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TSMCが10年ぶりに日本で記者会見。EUV 7nmプロセスの順調さなどをアピール
2019年6月28日 22:36
台湾TSMCは6月28日、横浜にて記者会見を開催し、同社事業の概要と先端技術の説明を行なった。同社が日本で記者会見を開くのはおよそ10年ぶりとなる。
ファウンドリとしてファブレスメーカーと大きく成長
まず、TSMC Senior Director of Corporate Communications部門のDr.エリザベス・サン氏が登壇。TSMCの現況について説明した。TSMCは1987年に台湾で設立され、世界最初の半導体製造専門工場となった。現在では台湾、アメリカ、シンガポール、中国に製造工場を有しており、2018年には1,200万枚もの12インチウェハを提供する世界最大級の工場となっている。また、2018年度の総利益は342億ドルにおよび、純利益も126億ドルと巨大である。
サン氏は、TSMCは半導体工場として、顧客の信頼を得て信頼のできる製品を提供することが理念であるとし、登壇中にも何度となく“信頼”という言葉を使っている。ご存知のとおり、TSMCは自らがプロセッサなどを開発する会社ではなく、NVIDIAなどの半導体メーカーから受注するかたちで製品を提供している。そのため、顧客重視のメーカーとして徹底した姿勢を貫くことを重要としている。
1987年以前までは垂直統合型(IDM)企業が主流であり、Intelのようにメーカー自らがICを設計して製造し、販売していた。しかし2018年の半導体企業のトップ10を見れば、そのうちの3社(Broadcom、Qualcomm、NVIDIA)がファブレスメーカーであるとともに、ファウンドリ(工場)のみのTSMCは4位に位置している。また、2000年では半導体業界全体の収益の9%しかなかったファブレス企業が、2008年には25%にまで達している。
これについてサン氏は、TSMCの専門ファウンドリというビジネスモデルが業界の構造を変えたと主張する。TSMCが技術革新を起こすとともに、それをベースとするファブレス企業も同じく成長するという好循環の賜物であるという。
サン氏は過去32年間の半導体業界の変遷を振り返るとともに、2010年になって急速にスマートフォンが成長してきた背景に、同社が2011年に28nmプロセスを導入したことの影響も大きい説明。そして現在量産化が終わった7nmプロセスがAI関連事業に、次の世代の5nmプロセスが5G関連事業の成長を大きくうながすはずであると述べた。
サン氏はTSMCの業績について、2018年が最高の収益となる32億ドルに到達したことを伝えたが、今年の第1四半期については前年比で71億ドルのマイナスとなっており、第2四半期については76億ドルとの見立てをしているが、現在は米中関税など経済状況が不安定なため、見通しを立てにくいとした。ただ、今年の第4四半期は7nmプロセスが飛躍すると見込んでおり、収益の多くが7nmプロセスに牽引され、その割合は7nm製品で全体の25%を超えるだろうと述べた。
また、今後も最大の成長要因はスマートフォンになるとしつつ、HPC(High Performance Computing)分野の成長も著しく、将来的にはHPCの収益も最大限貢献するだろうとの予測を示した。
サン氏はTMSCという企業の強みの3本柱として、「Technology Leadership(技術的指導力)」、「Manufacturing Excellence(卓越した製造)」、「Customer Trust(顧客の信頼)」を挙げ、常に業界の最先端を行き、新しいビジネスモデルで情勢を変化させてきたが、これからも引き続きファウンドリとしてパートナーと100%競合しないかたちで、製品の提供を行なっていくとした。
EUV露光技術による製造に大きな自信
記者発表会の後半では過去にIntelでの要職も務めた、TSMC Vice President, Business DevelopmentのDr.ケビン・ザン氏が登壇。同氏は、現在の技術の背景にあるのは結局のところ半導体であり、半導体が高度な演算を高速に行なえるようになり、効率を上げてきた成果が大きいと述べ、同社が導入している技術についての説明を行なった。
まず、すでに市場に投入済みのN7(7nmプロセス)に関して、地球上のロジック技術としてもっとも高度なものであるとし、顧客側から見たときの製造ボリュームやランプアップ、歩留まりで考えても最高のものであると強調。さらに2019年の第2四半期に量産開始されるEUV露光技術を使用した7nmプロセスのN7+においては、N7から20%密度を上げており、EUV露光技術が将来の半導体の全体を変えていく革新的技術であると述べたほか、TSMCがEUV露光技術で初めて量産を行なった会社であるとアピールした。
同氏はさらにN7をベースとしたN6(6nm)を投入することも伝え、こちらはN7をベースとすることで投資を抑えながらスケールアップができることが大きな優位点になるとする。N6は2020年の第1四半期にリスクプロダクション(将来的投資のためのリスクを負っての製造)に入る予定とのことで、N7よりも18%以上の密度が得られるようになる。
また、N5(5nm)についても言及し、N5はN7から15%の性能向上か30%の省電力化、1.8倍の高密度化などが実現され、すでにリスクプロダクションが開始、量産は2020年になるとした。さらに、N5の性能強化版であるN5Pも提供予定で、こちらはN5よりも7%高速化、15%省電力化されるがN5と同じデザインルールで製造可能という。
ザン氏は自動車技術のプラットフォームについても語り、高度な自動車開発には半導体や電子部品が必要であり、TSMCとしてはレーダー、CMOSイメージセンサー、パワーマネジメントICなどを包括的に技術提供しているとした。同氏自身は自動車技術は非常に興奮する領域であり、将来に向けて大きな成長がある分野になるだろうと述べた。
このほか、異なるSoCをスタックする3Dインテグレーション技術について、3D ICは今後ますます重要性が増してくるとし、ウェハ上にチップを載せるCoWoS(Chip-On-Wafer-On-Substrate)や薄型パッケージ技術のInFO((Integrated Fan-Out WLP)を成長させていく必要があり、ファウンドリとして顧客に対して最適な製品を投入し続けるとの考えを示した。
なお、質疑応答でファーウェイに対する米国の規制がTSMCやsの顧客にどれだけの影響を与えているかといった質問が出たが、当然影響は出ているが顧客の情報は開示できない、両国のリーダーが知恵を絞って摩擦を解決してほしいとし、とくにどちらの国に肩入れするわけではないと述べるに留めていた。