オシロスコープで遊んでみました



 前回はアジレント・テクノロジーを取材して、いろいろな測定器を見ました。どの機械も興味深かったのですが、もっとも気になったのはやはりオシロスコープです。我々も、前回紹介したデモのように、さまざまな信号を自在に表示してみたいものです。

 今回のプロトタイパーズはオシロスコープがテーマです。

 取材のとき、オシロスコープの説明を伺っていて、疑問に思ったことがありました。アジレントのラインアップでは、幅広い価格帯の製品が用意されています。もっとも安いものは10万円台。高いものはその100倍以上します。仕様がまったく異なる製品の値段が大きく違うのはわかるのですが、帯域100MHzの機種だけを比べても、数倍の開きがあります。いったいどこが違うのでしょうか? そして、もし我々のような電子工作好きが購入するとしたら、どのあたりの機種を選べばいいのでしょう?

 この疑問について、実際の製品に触りながら説明を受けました。取り上げた製品は、DSO1000、DSO5000、DSO7000の3シリーズです(全機種のリスト)。

アジレントの最も安価なオシロスコープがDSO1000シリーズです。エコノミーグレードに相当します。100MHz/2chのDSO1012Aの参考価格は158,284円。小型で、ちょっとかわいいたたずまいです
ミッドレンジ製品のなかで最安価なDSO5000シリーズは518,456円(100MHz/2ch)から1,271,211円(500MHz/4ch)です。今回試用した3機種のなかでは、真ん中のグレードになります
DSO5000を横から見たところ。シンプルです
ミッドレンジの上側に位置するDSO7000Bシリーズは新しい製品です。100MHz/2chのDSO7012Bは578,228円
今回試用したのは、DSO7000Bの前身となるDSO7000AシリーズのDSO7014Aです。前から見るとかなり大きく感じるのですが、接地面積はそれほどでもなく、取っ手のおかげで持ち運びも簡単です

 このように価格がハッキリ違います。「もし自分が買うとしたら……」と考えると自動的にDSO1000シリーズを選んでしまいそうになるのですが、そのことをアジレントの方に伝えると、エコノミーグレードとミッドレンジの使用目的の違いについて説明をしてくれました。

 エコノミーグレードは製造ラインでの出荷検査が主な用途に想定されていて、すでに性質が「分かっている」信号の測定が第一に考えられています。一方ミッドレンジのオシロは、開発、テスト、デバッグといった状況で、まだ正体が「分からない」信号を調べる能力が重視されています。

 我々がするような電子工作も(レベルの差こそあれ)開発であり、その過程でのテストやデバッグがオシロを使う主目的とするならば、ミッドレンジの製品こそがふさわしい、という見方もできそうです。

 ちなみに、ハイエンド製品の使用目的はコンプライアンス・テスト、つまり標準規格への適合を確認することで、前回の取材で見たように、専用のアプリケーションを使って波形の正確さを調べるときに威力を発揮する機種が用意されています。

 アマチュアの電子工作にもミッドレンジのオシロがいい、という話を踏まえて、我々は比較テストをしてみることにしました。Sparkfunのオシロスコープ用時計キット“o-clock”の表示を見比べます

o-clockはオシロスコープにベクターグラフィクスを表示するためのマイコンボードです。アナログ時計のプログラムがあらかじめ書き込まれており、オシロにつないでXYモードに設定すると、次のような画面が現れます
針式の時計がきれいに表示されています。このオシロは我々のメンバーがオークションで入手した古いアナログ型で、ブラウン管の前にカメラを置いて撮影しました。デジタルオシロでも、このように美しい線が出るでしょうか
DSO1024Aに接続してテスト中。o-clockとは2本のプローブで接続します。XYモードに設定して、ツマミをいくつか調節すると、時計が現れました。表示させることは難しくありません
時計は読み取れますが、解像度が不足している感じです。また、線がとぎれとぎれです
DSO5054Aでは情報の欠落がまったくありません。解像度も十分です。アナログオシロと味わいは異なりますが、これならベクターグラフィクスを楽しむ気になりますね
MSO7104Aでの表示です。写真では、先ほどのDSO5054Aとの違いはわかりませんが、画面サイズが大きい分さらに見やすいです

 エントリーグレードとミッドレンジのもっとも顕著な違いは、画面の解像度と更新スピードです。細かくて速ければ、それだけ情報量が多くなります。とくに、出現頻度が低い波形を観測するとき、この差が効いてくるそうです。

DSO1024Aでビデオ信号を表示してみました。信号はすぐに捕まったものの、少しチラチラします(パラメータを調整すると完全に止まります)。波形はつぶれ気味です。これは液晶ディスプレイの解像度の限界によるもので、しょうがありません
DSO5054Aでの表示。一発でピタリと止まり、波形も詳細です。カメラの向きを変えると、滑らかに画面のなかの信号も変化します

 3つのオシロを並べて、ほかにもいくつかの信号源を接続してみました。使えば使うほど「ミッドレンジはいいな」という気持ちになりました。でも、購入者の視点では価格も重要です。我々にとっては、解像度の低さにさえ目をつむればDSO1000シリーズも必要十分という印象でした。置き場所をとらない小ささも良いところです。自分の机の上にある様子が一番想像しやすいのはDSO1000ですね。

 さて、せっかくいいオシロをお借りしているのですから、回路作りに活用しないともったいありません。ブレッドボーディングの結果を測ってみましょう。

 題材はヘッドフォンアンプです。Jeong-Seob Shinさんが考案したA47と呼ばれる回路をベースにしています。ブレッドボードにサンハヤトの電源内蔵タイプSRX-32PSを使用してみました。

この回路図は片チャネルのみを表しています。ステレオアンプにする場合は、同じ回路を2つ作り、左右2チャネルとします。三角形の記号はオペアンプです。原理がわかるよう素子ごとに記述しましたが、実際のオペアンプはICのなかに何個かまとめて収納されています。次のピン配列図と照らし合わせて、接続してください。電源まわりの配線(回路図の赤い部分)も忘れないようにしましょう
OPA4227という4素子入りのオペアンプICを使いました。これならば、1個のICでステレオに対応できます。手に入れにくい場合は2素子入りのOPA2227を2個、あるいは1素子入りのOPA227を4個使う手もあります。いずれの場合も、電源ピンの接続を忘れないようにしてください
サンハヤトのSRX-32PSは電源を内蔵しているとても便利なブレッドボードです。ACアダプタを接続するだけで、ブレッドボード上の端子から電源が供給されます。+15Vと-15Vを同時に出力できる電源を搭載しているので、今回のようなオペアンプの実験に最適です
+15Vと-15Vのラインを取り違えないよう注意してください。GNDが2カ所ありますが、どちらか近い方につないでかまいません

 この回路ではOPA4227に限らずさまざまなオペアンプが使えます。もっと入手しやすいもので試してみてもいいでしょう。

 ジャックやボリュームの接続については、ブレッドボーダーズ第10回第11回を参考にしてください。

 できあがったら、試聴の前に測定です。

CDプレーヤーを接続し、オーディオテストCDの正弦波を作ったアンプに入力して、DSO5054Aで測定しました。これはそのキャプチャ画像です。上段が入力側、下段が出力側。縦方向の振れ幅がおよそ3倍違いますね。信号がアンプを通って大きくなったということです。理論値(3.12倍)に近い増幅率になっています。回路は正しく動作しているようです
信号を入力しない状態でオシロの設定をミクロな方向に変更していくと、細いトゲのような波形が見えてきました。これはたぶんブレッドボードの電源からのノイズ。36KHz付近の信号なので、人間の耳には聞こえないはずです。実際にヘッドフォンをつないで耳を澄ましてもまったく感じられないのですが、本当に影響はないのか、少し気になります……

 試聴したところ、ノイズもなく素直な音のするアンプになっています。聴いてみて自分が納得できればOK、ということでいいのですが、今回は測定がテーマですから、性能をもう少し詳しく調べてみましょう。

 ただし、オシロだけを使ってそれをやろうとしても我々の技術がついていかないので、専用の測定器をアジレントからお借りしました。最新型のオーディオ・アナライザU8903Aです。オーディオ機器のさまざまな特性を高い精度で調べることができる測定器で、参考価格は1,297,768円となっています。オーディオ機器に信号を与え、出てきた信号を分析することで、品質を数値化します。

ブレッドボードA47アンプを測定中のU8903A。歪みと雑音の程度を表す指標THD+Nは0.012%前後です。電源ノイズの影響はない、という判断で良いでしょうか
U8903Aの出力をアンプの入力に、アンプの出力をU8903Aの入力につなぎます(それぞれ2chです)。接続はこれだけ。測定時の操作もわずかなキー入力だけです
オシロスコープのように、時間軸での変化を表示することもできます

 オーディオ・アナライザを使うことで、高級オーディオ機器のカタログに載っているような指標を簡単に得ることができます。自分が作ったアンプの性能がそうした数字で表されるのは愉快でした。いつか自分のものにしたい測定器の1つです。

 ここからは、取材のこぼれ話です。

 オシロスコープを使って壁のコンセントに来ている電気(AV100V)の波形を見るにはどうすればいいのでしょう?

 単純にプローブ(先端が端子になっている棒)を当てればいいような気はするものの、実際にやってみるのはちょっと怖いですね。そこで、アジレントの方にやりかたを教わりました。

 直伝の方法は……プローブを当てるだけです。ただし、グラウンド側のミノ虫クリップは不要で、コンセントの片側のみにプローブ先端を接触させます。自分で試すときは、指が端子に触れたりしないよう十分注意してください。

コンセントの片側の端子にプローブを当てます。波形が見えない場合は、もう一方の端子に当てます
きれいな正弦波が現れるはずでしたが、この電源の波形はちょっとデコボコしています
こちらは4月に発表された新しいオシロスコープInfiniium 90000Xシリーズに搭載されているチップの写真。業界最高速の帯域32GHzを達成するために開発されたアナログICです。美しいですね
立体的な構造になっていて、盛り上がっている金色の帯はシールドの役目をする層です。32GHzのオシロが必要となる分野1つは、SATA/SASなどの高速シリアル通信とのこと。PCの高速化の陰にはこうした最新の測定技術があるわけですね