藤山哲人と愛すべき工具たち

速い! 確実に締まる! ネジ頭を潰さない! パナのスティックドリルドライバーが超便利

本連載では、家電製品から実験機器の製作、プログラミングなど、幅広いジャンルで活躍するテクニカルライター藤山哲人氏がさまざまな工具をレビューしたり、多少無茶なことにチャレンジしたりしていきます。
パナソニックの「充電スティックドリルドライバー 7.2V(EZ7421)」。市場価格は電池1パック+充電器+本体モデル23,000円程度。電池2パックモデルが25,000円程度

 おそらくPC Watchの読者の多くは、ちょいちょいデスクトップPCをバラしたり、壊れた家電をとりあえずバラして直しちゃう人たちだ。そうに違いないっ! しかもメーカー保証が効かないのに、自分でノートPCのストレージをSSDに変えてみたり、メモリを増設したりする勇者ばっかりだ。

 そんな日々の分解や組み立てに精を出すみなさんの悩みが「ネジ回し」。CPUやGPUの世代が大きく変わると、ゼロから1台作ることになる。ノートPCの分解、組み立ても大量のネジ。なんでここのネジを外さないとカバー開けられないんじゃ! と「箱根秘密箱」の様相。

秘密箱パズルのように箱のアチコチとズラしたり、押したり何段階かするとようやく箱が開く

 こっちのネジを外したら裏のカバーが外れて、なかにあるネジを外すとキーボードが取れて……、なんてことを繰り替えなきゃならない。しかも元に戻すときも同じ手順を踏んで戻さなきゃならず、「ぐはっ! 前の工程のネジ締め忘れた! 」となれば、今閉めたばかりのネジを何本も外してやり直し。「三途の川の前で石を積むわらべかっ! 」ってぐらい諸行無常。

 そんなあなたにオススメしたいのが、パナソニックの「充電スティックドリルドライバー 7.2V(EZ7421)」だ。

筆者が愛用するスティックドリルドライバー。ケーサツにはつかまらないが、中毒性の高いドリルドライバーだ

 価格は23,000円とちょっとお高いが、家電を修理するサービスマンなどに愛されているツールだけに、とにかく使い勝手がいい。

ハンドドライバーが不要になるほどコイツに頼れる

 普通のドリルドライバーはと言えば、白黒アニメのSFの光線銃のような「いかにもドリル」ってかたち。ここ数年で遊星ギアを使ったショートモデルが主流になっているが、基本グリップの下に巨大なバッテリを差しこむタイプだ。

いかにもドリルってヤツ。ココ5年ほどで先っぽが短く、重心が手元にあるショートタイプが主流に

 しかしコイツはスティックタイプで、デスクトップPCにマザーボードを固定するのにも、スイスイケースのなかに突っ込んで使える。ちょっと硬く締めてあるネジは、キュッ! と最初だけ手動で緩め、あとは電動でグイグイ抜くといったことも。もちろん逆の手回しで増し締めもできる。

スティック型なので緩めでクラッチが滑る場合は手動でチョイ緩め、また増し締めが簡単にできる

 一般的な形状のドリルドライバーでもできるのだが、こちらは手首をひねることになるので、何十、何百というネジを緩めると、かなり腕に負担ががかかる。モーターが大きくバッテリも大電流なのでかなり重い。その点スティックドライバーの重さは、550gと超軽量で手首の負担が最小限。だから全然疲れないのだ。

半分で折り曲げると拳銃タイプに早変わり。これでトルクのかかるネジでもしっかり反作用を受け止めて、ネジを打ち込める。固い節目にもガッツリコースレッドを打ち込める

 もしトルクが必要な壁にネジを打つ場合などは、グリップをガシャン! と折り曲げると、拳銃タイプに早変わり! これならトルクの反作用に負けることなく、シッカリネジを打ち込める。一般家庭での普段使い(笑)には、小ネジから木工用のコースレッドまで打てるマルチな電動ドライバーだ。

根元を引いてロック解除、引いた状態でドライバービットを抜き差しできる

 ドライバービットを取りつけるチャックはワンタッチ式。6角形のドライバービットを差し込んで、根元のロックいったん引っ張って解除、ビット差し込んでロックする。前後に大きく左右にわずかな遊びがあるので多少グラグラするが、ドライバーとして使う分には問題ないだろう。

激安ドリルドライバーに付属されている小さなビットはロック機構がないので使えない

 片側がドライバーになっているビットでも、両方がドライバーになっている双頭ビットでも使える。ただし激安電動ドライバーの付属品のロック溝がないビットは使えないので注意してほしい。なお、ドライバービットは、別売になっているので別途買いそろえる必要がある。

あわせて買いたい! ドライバービット

 スティックドライバーで使いやすいビットは、長さ10cm程度のビットがいい。5cm双頭ビットだと、ちょっと手元が見えづらいだろう。

一番使いやすいビットは7~10cm程度
5cm程度のビットはちょっと短く手元がちょっと見えずらい

 筆者が一番なじんだのは10cmものだ。とくに先が細くなっているものがいい。またデスクトップPC組み立てに使うなら、長めの150~200mmがいいだろう。手回しドライバーなら300mmもアリだが、チャックの遊びで先端のブレが大きくなので、このドライバーだとちょっと使いずらいかも。

長いビットは1本用意しておくと便利。以前ドライバーで説明したとおり直角・垂直出しにも使える

 先端形状は、ドライバービットセットのようなものを買う必要はまったくない。とりあえずいるのは、以下の2つだ。

【表】ドライバーの説明その1
表記説明
PH2「2号」や「フィリップス2」、「#2」とも呼ばれる一番よく使うプラスドライバー。
とりあえず、PH2の10cmあたりを買えばいい。だいたい1本600円ぐらい
PH1「1号」や「フィリップス1」、「#1」と呼ばれるひとまわり小さいサイズ。
ノートPCをいじる場合は必要だが、普通はあまり利用しないので、そのうち買っておけばいい程度
一番使われている#2。これがあれば8割がたOK
ひとまわり小さい#1。たまーにデジタルがジェット系の小型デバイスやリモコンなどで使われるネジ。PCではまず使われない

 ネットでドライバービット購入すると、同じビットが5本も10本もセットになっていることが多い。だけどプロじゃないで、それほど磨耗しない。近所のホームセンターで1本単位で買えばいい。

 マイナスはいらないの? という方もいるかもしれないが、最近はまず使わない。どうしても抑えでほしいという場合は、「-5.5」というものがあればいいだろう。

マイナスは番号ではなくて、横幅の「mm」で表す

 またノートPCの分解だと精密ドライバーが必要になる場合がある。電動ドライバーに慣れないうちは手回しドライバーを使ったほうがいいが、精密のドライバービットもある

精密ドライバーは「0」からスタートして、「0」の数が「00」のように増えるとさらに細くなる。写真は「PH1」、「PH0」と「PH00」

 PHは数が大きくなると太くなっていったが、精密は0の数が多いほど小さくなる。つまりPH1の次に来る精密ドライバーはPH0、もっと小さくメガネや時計用はPH00、PH000となる。が! 電動ドライバーで使うのはせいぜいPH0まで。PH00を電動でやると確実にネジ頭をツブすことになるので注意しよう。

 さらにIKEA家具をよく作るという場合は、以下のドライバービットも用意すること!

【表】ドライバーの説明その2
表記説明
PZ2ポジドライブ2号と呼ばれるもので、プラスドライバーの+に加えて斜め方向にも溝が切られていて星型になっている
ポジドライブは、ネジ頭が星型の溝になっている
ポジドライブのネジとドライバー。筆者の経験上、IKEA家具はポジドライバーの2番のみ使っている。左は普通のPH2、右は星型のPZ2

 日本ではあまりなじみのないポジドライブだが、イギリス発祥のネジなのでヨーロッパや北欧でよく使われる。IKEA家具愛用者には必携のドライバービットなので用意しよう。

 なおアクリルやアルミ、鉄板や木材に直径数mmの穴を開けたいという場合はドリル用のチャックを用意しよう。チャックの根元は6角シャントになっているので、ドライバービットのようにチャックをワンタッチで取りつけられる。あとは普通のドリルのように、ドリル刃をチャックに固定すればいい。ただ遊びが大きくガタつくので、センターポンチなどで中心出しをシッカリしておくこと。

6角シャントになっているドリル用チャック。スティックドライバーに差し込んで、ドリル刃をチャックに固定する。ただ遊びでグラつくのて中心出しをシッカリやること

 また木工用のドリル場は、6角シャントになっているものが多いので、そのままドライバーに取り付けOKだ。スティックドライバーでは、木工で最大15mmの穿孔能力がある。

木工用のドリルは、たいてい6角シャントになっている
2×4材に15mmの穴を開けても余裕-

 またビットが増えると置き場に困るので、ビットホルダーも一緒に買っておきたい。樹脂に差しこむ安っぽいのもあるけど、おすすめはドライバーのチャックと同じワンタッチ式のヤツだ。

こちらは樹脂にはめ込むタイプ。ビットによっては硬くて入りにくいのが難点
ワンタッチ式のビットホルダー。ドライバーにカラビナを引っ掛けて置くと、いつもセットになっていて便利

木ネジやコースレッドまで打てるパワフルさ

 組み立てPCをはじめとした、溝が刻まれた穴にネジを締めるのはお手の物。スティックタイプのドライバーは、回転数をコントロールができないものが多いが、本製品はインバータで無段階変速ができる。だからトリガで速度を変えると、電車の加速音のような音がして使っていても気持ちがいい。

EZ7421のスピードコントロール

 バッテリ電圧が低く安価なドライバーは、トリガを目いっぱい引いてもだいたいが200~300rpmでノロノロ。でも本製品なら最高900rpmなのでイライラがまったくなし。金属式の石膏ボードアンカーは、何回転もさせて展開し、何回転もさせてネジを抜くのでたいへんだが、900rpmあればイライラも少ない。

金属式の石膏ボードアンカー。耐荷重のあるものは、ネジを3~4cmも打ってアンカーを展開、その後3~4cm抜かなければならないので、高速なドリルドライバーじゃないと「やってられネー! 」になる

 しかもクラッチがついているので、ネジを締めすぎもない。M3、M4のユニクロネジなら、クラッチ1にして最高速で打っても、ネジ頭を潰すことがない。これはメッチャ作業がはかどる!

 驚くべきは、クラッチが効く(滑る)と自動的に回転が止まる点。クラッチがガガガガッ! と音を立てないので、静かに作業できるのもうれしい。

EZ7421のクラッチ

 さらに組み立てPCで便利なのがドライバーの先端を照らすLEDライト。デスクトップマシンは組み立てるときに陰になってしまうネジ穴があるので、ライトで照らせると便利だ。「そんなの数千円で買えるドライバーにもついてるよ!」と思うかもしれないが、パナソニックのライトはトリガーを引いたときだけなく常時点灯モードモある。しかもドリル側面にも高輝度のLEDライトがついているので、広い箇所を照らすのに便利だ。

先端を照らすライト
幅広い範囲を照らせる背面の高輝度LEDライト
先端ライトはトリガにも連動しているが、背面についているライトスイッチでも常時点灯できる

 これらを点灯するボタンは独立しているので、これまた便利に使えるというわけ。本当は暗い部屋などで屋内配線をするのに便利な機能なんだが、組み立てPCにも非常に有効ってことで。

 また木工などでコースレッドを打つ場合は、トルクを稼ぐ低速モードにスイッチ1つで切り替え可能。300rpmと遅くなるが最高6.0Nのトルクで打ち込んでくれる。2×4建材ぐらいなら余裕だ。

回転数切り替えスイッチ
クラッチの範囲が低速と高速で異なるので、筆者は色分けしてある

 ちょっと気になる点は、高速と低速モードで使えるクラッチの硬さが異なる点。筆者は、クラッチにペンで塗って使える範囲を示した。

 またガンタイプのドリルに慣れているとトリガが少し特殊なので、はじめは正転と逆転を間違えてしまう。

スティックドライバーのトリガは引くのではなくつまみを回す。反対側のトリガも連動しているので、つまみの回転が逆になる

 トリガはこのようになっていてパナソニックのロゴが見える側では、前方に倒すと正転の締め、後方に倒すと逆転の緩めになる。しかしこのトリガ反対にもついていて、ダイヤルのようになっているため、正転・逆転が反転してしまうのだ。

 いちいちパナソニックのロゴが見える側にあるかどうかを目視するのはめんどうなので、逆側のスイッチには傷を入れて、どちらのスイッチを操作しているのかを、触っただけでわかるようにするといい。

反対側に触れたときすぐにわかるように、トリガにリューターでキズを入れて使いやすくした

 趣味の組み立てPCが効率よく作業できるのはもちろん、業務でこのスティックドライバーを使えば作業効率アップ間違いなし。先日筆者は請負でハードの製作をして、900rpmとオートストップでM4ネジを1,000本ぐらい占めたが、作業の早さと疲れがまったく違う。パナソニックによれば、工場に導入してM4ネジを締めるテストをしたところ、従来品(600rpm)に比べて16%の作業時間を短縮できたという。

高速回転とクラッチ&オートストップで作業効率アップ

 筆者の作業では時間を計らなかったが、感覚的にそんな感じだったと思う。しかも筆者の場合は、以前に作業していたのは重いガンタイプドライバーで、クラッチがガガガ! だったので、手首の疲れが圧倒的に軽減された。

 またバッテリの持ちも、従来型はM4が770本のところ、本製品は2~300本まで打てるロングラン仕様になっている。

パチモンじゃなくて似てる安いインパクトに要注意!

 さてこのドライバー、まったく同じかたちをしている「インパクト」方式がある。これは回転と一緒に打撃を加えることで、ネジの締め付け力を高めるものだが、組み立てPCにとってはかえって不便なので注意したい。こちらをオススメするのは、木ネジやコースレット、タッピングネジを使う場合だ。簡単に言うと電気工事じゃなくて、大工作業系。

まったく同じかたちをしているが、こちらは大工用のインパクトドライバー。安いのでこっちを選んでしまいがちだが要注意!

 またハイコーキ(元日立)やマキタからも似たような製品が発売されている。筆者がパナソニックを強くオススメするのは、長年パナソニックのドリルを愛用しているから(笑)。

 というのはジョークで、パナソニック以外のメーカーは、バッテリ式にあわせてコンセント式の工具も作っている。つまりパナソニックは、100Vのコンセント式の工具を一切作らないバッテリ式専門メーカーなのだ。だからバッテリ駆動式のツールは、専門メーカーのパナソニックが一番進んでいるというわけ。

セミプロ級のあなたならプロ並に作業効率が上がるプロ用工具

 バッテリ式の電動ドリルドライバーならすでにガングリップタイプを持っているし、プロ用工具だから少し値段もはると、尻込みする方も多いはず。

 でもここで説明したとおり、一度使うとスティックドライバーのほうがメインになってしまうほど便利に使える。ワンタッチでドライバービットが交換でき、回転も高速。クラッチ搭載でオートストップするため、ネジにもやさしく作業効率も抜群。

 ネット通販で購入すれば、かなり割引率も高いのでぜひこの機会に使ってみてはいかがだろう?