ヘッドフォン・アンプを作ろう(後編)




 前回はヘッドフォン・アンプを1枚の小さなブレッドボードの上に組み立てる方法を説明しました。いい音で鳴っているでしょうか?

前回作ったヘッドフォン・アンプ。中央の8本足のICがLM4881です

 アンプの心臓部となるICに「LM4881」を使った理由は2つあります。1つは最小限の部品数で確実に動く回路が作れること、もう1つは日本語に翻訳された比較的詳しいデータシートが用意されていることです。

 データシートは、部品のメーカーが提供する仕様書です。その部品の限界や性能に関するデータがまとめられており、また、回路の例や使用上のヒントが記載されていることがあります。インターネットとWWWの普及により、データシートは簡単かつ無料で入手できるようになりました。素晴らしいことです。

データシートを見ながら、その部品の使い方をあれこれ考えるのは楽しい時間の過ごしかたです。本来はプロの設計者が使う資料として書かれたものなので、全部を理解することは困難ですが、わかる範囲だけでも目を通しておけば、役に立つことがあるはずです。LM4881の日本語データシートはナショナル・セミダクタからPDF形式でダウンロードできます

 LM4881のデータシートに記載されている回路図を基に、若干のアレンジを加えてから清書したのが、前回の回路図です。アレンジした部分は、スイッチの有無と電解コンデンサの値です。

 スイッチは、電池ボックス側で供給する電源そのものをオンオフすることにして省略しました。

 電解コンデンサは入手性を考慮して、1μFと220μFの2種類に絞りました。値は、データシートのグラフと試作機をテストした際の聴感を元に決めたものですが、後で説明するとおり、変更の余地があります。

前回の回路図を違う書き方でまとめたものです。意味するところはまったく同じです。電源のプラス側とマイナス側(GND)の接続を記号で置き換えています。こうすることで、図中の線が減り、見通しがよくなります。そのかわり、電源の配線を頭のなかで補足する必要があります。図の赤のエリアと青のエリアのなかはつながっているので、実際の回路を作るときには配線を忘れないでください

 このアンプを使ってみると、電源のオンオフ時の「ポンッ」というポップ・ノイズが耳障りに感じるかもしれません。これをなくす方法はあるのでしょうか。

 簡単な実験から得た印象をまず言いますと、この回路のまま完全に消すのは難しそうです。

 C3とC4の電解コンデンサの容量を220μFから一気に10μFにすると、電源投入時のポップ・ノイズはだいぶ減り、不快でないレベルになりました。しかし、そうすると音質も大きく変化します。これは、データシートからも予測できる現象で、出力側コンデンサの容量を小さくすると、低音のレベルが減少することを示すグラフが記載されています。オーディオの世界では良いアンプに対して「低域から高域までフラット」という言い方をすると思いますが、低域側がフラットでなくなるわけです。

 電源投入時のポップ・ノイズと低音レベルの関係だけに着目すると、トレードオフのようです。我々は手持ちの電解コンデンサを差し替えながら検討し、結局最初の220μFに戻しました。

 こういう試行錯誤をしていると、電子回路の奥深さを感じるとともに、どんどん部品を取り替えながら実験できるブレッドボードの便利さがよくわかります。

 なお、なんとしてもポップノイズをなくして快適に使いたい、という人は、シャットダウン回路を有効にする改造に挑戦してください。データシートの回路図にあった抵抗器とスイッチを組み込むだけです。このスイッチを切るとシャットダウン・モードに入り、音が消えます。切れる瞬間にも雑音が少し聞こえますが、だいぶマシです。シャットダウン中の電源のオンオフはポップノイズを生じません。一手間増えるものの、電源スイッチとシャットダウン・スイッチを順番に操作することでポップノイズを避けることができます。

シャットダウン回路を有効にする場合は、この回路図のようにLM4881の5番ピンの部分を改造します。10KΩのカーボン抵抗器とオンオフを切り替えるスイッチが必要です。スイッチを切るとICはシャットダウン・モードに入り、ごくわずかな電流しか流れなくなります。ただし、LEDには流れたままですので、完全に止めるときは電源もオフにしてください
オーディオ好きの方なら、電解コンデンサをいくつか用意して、差し替えながら音質の変化を調べてみると楽しいかもしれません。データシートによると、C1とC2は0.1μF~10μF、C3とC4は47μF~2,200μFの範囲で検証されているようです。容量を変えてテストするときの目安にしてください。写真は東信工業の音響用電解コンデンサです。製品情報
電源は乾電池2本を使って3Vとしています。ニッケル水素充電池(1.2V)を使いたい場合は、LM4881は2.7Vから5.5Vの範囲で動作するので、3本をセットにするといいでしょう。電池ボックスはスイッチ付きのものを使うと便利です

 操作性の面で、今回作ったアンプのもっとも不便なところは、ボリュームでしょう。半固定抵抗器による調整ではドライバが必要で、しかも、左右別々にやらなくてはいけないので、あまり実用的とはいえません。我々としては、その手間も楽しんで欲しい、とか、左右のバランスが精密に調整できて便利かもしれない、といった言いわけもできるのですが、やはりちょっと面倒です。

 この不便は2連可変抵抗器を使うだけで解決できます。2連可変抵抗器は2つの可変抵抗器を重ねて、1本の軸で同時に調整できるようにしたもので、ステレオ・アンプに使えば、左右の音量を同時に変化させることができます。

 しかし、大きな問題があります。ブレッドボードでそのまま無理なく使える製品がありません。もしかすると我々が知らないだけかもしれませんが、まだ見たことがありません(もしご存じの方がいらっしゃったら教えてください)。

 ないならば半固定抵抗器2個で代用しよう、というのが前回の作例における解決方法でした。もう1つの方法は、ブレッドボードで使えるよう改造するというものです。

共立エレショップの2連可変抵抗器。10KΩのものを検索すると、AタイプとBタイプの2種類がヒットします。軸を回したときの抵抗値の変わり方が異なり、アンプの音量調整用にはAタイプのほうが適しています。Bタイプでも動作します
改造例です。基板用2連可変抵抗器を小さくカットしたユニバーサル基板にハンダ付けし、ついでにジャックも取り付けました。基板は両面タイプで、下面のピンがブレッドボードに刺さるようになっています。ここまでやると、手間のかけすぎ、という気も少しします
ジャックの改造例です。たんにヘッダー・ピンをハンダづけしただけです。このくらい単純な改造のほうが、費用対効果がいいかもしれません
2.54mmピッチのピンを用意しておくと、ブレッドボードにそのまま挿すことができない部品が出てきたときに対応できます。ピンが四角いタイプと丸いタイプがあり、丸いほうが抜き挿ししやすいのですが、やや高価です。共立エレショップでどちらのタイプも購入できます。製品情報
ケーブルを直接ピンにハンダ付けしています。この例では、RCAプラグがついたシールド線をL字型のピンヘッダに取り付けました。ちょっと乱暴ですが、こうするとジャックを使わずブレッドボードに接続できます。白と黄色の「皮」は熱収縮チューブです。ショートしないよう保護しています
電池ボックスのリード線を直接ブレッドボードに挿すことを繰り返していると、芯線がヨレヨレになって困ります。皆さんのリード線もそろそろこんな感じになってきたんじゃないでしょうか。ターミナルがついたブレッドボードを使うとヨレヨレの線も接続できます。ハンダ付けで解決する方法もあります
電源用の小さいモジュールを作ってみました。やはり、細くカットしたユニバーサル基板にピンをハンダ付けしています。パイロットランプ(LED)もついています

 ブレッドボードに対応するための改造例をいくつか紹介しました。お気づきのとおり、こうした改造をするにはハンダ付けが必要です。

 これを機会にハンダ付けを覚えたい、と思った方はぜひ挑戦してください。使える部品が増えて、ブレッドボーディングの世界がもっと広がります。

 「いや、ハンダ付けは避けたい……」という方も安心してください。今後も、この連載では、できあがったものが多少不便になるとしても、ハンダ付け抜きで作ることにこだわっていきたいと思います。

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(2008年9月25日)


船田戦闘機、スタパ齋藤、上杉季明によるユニット。電子工作からバンド演奏までさまざまな活動を行なうが、各活動に共通するテーマは“電気が通ること”としている。電子部品・電子回路の玄人ではなく、それらに対して強い興味を抱いている。ブレッドボーダーズは、そんな立ち位置から電子部品・電子回路に触れていくプロジェクトである。


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