藤山哲人と愛すべき工具たち
秋月電子の電話交換機キットで工作遊び! FAXにもなる優れもの
2021年4月5日 06:55
電子工作マニアの聖地、東京は秋葉原にある「PIC簡易疑似電話交換機キット(NTTモドキ公衆回線シミュレータ)」だ。1998年に発売され長年のヒット作だったにも関わらず、部品の生産中止とともに2006年11月キットも発売中止に。
しかし最近になって、回路が見直され10年以上ぶりに「(新)PIC簡易疑似電話交換機キット」として再販開始! おめでとう!
このキットで何かできるか? というと、普通の電話機2台をキットに接続すると、電話機間で通話ができる! しかも呼び出し音も鳴るし、通話中には「ツーツーツー」、呼び出し時には「プルルル!」音が受話器から聞こえるのだ。
さらに普通の電話線を使って最大200mまで引き回せるので、2、3階建ての住宅内ならもちろん、ビル内の離れた事務所間の通話や「離れ」と「母屋」の通話などにも使える優れもの! ただし交換機じゃないので1:1の通話のみなのは内緒だ。
ちなみにNTTのアナログ通話回線をシミュレーションしてくれるので、インターホンなのに、FAXまでできちゃう万能っぷり! 「もしあれば」の話だが、PC用のFAXモデム(何十年かぶりに聞いた言葉だ……)を使えばFAXとつないで、プリンタやスキャナ代わりにも使える。
そこで復刻版発売を記念して(かなり遅いが……)、このバカっぽいキットで、少年のころの夢をもう一度見てみよう!
はんだづけ初心者でもポイントさえ押さえれば大丈夫
電子工作キットで有名なエレキットやワンダーキットに比べると少し難しいが、マニュアルをしっかり読めば大丈夫。部品の名前がわからなくても、完成後の写真が大きく掲載されている「補足マニュアル」があるため、基板と部品のかたちを見ながら差し込む位置がわかる。さらにパーツに印刷・刻印されている番号と照らし合わせれば確実だ。
注意するのは、プラスマイナスの極性がある電解コンデンサとダイオード、ゲジゲジのICとフォトカプラと呼ばれる部品ぐらいだ。
キットの製作で難易度が一番高いのは、はんだこての扱い方。このキットの基板は、裏表に回路が構成されている多層(スルーホール)基板なので、基板自体の放熱効果が高く、20Wのはんだこてだと基板が温まらずに「イモはんだ」になりがちだ。
だから30~40Wのはんだこてがおすすめ。また初心者なら、融点が高い鉛フリーはんだも避けたほうがいいだろう。普通は背の低い備品からはんだづけするのがセオリーだが、このキットはICソケットやジャンパピンなど、熱に強い部品から取りつけて、基板の温まりにくさに慣れてからやるといい。
また、はんだづけの方法も、まずこて先で基板を温めて、そこに半田を差し込んで流し込むという手順を踏まないとイモ半田になりやすい。先に基板を温めずにはんだづけするクセがある人は注意したほうがいいだろう。
さらにスルーホール基板なので、一度はんだづけすると、部品を外すのが超たいへんなので、差し込む場所を間違えないように! もし場所を間違えたら、はんだ吸い取り器と40Wのはんだこてが必要になる。
このキットで要注意なのは、電源が15Vとエラく中途半端な点。「15VのACアダプタなんて持ってネーヨ!」という突っ込みがメチャ聞こえるので、キットと一緒に15V/0.8AのACアダプタも購入しよう。
あらかじめチップ抵抗やコンデンサ、トランジスタなどが実装済みなので、部品リストが長いわりにすぐに作れる。慣れている人なら1時間程度でできるだろう。
電話機は中国製の技適マークなしのポンコツがオススメ
自宅に余っている電話がちょうど2台あるご家庭はそうそうない(笑)。そこでAmazonやホームセンターで電話機を購入しよう!
家の電話回線につなぐ電話は「技術適応T」や「技適T」と呼ばれる認証を取得していないとならないが、自前の交換機交換機シミュレータに回線網につなぐだけなので、1,000~2,000円の中国製でOK。技適マークの有無を確認する必要もなし!
逆にテストするときは、高いワイヤレス電話などは使わないほうがいいだろう。なぜならあくまで交換機をシミュレーションするだけで、ホンモノの交換機じゃないので、正しくはんだづけできていても電話を壊す場合があるからだ。
まずは安い電話で動作を確認してからしよう。
(1)電話機と交換機のモジュラージャックを電話線で接続
使う電話線は安い2芯でOK。有線LANのコネクタ(RJ45)に似ているが、RJ11の2芯ケーブルで接続すること。
電線は最長200mの引き回しが可能となっている。が! ここで使っている15VのACアダプタだと、そこまで引き回せないようだ。どこかのお屋敷に住んでいて、母屋まで車ではいる門の間などで通信する場合は、電源の48V(一般の公衆電話回線と同じ電圧/電圧降下を見込んで公衆回線では高めの電圧となっている)改造が必要になる。
15Vで何mまで引き回せるかのデータはないので、テストでは電話に付属する数mの電話線でチェックするといい。一応筆者が試したかぎりでは、15Vでそれぞれの電話機を30mの電話線で接続(総延長60m)で正常動作(呼び出し~通話)を確認している。
(2)ジャンパでNTT/AT&Tモード、鳴動までの待ち時間設定
この交換機のおもしろいところは、発信側の受話器から聞こえる「ツー」音と呼び出し時の「プルルル」音をNTTタイプとAT&Tタイプに切り替えられる点。NTTは聞きなれた電話の音だが、AT&Tモードにするとアメリカで電話している気分を味わえる。このモード切り替えは、基板のジャンパピンで可能となっている。
ただPICマイコンでそれに近い音を出しているので、完全に同じまでは再現できていないので、あくまでも雰囲気ということで。
また受話器を上げてから相手の呼び出し音を鳴らすまでの待ち時間も設定可能。この交換機は、電話番号を入力できず受話器を上げることで電話番号を入力したとみなされる。
そのためインターホンのように使う場合は、待ち時間1秒で相手を呼び出すモードに設定するといい。よりリアルに電話番号を入力している時間をシミュレートしたい場合は待ち時間を7秒にセット可能。こちらも基板上のジャンパピンで設定できる。
(3)受話器を置いた状態にしてACアダプタを接続
最後にACアダプタを接続して準備完了。このとき2台の電話機の受話器は置いた状態にしておいたほうがいいようだ。またACアダプタを接続した状態でジャンパスイッチを切り替えた場合や、動作の調子が悪いときはリセットボタンを押すといい。
(4)受話器を上げると相手の呼び出し音が鳴って通話!
片方の受話器を上げると、ツー音のあとに相手の呼び出し音!ここで相手の受話器を取ると通話できる!交換機のシミュレーションをしているので当たり前なんだが、なんか凄ぇ!相手方の受話器が上がっているときに電話をかけると「ツーツーツー」音がしてお話中。またどちらかが電話を切ると相手に「ツーツーツー」音。まさにNTTの公衆回線だ!
しかも相手が受話器を上げたときに、電話線のプラスマイナスの極性が反転するところまでシミュレートできている。だから極性反転を見て相手が電話に出たことを判定するFAXなんかも対応可能だ。電話料金のカウントの極性反転まではサポートしていないので電話ハッカーのみなさんは注意。いまどきそんな人いない!?
(5)どっちの電話機からでも通話OK
交換機には2台の電話をつなげられるが、A→Bに電話をかけても、B→Aに電話をかけても同様に通話が可能だ。ただし電話機よっては、うまく受けられない場合もあるので注意。そんなときは、PICマイコンのソフトウェアアップグレードすると解消されるので、試してみる価値あり。
電話機によってはうまく動作しない場合はPICマイコンのアップデートサービスを使う
ほとんどの電話機ではうまく動くはずだが、一部の電話機では呼び出し音が鳴ったあと呼び出し機能が停止してしまう場合もあるという。筆者も何台かの電話機で試してみたが、中華のポンコツで同様の不具合が発生した。
基板に不備はなく、どうしてもうまく安定動作しない場合は、メーカーのトライステートに820円分の切手を送ると、ソフトウェアをアップデートしたPICマイコンを送ってくれるので、試してみるといいだろう。