笠原一輝のユビキタス情報局

なぜ第12世代Core Pは性能が2倍になるのか?第3世代Evo登場で薄型ゲーミングノート流行の兆しも

IntelがCESで発表したノートPC向けの第12世代Coreプロセッサ、BGA1744で、Hシリーズ、Pシリーズ、Uシリーズという3つのシリーズが用意される(写真提供:Intel)

 IntelはCES 2022のオンライン会見において、ノートPC向けの第12世代Coreプロセッサを発表した。ゲーミング/コンテンツクリエーションPC向けの「Hシリーズ」、薄型ノートPC向けの「Pシリーズ」、ウルトラポータブル/タブレット向けの「Uシリーズ」という3つのシリーズに分かれており、まずHシリーズを搭載したゲーミングノートPCなどが登場し、続いて今春にPシリーズの薄型ノートPCや、UシリーズのウルトラポータブルPCやタブレットなどが登場する予定だ。

 このノートPC向け第12世代Coreに関して、Intelの担当者から話を聞くことができたので、その模様をお届けしたい。Intelとのインタビューで分かったことは、第12世代CoreのPシリーズ(薄型ノートPC用)の性能は、第11世代Core UP3に比べて2倍を実現する見通しであること、そして第12世代Core用のEvoは、新しくHシリーズをサポートし、ゲーミングPCやクリエイターPCの薄型化を促進するということだ。

第12世代Core Pシリーズの性能は第11世代Core UP3の倍に

Hシリーズ、Pシリーズ、Uシリーズ(U15、U9)という3つのシリーズが用意される(出典:Intel CES 2022、Intel)

 今回のCESで、IntelはノートPC向けの第12世代Coreを正式に発表した。そのシリーズは4つで以下の通りだ。

  1. Hシリーズ(ベースTDP 45W、ゲーミングPC向け、最大6xPコア/8xEコア、BGA1744)
  2. Pシリーズ(ベースTDP 28W、薄型ノートPC向け、最大6xPコア/8xEコア、BGA1744)
  3. Uシリーズ/通称U15(ベースTDP 15W、ウルトラポータブル向け、最大2xPコア/8xEコア、BGA1744)
  4. Uシリーズ/通称U9(ベースTDP 9W、タブレット向け、最大2xPコア/8xEコア、小型パッケージ)

 このうち、すでに出荷されているのはHシリーズのみで、PシリーズとUシリーズは今春出荷となっている。このため、Hシリーズのデータシートはすでに公開されているが、P/Uシリーズは非公開だ。こうしたことも影響してか、Intelは今回の記者会見でHシリーズの性能はハイライトしたが、P/Uシリーズにはほとんど言及しなかった。

 ただ、以下の記事でも説明した通り、PシリーズはHシリーズと同じ最大6xPコア/8xEコアというCPUコア構成を採っており、性能に関しては従来の第11世代Core(Tiger Lake)のUP3から大きな向上を見込める可能性がある。

Intel クライアントコンピューティング事業本部 モバイル製品マーケティング部長 ダニエル・ロジャース氏

 Pシリーズの性能に関して、Intel クライアントコンピューティング事業本部 モバイル製品マーケティング部長のダニエル・ロジャース氏は、「第12世代Coreでは多くのOEMメーカーが熱設計のバジェットを引き上げた設計をしており、第11世代では20W程度をターゲットに設計していたメーカーも28Wへと引き上げている。そうした分も考慮に入れると、第12世代のPシリーズは第11世代のUP3に比べて性能は概ね倍になっている」とする。

 熱設計枠の引き上げ分も含むが、倍という大きな性能向上が期待できるというわけだ。

第12世代Coreのウェハ(写真提供:Intel)

 第11世代Coreの時も、TDP 28Wの設計は可能だったが、15W~28Wという広いレンジがとられており、どのポイントで設計するかはOEMメーカーの選択に任されていた。

 しかし、第12世代CoreのPシリーズは、ベースTDPが28Wとなっており、基本的なスペックとして28W分の熱を排熱できる設計がOEMメーカーに求められているのだ。なお、これについてはACアダプタで動かした時のピーク時の消費電力という意味であって、バッテリ駆動時間に影響する平均消費電力という意味ではない。平均消費電力は第11世代も第12世代も大きな違いはない。

 端的な例としては、DellがCESのタイミングで発表したXPS 13 Plusがある。

 Dellの従来型モデルとなる第11世代Coreを搭載したXPS 13(モデル9310)では、TDP 15Wをターゲットにした設計になっていたが、XPS 13 PlusではTDP 28Wをターゲットにした設計になっており、性能が大きく引き上げられているという。

 ただし、現時点ではDellはその具体的な性能は公表していない。これは、前述したPシリーズやUシリーズのデータシートが非公開で、まだ正式出荷前という扱いであることが影響しているのだろう。

Hシリーズにはx8のdGPU用PCIe 8レーンが用意されるが、PとUは省略される(出典:Intel CES 2022、Intel)

 なお、H/P/UシリーズのうちU15は同じBGA1744を採用している。Intelのロジャース氏によれば、「H/P/U15は同じパッケージを採用し、HではdGPUのためにPCI Expressを8レーン用意しているが、PとU15に関してはそれがないことが違いになる」との通りで、PCI Express x8でdGPUを装着できるのはHシリーズのみとなる。

第12世代Coreで第3世代Evoを導入。Wi-Fiなどが強化

IntelのEvoブランドロゴ、Evoに対応したマシンにはこのロゴが装着される(写真提供:Intel)

 今回のノートPC用第12世代Coreでは、Evo(イーヴォ)ブランドの第3世代となる新しい仕様が導入されている。元々Evoブランドは、2019年に第10世代Core(開発コードネーム:Ice Lake)が導入された時に、それに基づいたノートPCの仕様のProject Athenaとして導入されたものがベースになっている。

 2020年9月の第11世代Core(開発コードネーム:Tiger Lake)で第2世代Project Athenaの仕様が導入され、そのタイミングでブランド名として「Evo」が付けられ、今に至っている。

 そして、今回の第12世代Coreの発表と同時にEvoの仕様も第3世代に進化したことになる(初代Project Athena、2代目が先代Evoとして、今回が3世代目という意味)。

Intel 副社長 兼 クライアントコンピューティング事業本部 モバイルイノベーション事業部長 ジョッシュ・ニューマン氏

 Intel 副社長 兼 クライアントコンピューティング事業本部 モバイルイノベーション事業部長のジョッシュ・ニューマン氏は、「我々はEvoを妥協なきモバイル体験と呼んでおり、第3世代ではそれをさらに強化している。また、Windows 11では新しいセキュリティ機能をオンにしなければならないなど、応答性やバッテリ駆動時間を長くするためにシステムを調整することが難しくなっている。そこで、IntelはOEMメーカーと共同で設計の1つ1つを見直して、様々な課題に対処しながらバッテリ駆動時間や優れたレスポンスを実現している」とする。

 つまり、第3世代Evoの狙いは、Windows 11への最適化のほか、システムへの要件が厳しくなったことに伴い、性能を引き上げるといったものであるという。

第3世代Evoの要件(写真提供:Intel)
第3世代Evoで追加された強化点(出典:Intel CES 2022、Intel)

 では、第2世代と第3世代のEvoの仕様は何が違うのだろうか?

 ニューマン氏は、「大きく言えば、CPUが第12世代へと強化されたことがまず大きい。それにより性能は従来よりも大きく引き上げられている。そして、Wi-Fiの帯域幅を大きく引き上げることで、Wi-Fi 6Eの搭載が可能になった。

 また、Rivet Networksを買収して得た“Intel Connectivity Performance Suite”を標準搭載するなどしており、それによりリモートワーク中に安定したネットワーク環境を提供できる。

 AIを利用したノイズリダクション機能の搭載も必須になっており、ユーザーはノイズのないWeb会議を行なうことができる」と説明する。

 さらに、「そうした新機能を実現しながらバッテリ駆動時間と応答時間が最大になるようにした」という言葉の通り、従来のEvoの要件だったフルHDパネルを搭載してリアルワークロードベンチマーク(実際にアプリケーションを実行するベンチマーク)で9時間以上のバッテリ駆動時間、1秒以下のスリープからの復帰という性能の保証は、第3世代のEvoでも変わらない。

vProロゴ(写真提供:Intel)

 なお、Intelはこの第12世代Coreから、vProもエンタープライズ(Enterprise)とエッセンシャルス(Essentials)の2つに分離した。エンタープライズは大企業向け、エッセンシャルスは中小企業向けと位置付けており、従来は1つのvPro SKUで大企業から中小企業まですべてをカバーしていたのが分かれた形となる。

 ただ、現時点ではそれぞれ具体的に何が違うのかは不明で、例えばvProでサポートされるセキュリティ機能のうちどれがエンタープライズのみで、どれがエッセンシャルスにも対応しているのかなどは明らかにされていない。

第3世代Evoは45WのHシリーズも対象。ゲーミングPCやクリエイターPCが洗練されたデザインへと進化する

EvoがHシリーズに拡大される(出典:Intel CES 2022、Intel)

 ニューマン氏によれば第3世代Evo仕様で、第2世代とのもう1つの大きな違いは、HシリーズにもEvoブランドが付けられるようになったことだという。なお、実際には年の途中で第12世代CoreのH35が第2世代Evoのサポート対象に追加されたので、厳密に言うと45WのHシリーズのサポートが追加されたというのが正しい。

 ニューマン氏は、「第3世代Evoでは、第12世代CoreのHシリーズと、オプションとしてIntel ArcのdGPUを選択可能になっている。Evoで私達が約束することは、長時間バッテリ駆動と高いパフォーマンスを、洗練されたフォームファクタで実現することにある。

 この取り組み自体はパンデミック前から行なっていたことで、従来は薄型ノートPCをターゲットにしてきたが、パンデミックが始まってからはクリエイターや開発者、インフルエンサーといった方々にも、もっと高いパフォーマンスでかつ洗練されたフォームファクタのノートPCが必要だと分かってきた。そこで、HシリーズやArcを搭載したシステムにもEvoを拡張することにした」という。

 HシリーズにもEvoブランドが付けられるようになるメリットは、Hシリーズを搭載したゲーミングPCやクリエイター向けPCの薄型化、そしてデザインコンシャスなPCの促進にあるようだ。

Alienware x14(写真提供:Dell)

 実際、すでにそうした効果は出ている。DellがCESで発表したAlienware x14は、14.55mm厚というスペックになっており、Evoの要件である15mm以下をすでに実現している。

 この記事を書いている時点ではAlienware x14は発売前なので、Evoブランドを使用するかどうかは明確ではないが、今後そうした薄くてデザイン性に優れたゲーミングノートPCが増えていくことにつながるだろう。

 なお、日本のユーザーとしては、第12世代CoreのHシリーズを搭載した薄型ノートPCの登場にも期待したいところだ。

 というのも、VAIOが発売しているVAIO Zは第11世代CoreのH35シリーズ(TDP 35W)を搭載しているが、第12世代ではH35はシリーズとしてなくなり、TDP 45WのHシリーズに吸収されてしまったからだ。

 このため、仮にVAIOが今のVAIO Zの後継をリリースするなら、TDP 45WのHシリーズを採用するか、TDP 28WのPシリーズを採用するかの二択となる。

 ロジャース氏は、「薄型ノートPCを設計するOEMメーカーはPシリーズを採用するだろう」と述べ、Hシリーズが薄型ノートPCに採用されることはないのでは、という認識を示す。グローバルでは筆者もその通りだと思うが、日本のメーカーはそうではないかもしれない。

 それは、PシリーズとHシリーズはパッケージも同じで、基板上の実装面積が同じである以上、供給できる電力量と放熱機構さえ機能すれば、Hシリーズを薄型ノートPCに採用することはそんなに難しいことではないと思われるからだ。

 もちろん課題となるのはその放熱機構とピーク時の消費電力だ。PシリーズのPL2(Turbo Boost時の最大消費電力)は64Wであるのに対して、HシリーズのPL2は115Wになっていることが大きな障壁となる。

 一般的な薄型ノートPCに付属するUSB PD対応電源アダプタの供給電力は65Wで、仮にPD 3.0で仕様上の最高である100Wにしてもまだ15W足りない計算となる。しかもCPUだけでなく、ディスプレイやメモリ、ストレージなども当然電力を消費するので、その分の余力も必要だ。

 そして、それだけの消費電力を例え瞬間的にだとしてもCPUにかけた時に発する熱を、効率よく排熱できる放熱機構を薄型ノートPCの筐体で設計できるのか、その2つがハードルとなるだろう。

 日本のPCメーカーにはぜひともそうしたハードルを越えるブレイクスルー考え出し、Hシリーズが搭載された薄型ノートPCを設計してみてほしいものだ。