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都産技研ら、AI監視カメラ搭載警備ロボットを駅構内で実証実験

 地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター(都産技研)アースアイズ株式会社日本ユニシス株式会社西武鉄道株式会社の4社は「Perseusbot(ペルセウスボット)」の実証実験を、西武鉄道西武新宿駅構内において2018年11月26日から開始すると発表し、記者会見を行なった。

 巡回警備を構内コンコース(改札外)で行ない、ロボットの踏破力の確認や、カメラとセンサーによる不審者/不審物検知の精度、そして駅係員や警備員の負荷軽減度合いなどを検証する。実施期間は11月26日から30日まで、時間は10時から16時までを予定している。

Perseusbot(ペルセウスボット)
固定カメラと連携して不審物の検知などが可能
アースアイズのAI監視カメラ。右側がToFを使ったAI監視カメラ。左側は人間用
右がセンサー、左が赤外線発光側。画角は70度くらい、見える距離は10m程度で、今回の環境では6~7m程度と考えられるという

警備ロボット「Perseusbot(ペルセウスボット)」

Perseusbot(ペルセウスボット)。駅構内の路面なら踏破できる

 「Perseusbot(ペルセウスボット)」は、アースアイズ、日本ユニシス、西武鉄道の3社共同で開発された自律移動型のAI監視カメラ搭載警備ロボット。都産技研の平成29年度ロボット産業活性化事業「公募型共同研究開発事業」に採択されて開発された。

 都産技研が開発中の自律移動型の案内ロボット「Libra(リブラ)」と、屋外でも移動可能な大型ロボットベース「Taurus(トーラス)」を組み合わせた。

 本体サイズは610×905×1,675mm(幅×奥行き×高さ)。重量は172kg。混雑している駅のなかで動きながら監視を行なうために背を高くして、高い位置にメインのカメラとセンサーをつけた。同時に威圧感をなくすことを意識しつつ、転倒防止のために重心位置を考慮して、デザインしたという。5度程度の勾配、点字ブロックなどの段差ならば問題なく走行できる。名前はギリシャ神話の英雄ペルセウスに由来する。

巡回するロボット。点字ブロック程度の段差なら問題なく踏破可能
Perseusbotのベースになった都産技研の自律移動型案内ロボット「Libra(リブラ)」
同じく屋外用大型ロボットベース「Taurus(トーラス)」

 バッテリは東芝製の産業用リチウムイオン電池で稼働時間は5~6時間程度。充電時間は1時間程度。充電は、今回のロボットでは手動で行なう。超音波センサーやLiDAR(レーザーセンサー)、今回、前後に1台ずつ搭載したアースアイズ製のAIカメラなどを組み合わせて、障害物や段差検知を行ないながら自律移動する。ミドルウェアにはロボット開発で広く用いられている「ROS」を活用している。

正面
正面上部にメインのLiDARとAIカメラ、インジケータ
背面にもAIカメラと緊急停止スイッチ
側面
本体中央のLiDARは階段などの段差検知用
底面には超音波センサーやLiDAR、バンパーセンサーなど

固定カメラとロボットがたがいの死角を補って連携、自律で不審者を発見

 都産技研の評価施設内で行なわれた記者会見では、ロボットが巡回する様子や、固定カメラとロボットが連携して不審行動や気分が悪くなって倒れたと思しき人の動きを検出して駆けつけるといった様子がデモされた。

倒れた人を固定カメラが発見、駆けつけるロボット

 システムの特徴は、ロボットのカメラだけではなく固定の定点カメラとの組み合わせで警備を行なうこと。ロボット自体は決められたルートを自律で移動して巡回警備を行なう。定点カメラでは見えない柱の死角などの監視をロボットが補完する。

 今回の実証実験では、ロボットに加えて、3台の固定カメラを導入し、システムとして運用する。実証実験フィールドはおおよそ30m×20mで、空間内にある柱のうち2カ所に、1つは2台1組にして固定カメラが設置される。

 定点カメラからも不審物や不審者、あるいは具合が悪くなった人などを検知することができる。システムが異常を検知した場合は、ロボットが駆けつけると同時に係員のスマートフォンに通知が飛ぶ。ロボットにはインターフォンが搭載されており、駅係員とインターフォンでつないで、やりとりをすることができる。定点カメラとロボットを組み合わせて使って、人間の負担軽減を図るという考え方だ。

人を介さず、システムが能動的に不審物や不審者を検知する
ロボットや固定カメラからの通報はタブレットにも飛ぶ

2020年を1つのメドとして開発

東京都立産業技術研究センター 開発本部プロジェクト事業推進部 プロジェクト事業化推進室長 上席研究員 倉持昌尚氏

 会見では、東京都立産業技術研究センター 開発本部プロジェクト事業推進部 プロジェクト事業化推進室長 上席研究員の倉持昌尚氏が、東京都立産業技術研究センターの概要を解説した。

 都産技研では単独の中小企業では保有が難しい実証試験設備などを運用しているほか、シーズ開発研究も行なっている。そのうちの1つがロボットで、2015年度から行なわれている「ロボット産業活性化事業」では実際にロボットを開発し、中小企業のロボット産業参入を支援している。

 今回はベンチャー企業のアースアイズ、システムインテグレーターである日本ユニシス、そしてロボットやカメラのユーザーであり事業者である西武鉄道とで共同体を作り、開発を進めたもの。

日本ユニシス株式会社 公共第二事業部ビジネス三部 第二部グループ 古賀先峰氏

 続けて、システムインテグレーションを手がけた日本ユニシス株式会社 公共第二事業部ビジネス三部 第二部グループの古賀先峰氏は、4社による取り組みの役割分担とコンセプトについて解説した。

 警備事業の人手不足が叫ばれるなか、東京オリンピックに代表される大型イベントがひかえており、現場での負荷軽減や安全性向上は喫緊の課題となっている。

 そこで即座に現場で活用できるシステムの開発を目指し、アースアイズが監視技術(AIカメラ)を開発、ユニシスが事業化、西武鉄道がユーザーとしてアドバイスや実施フィールドを提供する。ベースは都産技研のロボットを用いている。日本ユニシスでは2016年から海外製のロボットなどを用いて、サービス領域でのロボット活用実験を進めている。

4社の役割分担
日本ユニシスによるサービスロボット事業への取り組み

 ToF(距離画像センサー)を使ったAIカメラを開発したアースアイズ株式会社 代表取締役社長の山内三郎氏は、AI監視カメラの主要な機能について概説した。

アースアイズ株式会社 代表取締役社長 山内三郎氏

 ポイントとなる技術は基本的には3つだという。1つ目はロボットとそれを保管する固定の環境カメラとの連携。2つ目は不特定多数の人が集まり不規則に動く駅のなかで不審者や体調の悪化など変わった動きをする人を発見するところ。

 アースアイズのカメラはToFを使うことで床面を認識して対象物までの距離を把握し、人がどのように移動しているのか、その軌跡を把握することができる。

 3つ目として、姿勢推定ライブラリとして広く用いられているOpenPoseを用いてスケルトンを検出し、人の姿勢や状態を把握する。これによって、暴れていたり、倒れた人を発見する。

乱闘なども発見可能
体調が悪くなった人の発見
人の位置を把握できる
検知情報は通常のカメラ画像と組み合わせて利用可能
西武鉄道株式会社 情報システム部課長 横田啓氏

 実験フィールドを提供する西武鉄道株式会社 情報システム部課長の横田啓氏は、ユーザー視点で参加の経緯を解説した。

 西武鉄道のビジョンと都産技研のビジョンが一致したことと、インバウンド顧客の増加見込みや労働力不足の減少などの諸問題を解決する解を求めて今回のプロジェクトに参画したという。

 フィールドとして西武新宿を選んだ理由は高いニーズがあることと、ユニシス側から、多少不規則な環境があるところや人の動きが速いなど、パルコでの実証実験よりも厳しい現実環境で実験を行ないたいという要望があったことなどから総合的に勘案したと述べた。

 4社は今回の実証実験を踏まえて、2020年を目標に、駅や空港など公共交通機関における安全性向上と業務負荷軽減を実現するロボットの普及を目指す。

4社による記念撮影