笠原一輝のユビキタス情報局

CPUコアの進化で、性能と電力効率が大きく改善されたArrow Lakeの詳細

Intelが発表したArrow Lake-Sことインテル Core Ultra プロセッサー 200S シリーズ

 米Intelは、10月10日(現地時間)に開発コードネーム「Arrow Lake」の最初の製品となる「インテル Core Ultra プロセッサー 200S シリーズ」(以下Core Ultra 200S)を発表した。

 さらに2025年の第1四半期に、ハイエンドゲーミングノートPC向けとなるHXシリーズ(Arrow Lake-HX)、ゲーミングおよびコンテンツクリエーションPC向けとなるHシリーズ(Arrow Lake-H)を追加発表する計画になっている。

 それに合わせてIntelは、Arrow Lakeの詳細なアーキテクチャを公開した。

Meteor LakeのFoverosの構造を引き継ぎ、発展させたArrow Lakeのダイ構成

Arrow Lake-SのFoverosのダイ構造、Meteor Lakeのそれと酷似しており、SOCタイルとIOタイルに関しては継続利用だと考えられる(出典:Meteor Lake Architecture Overview、Intel)

 今回Intelが発表したArrow Lake-Sのハイレベルのアーキテクチャは、基本的にはIntelが昨年(2023年)モバイル向けのみに投入したCore Ultra シリーズ1(Meteor Lake)のダイ構成をそのまま引き継いだものとなる。

 独自に開発したFoverosと呼ばれる3Dのパッケージング技術を応用し、ベースダイと呼ばれるパッシブのダイの上に、コンピュートタイル(CPUダイ)、グラフィックスタイル(GPUダイ)、SoCタイル(メモリコントローラ、NPU、メディアエンジン、PCI Expressコントローラなどを含むダイ)、IOダイ(PCI Express 5.0とThunderbolt 4のダイ)の4つのダイが統合される形になっていた。

Meteor Lake、Arrow Lake-S/HX、Arrow Lake-Hのダイ構成(筆者作成)

 Arrow Lakeでもその構造は全く同じどころか、おそらくSOCとIODはMeteor Lakeと同じダイが利用されている。SOCダイとIODはTSMCのN6(6nm)で、Meteor Lake世代と同じ世代のプロセスノードで製造されている。公開したプレゼンテーション資料の中で公開されているSOCタイルとIOタイルのイラストを見ると、Meteor Lakeのそれと酷似している。

 また、SOCタイルをよく見ると、Arrow Lakeにはない低電力Eコア(LP Eコア、Crestmontの2コア版)が描かれており、このことからもMeteor Lakeと同じSOCダイを利用しているが、LP Eコアは無効にされている形なのだと推測できる。

Arrow Lakeを説明するスライドに示されている、Arrow LakeのSOCダイのイラストにはArrow LakeにはないはずのLP Eコアが描かれている(Intelの資料を筆者が注釈などの追加を加工)
Meteor LakeのSOCタイル。LP EコアやNPUの位置などはほぼ一致することなどからArrow LakeのSOCタイルも同じダイ(ないしはそのリビジョンアップ版)を採用しているとみられる(出典:Meteor Lake Architecture Overview、Intel)
Arrow LakeのSOCタイル(出典:Meteor Lake Architecture Overview、Intel)
Meteor LakeのSOCタイルに搭載されていたのと同じメディアエンジンとディスプレイエンジンが搭載されている(出典:Meteor Lake Architecture Overview、Intel)
DDR5-6400対応や192GBまで対応などメモリの機能は拡張されているが、このSOCタイルの元々のスペックがこれで、Meteor Lakeではスペックダウン(およびLPDDR5対応)されていたと考えられる。SODIMM対応などはその名残とも言える(出典:Meteor Lake Architecture Overview、Intel)

 ただし、Meteor LakeのNPUはIntelの第3世代NPUで、11TOPSという性能だったが、Arrow LakeのNPUは同じ第3世代NPUだが13TOPSとやや性能が引き上げられている。おそらくクロック周波数か、ダイ自体の最適化などにより性能が少し引き上げられていると考えられる。デスクトップPC向けのNPUとしては、AMDのRyzen 8000Gシリーズに次いで、2番目の製品ということになるだろう。

第3世代のNPU、13TOPSとMeteor Lakeよりやや引き上げられている(出典:Meteor Lake Architecture Overview、Intel)

 GPUタイルに関してはTSMCのN5Pを採用して製造されるなど、プロセスノードの世代は一緒だが、GPUに関してはMeteor Lakeで採用されていたXe-LPGで、XMXには未対応のXeコア(AMD的な言い方をするとCU=Compute Unit)が4コア構成になっており、Meteor LakeのUシリーズなどで採用されていた4コア版のダイが採用されていると考えることができる。

内蔵GPUはXe-LPGベースでXeコアが4コアでXMX未対応とMeteor LakeのUシリーズと同じスペック。Arrow Lake-SではほとんどのユーザーがdGPUを利用すると考えられるので、特にこれで問題ないと言うことだ(出典:Meteor Lake Architecture Overview、Intel)

 このように、基本的にArrow Lakeはコンピュートタイル以外の部分はMeteor Lakeのそれを引き継いでいる。だが、一番大きな強化点で、かつArrow Lake-Sの性能強化を象徴づけているのが、そのコンピュートタイルの強化だ。

性能と電力効率が大きく改善

EコアはSkymont、PコアはLion Coveを採用している、それが大きなIPCの向上につながっており、高い性能向上を実現している(出典:Intel Core Ultra Desktop Processors Launch Briefing、Intel)

 Intel 副社長 兼 クライアントコンピューティング事業本部(CCG) AI&テクニカルマーケティング担当部長 ロバート・ハロック氏は、Core Ultra 200Sの性能に関する記者説明会で「我々はArrow Lakeで大きな前進を果たしている。まず電力効率の削減で同じ性能なら電力は前世代に比べて半分以下になっており、それにより性能で高いヘッドルームを実現している。そして、現時点でエンスージアスト向けのCPUとしては最も低い温度で動かせるCPUだ」と、競合他社製品(具体的にはRyzen 9000シリーズ)と比較して明快に消費電力の低さでも、性能でも勝っていると強調した。

 率直にいって、Intelがそうしたことを言うのは実に7年ぶりと言っても良いだろう。というのも、AMDがZenアーキテクチャのCPUをRyzenとして2017年(発表は2016年)に投入してから、IntelのデスクトップPC向けCPUはAMDのそれにくらべて消費電力が高く、かつ性能でもやや劣るという状況が続いてきた。それぐらいAMDのZenアーキテクチャ(およびその発展形のZen2~Zen 5)の出来がよかったということだが、遂にそれに追い付いた、あるいは逆転する日が来たということだ(実際にそうかは今後発売後のベンチマークなどで確認できるだろう)。

従来世代(Raptor Lake-Refresh)と比較して最大で58%の電力削減を実現している(出典:Intel Core Ultra Desktop Processors Launch Briefing、Intel)
従来世代(Core i9-14900K)を基準としたシングルスレッド性能。Geekbenchを除きAMDのRyzen 9000シリーズも上回る性能を発揮(出典:Intel Core Ultra Desktop Processors Launch Briefing、Intel)
従来世代(Core i9-14900K)を基準としたマルチスレッド性能(出典:Intel Core Ultra Desktop Processors Launch Briefing、Intel)
Core Ultra 9 285Kは、従来製品はもちろんのこと、Ryzen 9 9950Xをどの電力レベルでも上回る性能を発揮している(出典:Intel Core Ultra Desktop Processors Launch Briefing、Intel)

 実際Intelが公開したCore Ultra 200Sの性能は、ここ数年のIntelデスクトップPC向け製品にはなかった、AMDのRyzenと真っ向から勝負できる性能を実現している。前世代(Raptor Lake-Refresh=Core第14世代)と比較して、シングルスレッドで最大11%、マルチスレッドで最大19%の性能向上を実現している。

 Ryzen 9000シリーズとの比較ではシングルスレッドで最大4%、マルチスレッドで最大13%の性能向上を実現している。これらの性能を、前世代と比較して同じ性能であれば50%以上の消費電力の削減を実現しながらこの性能を実現しているというのが、今回のCore Ultra 200Sの最大の特徴だ。

 なぜこうした性能を実現できているのかと言えば、それがCPUコアのアーキテクチャとなるPコアのLion Cove、EコアのSkymontがいずれもIPC(Instruction Per Clock-cycle)を大幅に向上させているためだ。Lion CoveとSkymontは、Intelが9月に発表したLunar LakeことCore Ultra 200Vに採用しているCPUアーキテクチャ。それらの詳細に関しては、IntelがCOMPUTEXで詳細を明らかにしており、以下の記事で紹介しているので詳しくはそちらをご参照いただきたい。

 Lion Coveは新しいキャッシュ階層としてL0キャッシュに相当する48KBのキャッシュを搭載するほか、L2キャッシュが2MBから3MBに増えており、実行ユニットのアロケーションが6から8に、実行ポートが12ポートから18ポートに増やされ、実行ユニット自体もALUが5から6に、FPUが3から4になど、フロントエンド、実行ユニット、バックエンド、すべての段階で大きな改良が加えられている。それによりシングルスレッドの性能が大幅に高められている。Skymontに関してもそれは同様で、やはり内部に大幅な改良が加えられることで、性能面で大幅に強化されている。

 Pコアは9%、Eコアは32%、従来世代の製品に比べてIPCが向上している。そのメリットは何かと言うと、少ない電力でより多くの演算が可能になる、つまりは電力効率が大幅に改善されているということだ。

Arrow LakeでゲームをするときのCPU温度。従来世代に比べて平均13度下がるという(出典:Intel Core Ultra Desktop Processors Launch Briefing、Intel)

 Core Ultra 200V(Lunar Lake)では、それを低い電力で動かす方向に使ってより低消費電力なノートPC向けのSoCを実現している。それに対して、Core Ultra 200Sでは性能方向に振ることで高い性能を実現しながら、同時に従来製品に比べて低い消費電力を実現しているということになる。

 Intelによれば、同じゲームを行なっている状態でも、前世代に比べて平均して13℃ほど低いCPUパッケージの電力を実現しているとのことで、CPUが発する熱量が少なくなるので、同じ熱設計の仕様(同じCPUクーラーなどの冷却ユニット)でも、低い温度で動かすことができることもメリットと言える。

SKU構成(出典:Intel Core Ultra Desktop Processors Launch Briefing、Intel)
詳細スペック(出典:Intel Core Ultra Desktop Processors Launch Briefing、Intel)

 なお、PBP(Processor Base Power)は125W、MTP(Maximum Turbo Power)は上位SKUが250W、下位SKUは159Wになる。もちろんこれらは消費電力ではなく、TDPと同じようにその電力がかかった時に排熱できるような放熱機構を設計する時の指標に過ぎないので、実際にはこれよりも高い消費電力になる場合も、低い消費電力になる場合もある。それはAMDのCPUだろうが、IntelのCPUだろうが同様の動作だ。

Arrow Lakeでは新しいLGA1851マザーボードが必要になる、チップセットはIntel 800シリーズ・チップセット(出典:Intel Core Ultra Desktop Processors Launch Briefing、Intel)
COMPUTEX 24の展示会場で「Arrow Lake用」をうたって展示されていたIntel 800シリーズ・チップセットを搭載したマザーボード(6月のCOMPUTEX 24で筆者撮影)

 そうしたCore Ultra 200Sのコンピュートタイルは、TSMCのN3(3nm)で製造され、Lion CoveのPコアが8コア、SkymontのEコアが16コアの24コア構成が標準の構成になっている。従来製品との大きな違いは、PコアがHyper-Threading Technology(HTT)には対応していないこと。Raptor Lake-RefreshなどではPコアはHTTに対応していたため、8コア(Pコア)+16コア(Eコア)の場合は32スレッドのスレッド数になっていたが、Core Ultra 200SではHTTに未対応なのでコア数=スレッド数となるのが大きな違いだ。

 また、CPUソケットはLGA1851に変更されており、従来製品から乗り換える場合には、マザーボードごと交換が必要になる。今後、マザーボードベンダーからLGA1851マザーボードがCPUの発売(10月24日が予定されている)に合わせて販売開始されることになる。

来年の第1四半期にはArrow Lake-HX/Hを投入する、HのCPUは6+8の構成か?

Arrow Lakeの概要、ダイのイラストからEコアクラスター(4コア)が2つと、Pコアが6つだと確認できるので、Pコアx6+Eコアx8という構成の可能性が高い(出典:Intel Core Ultra Desktop Processors Launch Briefing、Intel)

 今回IntelはArrow Lakeのバリエーションとして、今回Core Ultra 200Sとして発表したArrow Lake-Sのほか、今後ノートPC向けとして発表するハイエンドゲーミングノートPC向けのArrow Lake-HX、ゲーミングノートPCおよびクリエイターノートPC向けのArrow Lake-Hの3つを用意している。

 ただし、Arrow Lake-SとArrow Lake-HXは事実上同じダイ構成になるので、バリエーションはArrow Lake-S/HXとArrow Lake-Hの2つと言い替えてもいいだろう。IntelによればArrow Lake-HX、Arrow Lake-Hは来年の第1四半期に投入する計画だ。例年の通例によれば、1月のCESで発表されるという可能性が高いと考えられる。

 このように、Arrow Lake-HはSOCタイルとIOタイルに関してはMeteor Lake、Arrow Lake-Sと同じだが、コンピュートタイルとグラフィックスタイルに関しては異なるダイになっている。

Arrow Lake-SとArrow Lake-Hのダイ構成の違い(筆者作成)

 コンピュートタイルは、PコアがLion Cove、EコアがSkymontというアーキテクチャはArrow Lake-Sと同等だと考えられるが、コア構成は現時点では明らかにされていない。しかし、Intelが公開したプレゼン資料に示されたダイのイラストを見る限り、Pコアが6つ、Eコアクラスター(1つのクラスターあたり4コア)が2つと見えるので、おそらく6コア(Pコア)+8コア(Eコア)という構成になる可能性が高い。

Arrow Lake-HのGPUはXMXに対応し、Xeコアが8コア、最大77TOPS(出典:Intel Core Ultra Desktop Processors Launch Briefing、Intel)

 グラフィックスタイルは概要が明らかにされており、アーキテクチャはXe-LPGで、こちらはXMXに対応したXeコアが8コア構成になっていることが大きな違いだ。行列演算に特化したXMXエンジンを搭載していることで、GPU全体でのAI処理性能は77TOPSになっており、Lunar Lakeに内蔵されているXe2世代のGPUよりも高いAI処理能力を持っていることが大きな特徴となる。

 NPUに関しては、NPU3世代なので、Arrow Lake-Sと同じだと仮定すると13TOPSになるので、GPUを使った方がより高いAI処理が可能になる。現状NPUを使うAIソフトウェアよりも、GPUを使うAIソフトウェアの方が圧倒的に多いので、現実的にはこちらの方が大きな意味があるだろう(Arrow Lake-Sの方はdGPUを使うことが前提なので、そちらの方は100~1,000TPOSとdGPU次第ではあるがより高いAI性能を発揮する)。

 なお、現時点ではArrow Lake-Hのコンピュートタイル、グラフィックスタイルのプロセスノードは明らかになっていない。普通に考えればコンピュートタイルはN3ノードだと考えられるが、グラフィックスタイルの方はXMX付きの8xXeコアという構成なので、ダイはMeteor Lakeのそれとも、Arrow Lake-Sとも異なることになるため、N5よりも進んだノードで製造されている可能性もあり、続報を待ちたいところだ。