やじうまミニレビュー
最大8TBを達成したSamsung製2.5インチSSD「870 QVO」をチェック
2020年7月1日 00:00
日本サムスンは、クライアントPC向けSSD新モデル「870 QVO」を発表した。同社製SSDとして初めてQLC仕様のNANDフラッシュメモリを採用した「860 QVO」の後継に位置づけられる製品で、NANDフラッシュメモリやコントローラの進化による性能と耐久性の向上に加え、さらなる大容量化を実現している。
今回、870 QVOの1TBモデルと8TBモデルをいち早く試用できたので、仕様や性能をチェックしていく。なお、国内では8月上旬の出荷を見込んでおり、価格は未定だ。
QLC NAND採用SSDの第2世代モデルは最大8TBの大容量モデルを実現
870 QVOは、メインストリームのクライアントPCをターゲットとしたSSDの最新モデルだ。冒頭でも紹介しているように、サムスン製SSDとして初めてQLC仕様のNANDフラッシュメモリ「4bit MLC V-NAND」を採用した860 QVOの後継として位置づけられており、870 QVOでも従来モデル同様に4bit MLC V-NANDを採用している。
だが、870 QVOが採用する4bit MLC V-NANDは、V-NANDとして第5世代、4bit MLC V-NANDとしては第2世代となる最新のV-NANDを採用。メモリセルの積層数が9x層(90層以上)に高められており、さらなる大容量化が実現しやすくなった。実際に870 QVOでは、従来モデル同様に厚さ6.8mmの2.5インチフォームファクタを採用しつつ、ランナップは1TB、2TB、4TB、8TBとメインストリームのクライアントPC向けSSDとして世界最大容量となる8TBモデルも用意している。
また、コントローラには最新となる「MKX controller」を新たに採用している。870 QVOは接続インターフェイスがSATA 6Gbpsのため、コントローラの進化によって性能面などに劇的な進化が実現されるということはほぼないが、MKX controllerでは870 QVOで採用している第5世代V-NANDへの最適化が施されているとのことで、NANDフラッシュメモリの性能を最大限引き出すための進化を実現したコントローラと考えていいだろう。
性能は、860 QVO同様にNANDフラッシュメモリの一部をSLCキャッシュとして利用する「Intelligent TurboWrite」を搭載することで、QLC NANDフラッシュメモリ採用ながらSATA SSDとして納得のものとなっている。シーケンシャルリードは最大560MB/s、シーケンシャルライトは最大530MB/sと、従来モデルからわずかに向上している。
ランダムアクセスでは、低キュー深度(QD1)でのランダムリードが860 QVOよりも13%の性能向上を実現。クライアントPCではディスクアクセスのほとんどがQD1となるため、870 QVOがターゲットとするメインストリームPCでの性能向上に寄与するという。
ただ、ランダムライトは860 QVOが4KB/QD1で42,000IOPS、4KB/QD32で89,000IOPSだったため、870 QVOでは性能が低下しているように見える。サムスンによると、860 QVOはWindows 7環境、870 QVOはWindows 10環境で性能を評価しているそうだが、Windows 10ではシステムのレイテンシがWindows 7よりも長くなっているため、ランダムライト性能が低下するのだという。実際に860 QVOのWindows 10環境でのランダムライト性能は、4KB/QD1で35,000IOPS、4KB/QD32で87,000IOPSにそれぞれ低下するとのことで、そちらと比較すると870 QVOは860 QVOと同等以上の性能になるとしている。
容量 | 1TB | 2TB | 4TB | 8TB |
---|---|---|---|---|
フォームファクタ | 2.5インチ、厚さ6.8mm | |||
インターフェース | SATA 6Gbps | |||
NANDフラッシュメモリ | 9x層 4bit MLC(QLC) V-NAND | |||
コントローラ | MKX controller | |||
DRAMキャッシュ容量 | 1GB LPDDR4 | 2GB LPDDR4 | 4GB LPDDR4 | 8GB LPDDR4 |
シーケンシャルリード | 560MB/s | |||
シーケンシャルライト | 530MB/s | |||
ランダムリード(4KB/QD1) | 11,000IOPS | |||
ランダムライト(4KB/QD1) | 35,000IOPS | |||
ランダムリード(4KB/QD32) | 98,000IOPS | |||
ランダムライト(4KB/QD32) | 88,000IOPS | |||
総書き込み容量 | 360TBW | 720TBW | 1,440TBW | 2,880TBW |
保証期間 | 3年 |
このほか、長期間使用した場合の性能低下も860 QVOに比べて最大21%向上しており、長期間の使用でも安定して性能が持続するという。
耐久性は、総書き込み容量が1TBモデルが360TBW、8TBモデルが2,880TBWと申し分ない仕様となっている。また、NANDフラッシュメモリの一部をSLCキャッシュとして利用する「Intelligent TurboWrite」の耐久性も高まっているという。NANDフラッシュメモリが第5世代V-NANDとなったことでメモリセルの特性が向上し、Intelligent TurboWrite領域の耐久性が従来の3.8倍に向上し、長期間性能が維持されるという。なお、Intelligent TurboWriteの仕様は表2にまとめたとおりで、6GBの固定領域に加えて、1TBモデルは36GB、2TB以上のモデルは72GBの可変領域が用意されるという点は860 QVOと同様だ。
保証期間は3年とハイエンド製品に比べるとやや短いが、メインストリーム向けSSDとして十分な耐久性を備えていると言っていいだろう。
容量 | 1TB | 2TB | 4TB | 8TB | |
---|---|---|---|---|---|
TurboWrite領域容量 | 標準 | 6GB | 6GB | 6GB | 6GB |
Intelligent | 36GB | 72GB | 72GB | 72GB | |
合計 | 42GB | 78GB | 78GB | 78GB | |
シーケンシャルライト速度 | TurboWrite有効時 | 530MB/s | 530MB/s | 530MB/s | 530MB/s |
TurboWrite無効時 | 80MB/s | 160MB/s | 160MB/s | 160MB/s |
気になる価格だが、北米での希望小売価格は1TBモデルが129.99ドル、2TBモデルが249.99ドル、4TBモデルが499.99ドル、8TBモデルが899.99ドルと、登場時の価格で比較すると860 QVOよりも下がっている。この価格なら大容量モデルも比較的手が出しやすく、HDD代わりの大容量データストレージとしても十分活躍できそうだ。
仕様通りのパフォーマンスを確認
では、ベンチマークテストの結果を紹介しよう。利用したベンチマークソフトは「CrystalDiskMark 7.0.0h」と、「ATTO Disk Benchmark V4.00.0f2」の2種類。テスト環境は以下にまとめたとおり。また、今回は870 QVOの1TBモデルと8TBモデルに加えて、比較用として860 QVOの1TBモデルと4TBモデルも用意できたので、それぞれ同じ環境でテストを行なった。
・テスト環境
マザーボード:MSI MAG Z490 TOMAHAWK
CPU:Core i5-10400
メモリ:DDR4-2666 16GB
システム用ストレージ:Samsung SSD 840 PRO 256GB
OS:Windows 10 Pro
まずCrystalDiskMarkの結果を見ると、シーケンシャルアクセス速度は870 QVOと860 QVO双方ともほぼ変わらないスコアが得られている。それに対しランダムアクセス速度については、ランダムライトはほぼ同等ながら、ランダムリードは870 QVOのほうがわずかに上回っている。このあたりはほぼスペックどおりで、納得の結果といえる。
また、1TBモデルではデータサイズを64GiBに設定した場合に書き込み速度が大きく低下している。これはテスト中にIntelligent TurboWriteが尽きてしまうからだ。速度は80MB/s前後となっているが、こちらも仕様どおりだ。
【お詫びと訂正】初出時に、ベンチマークのデータサイズの単位を「TiB」としておりましたが「GiB」の誤りです。お詫びして訂正させていただきます。
続いてATTO Disk Benchmarkの結果だ。こちらも870 QVOと860 QVO双方ともほぼ変わらない結果となっている。もう少し差が出てもいいとは思うが、もともとそれほど大きな性能差がないことを考えると、納得の結果といえる。
最後に、Intelligent TurboWrite領域が尽きた場合の速度をチェックするため、HD Tune Pro 5.70を利用して、200GBのデータを連続で書き込んだ場合に速度がどのように変化するかをチェックしてみた。
以下がその結果だが、Intelligent TurboWriteの仕様どおり、1TBモデルでは40GBを少し超えたあたりで、8TBモデルは80GB手前で速度が低下した。また、低下後の速度も仕様どおりに、1TBモデルは80MB/s前後、8TBモデルは160MB/s前後で推移した。
Intelligent TurboWriteが尽きるほどの大容量データを扱う場合には、このようにアクセス速度が大きく低下することで、体感でもわかるほどにPCのレスポンスが低下することになる。このあたりはQLC NANDフラッシュメモリを採用するSSDの大きな弱点だ。とはいえ、870 QVOがターゲットとするメインストリームPCではそれほど大容量のデータを扱う場面は非常に少なく、通常はIntelligent TurboWrite領域が尽きて速度が大きく低下するといった場面はほとんど発生しないはずだ。
コストパフォーマンスに優れるメインストリームSSDとして魅力あり
従来モデルの860 QVOが登場した2018年後半頃は、QLC NANDフラッシュメモリ採用のSSDはまだ登場し始めたばかりで、性能はともかく、信頼性に関して懐疑的な見方をするユーザーも多かったように思う。しかし、それから1年半以上経過する間に、QLC NANDフラッシュメモリの扱い方の向上や、QLC NANDフラッシュメモリ自体の進化によって、信頼性に関しても大きな問題はないとの認識が広がってきた。
そして、QLC NANDフラッシュメモリ採用SSDは容量単価が低く抑えられるため、SSDの低価格化を牽引。QLC NANDフラッシュメモリを採用する低価格SSDが数多く登場し、安価にストレージを強化する手段として定着しつつある。もはやQLC NANDフラッシュメモリ採用SSDだからといって敬遠するユーザーは少数派になったと言ってもいいだろう。
そういった中登場した870 QVOは、従来モデルから性能や信頼性で進化を遂げており、魅力が向上している。国内での発売時期や価格はまだ未定ながら、北米での価格を見る限り十分安価に登場することが予想できるので、メインストリーム向けSSDの新たな定番モデルとして魅力的な存在となりそうだ。また、容量も最大8TBと現時点でメインストリーム向けSSD最大クラスの容量までラインナップしていることから、SSDを大容量データドライブとして活用したいというユーザーにもお勧めしたい。