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NTT、世界初のモード多重光信号を用いた9,000km以上の長距離伝送に成功

~光ファイバ1本あたり最大6倍の伝送容量も実現可能

モード多重光伝送システムにおける従来の課題と本技術による効果

 日本電信電話株式会社(NTT)は9日、複数の空間モードを使用する「モード多重光信号」を利用した長距離光伝送実験に成功したと発表した。太平洋横断が可能な9,000km以上を伝送できるものとしては世界初の成功例となる。

 5GネットワークやIoTデバイスの普及により、通信需要は増大を続けており、現行のシングルモード光ファイバ(SMF)を用いた光通信システムでは伝送容量が将来的に不足するとみられている。これに対し、光の通り道(コア)や空間モードを複数利用して伝送容量の向上を図る「マルチモード光ファイバ」の空間モードを用いた「モード多重光伝送技術」の実現が期待されてきた。

 モード多重光伝送技術では、光ファイバ設計のパラメータを調整し空間チャネルを増やすと、それに応じて伝送容量を向上できる。ファイバ内では信号パルスが情報を伝達するが、空間モードによってパルスが伝わる速度がそれぞれ異なり(モード分散)、信号波形に歪みが発生するため、受信側で歪みを取り除く信号処理が必要となる。モード分散は距離に比例して累積していき、信号処理もそれにしたがって増大するため、モード多重光伝送の長距離化は困難だった。

 同社ではこの問題を克服するため、モード分散の累積を低減する「巡回モード群置換技術」を開発。これを利用したモード多重光伝送に成功した。

巡回モード群置換部の機能ブロック図

 この技術では、入力したモード多重光信号を複数の基底モードの光信号に変換したあと、変換前の光学的特性に応じて「モード群」としてグループ分けし、入れ替えを行ない、最後に再びモード多重光信号へと変換し出力する。中継スパンごとにこれを順次行なうため、伝送特性のばらつき低減が期待できる。

マルチモード光ファイバを用いた長距離伝送の動向、および本成果の位置づけ

 実験では、グレーデッドインデックス型の屈折率分布を持ち、モード分散係数が70.5ピコ秒/km(@1,500nm)、損失係数が0.29dB/km(@1,500nm)未満の6モード光ファイバを使って、10波長チャネルを多重したモード多重光伝送を実施。その結果、モード分散累積により信号パルス拡がりの低減効果が確認された。

 とくに、1,000km以上の伝送を行なった場合、従来と比べて70%以上の大幅な低減効果がみられ、3,250kmの伝送を行なった場合では、すべての波長チャネルで誤り訂正復号のしきい値を上回る信号特性が確認できた。1モードあたりの周波数利用効率は3bit/s/Hz、6モードの場合では18bit/s/Hzとなり、既存の光ファイバと比べて6倍の伝送容量を実現できるという。

空間モードダイバーシティ光伝送の諸元

 さらに、多重度を制御してダイバーシティ利得を得ることで同じ光ファイバで伝送距離を延ばせる「空間モードダイバーシティ光伝送」を導入し、より長距離化を目指した。実験では6モード光ファイバを用いて6多重(1波長チャネルあたり255Gbit/s)、3多重(同113Gbit/s)、2多重(同75Gbit/s)の評価を実施し、それぞれ4,000km、6,600km、9,000kmの伝送が可能なことが実証された。

 同社では、光通信システムの関連技術分野と連携し、今回開発した巡回モード群置換技術やモード多重光伝送を利用した大容量光伝送基盤の実現を目指していくとしている。