笠原一輝のユビキタス情報局

NVIDIA GRIDとTegraを次の成長の柱とするNVIDIAの製品戦略

 NVIDIAが米国サンノゼで開催したGTC(GPU Technology Conference)は、その名の通り、同社のGPU向けに関する技術情報を開示する場だ。GPUにかかわっているエンジニアの多くが、大学の研究者だったり、メーカーの基礎技術を研究するエンジニアだったりすることもあり、イベントの中心はテクニカルセッションとよばれるNVIDIAや関連企業、大学の研究者などによる講演が中心で、マーケティングトークは少ない。

 しかし、そうしたGTCでも唯一の例外は、同社のCEOであるジェン・スン・フアン氏による講演で、同社の未来の製品ロードマップや現在開発している技術などについての説明が行なわれた(別記事参照)。その講演終了後、フアン氏は証券アナリストなどとの質疑応答に応じ、同社のビジネス環境などについての説明を行なった。

 その中から見えてきたのは、NVIDIAが、これまでの本業だったGPUから、モバイル向けのTegraだったり、企業向けのクラウドGPU技術「NVIDIA GRID」など複数の事業へと積極的に展開していこうと変わりつつある姿だ。

GPUビジネスは依然として成長しているとフアン氏

 基調講演が行なわれた後、フアン氏は主に証券アナリストなどが参加した会見に参加し、同社のビジネス環境について解説した。この中でフアン氏は「NVIDIAにとってはGPUは依然としてメインビジネスだ」と述べ、GPUビジネスこそ同社にとって重要なビジネスで有り続けると強調した。

 フアン氏がこのように述べるのは、実際NVIDIAはGPUビジネスと共に成長してきたからだ。1993年にフアン氏とその友人達により設立されたNVIDIAは、1995年に最初の3Dグラフィックスチップ「NV1」を出荷する。続いて開発していたNV2では、当時新しいトレンドになりつつあったDirect3Dに対応していなかったということもあり日の目を見ることなく、立ち上がったばかりのNVIDIAはいきなり躓く事になる。そうした厳しい状況を挽回できたのは、1997年にDirect3Dに対応した「RIVA 12」8を出荷してからだ。これにより、NVIDIAは一挙に3Dグラフィックスのリーディングカンパニーとなり、続いて投入されたRIVA TNTも成功収め、1999年に発表した「GeForce 256」でコンシューマ向けのGPUとして初めてジオメトリエンジンを内蔵し、GPU(Graphics Processing Unit)という言葉を定着させると、ATI Technologies(現AMD)と人気を二分するGPUのトップベンダーになった。以降、GeForceシリーズは、アップデートが続けられており、現在でも先日発表された「GeForce GTX TITAN」に代表されるように、ゲーミングユーザーなどから支持される製品をリリースし続けている。

 こうしたNVIDIAの勢いを後押ししているのが、2007年から取り組みを開始したGPUコンピューティングのプログラミングモデル「CUDA」だ。CUDAは、GPUを3Dグラフィックスだけでなく、物理シミュレーション、科学演算などの汎用の演算に使おうという取り組みで、プログラマはC言語など慣れ親しんだ言語を活用して比較的容易にGPUを利用するプログラムを制作できる。

 GPUは、大きな演算器を少数備えるCPUとは異なり、小さな演算器を多数備えている。この特性を活かして、複数の処理を並列して処理するプログラムを作ることで、CPUよりもずっと高速に演算できるようになる。NVIDIAはGPUにTesla(テスラ)のブランドをつけてHPC(High Performance Computing)市場に向けて売り込んでおり、HPC市場における重要な指標「TOP500」(スーパーコンピューターの性能ランキング)で上位に入る製品に多数採用されるなど、今やHPC市場のリーダーになりつつある。

GTCの基調講演でARM向けCUDAプログラムの開発プラットフォーム「Kayla(ケイラ)」を手に講演するNVIDIA 創始者でCEOのジェン・スン・フアン氏
NVIDIAの2013年度の結果。2012年度に比べて7%の成長が実現されている

 こうした現状により、NVIDIAの売り上げは年々増え続けており、フアン氏が証券アナリストなどに公開した資料によれば、2013年度(2012年2月~2013年1月)の売り上げは43億ドル(約4,128億円)と、2012年度の40億ドル(約3,840億円)に比べて7%向上しているという。依然としてNVIDIAは成長を続けていると、フアン氏は強調した。

クラウドは第1段階から第2段階へ

 率直に言って、ここ10年のNVIDIAは非常にコンパクトで効率の良い経営を行なってきた。コンソールゲーム向け半導体という一部の例外は除けば、ほとんどの市場で投資に見合ったリターンを得てきた。GPUしかり、CUDAしかりだ。そうした意味で、それをリードしてきたフアン氏への評価が高まっており、一部のテックメディアがIntelがNVIDIAを買ってフアン氏をIntelの次期CEOにすべきだなどと書き立てるのも無理はないだろう(余談だが、Intelのポール・オッテリーニ社長兼CEOの退任は5月に予定されているが、未だ次のCEOのアナウンスされていない)。

 では、これからはどうか。その説明に行なう前に、NVIDIAの前にある市場環境の変化について触れなければいけないだろう。現在コンピューティング環境は、大変革の時期を迎えている。その最大の要因は、クラウドの本格的な普及だ。一般的なユーザーにとって、Google、Amazon、Apple、Microsoftといったプレイヤーが提供する、メール、コンテンツ、地図などのWebサービスというのがクラウドの受け止めからだろう。だが、それはクラウドの第1幕でしかない、第2幕として用意されているのはコンピューティングの機能をクラウド側に持たせるという次の取り組みだ。

 現在のコンピューティング環境では、データをクラウドに持たせることが一般的になりつつあるが、演算そのものはローカルで行なわれることが多い。だが、これは徐々に変わりつつあり、クラウド側で演算も行ない、ユーザーはその結果をリアルタイムで端末で受け取るというアプリケーションも増えつつある。スマートフォンの音声認識機能はその代表と言えるだろう。以前の音声認識は音声認識をローカル側で行ない、その結果をクラウド側に渡していた。この仕組みだとローカル側に強力な演算能力が必要になる。

 しかし、現在のスマートフォンの音声認識では、音声データをクラウド側にアップロードし、クラウド側のプロセッサを利用して認識した結果を端末に返すという仕組みになっている。これであれば、ローカルには強力なプロセッサが必要ないということになる。こうした仕組みを、他のコンピューティング処理にも適用していこうというのがクラウドの第2段階になる。以前説明した、スマートフォンの端末メーカーがHTML5アプリケーションの導入に積極的なのも、そうした動きの延長線上にある。

 こうした動きがさらに進めば、現在ローカルに強力なプロセッサ能力を売りにしているプロセッサメーカーは存在し得ないかもしれない。Intelが、徐々にノートブックPCのメインストリームのTDPを35Wから15Wへと下げようとしているのも、そうした未来が見えているからだろう。同じことは、NVIDIAにもいえ、現在ノートPCに数十Wの消費電力を追加するディスクリートGPUは、今後市場として成立し得ない可能性は非常に高い。

 ただ、ではすべてが新しい形のクラウドになるのかと言えば、そんなに簡単ではない。最大の課題は回線の帯域幅とコストの問題だ。例えばモバイル環境においては、LTEや3Gなどの公衆回線を利用するが、すでに日本でも1カ月で7GBまでと事実上のデータ量制限がかけられている。クラウドですべての処理を行なう仕組みのコンピューティングモデルが普及するには、7GBではまったく足らないというのは言うまでもない。

 従って、現実的な未来としては、“従来型のクラウド”と“新しいクラウド”が半々というのが実際の形になると筆者は考えている。

時代の変遷に併せて形を変えていくことの重要

 ただ、たとえ半々にだとしても、明らかなことはローカルのコンピューティング能力へのニーズは以前ほどは高くなくなっていくということだ。コンピューティング能力=プロセッサ処理能力であるので、強力なCPUやGPUは、ユーザーのPCやワークステーションに入っている現在の状況から、徐々にクラウド側へ移行して行かざる得ないということになる。

 こうした市場環境の変化というのはベンダーにとっては自社ではコントロール出来ず、それに従って会社の形を変化させていくしかない。実際、NVIDIAはここ近年でも、市場の環境の変化という波を受けて、事業部を1つ消滅させている。具体的には、チップセットビジネスだ。

 NVIDIAは、Intelのプロセッサ向けGPU統合型チップセットビジネスを展開していたが、2010年にIntelがGPUをCPUに統合したプロセッサ(Core iプロセッサ)を出荷して以降、開店休業状態になってしまっていた(明確に撤退が表明されたわけではないが、事業部は解散し新製品も計画されていないので実質撤退状態だ)。GPUをCPUに統合したプロセッサでは、チップセットというのは従来のサウスブリッジだけを意味するようになり、GPUが売りであるNVIDIAにとって意味が無くなってしまったからだ。

NVIDIAのGPUビジネスの売り上げ推移。2012年度に全体が減っているが、その原因がチップセットであることが明確にわかる。このように市場環境の変化がビジネス全体に影響を与えることが、IT業界では頻繁に起こる。だが、会計年度2013年にはその分を単体GPUが増加することでカバーできていることがうかがえる

 フアン氏が証券アナリストに公開した資料には面白いデータが掲載されている。2011年度には単体GPU(26.59億ドル)とチップセット(6.87億ドル)で合計34.46億ドルの売り上げがあったGPUビジネスが、2012年度には単体GPUの売り上げは29.9億ドルと増えているのだが、チップセットは1.97億ドルと激減しており、結果としてGPUビジネスの合計は31.87億ドルと若干減ってしまったのだ。ここに明確にチップセットビジネスが市場環境の変化により急速にしぼんでいることが見て取れる。

 ただ、NVIDIAはこの部分をきっちりキャッチアップできている。2013年度の数字見ると、チップセットは0.24億ドルともはや消滅にしたに等しい売り上げしかないのに、GPUは32.28億ドルに増え、結果としてGPU合計では前年度を上回っているのだ。つまり、Teslaのような新しいGPUのユーセージを提案できたことで、その分を補えたということだ。

GPUのコンピューティング能力をクラウドにもたらすためのNVIDIA GRID

 ここから見えてくることは、時代の変遷に併せて、的確な変化を加えていくことが、競争の激しい業界での生き残りの条件だと言うことだろう。

 クラウド第2幕の処理能力がローカルからクラウドへと移り変わっていく時代へ向けて、NVIDIAは昨年(2012年)のGTCで重要な発表を行なった。それがNVIDIA GRIDだ。NVIDIA GRIDを利用すると、従来はPCなどにGPUが入っていないと利用できなかった3DレンダリングやCUDAアプリケーションなどが、仮想的に利用することができるようになる。身も蓋もない言い方をすれば、ユーザーが持っているUltrabookが、Core i7内蔵のGPUしか入っていない場合でも、NVIDIA GRIDを利用すればネットワーク経由で、CUDAアプリケーションや3Dゲームも動かすことができるということだ。しかもクライアントはPCである必要すら無い、タブレットやスマートフォンでもよく、そうしたデバイスでもCUDAや3Dゲームなどが使えてしまうというのがメリットになる。

 NVIDIAはNVIDIA GRIDを新しいビジネスの柱にしようと考えているが、その方向性は3つある。1つはTeslaの延長線上にあるサーバー向けのソリューションで、IBM、Hewlett-Packard(HP)、Dellといったサーバーベンダーに対して、NVIDIA GRID K1/K2といったPCI Expressベースのカードを提供し、エンタープライズユースにおけるクラウドGPUの拡大を狙う。2つ目はVCA(Visual Computing Appliance)とよばれる中小企業向けのクラウドサーバー向けソリューションで、DellやHPといったサーバーベンダーがカバーできないような管理者やSIが存在していないような中小企業での導入を目指す。

 そして本誌の読者に最も関係がありそうなのが、クラウドゲーミングとよばれるソリューションだ。ユーザーは小さなクライアントソフトウェアを、PCなり、タブレットなりにインストールするだけで、従来であれば強力なGPUとCPUがなければプレイできなかったようなゲームタイトルを、クラウド経由でプレイすることが可能になる(もちろんそれなりの帯域は必要になるが)。実際には、サービスプロバイダがサービスとして提供する形になるが、従来はハードウェアとして買っていたGPUを、ユーザーはこれからは利用権として購入することになる(しかも常に最新のGPUが利用できるというのが大きなメリットだ)。

 NVIDIAはこうしたNVIDIA GRIDを利用したゲームを訴求するツールとして、1月にCESで発表したポータブルゲーム機SHIELD(シールド)を活用する。SHIELDでは、こうしたNVIDIA GRIDで提供されるクラウドゲーミングサービスを利用することが可能になっており、ユーザーはAndroidのゲームだけでなく、PCゲーミングもクラウド経由でプレイすることができるのだ。その意味で、SheildはNVIDIAにとって、NVIDIA GRIDをアピールするのに非常に優れたツールになるだろう(このあたりに関しては以前の記事で説明している)。

NVIDIA GRIDは、ソフトウェアスタックであるVGX、クラウド用GPUであるNVIDIA GRID K1/K2、さらにそれを搭載したサーバーアプライアンスVCA(Visual Computing Appliance)から構成されている
GTCではDell、IBM、hpなどのサーバーベンダーがNVIDIA GRIDに対応したクラウド用サーバーを発表
NVIDIAのVCAは、システム管理者などが存在していないような中小企業向けへのNVIDIA GRIDを狙った製品。システムインテグレータなどを通じて中小企業にNVIDIAブランドで販売される
NVIDIA GRIDの製品展開プラン。コンシューマ向けのクラウドゲームは、現在ベータベスト中で、今年の第4四半期に正式にサービスイン予定
NVIDIAのクラウドゲームのデモ
【動画】NVIDIAのクラウドゲームのデモ。クラウドサーバー側でレンダリングしたデータがストリームとしてクライアントに送られて、ゲームがプレイできる仕組み
同じくNVIDIA GRIDを利用したクラウドゲームのデモ。Tegra 3を搭載したタブレットとスマートフォンでPCクラスのゲームがプレイできている
NVIDIAのポータブルゲーム機「SHIELD」(シールド、開発コードネーム)。第2四半期から北米での販売が計画されている
NVIDIAのSHIELDに用意されているボタン類。中央のNVIDIAマークは、ゲームランチャーを起動するボタンで、その右下がAndroidのホームボタン、左下はAndroidの戻るボタン。右上のスピーカーアイコンのボタンはボリュームボタン。それ以外のボタンはゲームのジョイパッドとして利用できる
Androidのアプリケーションリスト、なおこれは試作機であるため、製品版でも同じ構成ではないとのこと
起動時の画面では通常のAndroid 4.xのホーム画面となっている
通知領域をスワイプするとでてくるコントロールバー
試作機ではブート時にはこのようなロゴが表示されていた、製品版でもでるかは不明
底面
背面
天板部分はこのように外れる。オプションで用意される予定の別の天板に交換可能
液晶を閉じたところ
Androidのゲームをプレイしているところ
KeplerのGeForceを搭載したPCに接続してPCゲームをストリームでプレイできる。後方のPCに直接接続されているディスプレイと同じ画面がSHIELDに表示されている
【動画】SHIELDでAndroidのボクシングゲームをしているところ

順調に立ち上がりつつあるタブレット向けTegraと苦戦中のスマートフォン向けTegra

 そして、NVIDIAが乗り出している新しいビジネスがARM SoCだ。Tegraのブランドネームで行なわれているそのビジネスは、最初の製品であるTegraこそ、ほとんど顧みられることはなかったが、第2世代の「Tegra 2」は、Googleのタブレット向けのOSであるAndroid 3.0(Honeycomb)の開発パートナーに選ばれたこともあり、多くのタブレットに採用されて成功を収めた。昨年リリースされた「Tegra 3」は、引き続きASUSとGoogleのダブルブランドのタブレットである「Nexus 7」に採用されたほか、Microsoftが自社ブランドで投入したWindows RTタブレットである「Surface RT」でも採用されるなど、採用例を増やしていった。このように、特にタブレットにおいてはある程度の成功を収めたと言っていいだろう。実際、フアン氏が示した資料によれば2013年度のTegraの売り上げは、2012年度に比べて57%も売り上げが伸びているという。

 確かにタブレット向けに関しては成功を収めたが、スマートフォンに関しては大きな成功を収めたとは言えないのが、今のNVIDIAの現状だ。日本市場で見ても、大手3社のAndroidスマートフォンのラインナップの中で、NVIDIAのTegra 3を採用しているのは富士通の「ARROWS」シリーズだけで、他のスマートフォンはほとんどがQualcommのSoCを採用している。この状況は、グローバル市場でも同様で、NVIDIAはハイエンド市場に限ってみたとしても、Qualcomm、Samsung Electronicsについで3番か4番というのが位置づけになってしまっている。

 NVIDIAの売り込みが成功していない最大の理由は、以前の記事でも述べたとおり、無線(LTEないしは3G)モデムでQualcommに遅れをとっていることだ。NVIDIAのモデムは2010年にNVIDIAが買収したIceraが開発していたものだが、NVIDIAが買収した当時も、Iceraのモデムを採用したベンダーは多くなく、NVIDIAは顧客を買ったと言うよりはIceraの技術を買って、少しずつ育ててきた。その結晶となるのが、Tegra 4と一緒に発表された「i500」で、ファームウェアとの組み合わせによりモデムの機能を追加したりすることができる。従来の固定機能のモデムに比べてダイサイズを小さくすることができるので、消費電力も低いとNVIDIAはアピールしている。

 だが、そうしたモデムをリリースしても、キャリアやOEMメーカーとなる端末メーカーに対してアピールできているのかと言えば、残念ながらそうではない。1つには、NVIDIA自身がそのメリットを明確にアピールできていない(例えば具体的な数値としてどれだけ低いのか)ということもあるし、端末メーカーにせよ、キャリアにせよ、PC業界に比べて保守的なところが多いので、すでに証明されているモデムと高い性能を持つアプリケーションプロセッサが存在しているのに、NVIDIAに乗り換えるメリットあるのかと懐疑的に考えるところが少なくないのだ。このあたりは、NVIDIA自身が地道にキャリア認証(通信キャリアから自社のネットワークにつないでも問題ないというお墨付きをもらうこと)を進め、実績を作り上げていしかないが、それは一朝一夕にできることではなく、長期戦を覚悟するしかないだろう。

フアン氏が示したTegra 4の製品化予定。i500モデムは今四半期にキャリア認証を開始し、第4四半期に出荷予定。Tegra 4iは第2四半期からキャリア認証を開始し、来年に搭載製品が登場予定

 なお、NVIDIAによれば、i500は第1四半期からキャリア認証を開始し、i500が統合された「Tegra 4i」は第2四半期からキャリア認証を開始し、いずれも搭載製品は今年の第4四半期以降に登場する見通しだ。いずれにせよ、どちらの製品も2014年に発売されるような製品に搭載されることになる可能性が高い。NVIDIAにとっては、Tegraがスマートフォン向けのSoCとして認知されるには、i500のキャリア認証とその出来が課題になり、まずはそこに全力を注ぐことになるだろう。

今後のSoCビジネスにとって大きな意味を持つLoganのCUDA対応

 一方、タブレットに関しては順調に推移している。タブレットでは無線モデムのアタッチレートが非常に低く、モデムなしの製品の方が多いの現状だ。このため、販売方法もキャリア経由よりは、PCと同じような販路で販売されることが多い。こうした販路に強いメーカーは、PCメーカーとイコールであることが多く、そうしたメーカーと関係はNVIDIAの強みの1つである。このため、Tegra 4に関してもそうしたベンダーに採用されるというのは自然な流れだろう。ただ、10型液晶を搭載した市場ではIntelも前評判よりも良い出来だったClover Trailで巻き返しつつあり、Qualcommもソニーのタブレットに採用されるなど、徐々にNVIDIAの強かった領域へと進出しつつある。

 今後もNVIDIAがこの市場で生き残っていくには、NVIDIAの強みであるGPUのメリットを、ユーザーにも端末メーカーにも、そしてスマートフォンではキャリアにも理解してもらうことだろう。以前も述べたが、性能が1.x倍になったぐらいでは、他の製品から乗り換えようという動きはなかなかでてこない。しかし、それが2倍や3倍になれば、多少のリスクがあっても乗り換えようという動きがでてくる。その意味では、LoganでCUDAベースのGPUコンピューティングをTegraに導入するというのは、2014~2015年のSoC市場で、NVIDIAにとって大きな武器となる可能性がある。

 フアン氏は「私は人類が1人1台タブレットを持つ時代が来ると信じている、そうした市場ができあがるときにリーダーでいることが大事だ」と力強く述べ、タブレット市場の可能性は大きく、その市場でリーダーになるべく今後もTegraの研究開発を進めて行くとアピールした。

(笠原 一輝)