PC Watchのキーボード黙示録
数十のキーボードを渡り歩き、辿り着いたのは30年物のレトロモデル【編集者上田の場合】
2026年3月4日 06:07
2025年末から始まった本リレーコラム「キーボード黙示録」に、賑やかしの色物枠として、PC Watch編集部員である筆者も参加することとなった。
筆者が紹介するのはハイエンドな執筆向けや高級なゲーミング機などではなく、よくある事務用である。なんならおそらく全日本人が見たことあるような超ありふれたキーボードだ。型番は「KB-3920」、メンブレンキーボードのOEM供給元として知られるChiconyの、およそ30年続く超ロングセラーモデルである。
とっかえひっかえの迷走期
筆者がキーボードの選り好みを始めるきっかけは、ある時手に入れたASUS製「EeePC 1005PE」のジャンク品だった。ネットブック(2007年から数年間流通した、ネットにるなぐこと"だけ"を目的とした廉価モバイルノートPC。携帯電話を買ったり回線契約したりするとおまけで付いてきた)流行当時の普及機に触れてみようと手を付けたところ、そのキーボードの打ち心地に衝撃を受けた。それまで趣味の執筆に使っていた環境を放棄し、貧弱なAtomマシンの現役復帰を決意するほどのカルチャーショックだった。
それからは、EeePCに軽量Linuxを放り込み、普段使いのノートと併用しつつ、並行してキーボードを漁る日々が始まった。RealForceやHHKBを始め、Razerやロジクール、e元素、グリーンハウスやノンブランドまでさまざま触ってみたが、どうにも自分はメカニカルキーボードや無接点式キーボードの適性がないようだった。
日本語(JIS)配列のメンブレンをくれ
筆者は日本語配列、さらにいえば「JIS X 6002 情報処理系けん盤配列」、通称JIS配列派だ。右中指/薬指で丸括弧が打てて、ビックリマークが左上にあり、エンターキーが縦に長い配列。英語配列でも作業効率は維持できるが、日本語配列とはタッチタイピング時の脳内処理の自然さやストレスフリー度が大きく異なってくる。筆者がいた地域では、出回っているゲーミングキーボードの多くが英語配列で、日本語配列製品はとても少なかった。
そこで、比較的打ち慣れていて違和感も少ないメンブレンキーボードに方針転換した。手に馴染む上、メンブレンは廉価帯キーボードに数多く採用され、逆に高価格帯では非常に稀。つまり事務用途を視野に入れた製品が多く、高確率でJIS配列が採用されている。ハードオフなどに行っては、ジャンク箱に入ったキーボードを片っ端からカチャカチャする生活が続く。自分は暗い環境で作業する場面も多く、光るメンブレンゲーミングキーボードを探しもしたが、廉価ブランドの物は押し心地があまりにも安物然としすぎており、高価格帯のコルセアなどのものは手に合わなかった。
その中で出会ったのが、冒頭にも登場したKB-3920だ。当時懇意にしていたPCショップが引き上げた品で、廃棄予定だというのを触らせてもらった瞬間、筆者に電流が走った。そのままの勢いで連れて帰ってきたのが、本記事で紹介する、そして現在本記事を執筆しているキーボードである。
KB-3920に落ち着くまでに、およそ60台程度のキーボードに手を出したと記憶している。
The OEMキーボード
KB-3920は、1990年代後半から、国内で流通しているさまざまなPCメーカーにOEM供給されており、今も図書館や学校、役所などで大量に活躍している。あまりに大量に存在するせいで、日本の「OEMキーボード」像を作ったとまでいわれる、The普通のキーボードである。
安くてありふれたメンブレンキーボードなのだが、現在の廉価品と大きく異なるのは、その作りのよさだ。メンブレン特有のぶよぶよ感やキーのブレが少なく、非常に打ちやすい。高級なメンブレンキーボードは、レールを付けたり金属板を埋め込んだりと工夫を凝らすのだが、KB-3920はそのような特殊な加工のない、ただただ作りのいいキーボードなのだ。
KB-3920は製造期間が長すぎるゆえか、ロットや劣化具合によって多少打ち心地が異なる。押し込むときの反発の強さが主な差であり、漠然とではあるが、Windows XPの頃までの製品、Windows 7の頃までの製品、それ以降の製品の3種に大別できる気がする。時期や保存状態によって傾向の差や例外もあるのだが、遡れば遡るほど柔らかくなる傾向にある。
現行機種のようにキースイッチだけを買って交換するといった芸当はできず、メンブレンである以上、ドームが破けてしまえばそのキーは死んでしまう。そのため、筆者はKB-3920を複数枚ストックしている。とはいえ、今まで壊れたことは一度もないのだが。
キーはかなりカチャカチャ鳴る。はめてあるだけなのだから当然だが、揺れと打鍵音自体はかなり目立つ。環境によっては使用を憚られる場面もありそうなレベルだ。
本体およびキーキャップ表面には梨地(シボ)加工が施されており、最近のツルツルとした廉価帯キーボードとは印象が大きく異なる。
側面から見ると、タイピング時の疲労を軽減するステップスカルプチャー構造を採用していることが分かる。これも廉価帯キーボードとしては比較的珍しい。
KB-3920のもう1つの大きな特徴が、印字の耐摩耗性だ。写真の個体も一部キー表面がツルツルになるまで使われているが、塗装が剥げて読めないキーは1つもない。自宅に備蓄している分も同様で、すべて印字は健在のまま。推定20年以上前の品と思われる個体も同様である。
製造開始年代から察しの付いた読者も多いと思うが、本機はPS/2コネクタを採用している。そのため、当該端子を搭載していないマシンで使う際には、USB PS/2変換を挟むことになる。ちなみに、後継機としてUSB端子を採用した「KU-3920」も販売されている。もちろんこちらも確保済みだ。インターネットを漁ってみると、KU-3920はKB-3920に比べて柔らかい押し心地だとするレビューも出てくるが、それはおそらく個体差だ。どちらも複数台触った筆者としては、端子以外ほぼ同じ製品のように思う。
さらに、当時IBMなど極一部のメーカーからのみ販売されていた、底部に金属板を仕込んだ「KB-8920」というプレミアムモデルも存在する。1台持っているが、どうにもこの子の打ち心地は筆者には柔らかすぎた。内部の形状はほかのKB-3920と互換性があるはずなので、移植手術を検討中だ。
現在、「KB-3920は生産終了した」という情報が出回っているが、これの出所は見つけられず、真偽は不明だ。また、KU-3920に関する言及はないため、こちらは今でも生産している可能性が高い。
もしも中古やジャンク、あるいはPCの付属品以外で、新品かつ単品のKB-3920ないしKU-3920が欲しい場合には、ペリックスが販売している「PERIBOARD-106JP」シリーズが選択肢となる。KU-3920のOEM供給品だといわれており、以前筆者が触った所、打鍵感は非常に似通っていた。価格はAmazonで4,500円からと、打鍵感重視の新品キーボード類と比較すれば、高すぎるというほどでもない。
| メーカー/製品名 | Chicony KB-3920 |
|---|---|
| 使用PC機種名 | 自作デスクトップPC Core改 Q015(Core i9-12900HXを魔改造した中華パーツ)、Titan V+Tesla V100(SXM2→PCIeに変換した中華パーツ)、DDR4 128GB、SSD 計5TB、HDD 計6TB |
| キースイッチ(軸の種類) | メンブレン方式 |
| キー配列 | 日本語配列(JIS) |
| サイズ/キー数 | 100%/109キー |
| キーピッチ | 約20mm(実測) |
| キーストローク | 約4mm(実測) |
| 押下圧(重さ) | 約55g(実測) |
| 打鍵音 | カチャカチャ、かなり大きめ |
| 接続方式 | PS/2有線接続 |
| 筐体の色/素材 | グレー |
| カスタマイズ箇所 | なし |
| キーバックライト | なし |
| 購入価格 | 100円 |





















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