前回はヘッドフォン・アンプを1枚の小さなブレッドボードの上に組み立てる方法を説明しました。いい音で鳴っているでしょうか?
アンプの心臓部となるICに「LM4881」を使った理由は2つあります。1つは最小限の部品数で確実に動く回路が作れること、もう1つは日本語に翻訳された比較的詳しいデータシートが用意されていることです。 データシートは、部品のメーカーが提供する仕様書です。その部品の限界や性能に関するデータがまとめられており、また、回路の例や使用上のヒントが記載されていることがあります。インターネットとWWWの普及により、データシートは簡単かつ無料で入手できるようになりました。素晴らしいことです。
LM4881のデータシートに記載されている回路図を基に、若干のアレンジを加えてから清書したのが、前回の回路図です。アレンジした部分は、スイッチの有無と電解コンデンサの値です。 スイッチは、電池ボックス側で供給する電源そのものをオンオフすることにして省略しました。 電解コンデンサは入手性を考慮して、1μFと220μFの2種類に絞りました。値は、データシートのグラフと試作機をテストした際の聴感を元に決めたものですが、後で説明するとおり、変更の余地があります。
このアンプを使ってみると、電源のオンオフ時の「ポンッ」というポップ・ノイズが耳障りに感じるかもしれません。これをなくす方法はあるのでしょうか。 簡単な実験から得た印象をまず言いますと、この回路のまま完全に消すのは難しそうです。 C3とC4の電解コンデンサの容量を220μFから一気に10μFにすると、電源投入時のポップ・ノイズはだいぶ減り、不快でないレベルになりました。しかし、そうすると音質も大きく変化します。これは、データシートからも予測できる現象で、出力側コンデンサの容量を小さくすると、低音のレベルが減少することを示すグラフが記載されています。オーディオの世界では良いアンプに対して「低域から高域までフラット」という言い方をすると思いますが、低域側がフラットでなくなるわけです。 電源投入時のポップ・ノイズと低音レベルの関係だけに着目すると、トレードオフのようです。我々は手持ちの電解コンデンサを差し替えながら検討し、結局最初の220μFに戻しました。 こういう試行錯誤をしていると、電子回路の奥深さを感じるとともに、どんどん部品を取り替えながら実験できるブレッドボードの便利さがよくわかります。 なお、なんとしてもポップノイズをなくして快適に使いたい、という人は、シャットダウン回路を有効にする改造に挑戦してください。データシートの回路図にあった抵抗器とスイッチを組み込むだけです。このスイッチを切るとシャットダウン・モードに入り、音が消えます。切れる瞬間にも雑音が少し聞こえますが、だいぶマシです。シャットダウン中の電源のオンオフはポップノイズを生じません。一手間増えるものの、電源スイッチとシャットダウン・スイッチを順番に操作することでポップノイズを避けることができます。
操作性の面で、今回作ったアンプのもっとも不便なところは、ボリュームでしょう。半固定抵抗器による調整ではドライバが必要で、しかも、左右別々にやらなくてはいけないので、あまり実用的とはいえません。我々としては、その手間も楽しんで欲しい、とか、左右のバランスが精密に調整できて便利かもしれない、といった言いわけもできるのですが、やはりちょっと面倒です。 この不便は2連可変抵抗器を使うだけで解決できます。2連可変抵抗器は2つの可変抵抗器を重ねて、1本の軸で同時に調整できるようにしたもので、ステレオ・アンプに使えば、左右の音量を同時に変化させることができます。 しかし、大きな問題があります。ブレッドボードでそのまま無理なく使える製品がありません。もしかすると我々が知らないだけかもしれませんが、まだ見たことがありません(もしご存じの方がいらっしゃったら教えてください)。 ないならば半固定抵抗器2個で代用しよう、というのが前回の作例における解決方法でした。もう1つの方法は、ブレッドボードで使えるよう改造するというものです。
ブレッドボードに対応するための改造例をいくつか紹介しました。お気づきのとおり、こうした改造をするにはハンダ付けが必要です。 これを機会にハンダ付けを覚えたい、と思った方はぜひ挑戦してください。使える部品が増えて、ブレッドボーディングの世界がもっと広がります。 「いや、ハンダ付けは避けたい……」という方も安心してください。今後も、この連載では、できあがったものが多少不便になるとしても、ハンダ付け抜きで作ることにこだわっていきたいと思います。 (2008年9月25日)
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