキテクチャを変更することなくスケール化が可能であることを挙げた。

MICINによるAWS活用のメリット
MICIN「curon」のアーキテクチャ

 オンライン診療を取り巻く環境/制度は、今回の新型コロナウイルス感染症によって、短期間で大きく変化したという。2015年8月に遠隔診療に関する事務連絡が出て、幅広い地域や疾患でオンライン診療が可能になった。そして「curon」がサービス開始したのは2016年4月。その後、2018年4月に診療報酬改定が行なわれ、「オンライン診療料」が新設され保険点数がつくようになった。しかし対象疾患はかぎられていたし、初診オンライン診療ができないといった制限があったため大きくは広がらなかった。

 それが大きく動いたのが2020年2月から3月。新型コロナウイルス感染症の懸念から医療機関受診をひかえる患者が増えたこと、そのリスクなどからオンライン診療活用の動きが高まった。4月10日には「新型コロナウイルス感染症患者の増加にさいしての電話や情報通信機器を用いた診療や処方箋の取扱いについて」が厚生労働省から発出され、診療報酬の臨時的な取り扱いがはじまって、対象疾患の拡大、初診オンライン診療の容認、対面診療に比べると少なかった診療報酬上の追加的な評価などが行なわれるようになった。

オンライン診療を取り巻く環境は新型コロナで激変

 このような制度と環境の変化を受けて「curon」のニーズも高まった。「curon」の新規の患者登録者数は10倍に、医療機関の問い合わせも10倍になったという。もともと活用されていた慢性疾患のみならず、あまり対象になっていなかった疾患領域(皮膚科や小児科、耳鼻科)からの問い合わせも急増した。

新規患者と問い合わせが10倍に

 こういった一連の環境変化を受けて、MICINでも初診オンライン診療を実施する医療機関向けにユーザーガイドを策定して公開している。オンライン診療が広がる契機となっている一方で、ともすると不適切な使用やリスクが生じてしまうことがあるためだ。そこで4年以上の実績がある事業者として、サポートのためのガイドを作成したという。

 原氏は、多くの患者が安全/安心にオンライン診療を受けていただけるようにしていきたいと語った。またこの状況のなかでオンライン診療が適するもの適さないものがどういったものなのかといったエビデンスの蓄積も進めていく。具体的には初診のオンライン診療をどうやったら進めていけばいいかといったガイドを作成して医療機関向けに提供している。

初診オンライン診療を実施する医療機関向けにユーザーガイドを策定/公開

 また4月に、新型コロナウイルスのため中断してしまっている医薬品開発にオンライン診療を活用するサービスも提供がはじまった。オンライン診療は医薬品の開発にも使えると考えているという。これまでは臨床試験も患者が病院に行なって治験参加するのが基本だったが、在宅で治験に参加できるようにするものだ。

治験にもオンライン診療を活用

 薬局専用のオンラインサービス「curonお薬サポート」は、5月21日にリリースされた。オンライン診療開始により、電話での服薬指導も認められるようになった。だがいくつか問題が生じているという。「curonお薬サポート」を使うことで、電話服薬指導を行なったときの代金未回収リスクや、配送手配/ラベル記入の手間を削減できるという。具体的には処方箋が送られてきたあとに決済や配送をMICINがサポートする。全国大手の薬局チェーンなどと話をしている段階だという。

薬局専用オンラインサービス「curonお薬サポート」もリリース

 今後、ビデオ通話でのオンライン診療/服薬指導/医薬品の配送までを一気通貫で行なえるシステムを提供していきたいという。オンライン診療は「見えないマスク」であると考えており、医療従事者/患者双方の感染リスクを下げて診療を行なえる付加価値を提供して、普及を進めていきたいと語った。「将来的には患者が自宅にいながら診断/治療を受けられる未来を近づけていきたい。次のパンデミックへの強靭なインフラとしてオンライン診療の仕組みを作っていきたい」と語った。

診療から服薬指導まで一気通貫のシステム構築を目指す

ヘルステック領域におけるAWS活用のメリット

 AWSジャパン佐近氏は、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)に対する取組みとして、「AWSスタートアップ・ヘルスケア・レスポンス」という医療機関向けソリューションカタログの提供、診断ソリューション開発に2,000万ドルを初期投資する「AWS診断開発イニシアチブ」というファンドの2つを挙げた。

 国内では隔離されている患者と家族間のビデオ通話用として5億円のデバイスを寄贈するプロジェクトを行なっているという。日本では京都大学医学部附属病院、国立がん研究センター東病院、東京都済生会中央病院などの医療機関にFire 7タブレットを寄贈している。

医療機関向けソリューションカタログ「AWSスタートアップ・ヘルスケア・レスポンス」
オンラインコミュニケーションツールとしてFire7タブレットを寄贈

 ヘルステック領域におけるAWS活用には以下のようなメリットがあるという。システムの調達が低コストで済むこと、新しい取り組みの加速、運用負荷の軽減、最先端で幅広いAI/MLサービス、高いセキュリティの確保の5つだ。

AWS活用の5つのメリット

 今まではインフラを購入する必要があった。初期投資が必要だった。AWSの場合は必要なときに必要なだけ、低価格でITリソースを利用できる。そのため固定費が発生しない。またAWS自体に規模の経済が働いており、顧客との良好な関係を重視しており、累計80回以上の継続的な値下げをしていると再度強調した。

低コストで導入可能

 新しい取組みの加速とは、初期投資が不必要なAWSなら数分で必要なITリソースが調達できることを指す。データセンター構築の手間もかからない。また、スケールアップも容易だ。利用に応じた課金形態なので、アイデア実現も加速できる。

新しい取組み開始も用意

 クラウドを活用することで、運用負荷/管理コストも軽減できる。従来のオンプレミスITインフラでは付帯的な業務の負荷が高かった。AWSを活用することで管理が不要になるので、サーバーの存在自体を意識せず、ロジック開発に注力できる。ヘルスケア領域では需要予測が難しく、AWSのサーバレス技術が有効だという。

 MICINのほか、たとえばオムロンのウェアラブル血圧計「HeartGuide」でもAWSのサーバレスアーキテクチャーが活用されている。世界各国でサービスを展開するためにスケーラビリティを重視している。また、いま注目されている国際的な医療情報交換の次世代標準である「HL7 FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)」に対しても、AWSではサーバーレスアーキテクチャーでの活用方法を公開している。

運用負荷の軽減
ユーザーがサーバーの存在を意識しない「サーバーレス」運用
オムロンヘルスケアもAWSを活用
FHIRインターフェイスを AWSで構築する方法を公開

 また、AI、マシンラーニングサービスも簡単に利用できる。すでに数万件の顧客が利用しているがまだまだ初期段階だと考えており、今後さらに新機能を提供予定だ。画像診断機能がどんどん高まっており、GE Healthcareのクラウド型医用画像外部保管サービス「医知の蔵」、地域の医療連携サービス「Centricity 360」、さまざまな医療機器からデータを収集/学習して推論モデルを作ってデプロイできる次世代インテリジェンスプラットフォーム「Edison」などにもAWSが活用されている。

AI、マシンラーニングサービスも活用可能
GE Healthcareの活用事例
GE Healthcareの次世代インテリジェンスプラットフォーム「Edison」

 また、高セキュリティ、コンプライアンスは最優先事項としていると紹介した。要求が高い顧客にこたえてきたサービスをすべての顧客に提供している。日本の厚労省、経産省、総務省の3省によるガイドラインに対応するために、AWSパートナー各社で整理検討して作成した医療情報システム向けのAWS利用リファレンスも公開されており、最新ガイドラインへの対応を概説するセッションも7月に開催予定だ。

高セキュリティをアピール
医療情報システム向けのAWS利用リファレンスも公開