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パナソニック、エッジで人の動作も認識できる業務用カメラを提供開始

Vieureka

 パナソニック株式会社は4月2日、映像をAI処理してIoTエッジコンピューティングを実現する「Vieureka(ビューレカ)プラットフォーム」対応カメラの新機種「VRK-C301」の提供を開始すると発表した。従来機種よりも高性能なCPUを搭載し、ディープラーニングを使った高度な画像解析を活用したサービス展開が可能になる。

 「Vieurekaプラットフォーム」は、クラウドからIPカメラ内に画像解析機能を入れ替えたり、店舗でのマーケティングや工場での従業員の行動管理など、さまざまなシステム構築に利用されている業務用カメラのプラットフォーム。画像認識機能のほか、制御や動作状況の監視ができる。パナソニックはカメラの販売ではなくデータ分析のプラットフォームベースでのサービスビジネスを行なっており、カメラ自体はレンタル。

 近年、より高精度の人物属性の推定や動作検出など、複雑な画像解析技術の利用ニーズが高まっていることから、新機種は従来比3倍のCPUを搭載。店舗の商品棚前での顧客行動分析や製造ラインでの不良品検出など、従来よりさらに多様なアプリケーション対応を実現した。たとえば現行モデルでも人数カウントや滞留時間、属性推定などは可能だったが、今回のモデルでは「棚の前で顧客が手を伸ばした」など、動作の検知まで可能になった。

 開発においてもC、C++に加えてPythonに対応。アプリケーション開発が容易になった。またAWS(Amazon Web Services)のIoTサービス用デバイスソフトウェアの「AWS IoT Greengrass」、「Amazon SageMaker Neo」の搭載により、アプリケーション開発環境がより充実した。同社では、Vieurekaプラットフォーム活用した新サービス創出の取組みを加速させ、パートナープログラムにご参加いただいている企業とさまざまなアプリケーション開発を行ない、順次展開していく予定だとしている。

性能が向上し適用シーンが拡大
開発環境も充実した

エッジデバイスとクラウドで「世界の今をデータ化する」IoTカメラ

 概要は、パナソニック株式会社 テクノロジー本部 事業開発室 エッジコンピューティングPFプロジェクト 総括担当 宮崎秋弘氏が解説した。Vieurekaについて「世界の今をデータ化する」ことを目指しているカメラだと紹介。工場や交差点、飲食店内部など、いままで定量化されていなかったために課題がよくわからなかったところをカメラでデータ化、定量化することを目指しているという。

 人は位置や動き、かたち、大きさなど視覚で87%の情報を得ると言われている。パナソニックでは認識部分は近い将来、AIに置き換わっていくと考えてカメラに注目し、新たな社会インフラとすることを目指している。なお、いま世界では6,600万台強の監視カメラ需要があり、そのうち2、3割がAIカメラになると考えているようだ。

 宮崎氏は「カメラが数十億台つながった世界を想像してほしい」と語った。Vieurekaでは、意味のあるデータ収集を行なう画像解析、コスト/性能を両立する分散処理、秩序を保証する個別管理の3点を重視しているという。ある程度エッジ側で処理を行ない、それをクラウドで処理する。また、どんなカメラがどんなユーザーに使われていてどんな認識に使われているかといった課題を解決するプラットフォームがVieurekaだと述べた。

カメラが数十億台つながった世界
多様な活用シーン

 Vieurekaプラットフォームは映像をAI処理するエッジデバイスとクラウドから構成される。ユーザーはアプリケーションをクラウドからデプロイすることで、人数解析、工場入退出管理などさまざまな用途に活用できる。プラットフォーム部分ではカメラ、個別管理を行なう「Vieurekaマネージャー」、APP開発SDKを提供。小売店舗や建設現場、介護施設などのユーザーは、その上でサービスを開発することができる。

 カメラとSDKが提供されるので、ユーザーはAPP開発をゼロから行なう必要はない。ゼロから開発すると2、3名で1年間かかっていたサービス開発が、通常の技術者なら2時間で開発できる点がパートナーから評価されているという。

プラットフォームとユーザーサービス
プラットフォームを使うことで数時間でアプリケーションを開発できる

 遠隔アップデートができるのも特徴。2017年6月に開始以来、カメラのアップデートなどを53回行なった。月に1.6回のアップデートを行なっているという。具体的には、たとえば、店舗のリアルタイム映像を使って来客分析、さらに欠品検知ができるようになった。

遠隔からの保守・アップデートを行なっている
ユーザーが必要とする機能を現場で追加可能

 来客分析はサッポロドラッグストアなど各社で用いられている。人数カウント、性別推定、年齢推定、滞留時間などを定量化して商品開発に活用している。またビーコアは入退出管理に活用し、カラービットを読み取る勤怠管理システムを構築している。

サッポロドラッグストアでの活用例
ビーコア、五洋建設での活用例

 パートナープログラムはパナソニックが提供するマネージャーとカメラをインフラとして、さまざまなサービスを構築するもの。昨年(2019年)4月から開始し、1年間で3回のセミナーを行なって、コミュニティもじょじょに拡大してきているという。現在のパートナー数は36社。今回の新型投入もユーザーからの声を反映させたものだという。パートナーはカメラのバリエーションを作るためのハードウェア系、認識技術を提供するAIエンジン会社などのほか、サービス化するインテグレーション企業が加わっているとのこと。

パートナー企業と連携
現在のパートナー企業は36社

ディープラーニングが可能になり適用シーンが拡大

おもな仕様強化ポイント

 新機種「VRK-C301」の内容はパナソニック株式会社 テクノロジー本部 事業開発室 エッジコンピューティングPFプロジェクト 主任技師 水上貴史氏が解説した。ディープラーニングが可能になり適用シーンが拡大、開発環境が充実、設置性が向上した。カメラは87mm四方の正方形、厚みは約36mm。質量は260g。基本的なカメラの性能・インターフェイスのほかUSBで拡張性をもたせている。カメラの解像度自体は変更はないが、CPUのスペックを3倍に上げた。

「VRK-C301」の特徴は性能、開発環境、設置性の向上
「VRK-C301」のインターフェイス

 ハードウェアのスペックアップで複雑な処理が可能になり、C、C++に加えて、PythonやAWS開発環境に対応した。本体だけを分離しやすくなり、天井からの吊り下げもより容易になった。卓上や壁面設置も簡単になり、施工が不要になり、実証実験なども簡単になったという。

 また画像ローテーション機能を搭載。通路を解析対象とする場合、左右に不要な領域が写ってしまうことがある。これに対してカメラを90度回転させて設置することで、解析対象エリアが適切に設定できるようになった。さらに望遠レンズを搭載したモデルをラインナップ。離れた場所にカメラを設置することで圧迫感を減らした。一部パートナー企業にはすでに先行リリースを行なっている。

設置性も向上
通路だけの解析も容易に

より高密度に、さまざまな目的に使われるようになるカメラ

「世界の今」のデータ化

 宮崎秋弘氏は、「小売では2つの大きな動きがある」と見ていると語った。1つ目は、「従来の監視カメラでは足りなくなっているので密度が増えてきている。イメージとしては従来よりも1.5倍から2倍の密度に上がってきている」という。

 もう1つは、「カメラをマルチな目的で使いたいという要望が多くなっている。働き手が減り、自動化を進めるために、欠品検知を行なったり、顧客の動きを把握してマーケティングして効率化したい、単位面積あたりの売り上げを上げたいといった要望が増えてきている」とする。

 今回のカメラは、カメラ自体にPCを内蔵しているので、バックヤードにPCが不要になり、トータルコストが従来よりも一桁、二桁安価になる点と、遠隔で管理が可能である点が評価されていると述べた。販売目標は「2、3年で10億円規模」とされている。

 なお繰り返しになるが、従来の「モノ売り」ではなく、プラットフォームベースでのサービスビジネス「コト売り」を行なっているため、カメラ自体はレンタルとなっている。

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