笠原一輝のユビキタス情報局

増収のAMDと減収のIntel。好対照な両社の決算をもたらした背景

Intelの第4世代Xeonスケーラブル・プロセッサー(左)とAMDの第4世代EPYC(右)

 1月の下旬に相次いで発表された、AMD、Intelの2022年第4四半期(10月~12月期)および2022年通年の決算報告は、長く両社のビジネスを見てきた筆者にとって非常に衝撃的な内容だった。

 米AMDが1月31日(現地時間)に発表した2022年度決算は、売上高が前年比44%増の236億ドル、企業の重要な会計指標の1つである営業粗利益率(Gross Margin)は前年比3.7ポイント増の52%、当期純利益は前年比60%の55億ドルと好調な決算と言っていいだろう。

 それに対して米Intelが1月26日(同に発表した2022年度決算は、売上高が前年比16%減の631億ドル、営業粗利益率は同10.8ポイント減の47.1%、当期純利益は同65%減の76億ドルとなった。

 筆者が何よりも驚いたのは、営業粗利益率でAMDがIntelと上回ったということにある。営業粗利益率は、会社の売上に対してどれだけコストをかけて運営されているかを示す指標で、この数字が高ければ高いほど会社は無駄なく健全に運営されていることを意味する。Intelの47.1%という数字は製造業としては良好過ぎると言ってもいい数値なのだが、過去20年、Intelは常に60%を超える営業粗利益率をマークしており、AMDがIntelを上回ったことは、近年では筆者の記憶にない。

低迷しPC事業と、上向きの自動車向け/GPU事業

Intelの中でも好決算なのはMobileyeなど自動車向け、CESの記者会見で講演するMobileye CEO アムノン・シャシュア氏

 両社の結果がこうした好対照な決算になったのは、事業部ごとの売上を見ていくとその理由が見えてくる。それが以下の表になる。

表1 AMDの事業ごとの売上(AMDの2022年決算報告書より筆者抜粋)
2022年売上前年同期比
クライアント事業62億100万ドル-10%
データセンター事業60億4,300万ドル+64%
ゲーミング事業68億500万ドル+21%
組込事業45億5,200万ドル+1,750%
表2 Intelの事業ごとの売上(Intelの2022年決算報告書より筆者抜粋)
2022年売上前年同期比
クライアントコンピューティング事業本部(CCG)317億ドル-23%
データセンターAI事業本部(DCAI)192億ドル-15%
ネットワーク・エッジ事業本部(NEX)89億ドル+11%
Mobileye19億ドル+35%
アクセラレーテッドコンピューティング・グラフィックス事業本部(AXG)8億3,700万ドル+8%
インテル・ファウンダリー・サービス(IFS)8億9,500万ドル+14%

 両社の決算で共通していることは、PC事業(AMDではクライアント事業、IntelではCCG)がいずれもマイナスになっていることで、Intelでは23%、AMDでは10%ほど売上が前年比で減少している。このことは既にIntelが明らかにしているように、2021年には約3億5千万台のPCが販売されたのに対して、2022年は約3億台に減少したという結果を受けてのものだと考えてよい。PCの出荷台数が減ったのだから、Intel、AMDのPC事業の売上が減ったというのは自然な流れだろう。

 一方でPCやデータセンター向けCPUという両社の本業以外の分野、特に自動車向けは好調だったのも共通している。Intelの自動車向け半導体子会社Mobileyeは、世界的にデザインウインを獲得しており、年々売上を伸ばしている。AMDも同様で、昨年買収プロセスを完了したXilinxの売上が組込事業に乗せられるようになり、前年比+1,750%の売上アップになっている。

AMDの事業で好調なのはXilinx部門、オートモーティブワールドでのAMD Xilinxブース、いずれも自動車向けソリューションを展示

 これは元々のAMDの組込事業は規模が小さく、それに比べるとXilinxの規模が圧倒的に大きいため、こうした目立つ結果になっているわけだが、Xilinx単体で見ても、その事業は年々成長を続けており、自動車向けの採用例も増えている。既に日本のスバル、ティアワン部品メーカーのアイシンやデンソーに採用されるなど年々成長している。また、両社のGPU事業(AMDはゲーミング事業、IntelはAXG)は規模の違いはあれ、前年と比べて成長している。

明暗を分けたのはデータセンター向け事業

AMDのGenoaこと第4世代EPYC

 両社の決算で明暗を分けたのは、データセンター事業だ。AMDのデータセンター向け事業が前年同期比で64%の成長を見せたのに対して、IntelのDCAIは15%のマイナス成長となっている。Intelの約192億ドルという売上に対して、AMDのそれは約60億ドルと3分の1程度に過ぎないのだが、今期両社の差は縮まったということになる。

 なぜこうなったのか? それは、AMDは第4世代EPYCを予定通り2022年11月にリリースできたのに対して、Intelは本来であれば同年前半にリリースされているはずだった、開発コードネームSapphire Rapidsこと新Xeonを出荷できず、2023年の1月にずれ込んだことが影響していると考えることができるだろう。

 その結果、第4世代Xeon SPに乗り換える予定だった顧客が、AMDプラットフォーム(当初は第3世代EPYCに、11月以降は第4世代EPYC)に乗り換える結果となった。今後、具体的な市場シェアなどの数字が出てくると思うが、今回の決算結果から、AMDがシェアを伸ばしたことは容易に想像できるだろう。

第4世代Xeon SPのXCC(4タイル)版

 では、なぜIntelは第4世代Xeon SPの出荷がこんなに遅れてしまったのだろうか。当初はチップの歩留まりが悪いのではと噂されたが、Intelは第4世代Xeon SPの製造プロセスには、Intel 7(従来の10nm Enhanced SuperFin)を利用している。これは、既に第12世代Core、第13世代Coreの製造にも活用している成熟したプロセスノードで、歩留まりに問題があるとはなかなか考えにくい。しかも第4世代Xeon SPはチップレットを採用しており、従来の製品よりも歩留まりの点では有利だと考えられる。

 Intel執行役員兼スーパーコンピュート事業部事業部長のジェフ・マクベイ氏によると、「製品の品質という点で課題があり、それを解決するまでにスケジュールを遅らせることを決断した。一部のユースケースではそれが影響しない場合があり、国立研究所などには2022年の早い段階で出荷を行なっていた。しかし、より広範囲な使い方には適さないため、ハードウエアにいくつかの修正を加えたバージョンを待って大量出荷を行なった」のだという。

 その品質問題が何かということをIntelは具体的に明らかにしていないが、演算にはあまり影響を及ぼさない部分に何か課題を抱えていたようだ。この遅れがIntelにとって非常に痛い結果を招いた。

今はIntelにとっての投資フェーズ。AMDの次の飛躍にはXilinxとレガシーAMDの融合が鍵に

昨年9月にサンノゼで開催されたInnovationで講演するIntelのパット・ゲルシンガーCEO

 ただ、IntelとAMDでは長期的に見ているところが大きく違う。

 AMDはファブレスの半導体メーカーとして、ファウンドリに製造を委託する形は変わらない。このため、今後のAMDの半導体メーカーとしてのパフォーマンスは、AMDの設計能力と、製品を受託して生産しているTSMCの能力を掛け合わせたものになる。現状ではTSMCが、Intelのプロセスノードよりも先を行っているため、AMD側が優位にある。逆に言えば、プロセスノードで遅れているIntelが設計で踏ん張っているフェーズと言い換えてもいいかもしれない。

 一方、Intelのパット・ゲルシンガーCEOは同社の基本的な戦略として、2022から2025年の4年間にIntel 7、Intel 4、Intel 3、Intel 20A、Intel 18Aの5つのプロセスノードを投入するという意欲的なロードマップを敷いている。それがそのまま実現されると、IntelとTSMCの立場は逆転する可能性を秘めている(もちろん今の時点では可能性に過ぎない)。

 さらに重要なことは、IntelはそうしたプロセスノードをIFS(Intel Foundry Services)にも提供する点だ。今は非常に苦しい決算に見えるIntelだが、IFSの稼働も本格化する2024年から2025年には大きく巻き返す可能性がある。2022年にIntelが投資した研究開発や買収費用は前年より14%増えている。それらがプロセスノードの開発コストであったりするであろうことは想像に難しくない。また、Intelは昨年来工場の新規開設も明らかにしており、それらのコストもかさんでいるはずだ。

 Intelが今後巻き返せるかは、この「投資フェーズ」を予定通り進められるかにかかっている。

CESの基調講演で「Phoenix」のモバイルRyzen 7000シリーズを紹介するAMD リサ・スーCEO

 対するAMDは、製造に関してはTSMCに委託する以外の選択肢は今のところない。AMDがIntelに委託生産するという道を選べば話は別だが、現時点で最上の選択であるTSMCとの関係を深める方が今の時点ではよい選択だろう。つまり、AMDには、製造技術を自力で進化させる選択肢はない。

 そのため、買収したXilinxの資産を今度どのように「レガシーAMD」(CPU/GPU)と融合させていくかが重要になっていくだろう。AMDは既にその第一歩を始めており、ノートPC向けのRyzen 7000の一部モデルでは、XilinxのFPGAをCPUダイに統合し、AI推論エンジンとして利用している。

 また、同社は自動車向けにはチップレットを活用し、CPU、GPU、FPGAを1チップにしていく計画を明らかにしている。今後Intelとの競争に打ち勝つにあたっては、Xilinx FPGAのデータセンター向けのCPUへの統合や、GPUに統合してAIエンジンとして利用することといったことが鍵になるだろう。