西川和久の不定期コラム

iPhone 7 Plusポートレートモード(β)編

~気になるボケ具合と、その使い勝手をミニレポート!

 iOS 10.1が公開され、β版ではあるものの、「iPhone 7 Plus」でポートレートモードが使えるようになり、早速いろいろ撮ってみた。ことカメラに関しては、文字で書くよりも、実際撮った写真を見た方が分かりやすいため、作例主体に構成した試用レポートをお届けする。

効果抜群だが35mm換算57mmのスナップは難しい

 iPhone 7 Plusの背面カメラは、4mm(35mm換算28mm)f/1.8のワイド(光学手ブレ補正あり)と、7mm(35mm換算57mm)f/2.8のテレ(光学手ブレ補正なし)、2つのカメラを搭載する。標準のカメラアプリでは画面に[x1]の表示があり、ここをタッチすることによって、x1とx2を切替可能になっている(ただし、シーンによってはx2でもx1のデジタルズームを使うケースもある)。また多くのカメラアプリも、少し遅れてワイドとテレの切替に対応した。

 これだけでも従来のiPhoneとは違う写りになるのだが、iOS 10.1になり、β版という扱いだが、背景をボカすことができる待望の「ポートレートモード」が標準カメラアプリへ追加された。百聞は一見にしかず、その比較例をご覧頂きたい。

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ポートレートモード/オフ
ポートレートモード/オン

 いかがだろうか。ポートレートモード/オンの時は背景がボケているのがお分かり頂けると思う。設定でボカしのない”通常の写真を残すON/OFF”ができ、オンにした時に得られる写真との比較なので、全くの同一カットとなる。この絵は、従来のiPhoneでは絶対無理だったものであり、画期的だ。以下、フルオートで露出補正なし、色被りなども触らず、撮って出しのJPEG作例を12枚掲載する。

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 ポートレートモードに切替えると、自動的にx2に切替わり(x1では撮れない)、[被写界深度エフェクト]という文字が画面上に表示される。ただ、ある程度距離が必要で、近過ぎる時には「離れてください。」、遠過ぎると「被写体を240cm以内に配置してください。」とガイドされ、ポートレートモードがオンにならず、暗い場合は「もっと明るさが必要です。」と表示される。暗い場所で撮れないのは、テレ側に光学手ブレ補正がないのも影響していると思われる。

 この条件とは無関係で、なかなかオンにならなかったケースは、長方形の看板的なものが構図に大きく入るケースが多かった。作例では、カフェのテーブル(S09.jpg)がこれに相当し、たまたまオンになった時の1枚を掲載している。それ以外はバシバシ撮れ、ワイド側で普通に撮る時とあまり差は感じなかった。ボケ方も背景の距離で違いがあり、割と自然で好印象だ(ボケ味は固定で強弱は調整できない)。

 ただ、スナップするという意味で、x2の35mm換算57mmは、扱いが難しい焦点距離だ。建物などの引き絵を撮るような構図には向かず、一般的に何かをクローズアップするような撮り方となる。が、街中をプラプラ散歩しても、なかなかそのような被写体には巡り合わず、結果歩く距離だけが長くなる(笑)。

正にポートレート専用か!?

 前置きが長くなったが、“ポートレートモード”なので、ポートレートを撮影した。モデルは前回同様、未桜(みお)ちゃん(@LuvCan;D)。なおこちらの作例は、ポートレートモードオン/オフ、x1/x2比較、椅子に座っている、白い建物が背景の引き、メイク中@室内カット以外は、標準の写真アプリで、明るさや色被りなどを(補正しきれてないが)若干補正している。

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ポートレートモードOFF。ボケ味が分かりやすいよう、普段なら構図から外す後ろの電柱や掲示板も入れてある
ポートレートモードON

 まずポートレートモードオン/オフの比較は、撮った瞬間「おー!」という感じだ(笑)。これがスマートフォン内蔵のカメラで撮れるのだから、凄いの一言。前回、同じ場所で一眼レフとの比較を掲載したが、それに近いボケ味が出ている。これは期待大、とテンション高めで撮影を続けた。以下、12枚(屋外7枚/屋内5枚)の写真を掲載する。

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 一発目は「おー!」だったが、実際にポートレートを撮影し続けると、意外と難しい。まず一番は被写体との距離。構図やポーズにも左右されるが、大雑把には“寄りはバストアップ”まで、“引きは膝上?”までとなる(彼女は159cmと小柄なので、背が高い子だと膝上は無理かも知れない)。つまり、被写体と離れすぎてポートレートモードがオンにならず、全身の撮影はできない。

 寄りはともかく、引きは結構重要で、全身は無理にしても、せめて膝上程度は撮れないと、スカート(もしくはショートパンツなど)から下の足が入らず、色気も何もなくなってしまう。掲載したカットは、たまたま膝前後から写っているが、撮影中はスカートちょい下ギリが多かった。

 加えて何がファクターか分からないが、室内で正面を向いて座っている眼鏡のカットは、手前の手が途中で切れている。通常、筆者はこのような撮り方をしないのだが(つまり手は全て入れる)、これより少しでも離れると「被写体を240cm以内に配置してください。」と表示され、ポートレートモードにならなかった。横向きに座っている写真も、これが一杯で離れることができず、ポージングと距離が限定されてしまう。

 また、β版だから未対応なのか、完成しても未対応なのか不明だが、前ボケはしない。作例だと、緑の後ろに座っているカットがこれに相当する。例えば、今のシーズンだと、手前に思いっきりぼけた紅葉を入れるようなポートレートは撮影できない(余談になるが「HUAWEI P9」もデュアルカメラだが、前ボケやボケ味調整にも対応している。ただしP9のカメラは2つとも焦点距離が同じ)。

 ここまではポートレートモード固有だが、カメラ全般としては、フルオート撮影なので、明らかにAWBが狂っててもどうにもできず、また、日向&逆光でレフを使って光を起こす、ポートレートにありがちな撮影シーンでは、ある程度距離を取ると背景の明るさにAEが引っ張られ、被写体がアンダーになる(紅葉バックの写真が該当する)。

 一応、標準のカメラアプリは露出補正が付いているので、補正自体は可能なのだが、シャッターを切るか、フォーカスを合わせ直すとリセットされ、これを毎回するのは結構手間。できれば他社製のカメラアプリでも良いので、RAW対応や露出固定できるカメラで、ポートレートモードが欲しいところ。

 このAWBやAEの件は、おそらく被写体をバストアップ程度に撮れば、背景の光の影響が少なくなるため、ヒット率は高くなると思われるが、一発狙いならともかく、同じ絵ばかりになり面白みに欠ける。

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x1(35mm換算28mm)で撮影。ありがちなカフェなどで対面の距離
x2(35mm換算57mm/ポートレートモード)で撮影

 最後にもう一点、それはポートレートモードはx2(35mm換算57mm)でしか使えないことだ。今回のように、レフ板まで持ち出してiPhone 7 Plusでポートレートを撮ることは普通ないだろう。ありがちなケースとしては、カフェなどで対面に座っている時に……となるが、その写りはご覧のようになる。この時は、たまたま四人掛けのテーブルの対角だったので少し距離があるものの、対面だと、構図はバストアップに更に寄り、顔+αしか収まらない。これでは近過ぎる。

 これらいろいろな理由(AWB/AE/距離)から、このポートレートモードは、被写体が人の場合は「バストアップ専用のポートレートモードでは?」という印象だ。多分、Appleもそう思いつつ、このモードを作っているのではないだろうか。

 いずれにしても、これまでスマートフォンでは撮れなかった絵という意味では画期的だが、一眼レフに迫るというレベルには達していない。中途半端だが、あればあったで楽しめる的な微妙なモード……というのが、筆者の正直な感想だ。


 以上のように、iPhone 7 Plusポートレートモード(β)は、背景がしっかりボケる、スマートフォン内蔵のカメラ機能としては驚くべきものだ。ただ35mm換算57mmと言うこともあり、スナップするにしても、人を撮るにしても、シーンはかなり限定的だ。普段は普通のx1で撮影し、ワンポイントで使うケースが殆どではないだろうか。またβが取れた時に、何が良くなるのか気になるところだ。いずれにしても(失敗を恐れず)、気軽に使って楽しみたいモードと言えよう。

一眼レフ54mm相当(APS-C/35mm)、F値2.8で撮影(同じ位置から撮影しているが、作例に近くなるようトリミング)。iPhone 7 Plusのポートレートモードと比較するまでもなく、ボケ味も発色も抜群だ。今後スマートフォンのカメラで、ボケ味を含めた写りがどこまで迫れるかだが、キーはRAW対応かも