イベントレポート

【NVIDIA編】フアンCEOがクライアントコンピューティングについて語る

~スマートコンピューティングの鍵はマルチデバイスとGPU仮想化にあり

NVIDIA CEO ジェン・セン・フアン氏。手に持つのは先日発表したばかりのハイエンドGPU「GeForce GTX 780」搭載ビデオカード
会期:6月4日~8日(現地時間)

会場:

Taipei World Trade Center NANGANG Exhibition Hall

Taipei World Trade Center Exhibition Hall 1

Taipei World Trade Center Exhibition Hall 3

Taipei International Convention Center

 米NVIDIAは、2月のMobile World Congressでスマートフォン/タブレット向けのSoCとなる「Tegra 4/4i」を発表。5月には同社の最新GPUであるGeForce GTX 700シリーズを発表するなど、大規模な新製品の発表はCOMPUTEX前に終わっているため、特に新しい製品を発表する予定はない。COMPUTEXでの活動も、Tegra 4やGeForce GTX 700シリーズなどを搭載した製品を発表するOEMメーカーの発表を支援する形になっている。

 そうしたNVIDIAだが、会期初日に創業者でCEOのジェン・スン・フアン氏が記者説明会を開催。同社のコンピューティングに関するビジョンを説明し、最新製品のデモを行なった。この中でフアン氏はクライアントコンピューティングに関してのビジョンを語った。

SoC、オープンソースOSたるAndroid、クラウドコンピューティングが世界を変えた

 NVIDIAのフアンCEOと言えば、半導体業界の中ではスター経営者の1人で、大企業の経営者というだけでなく、技術に造詣の深いエンジニアとしての側面がよく知られている。分かりやすく言えば、自らの口で、エンドユーザーに対して新しい技術がどのような形で生活を変えていくのか、ということを語れる経営者なのだ。

 フアン氏は「ここ数年でコンピューティングがおかれている環境は大きく変わった。これから全てのディスプレイは、コンピュータになっていくだろう。それを実現する要素は3つある。1つ目は優れたGPUが入ったアプリケーションプロセッサ、2つ目は優れたオープンソースのOSであるAndroid、3つ目がクラウドコンピューティングだ」と述べた。

 過去にはディスプレイ=コンピュータではなかった。例えば、携帯電話はその代表例と言えるだろう。フィーチャーフォンの時代には、画面は付いていたが、演算する機能はほとんど活用されていなかった。しかし、スマートフォンの時代になり、内蔵されているSoCを利用して、さまざまな情報処理が行なわれている。自動車に搭載さているカーナビゲーションもその代表例と言える。従来は単に地図上の場所を表示して検索して行き先をガイドするだけだったナビゲーションシステムから、IVI(In-Vehicle Infotainment)と呼ばれる車載コンピュータへと進化しようとしている。

 フアン氏が挙げた3つのポイントで、1つ目のアプリケーションプロセッサというのは、CPU、GPUなどコンピュータの機能を1チップで実現するSoCのことだ。SoCが登場したことで、従来はデスクトップPCやノートブックPCなど、限られたフォームファクタでしか実現されていなかったコンピュータが、スマートフォンやタブレット、カーナビ、TVに入れることを実現できた。つまり、SoCによりフォームファクタの自由度が上がった。

 2つ目のオープンソースOSであるAndroidの普及について「オープンソースOSのLinuxに、ガイド役を務めることができるAndroidが登場したことで、大きな進歩を果たした」と進展の理由を説明した。

 3つ目の要素として指摘したクラウドコンピューティングについては「クラウドコンピューティングは、YouTubeのようなサービス型として、そしてアプリストアのような形と2つの形で提供されており、我々の生活を大きく変えた」と指摘した。

PCとAndroidはシームレスに利用できるべき、それを解決するのがGPUの仮想化技術

 フアン氏は「確かにSoCなどの普及によって世界は変わった。しかし、だからといってPCがいらないものというわけではないと私は考えている。実際、ビジネスにも余暇にもPCを利用しているのが現実だ。これから重要になってくるのはPCとAndroidの世界をシームレスに使えるような技術だと思う」と指摘。そうしたシームレスな世界を実現するためにいくつかの新しい投資を行なっているという。

 「我々は2つの新しい技術に投資をしている。1つはリモートアクセス技術であり、もう1つが仮想化技術だ。それらを活用することで、複数のスクリーンがある環境で、複数のユーザーがシームレスにPCやAndroidを利用できる世界が実現できる」と同社がGPU仮想化技術に取り組む理由を説明した。

 実際、NVIDIAは2012年のGTCで「NVIDIA GRID」と呼ばれるGPUの仮想化技術を発表して以降、マーケティングに積極的に取り組んできた。今回のCOMPUTEX TAIPEIでも、NVIDIA GRIDを利用してMac OSからWindowsのCADアプリケーションを起動するデモを行なった。「従来はエンジニアが1カ所に集まっている必要があったが、GPUの仮想化を利用することで、本社が東京にある自動車がメーカーが、エンジニアを中国、インド、アメリカなどの世界各地に置いても共同作業ができるようになる」と述べた。

 こうした技術はエンタープライズだけではなく、コンシューマ向けの製品にも利用されている。NVIDIAは1月のInternational CESで「SHIELD(シールド)」と呼ばれるAndroidベースのポータブルゲーム機を発表し、5月下旬に限定的に予約販売を開始している。このSHIELDにもリモートアクセスや仮想化技術が活用されており、PCを経由することで、PCゲームのオンライン配信サービスの「Steam」から配信されたPCゲームをSHIELD上でプレイできるようになっている。

 また、NVIDIAはすでに「NVIDIA GRIDクラウドゲーミング」という、3Dゲームそのものがクラウド上にあるGPUでレンダリングされて配信される仕組みを用意している。もちろん、このクラウドゲーミングでは応答性(レイテンシ)が問題になる。インターネット経由というのはかなり難しいので、当初はインターネットサービスプロバイダーのオプションサービスのような形で提供されることになるだろう。

 なお、フアン氏は報道関係者の質問に答えて、北米などで限定的に予約が開始されたSHIELDの大量供給が6月終わり頃から開始されるとした。なお、現時点でも北米以外の地域での販売は未定との回答だったが、「熱い反応があることは承知しており、前向きに検討したい」とコメントした。

SHIELDを手にして解説するフアン氏
製品版のSHIELD。CESの時から見ると、特にコントローラ部分が大きく改良されている
NVIDIAが試作したTegra3を搭載した液晶TV。Android OSがそのまま動いている。PCを経由してSteamのPCゲームが液晶TVでそのままプレイできる
Mac OSの中でWindowsアプリケーションが動いているという不思議な光景だが、通常の仮想化とは異なり、サーバー側にあるGPUを利用してレンダリングしている

Tegra 4のDirectTouchを利用すると“ソフトウェアデジタイザ”を実現できる

 このほか、Tegra 4の「DirectTouch」技術を利用した、ペン入力の機能をデモした。DirectTouchとは、NVIDIAがTegra 3で搭載したタッチ機能をアシストする機能で、CPUを利用しなくても、タッチされたポイントの検出を行なうことができるため、より省電力にタッチ機能を実装できる。

 フアン氏がデモしたのは、タッチされた場所をフレーム毎に高速で演算することで、デジタイザがないタッチパネルでもデジタイザと同程度の精度を実現するという技術だ。演算にはTegra 4に内蔵されているイメージシグナルプロセッサが利用されるため、CPUへの負荷を増やさずに実現することができる。デジタイザだけでも数十ドルのコストアップになるので、ペンへの対応を謳っている製品は少ないのが現状だが、この技術を利用するとデジタイザがなくとも高精度のペン入力ができるようになる。この技術は、フレーム毎にピクセルを分析して色味を変えることでバックライトの明るさを暗くできる「PRISM」と呼ばれる技術を応用したものだ。

 なお、報道陣からはNVIDIAが導入を計画している64bitのARMプロセッサ「Denver」(開発コードネーム)を、HPC市場以外にも導入する計画があるのかという質問が出たが「HPCの世界ではアプリケーションは世代毎に再構築されるので、どのようなCPUだろうが、GPUだろうが大きな問題にはならない。Denverはその市場には間違いなく合致するだろう。それに対してエンタープライズ市場では、AdobeやAutodeskなどx86アプリケーションが一般的で、それを一夜にしてARMにするのは無理だ。少なくとも今後十数年はエンタープライズとGRIDの世界はx86のままだろう。では、コンシューマはどうかと言えば、ゲームを例に考えて見れば、Windows用とAndroid用が同時に開発されるようになっており、Android用はもちろんARMになっている。現在のAndroidの成長率を考えれば、そこもARMになっていくと考えられる」と述べ、具体的な製品計画に関しては明言を避けたものの、クライアントの世界でもDenverコアを利用した製品の可能性が高いことを示唆した。

NVIDIAが試作したTegra 4のリファレンスデザインタブレット
Tegra 4を演算能力を利用したペン入力のデモ
【動画】ペンにより入力しているのか、手のひらが当たっているのかなどを、Tegra 4が認識して演算することでデジタイザがなくても高精度なペン入力が可能に

(笠原 一輝)