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Arm、マイコン機器でAIが動く「エンドポイントAI」を実現するプロセッサIP
2020年2月10日 23:00
英Armは、機械学習向けプロセッサ「Cotrex-M55」およびマイクロNPU「Ethos-U55」のIPを発表、ライセンス提供を開始した。ライセンスされた製品の出荷は2021年初頭の見込み。
Cortex-M55は機械学習処理をターゲットとしたCortex-Mプロセッサ、Ethos-U55はCortex-M向けのマイクロNPU(Neural Processing Unit)。両者を組み合わせることで、前世代のCortex-M比で最大480倍のAI性能を実現するとしている。
Cortex-M55では、「Armv8.1-M」アーキテクチャとベクター演算処理「Helium」技術を初採用するのが特徴。
Heliumは新たなベクター演算処理技術で、Cotex-AプロセッサのSIMDエンジンであるNeonをベースに機能などを削減したもの。それらの活用で、前世代のCortex-M比で機械学習処理で最大15倍、DSP性能で5倍の性能向上の実現を謳う。
高速アクセスや重み付けなど、推論処理に適したメモリインターフェイスによって省電力/効率化が図られているほか、TrustZoneによるセキュアな環境構築にも対応する。
Ethos-U55は、Cortex-Mプロセッサをホスト前提とした小型NPUで、32~256までの設計に対応するMAC(Multiply-Accumulate)エンジンを備える。
高効率とメモリフットプリントの縮小に重点が置かれており、消費電力削減のためメモリ帯域を削減すべく、機械学習ネットワークの重みをメモリ転送時に圧縮/展開するためのハードウェア機構などを搭載する。
アーム株式会社 応用技術部ディレクターの中島理志氏は、あらゆる分野/場所でAI処理を実現するには、数十億や数兆単位のデバイスで、ローカルに機械学習機能を持たせる必要があると述べ、そういった「エンドポイントAI」を実現するソリューションが今回の発表製品であると説明。
音声認識やノイズ/エコーキャンセル、EQ、OPUSデコードなど音声アシスタントを想定した処理における前世代のCortex-M7との比較では、Cortex-M55単体で6倍、Cortex-M55+Ethos-U55で50倍の推論処理速度を実現するほか、電力効率もCortex-M55単体で7倍、Cortex-M55+Ethos-U55で25倍であるとアピールした。
製品ターゲットの想定としては、これまでのCortex-Mシリーズで対象とした負荷の小さい機械学習処理と、Cortex-AやMali GPU、Ethos-Nなどで対象としていたリアルタイム認識のような高付加処理の間を埋めるものになる。
現状では、AI処理というと「Cortex-AにLinux環境で~」というスケールだが、組み込み向けマイクロコントローラではOSなしという世界であり、そういった普遍的に存在する組み込みの世界にAIをもたらすものであるという。
また同氏は、エンドポイントの推論処理では、機械学習ネットワークはNPUに焼き込み、それと別に機器制御用のCPUが存在し、処理性能が不足する場合にはDSPを利用するといった構成が一般的だが、現在はそれぞれコーディングが必要となるため、職人芸のような開発になっていると説明。
Armでは開発環境の構築についても取り組みを強化し、スケーリングやさまざまなアプリケーションへの適用が難しい組み込みコードとDSPコード、ニューラルネットワークモデルを1つの画面でまとめて扱える統合されたソフトウェア開発環境を提供するとした。
提供直後は、今回の新製品向けにGoogleの「TensorFlow Lite for Microcontrollers」に対応し、随時そのほかのネットワークも対応していく。