実録! 俺のバックアップ術

NAS+3種のクラウドストレージで、TPOに合わせた万全のバックアップ体制

~甲斐祐樹編

 普段は気にしないけれどやっておかないと後で痛い目を見る、それがデータのバックアップだろう。筆者の場合、自宅のNASに加えてDropbox、Googleドライブ、OneDriveという主要クラウドストレージを活用してデータをバックアップしている。

 これだけのサービスを使い分けているのは、プライベートと仕事という切り分けだけでなく、筆者が会社員とライターという2つの立場を持っているためだ。特殊な例だとは思いつつ、それぞれのサービスと利用シーンごとに筆者のバックアップ術を紹介したい。

データアクセスが快適な自宅NAS。ワイヤレス映像伝送機能も魅力的

 自宅のNASは、以前に製品をレビューした経緯からQNAPの「HS-210-D」を導入している。製品の詳細は僚誌AV Watchのレビューを参照して欲しいが、外出先からも利用できるリモートアクセスに加え、アプリケーションを追加することで機能を拡張できるという点に魅力を感じたことから導入、自宅のメインNASとして現在も活躍中だ。

HS-210-D

 NASの用途はプライベートなデータの管理で、具体的には旅行の写真や購入した音楽などを保存している。元々写真はコンデジ派で、最近ではスマートフォンで写真を撮ることも多くなっているため、ストレージの容量はさほど必要ない。RAWで写真を撮るような写真好きであれば2TBでは全然足りないかもしれないが、今のところはここ10年近い写真をほぼ保存していても1TBを超えていないため、2TBという容量はほぼ無限に感じる大きさだ。

HS-210-Dの管理画面。PCのようなUIで使いやすい

 クラウドストレージではなく自宅NASに保存するのは、前述のレビューでも触れた通り、アクセス性の高さだ。過去の写真を見たい、保存した動画をストリーミング再生したいという時に、インターネット経由のクラウドストレージに比べてNASの速度は明らかに速くストレスもない。筆者の場合、NASには数百ページを超えるPDFを大量に保存しており、そうしたPDFを後から見返す時にも、NASアクセスならストレスフリーだ。

 また、HS-210-Dはリモートアクセスに加え、ChromecastやAirPlayといったネットワーク再生機能を搭載しているのも魅力の1つ。元々筆者がこうしたネットワーク再生機器が大好きであるということもあるが、NASに保存した動画や音楽を手軽にテレビで再生できるのは一度試すとなかなか手放せない存在だ。

AppleTVやChromecastといったネットワーク機器にも対応

 NASの構成は2TBのHDDを2基装着し、ミラーリング設定することでハードウェア故障に対して最低限のバックアップを行なっているが、筆者はさらにCloud Drive Syncというアプリケーションを使い、クラウドストレージへのバックアップも行なっている。

HDDは2台でミラーリング設定

 このCloud Drive Syncは、NASのデータをフォルダ単位でクラウドストレージへアップロードし、バックアップできるという機能だ。対応サービスはDropbox、Googleドライブ、OneDriveといった主要サービスに加え、フランス系のクラウドストレージであるhubiCにも対応。OneDrive for Businessも、ベータ対応ながらサポートしている。

Clouid Drive Sync
主要なクラウドストレージをサポート

 設定はシンプルで、同期したいサービスと連携した上で、保存したいフォルダとサービスを指定する。同期するフォルダはサービスごと個別に割り当てられるので、「動画はOneDrive、写真はDropbox」という使い分けも可能だ。ただし同期設定はフォルダごとに行なうため、「NASのデータを全てこのサービスにバックアップ」という使い方はできず、NAS直下のフォルダを個別に同期設定する必要がある。

NASの指定フォルダをクラウドストレージにバックアップできる

 ミラーリングという物理バックアップも行なってはいるものの、これは故障時にデータ消失する確率を下げる効力はあってもパーフェクトではない。地震や火災などでNASそのものが破損してしまえば、ミラーリング以前の問題だ。ローカル利用時のNASの使いやすさはそのままに、いざというときのバックアップ環境としてクラウドストレージに料金を支払うのは十分に性能の高いバックアップだと割り切って、このような体制を構築している。

Officeに1TBの容量がついてくるOneDriveをメインのクラウドストレージに

 続いてクラウドストレージの使い分けだ。3つのサービスのうち、メインで利用しているのはマイクロソフトのOneDrive。これはOffice 365を契約すればもれなく1TBの容量が使えるというパフォーマンスの高さに加え、機能は制限されるものの、ExcelやWordといったOfficeドキュメントをブラウザでも扱える、というのが大きい。

OneDrive

 ビジネスでOfficeの利用が必須な筆者にとって、以前までPCはOfficeプリインストールモデルであることが必須条件だったが、最近はOffice 365のおかげでOfficeが付属しないPCでも気軽に手を出せるようになった。月1,000円程度で常に最新のOfficeを2台までのPCにインストールでき、さらに1TBのクラウドストレージ容量が手に入るというコストパフォーマンスの高さに加え、Office 365を使い続けている限りOneDriveも使うであろう、というのがメイン利用している理由だ。

ブラウザでOffice文書をそのまま開ける

 自宅やオフィス、外出先で異なるPCを利用しているため、保存データはOneDriveに保存、どこからでも同じファイルを取り出せるようにしている。一方、クラウドをメイン利用しているためPCのストレージは少なめにしており、最も容量が大きいPCでも256GB、他のPCは128GB程度。

 これでは容量が増える一方のクラウドストレージ全てをPCに同期することが難しいため、クラウドストレージではデータを分類するフォルダ内でさらに「Archive」というフォルダを作成し、しばらく使うことがないデータを「Archive」フォルダに移動してPCとは同期しない設定とすることで、ストレージの空き容量をこまめに稼いでいる。

しばらく使わない大容量ファイルは「archive」フォルダに移動してPCのストレージを節約

会社でのやり取りは会社アカウントのGoogleドライブ

 とはいえ、前述の通りあまりファイル容量を必要としない筆者は、OneDriveの使用容量も現状で50GBを切る程度のため、容量だけで言えば、ほぼOneDriveだけでまかなえてしまう。それでもクラウドストレージを使い分けるのは、業務の違いという理由も大きい。OneDriveは個人のPC用に契約していることもあり、基本的にはライター業務など個人利用のファイルを保存しているが、会社の仕事でやりとりしている相手とは会社のアカウントでファイルをやり取りすることにしている。それは筆者が退職したり、もしくは体調不良で仕事から離れるといった時にも引き継ぎがしやすいからだ。

Googleドライブ

 筆者の務める会社はG Suite(旧名称Google Apps)を利用しており、Googleドライブも利用できる環境のため、会社の業務でやり取りするファイルはGoogleドライブに保存している。最近ではメールに添付できるファイル容量も拡大しているが、それでも時折メールをやり取りすると「ファイルが大きすぎて受け取れない」という返信をもらう機会も少なくない。そのため、大容量ファイルはこまめにGoogleドライブに保存し、メールにドライブのURLを記載して送るようにしている。

 こうしたメールのやり取りは一時的なものも多く、相手にファイルが渡ればそのファイルは削除して良い場合も多い。また、Googleドライブのストレージ容量はGmailの容量と共通なため、ドライブに大容量ファイルを保存したままにしておくと、Gmailで使える容量が少なくなってしまう。そのためGoogleドライブでは、相手と一時的に共有したいファイルを保存するための「share」フォルダを作っておき、その中に共有した日付のフォルダを作成してファイルを保存するようにしている。Gmailの容量が少なくなってきたと感じたら、shareフォルダを確認して古い日付のファイルを削除する、という流れだ。

日付でフォルダを管理。長期間使わないファイルはこまめに削除

フォルダ同期が魅力的なDropbox

 最後に残ったDropboxは、主に業務で同僚とのファイルやり取りなど、社内利用する時がメインだ。容量や料金、基本的な仕組みはほぼ同じに思えるクラウドストレージだが、Dropboxだけが唯一「PCのフォルダを他のユーザーと共有できる」機能を持っている。Dropboxユーザーには釈迦に説法かもしれないが、相手と共有したPCのフォルダにデータを保存すると、相手先のPCフォルダで自動的にダウンロードされ、同様に相手が自分のPCに保存したファイルも自分のPCへ自動的にダウンロードされる、という仕組みだ。クラウドストレージ上には保存されるのだから自分でダウンロードすればいいだけなのだが、これが自動で保存される便利さは一度体験すると病み付きになる。

Dropbox

 ただし、この仕組みの難点はファイルの容量を自分でコントロールできないことだ。たとえば自分の容量が残り10GBを切っている時に、相手が10GBを超えるファイルを共有すると、新しいファイルを一切保存できなくなる。また、Dropbox自体の容量に余裕があっても、自分のPC容量が足りない場合、同様に相手が自分のPCの残り容量を超えるファイルを保存すると破綻してしまう。

自動的にファイルをダウンロード/アップロードできる同期機能が魅力

 こういう事態を防ぐためには、Dropboxの容量が多いに越したことはない。これが前述したQNAPの「Cloud Drive Sync」でDropboxを設定している理由だ。OneDriveも1TB以上の容量があるため、バックアップ用途に使えなくはないのだが、ほかのサービスに比べるとメイン利用しているだけに利用している容量も多く、いつかNASの利用容量が大きくなったときにOneDriveにも影響を及ぼしてしまう。そのため、利用データ量は比較的少なく、機能としても便利なDropboxをバックアップ先に選んだ。

NAS+3種のクラウドストレージでデータが無くなる心配から解放

 NASという物理ストレージとクラウドストレージを組み合わせることで、いざというときのデータ消失という点ではほとんど不安を感じなくなった。その分、月額料金はOneDriveとDropboxで月に2,000円近くかかっているが、OneDriveはOffice利用という点で料金の分は十分に使っている実感があるし、Dropboxもいざというときに大容量ファイルをPCのフォルダに保存するだけで簡単に相手へ渡せる、というメリットがある。何より、いざデータが消失してしまうことを考えれば、Dropboxへ毎月1,000円程度を追加で支払う費用は決して高くない、と考えている。

 クラウドストレージの利用歴も長くなり、大事なデータは常にクラウドストレージへ保存し、デスクトップなどPCローカルに保存するのは後で削除しても良いファイルばかり、という使い分けも体に染みついてきた。筆者のようにNASと複数のクラウドストレージを活用するのはやりすぎとしても、いざというときに泣きを見ないよう、なにかしらのデータバックアップはこの連載をきっかけにぜひ考えてみて欲しい。

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