ニュース

Intelと同等のゲーミング性能でより高いクリエイター性能を提供する第3世代Ryzen

 AMDは25日(現地時間)、韓国・ソウルで発表会を開催し、米国より韓国に訪れたRyzenおよびRadeonの製品担当者が、7月7日に投入する第3世代RyzenおよびRadeon RX 5000シリーズについて説明した。

 発表会の内容自体は、5月末に開かれたCOMPUTEX、および6月初旬に米国で開かれたE3で発表した内容に基づいており、とくに目新しい情報はなかったが、発表会後に製品担当者に直接話を聞くことができたので、そのさいの話をまとめてお伝えしたい。

競合とほぼ同じゲーム性能でより高いクリエイター性能を実現する第3世代Ryzen

David McAfee氏

 第3世代Ryzenについては、Sr. Director Product Management Radeon Technologies GroupのDavid McAfee氏が解説。David氏によれば、現在デスクトップ向けCPUの需要を牽引しているのはゲーム市場であるとし、CPUの性能に対して高いニーズがあるという。

 そしてゲームをプレイするゲーマーらは、いまや単なるゲームのプレイにとどまらず、1カ月あたり合計2,360万時間に相当するTwitchおよびYouTubeのゲームプレイ動画の配信を行なっており、そういった配信を行なうユーザーは1,200万人以上いるといった背景を紹介。多コアCPUであれば、高いゲーム性能を実現しつつ、配信を同時に行なえ、ビデオ編集作業をしたりするさいも高い性能を発揮できるとし、これが第3世代Ryzenプロセッサを開発する原動力にもなっているとした。

 Ryzenシリーズの特徴についてはおさらいとなるが、2020年まで継続的にサポートされるSocket AM4プラットフォームに基づいているだけでなく、7nmプロセスにより2倍のトランジスタ密度、同性能では半分の消費電力、同等の消費電力では1.25倍の性能向上を実現。I/OダイとCPUコアを分離させた“チップレット”アーキテクチャにより、デスクトップからサーバーまで高いスケーラビリティを実現していることを挙げた。

 また、IPCの改善および演算レジスタの256bit化により、シングルスレッド性能が最大21%が向上。さらに、Microsoftとの協業により、Windows 10 May 2019 Updateではスレッドの割り当てを1つのCCXに集中させることで処理性能を向上させ、クロックの立ち上がりの改善によりアプリの起動時間短縮などを実現していることを紹介した。

 DRAMレイテンシの低減もZen 2アーキテクチャでの改善の1つで、対応メモリクロックをDDR4-2667からDDR4-3600まで引き上げるとともに、L3キャッシュを倍増させ、CPUコアに近いところにより多くのデータを配置可能となったことで、ゲーム性能が最大21%も向上したという。

Zenアーキテクチャのロードマップ
7nmプロセスの採用による性能向上
チップレットアーキテクチャの採用によるスケーラビリティ
プラットフォームレベルのユーザー体験向上
第3世代Ryzenのラインナップ
従来モデルからIPCを引き上げ
Windows 10 May 2019 UpdateではRyzen向けの最適化が入った
CCXに処理をまとめることで性能が引き上げられ、クロックの立ち上がりを高速化することでアプリの起動を高速化
メモリレイテンシの削減とL3容量の拡大による性能向上

 この結果、Ryzen 9 3900Xは同価格帯のCore i9-9900Kと比較して、ほぼ同等のゲーム性能を実現しながら、DaVinci ResolveやAdobe Premiereといったクリエイター向けアプリケーションで3割前後の性能向上を実現。Ryzen 7対Core i7、Ryzen 5対Core i5でも同様にクリエイター向けアプリで大きなアドバンテージを見せるとした。

 また、電力効率も競合より優れているとしており、競合より少ない消費電力と低い温度で上記の性能が実現できるとした。

 APUについてもRyzen 5 3400GとRyzen 3 3200Gの2モデルを投入。なお、Ryzen 5 3400GについてはCPUがWraith Spire(95W対応)に変更となり、TIMを金属製置き換えることで放熱性向上を実現。Precision Boost Overdriveの自動オーバークロックにも対応させたという。

 このほか、PCI Express 4.0への対応など競合と比較してI/O周りで優れている点、Ryzen Master用のBIOS APIの統一により、Windows上からより多くの設定を行なえるようになった点などを紹介した。

最上位のRyzen 9 3950X。パッケージ写真はないのだが、付属CPUクーラーはWraith Prismとのこと(公式サイトでもそのことは書かれている)
Ryzen 9 3900Xは499ドル
同価格帯のCore i9-9900Kとほぼ同じゲーム性能
しかしコア数は4基多いので、より高いクリエイター性能を発揮
8コア/16スレッドのRyzen 7 3700X
こちらはCore i7-9700Kとほぼ同じゲーム性能
同じ8コアだが、SMTに対応しているのでより高いクリエイター性能を発揮
すべてのRyzen 9/7にはWriath Prismが付属する
Intelより低い温度で動作可能
より低消費電力で高い性能を実現
Ryzen 5 3600Xでも6コア12スレッド
Core i5-9600Kとほぼ同等のゲーミング性能
ただこちらもやはり高いクリエイター性能を実現
それ以下の価格帯にはZen+アーキテクチャのAPU「Ryzen 5 3400G/3200G」を投入
Ryzen 5 3400G/3200Gの特徴
Core i5より高いGPU性能を実現する
Socket AM4プラットフォームの特徴
競合より広いI/Oを実現
PCI Express 4.0への対応を果たした
PCI Express 4.0対応SSDはGIGABYTE、Galax、Corsairから7月7日とほぼ同じタイミングで登場
X570チップセット搭載マザーボード
Ryzen Masterではより詳細に設定可能となった
ユーザー体験の向上

 今回第3世代Ryzen APUでは2つしかSKUが用意されず、Zen 2ベースでもNaviでもない点が気になるところだ。ともなれば収束に向かうのか? といった点だが、「かぎられた予算のなかでゲームもプレイ可能なPCを組み立てるなら、Ryzen Gシリーズが良い選択肢になる。第3世代Ryzenというくくりでは2SKUだが、その下にAthlonが用意されており、これはIntelのPentiumとCeleronに対抗するため、今後も引き続き注力する」と答えた。

 一方、第3世代で取り入れられたチップレットアーキテクチャがAPUにももたらされるのか、という質問に対しDavid氏は「ハイエンドデスクトップとサーバーに関してチップレット戦略は有効だが、(APUのもう1つのターゲットである)モバイルでは不利だ。チップレットはダイとダイが離れているため、ダイ間の通信に費やすエネルギーは1つのダイで済ませるよりも多い。APUでチップレット戦略という選択はいまのところない」とした。

 ちなみにスライドのなかではRyzen 9 3950Xのパッケージのみ写真が用意されなかったが、添付するCPUクーラーについてはWraith Prismとなる予定。もっとも、発売時期が9月と遅くなっている上に、12コアの3900Xと比較して4コア増えただけなのに250ドルも高価なのは、やや不自然である。ともすればWraith Prismの代わりに簡易水冷CPUクーラーがつく可能性はあるのか? という点をDavid氏に尋ねてみたところ「現時点で言えるのはWraith Prismが付属する、ということだけだ。実際の製品でどうなるのか誰もわからない。ちなみに、AMDのラボでは、7nmと水冷の相性が良いことがわかっている」と答られた。

1440p解像度をターゲットにして設計されたRadeon RX 5700シリーズ

 続けてProduct Manager Radeon Technologies GroupのSimon NG氏が、Radeon RX 5700シリーズについて解説。

Simon NG氏

 同氏はまず、AMDではRadeonの製品開発のみならず、ゲーム開発会社との協業、ソニーとMicrosoftとの協業によるゲームコンソール開発、そしてFreeSyncディスプレイの展開などをしており、ゲーミングのためにあらゆる取り組みをしてきたとする。ゲームコンソールにおいて76%の市場シェアを獲得している点、Googleのクラウドゲーミングプラットフォームで採用されている点、そしてSamsungとの協業により今後モバイル向けSoCでもRadeonの技術が使われるようになる点などを紹介した。

 その一方で現在のゲーム市場を見てみると、7割のユーザーが未だ3年以上前のGPUを使い続けている点、そしてそのうちの7割のGPUが1080p解像度をターゲットしてに設計されている点を挙げ、買い替えるべき時期に差し掛かっているとした。

AMDの市場シェア

 例として旧製品のRadeon RX Vega 56の性能を見てみると、エフェクトの品質を上げると、Apex LegendsとPUBGといった、90fpsで快適と言われるゲームでその目標に達することができない。「モンスターハンター」や「Dirt Rally 2」といったゲームでもエフェクト品質を最大にすると、60fpsをクリアできない。これを快適なレベルに持っていけるのが、Radeon RX 5700シリーズとなる。

 Radeon RX 5700シリーズではRDNAアーキテクチャに基づいたNavi GPUを採用。7nmプロセスの採用による高速化/低消費電力化、GDDR6メモリの採用によるメモリバンド幅の倍増、PCI Express 4.0への対応、より高性能になったビデオデコーダ/エンコーダ、そしてDSC対応によるロスレス圧縮に対応したディスプレイエンジンなどが特徴となっている。

 Radeon RX 5700 XTでは先述のVega 56が抱える性能不足の問題を解消し、最大エフェクト品質でも快適性を確保。また、1440p解像度をターゲットとした設計によりゲーミング体験を引き上げるとした。5700 XTではGeForce RTX 2070、5700ではGeForce RTX 2060を超える性能を目標としている。

 5700 XTの構造分解スライドも示されたが、アルミニウム合金製のクーラーカバーとバックプレート、エアフローと騒音低減に最適化されたカバーデザイン、ベイパーチャンバー構造のヒートシンク、Radeon VIIと同じグラファイトTIM、8ピン+6ピンのPCI Express補助電源、7フェーズのデジタルVRM電源といった特徴/特性が公開された。

Radeon RTX 5700 XTの実機

 ゲーム開発者との協力面では、ゲームの画面品質を引き上げるオープンソースツールキット「FidelityFX」を提供。FidelityFXではアンチエイリアス処理によってぼやけてしまうテクスチャの鮮明にする「Contrast Adaptive Sharpening」技術を提供する。また、新ドライバでは「Radeon Image Sharpening」技術を搭載し、性能にほとんど影響を与えることなく3D映像を超解像化する。また、入力遅延を30%低減する「Anti-Lag」技術も備える。

 Radeon RX 5700シリーズは第3世代Ryzenと同じ7月7日発売となる。下位の5700は379ドル、上位の5700 XTは449ドル。5700 XTには、クロックを引き上げ、クーラーカバーにLisa Su氏のサインが入ったAMD 50周年記念版が499ドルで投入されるが、こちらは北米および中国のみでの限定販売とのことだ。

90fpsが要求されるゲームにおいてVega 56はもはや性能不足
最新のAAAタイトルだとVega 56の性能は60fpsにも満たない
Radeon RX 5700シリーズのスペック
Naviの特徴
Radeon RX 5700 XTの仕様
新たに設けたGame Clock
5700 XTのデザイン。TIMにグラファイトシートを採用している点がポイントだろうか
Vega 56の性能不足を解消
Radeon RX 5700 XTはGeForce RTX 2070とほぼ張り合える性能だ
Radeon RTX 5700の仕様
こちらもGeForce RTX 2060と比較して1440p解像度で高い性能を発揮する
FidelityFX技術によりアンチエイリアスによってボケたテクスチャを鮮明化
FidelityFXはさまざまなゲームエンジンやタイトルに採用されている
性能低下なしにイメージを超解像化するRadeon Image Sharpening
Radeon Anti-Lag技術
Anti-Lagを有効にすると入力から反映までのレイテンシが30%程度削減できる
Radeon SoftwareはRadeon RX 5700シリーズの投入にあわせてアップデートし、新機能などが実装される
カバーの一部がしぼんだデザインとなっているが、これはエアフロー改善と騒音低減の効果があるのだという
ディスプレイ出力はDisplayPort×3、HDMI×1だ
前面にもRadeonのロゴが入っている
ブロワー型ファンを採用する
バックプレートもデザインが入っている