西川和久の不定期コラム

2016年を振り返る~PCのハードウェアは安定期?

 毎年恒例の「1年を振り返る」企画。今年も試用した機器の一覧を眺めながらつらつらと書いてみた。かなり筆者個人的な趣向が強く、業界の流れとはまた違う部分もあるとは思うが、最後までお付き合い願いたい。

2015年の予言(?)を振り返りつつ2016年の概要

 この記事を書くにあたって、去年(2015年)のまとめ記事を改めて読んだ。たった1年前なのに、「Windows 10の一番気に入っている機能は、ストアアプリがウィンドウ表示可能になった」、「衝撃的だったのは、NVMeに対応するM.2 SSDの転送速度」、「Continuumを早く使ってみたい」、「iPhone 6s Plusは見送り」……など、「そうだっけ!?」と、既に当たり前の話や忘れていること、次世代になっているものが含まれている。

 ただプロセッサに関しては、やっと第7世代Kaby Lake搭載ノートがちらほら出始めたくらいで、今年の主流は第6世代のSkylakeのまま変化なし。

 Windows 10は、TH1/TH2を経て、Anniversary Updateと呼ばれているRS1へ進化。Windows Helloやペン対応の強化など、大技的な部分が加わったものの、それ以外は細々した変更だ。新目玉の機能をあまり使っていないユーザーは「スタートメニューの並びが変わった……」程度の認識でしかないのかもしれない。

 昨年、「2016年のこの記事は、Windows 10 MobileのContinuum上で書いているかも」と書いたが、残念ながら達成できなかった。相変わらず秀丸だ。理由としては、Continuumで動くUWPアプリ不足(または半端な内容)、対応スマートフォンなどの環境不足、フルスクリーンのみ……などなど。まだ期待が早過ぎた。

 RS2以降は、マルチウィンドウ、x86アプリ対応(ハイエンドSoCのみ)、さらにUSB Audio Class 2.0にも対応するらしく、加えてWindows 10本体もARM版が復活。2017年はWindows 10 MobileとWindows 10 Desktopの境目が曖昧になる時期なのかも知れない。

 個人的に2016年に「お!」と思ったのは、Windows 10/RS1のBashと、iPhone 7 PlusやHUAWEI P9/Mate 9など、まだ一部ではあるが、搭載しているカメラでボケ味が表現できるようになったことだ。

Windows 10でBashを起動し、LAMP環境が構築可能
iPhone 7 Plusのポートレートモードで背景が見事にボケている

 Bashに関しては、これまでmacOSの方がベースがUnixなのでいろいろな開発環境と親和性が高かったが、WindowsでもBash(=ほぼUbuntu)が動くようになり、グッと扱いやすくなった。喜んでいるデベロッパも多いのではないだろうか。

 ボケ味に関しては、日頃撮る写真の99%がスマートフォン内蔵のカメラなので、この表現が可能になったのは嬉しい限り(特に背景が煩い場合に効果的)。とは言え、ソフトウェア的に処理しているだけあってまだまだ開発途上だ。今後の完成度アップに期待したい。

 そのほか、macOSがSierraへ、iOSが10系へ、Androidも7系へと、それぞれバージョンアップがあった。Sierraに関しては筆者が所有する古いParallels Desktopとの相性がありそうなのでアップデートはまだ行なっていない。iOS 10は、Suicaなどの対応が嬉しいポイント。Android 7は手持ちで動作する実機がなく、HUAWEI Mate 9で少し試した程度。画面分割機能が追加され、複数のアプリを1画面へ同時表示可能になった。スマートフォンよりタブレットの方が使い勝手が良さそうだ。

 やや余談になるが、4月にご紹介したAndroidアプリがマルチウィンドウで使える「Remix OS for PC」が3.0となり、64bit、そしてAndroid 6.0対応となった。OSからGoogle Playサービスは外されているものの、簡単にインストールできるショートカットもデスクトップに配置されており、運用上は全く問題ない。これはこれで面白い環境なので、興味のある人は試して欲しい。Celeronクラスのプロセッサで軽々動作するOSだ。

 念のために筆者以外の記事も含め、2016年のバックナンバー一覧も全て見たものの、面白そうなのは10コア20スレッドの「Core i7-6950X」だろうか。他は基本的に既存の技術を使ったものが多かったように思う。そういった意味から2016年は2015年に登場した技術の安定期に当たり、想像を絶するようなデバイスやPCは出てこなかった。

 今年一般化した新しいカテゴリと言えばドローンとVR、畑違いでポケモンGO。ただこれに関しては個人的にあまり興味がなく、またデバイスも触っていないので現在のことろ保留となっている。4Kディスプレイに関してはそろそろ欲しいところか。来年2017年の課題となりそうだ。

試用してインパクトがあった製品

 今年試用した機器は、ノートPC(2in1も含む)20台、デスクトップ(スティック/All-in-Oneも含む)9台、スマートフォン8台、タブレット3台、ディスプレイ1台だった。

 この中でインパクトがあった製品は、ドンキの「ジブン専用PC&タブレット KNWL10K-SR」と、HP 「Pavilion Wave 600-a072jp」。

 前者はイチキュッパの価格からは想像できない仕上がりの2in1。この流れは昔、初代Atom N270を搭載したネットブックから始まっているが、当初はフルHDの動画が再生できなかったり、メモリが少なかったり、キーボードやディスプレイがそれなりだったり…と、(申し訳ないが)安かろう悪かろう的なデバイスだった。2008年の話なのである意味仕方ない部分もある。

 それから8年経ち、Atom x5/メモリ2GB/ストレージ32GB/10.1型IPS式HDで2in1というスペックになった。ヘビーな用途は向かないが、ちょうど筆者がSurface 3で行なっている作業程度であれば問題ないレベルになった。また扱っているのが家電量販店ではなく、ドンキと言うのもなかなか刺激的だ。来年は、できれば同価格帯でAtom x7/4GBクラスになれば、多くの一般ユーザーのニーズを満たす性能となるだろう。今後、他社も含め注目したい流れと言えよう(ただ儲からないので各社から出るとも考え難いが)。

 もう1つはHP「Pavilion Wave 600-a072jp」。四角四面のデスクトップPCがほとんどの中、無指向性スピーカーをベースにした筐体と言うのはなかなか興味深いアイディアだ。少し違うが、ボトル型もこの範囲なのかも知れない。

スティックPCに関しては一時期はやったものの、結局、小型のものはAtomで性能面でやや不満があり、少し上位のプロセッサのものは、スティックとしてはやや大ぶりなサイズ。新製品もあまり見かけなくなってしまった。来年もちょっと風変わりな形状のPCに期待したい。

ジブン専用PC&タブレット KNWL10K-SR。このクオリティでイチキュッパは衝撃的
HP Pavilion Wave 600-a072jp。四角四面のデスクトップPCではなく、こういったアイディアは面白い

今年購入したもの

 2015年はSkylakeのCore i5を使ったメインのデスクトップマシンを組んだが、今年、2016年は、そこまで大掛かりなものは購入していない。ただいろいろ細々買ったこともあり、総額的にはそれなりになっている。

 まずWindows 10 Mobile搭載スマートフォンでContinuum国内初対応のNuAns NEO。購入理由は、デザインもしゃれているが、言うまでもなくContinuumを使ってみたかったから。ただSnapdragon 617なのでWi-Fiでの画面接続となり、その後、有線による画面接続が可能なWindows 10 Mobile搭載スマートフォンと比較した場合、どうしても見劣りしてしまい、結局Continuumはあまり使っていない。

 スマートフォンはもう1台、iPhone 7 Plusを購入。これは、ポートレートモードが魅力的だったからだ。実際の使い方としてはノーマルと5:1程度の比率だろうか。少し被写体から離れる必要や暗い場所では撮れない制限はあるものの、あまりこれに当たって撮れなかったケースはなかったように思う。やはりカメラ性能がいいとメインのスマートフォンへと格上げとなり、現在お気に入りの逸品となっている。

 スマートフォンのカメラに関しては、別件で1週間ほど使ったHUAWEI P9が、発色、ワイドアパーチャモード(ポートレートモードと同じ。広角でオンにでき、前ボケにも対応)ともにかなり優秀だった。もしiPhone 7 Plusを購入していなければ、ぜひとも欲しかった1台だ。

NuAns NEO。Snapdragon 617/2GB/5inch HDのWindows 10 Mobile搭載スマートフォン。Wi-FiによるContinuum対応
iPhone 7 Plus。何と言っても最大の魅力はポートレートモード

 次にPC系は、デスクトップはなし(Jide Technology「Remix Mini」を購入したがここで挙げるまでもないだろう。またデルの液晶U2414Hをサブ用に追加している)で、ノートPCを2台購入した。

 1つはASUS「Flip C100PA」。理由はChrome OSでAndroidアプリに対応し、最初に対応機種となったから。リリース直後は不安定だったが、最近のBuildでは結構安定しており、ほとんどのAndroidアプリが利用可能だ。

 もともとChrome OSはブラウザのChromeがメインで動作する環境なので、FacebookやTwitterなどは、そのままWebインターフェースでも使えるが、DLNAプレーヤーなど、ブラウザの機能で存在しないものはAndroidアプリで補完でき、結果、欠点がほぼなくなる。またメモリ2GBの場合、多くのタブを開くと、途端に重くなるが、例えばFacebookなどソーシャル系は、アプリを使う方がメモリ効率がよく、また動作も軽い。

 アプリは、全画面、スマートフォンView(ポートレート表示)、タブレットView(ランドスケープ表示)の切替が可能。ただ、残念なのはウインドウサイズを変更できず、固定サイズになること。またアプリの作りによってはタッチでのみ操作可能なものもある。この辺りが解決すれば、スマートフォンからの移行も簡単で、既に操作方法も知っているため、WindowsやmacOSなどより、一般的には分かりやすいOSになる可能性を秘めている。ただ国内においては(米国と比較して)、価格も含めコンシューにあまり売る気がないように思えるのが残念なところ。

 もう1台は今さらながらのSurface 3。これは知人から安価で譲り受けたものだ。用途はSurface 2の置き換え。つまり、外での打合せやサーバーメンテ用のsshコンソール。3で対応となったペンもメモ替わりで落書き程度には使っている。用途が用途なだけに不満なく、頻度は低いもののお気に入りの1台だ。

 Surface 4(Proではない)は、Atom/CherryTrail以降のSoCがIntelの都合で頓挫したため、現在まだ発表されていない。先に書いたが、どうやらWindows 10がARM(Snapdragon)に再度対応するらしい。

 速度的にはそれなりに動くと思うが、問題は価格だろう。SoCでSnapdragonの最上位SKUが必要なら結構高額になる。上位にProがあるだけに、半分程度にならないとそもそも存在価値がない。3を新品で購入しなかった理由もここにある(RTや2まではリーズナブルだった)。

 Microsoftによれば、ARM版の投入は、バッテリ駆動時間の優位性を上げているが、今のx86でも、ものによってはBBenchが待ち切れないほど長時間で動作するマシンもある。最終的にどのような形で発表になるのだろうか。

ASUS「Flip C100PA」上で動作するAndroidアプリのFacebook(ポートレート表示)と、DLNAプレーヤー(ランドスケープ表示)
Surface RT、Surface 2に続き三台目。運良く知人から安価で譲って頂いた

楽しかった6月の「Raspberry Pi3 Model B」その後

 もう10年以上連載を書いているが、過去に1カ月間、同じハードウェアを使い、異なるお題で4回にまとめたことはなく、6月の「Raspberry Pi3 Model B」は個人的にも楽しめた。

 「Raspberry Pi」に関しては、このタイミングで既に話題になっており、また周囲の友人が使っていたりと、物自体には興味あったものの、実際触るのは初めて。昔からコンパクトなPCは好きだったこともあり、Linuxも含め興味深々だ。

Raspberry Pi3 Model B概要
GPIO入門。GPIOを使ってLEDをオン/オフ
昔作ったTDA1543 4パラDACを少し手直ししてI2Sバス接続
Windows 10 IoT CoreでUWPアプリを動かしpart1と同じくLEDをオン/オフ

 Par t1で“概要”、Part 2で“GPIO入門”、Part 3で“I2SバスへDACを接続”、Part 4で“Windows 10 IoT Core起動”と、一通りのことしかできなかったが、音ネタであるPart 3が面白かった。入稿後も昔作ったUSB AudioやDACなど、いろいろ引っ張り出してはサウンドチェックをした。アドオンの高性能DACボードをポチっとなする直前まで行ったもののさすがに我慢した。

 余談になるが、筆者のオーディオ機器歴を。もともと中学時代に自作の6CA7三結シングルパワーアンプとパイオニアPE-101(最近復刻された10cmフルレンジ)+自作の箱からオーディオっぽいのが始まり、スピーカーはそのまま、国内のSANSUIやKENWOODプリメインアンプをいろいろとっかえひっかえした。大学へ行く頃にはスピーカーがYAMAHA NS-1000Mになっていたが、大学途中からMcIntosh C22とMC275+JBL 4311となり、最後はスピーカーがJBL D130+LE75+JBL 4530(バックロードホーン)という超ド級のシステムになった。

 その後、仕事が忙しくなり、長年システム一式埃を被ったままだ。たまたまDOS/V POWER REPORTの連載で「Aopen AX4B533-TUBE」を触ったのをきっかけにオーディオ熱が復活。KT88プッシュやMcIntosh C34V+MC7270などもゲット。ほぼ同じタイミングで自作DACもはやり、TDA1543/1541などを使ったDACを数多く自作。この辺りまではMP3やiPhoneはあったものの、まだメイン音源はCDだった。

 それから約十年。2度目のオーディオ熱も冷め、ネットラジオを中心にBGM的な緩い聴き方のみとなっている。主な音源は、DLNA/iTunesサーバーにあるMP3。プレイヤーはiPhone 4SにDockコネクタ経由でデジタル出力できる機器を接続し、その先に自作DAC、アンプも自作(もしくは市販品の改造版)、スピーカーはALR/JORDAN Entry Siと、以前から比較するとこじんまりした構成だ。

Apple Pi(手前)とRaspberry Pi3 Model B(奥)
Wadia 151 PowerDAC mini。全てデジタル入力(4系統)でアナログ入力はない

 ただ中核となるDockコネクタ搭載のiPhoneは手持ちで4Sのみ(4はバッテリが膨張して壊れた)。以降はLightningコネクタに変更されているため、このまま使い続けるか他へ替えるか考え中のところへ、「Raspberry Pi3 Model B」を試用し、プレイヤー部分だけ置き換えた。何と言ってもWebインターフェイスで、スマートフォンやPCからコントロールできるのがとても便利だ。

 従来であればここで完了するはずなのだが、この11月に少し古いが「Wadia 151 PowerDAC mini」を購入。実は前々から狙っていたアンプでたまたま出物で安くていいのがあったからだ。と言うのも、アンプに入力しているソースは、Raspberry Pi3のUSB、PS/3の光デジタル出力、TVの光デジタル出力、(滅多に使わないが)CDプレイヤーのデジタル出力、つまり元は全てデジタル出力。DACを使ってわざわざアナログ信号へ変換していることになる。

 が、このPowerDAC miniは、光/COAX×2/USB全てデジタル入力でアナログ入力が一切なく、まんま接続可能。一気にシステムを簡素化でき、DACの音質劣化に悩む要素も無くなり一石二鳥。Entry Siとの相性も悪くない。

 これで終わるかと思いきや、あまりにも調子がいいので、随分前に仕事優先で部屋の模様替えを行ない、結果スペースがなくなりお蔵入りしていた、JBL LE8T+EC30(箱)を引っ張り出し、無理無理設置した。ご機嫌なサウンドを奏でている。

 どうやら3回目の発熱は「Raspberry Pi」が原因となるようだ。このクリスマス3連休はNutube(KORG製/ノリタケ伊勢電子の蛍光表示管技術を応用した新3極真空管)のポタアンを作って遊んでいた。何がきっかけでオーディオ病が再発するか分からないものだ(笑)。

もともとTVの左右に小型のEntry Siがあったのだが、無理無理押し込んだJBL LE8T+EC30(箱)
この三連休Nutubeを使ったポタアンを自作。回路図など詳細はこちら

実録! 俺のバックアップ術!?

 最後にいろいろな方が書かれているバックアップについて。筆者にも連絡があったものの、このネタで原稿を書かなかったのは、仕事の特性から基本バックアップは必要ないからだ。

 もちろんテキスト系はOneDriveやDropboxなどクラウドドライブで同期、写真や動画はリムーバブルHDDにデータを都度入れてはいるが(そのタイミングで1万円未満で購入可能な容量。一杯になったら交換)、RAIDにしたり、何重にもバックアップはしていない。

 理由は単純で、写真系、特にグラビアなどタレントがからんでいるものは、一度納品したらもう二度と開かないし二次利用しない(できない)。このためもしHDDが飛んでもさほど困らない。

 原稿はどこかのサイトに掲載されている上、どのみち流用できず、プログラム系は納品先のサーバーでオリジナルが動作している上に、バックアップ(もしくはテスト)サーバーがあり、さらに間に入っている会社にバックアップがあるなど、多くのケースでネット上にデータがあり、昔のようにオフラインでのバックアップは必要性がなくなってしまったからだ。

 従ってこれでは記事にならないので書かなかった。データが飛んで困るとすれば、唯一音楽データだろうか(プライベートな写真は何処かのクラウドに自動転送済)。これに関しては運が悪いと諦めて、頻度の高いものから整理しつつリッピングし直せばいい。ついでにロスレス圧縮にしたいところ。

 以上、2016年を振り返りつつ、最後は筆者個人のまとめ記事のようになってしまったが(笑)、概ねある意味平和な1年だったように思う。

 来年2017年最大の興味ポイントは、再びWindowsがARMに対応し、更にx86エミュレーションを行なうことだろう(PowerPCからIntelへ移行したMacと逆だ)。多分、タイミング的に2017年のまとめ記事ギリギリになりそうだが、今から楽しみにしている。