買い物山脈

旧MacからM1版MacBook Proに買い換えたらどれくらい快適になるのか?写真のプロが使い比べてみた

製品名
14.2インチMacBook Pro(M1 Max)
購入価格
40万9,800円
購入時期
2022年1月22日
使用期間
約4カ月
「買い物山脈」は、編集部員やライター氏などが実際に購入したもの、使ってみたものについて、語るコーナーです

 私はパソコン創世記からPC系雑誌の撮影を担当し、カメラマンの中では早くからデジタル化に対応してきた。最初に買った仕事向けのノートPCはVAIO-505で、他社よりもデザインが良かったということもあり、気に入って4台続けて買い替えてきた。

 そのうちデジタル一眼レフカメラがノートPCと直接つながるようになり、撮影した写真がすぐさまPCに転送され、PCの大きな画面上で確認できるようになった。撮った写真をその場でクライアントにチェックしてもらったり、簡単な画像補正を行なうなど、現場での重要性が高まったわけだ。

 ただ、広告企画などでメーカーが立ち会う場合に、競合先の製品を使っていると、相手にあまり良い印象を与えない。そのため、当時としてはカメラマンを含めたクリエイター=Macという風潮が強くあったことから、いつしか当たり障りのないMacを使うようになっていた。

 今回のM1 Max搭載MacBook Proに乗り換えるまでは、2016年の12月に購入した13インチのCore i7搭載MacBook Proを使っていた。とは言え、5年選手ともなると非力さが目立ち、現場での画像処理が多くなったときの効率の悪さや、動画編集で使うAdobe Premiere Proの重たさがストレスになっていた。加えて昨年あたりから、カメラとWi-Fiでつながらなくなったりとトラブルが起きがちだったので、速い速いと話題になっていたM1版MacBook Proの購入へと至ったわけだ。

 ここでは、写真撮影という仕事において、M1版MacBook Proが如何に大きな変化をもたらしているかを見せていきたい。

まずは新旧MacBook Proで見た目などを比べてみる

 M1版MacBook Proの性能について見ていく前に、まずは私の作業環境を紹介しよう。現場への持ち運び用としてMacBook Proを活用してはいるが、自宅にあるメインマシンは実はWindows搭載の自作PCだ。

 現場ではMacBook Pro、自身のスタジオで作業する場合もMacBook Pro、そして自宅で作業する場合はWindows機という塩梅だ。現像アプリ等はMacと同じものが使えるので、OSをまたいでも大きな問題にならないのである。

 ただし、これから説明していくようにM1版MacBook Proが速すぎるせいで、Intel版MacBook Proよりも高速だった自宅のWindowsマシンの役割が霞んできてしまっているのは興味深い。

【表】検証機のスペック
M1版MacBook ProIntel版MacBook Pro自作PC(Windows 10)
購入日2022年1月21日2016年12月2017年
CPUM1 MaxCore i7
(3.3~3.6GHz)
Core i7-7700K
(4.2~4.5GHz)
GPUM1 Max
(32コアGPU)
Iris Graphics 550Radeon RX 5500 XT
メモリ64GB16GB48GB
メインドライブ1TB1TB1TB
ディスプレイ14.2インチ
(3,024×1,964ドット)
13インチ
(2,560×1,600ドット)
EIZO ColorEdge CS2740
(3,840×2,160ドット)
購入時の価格40万9,800円28万8,800円不明
スタジオ撮影や出先の撮影でノートPCを使える環境ならば、傍らにMacBook Proを置き、Wi-FiかUSBケーブル経由で写真をノートPCに直接保存する。その場での画像チェックやクライアントに確認してもらうなどメリットは大きい
自身のスタジオには自宅にあるのとは別のデスクトップPCが置かれているが、M1版MacBook Proが来てからは、そちらに外部モニターをつないで撮影できる環境にしている
自宅にはメイン環境として、Windows搭載の自作PCがあり、デュアルモニターで使用している。ただ、M1版MacBook Proの方が動画編集が速いということが分かり、各モニターをMacBook Proにもつなぎつつ、作業内容に応じて切り替えている
左がIntel版MacBook Pro、右がM1版MacBook Pro
ベゼルの幅はだいぶ違う

 M1版MacBook Proは14.2インチなので一回り大きい。液晶面は実測でIntel版MacBook Proが287×178mm、M1版MacBook Proは301×196mmと、M1版MacBook Proの面積は広くほんの少しではあるが使いやすさが増している。ベゼルが細くなり内蔵カメラ部分が上部のメニューバーの一部を占有しているデザインだ。

カメラも720p FaceTime HD(左)から1080p FaceTime HD(右)になり、かなり写りが良くなった。テレワークにも良さそうだ(オッサンの顔も少しはよく見える)
M1版MacBook Pro(右)は本体の厚みが増えたが、使っていてそれほど分厚いという印象はない
14.2インチではあるが、ベゼル幅が狭いので、13インチのMacBook Proよりもちょっと大きいかなというくらい。カバンへの出し入れも机の上に置いてもさほど差を感じられない
2016年に購入したIntel版MacBook ProはThunderbolt 3が4基だけだったが、M1版MacBook ProではThunderbolt 4が3基に加え、HDMIとSDXCカードスロットが装備されたため、使い勝手は増した

M1 Max搭載MacBook Proの性能を比較

 それでは、上の表で示したM1版MacBook Pro、Intel版MacBook Pro、Windows PCの性能を比較していこう。

OSの起動速度

まずはOSの起動速度からだ。シャットダウン状態から電源を入れ、デスクトップ画面が出るまでの時間を計測した。

M1版(右)/Intel版(左)MacBook Proの起動速度

 Windows PCは当然OSが異なるため、単純にmacOSとは比較できないが、ほかに多くのストレージなどをぶら下げているということもあり、余分に時間がかかっている可能性はある。Macだけで言えば、M1版MacBook ProはIntel版よりも6秒速い結果となり、最新世代のSSDの高速アクセスが生かされている印象だ。

Camera RawでRAWデータを開く速度

 次は、写真のRAWデータを開く速度を比較するために、PhotoshopのCamera Rawでファイルを開く際の時間を測定した。

M1版(右)/Intel版(左)MacBook ProのCamera Raw立ち上げ速度

 予想外にIntel版MacBook Proが善戦していた。Windows PCが遅いのは、システムドライブがPCI Express接続のNVMe SSDではなく、SATAのSSDであるためだろう。

RAW現像の速度

 さらに、RAW現像で調整を行ない、Photoshop上で画像が開かれるまでの時間を計測した。

M1版(右)/Intel版(左)MacBook ProのRAW現像速度

 動画を見れば分かるが、M1版MacBook ProのRAW現像は本当に一瞬である。調整項目は少なめではあるが、ほかのマシンと比較してたった1枚の現像でこれだけの差が出るのは驚きだ。

Premiere Proでのプロジェクトファイルの展開速度

 Adobe Premiere Proのプロジェクトファイルを開く際に、プロジェクトがきちんと表示されるまでの時間を計測してみた。

M1版(右)/Intel版(左)MacBook ProのPremiere Pro起動速度

 ここでは、Intel版MacBook Proがかなり弱いことが分かる。Intel版MacBook Proのストレージ自体の速度は、OSの起動時間の比較などから悪くないと分かっているので、CPUの能力差が顕著に出ているのだと思われる。いずれにしてもM1版MacBook Proは10秒を切る圧倒的速さを見せつけていた。

Premiere Proでのエンコード速度

 Premiere Proでのエンコードは、1分のプロジェクトで試してみたが、プロジェクトファイルを開く速さを比較した上のグラフと同じく、Intel版MacBook Proがもっとも遅い結果となった。

M1版/Intel版MacBook ProのPremiere Proエンコード速度

 普通はもっと長めのプロジェクトをエンコードするわけだが、短い動画ですでにこの差がついているのは圧倒的と言える。

10連射撮影時の保存速度

 カメラからMacBook Proへの転送速度も比較してみよう。通常はニコン D5に無線ネットワークモジュール(WT-6)を装着し、Wi-FiでMacBook Proと接続。Wi-FiがつながりにくいときはUSBケーブルでつなぎ、MacBook Proにデータを転送しているので、同じ風景を10枚連写してその2パターンを計測した。

 こちらについては、予想外にIntel版MacBook Proとの差は出なかった。WT-6はそもそもWi-Fi 5止まりの対応なので、M1版MacBook ProのWi-Fi 6の性能を生かせていないのだろう。

旧MacBook Proとディスプレイの画質を比較してみる

 Macのディスプレイは昔から綺麗だと言われており、多くの映像関係者が使っている。ただ、過去にさまざまなディスプレイの画質を評価する仕事をしていた時に、その階調性や輝度ムラなどを検証してみると、見た目は綺麗ではあるものの、正直トップレベルとは言えない品質だった。

 実際に、これまで使ってきたIntel版MacBook Proの画面上では、絶対の自信を持って画質調整はできなかったので、最終的な調整はEIZOのColorEdgeで行なっていた。

 しかし、今回購入したM1版MacBook Proをチェックしてみると、なかなか暗部や明部の階調性が良くなっていることが分かった。

 以下がその結果で、左がIntel版MacBook Pro、右がM1版MacBook Proの画面を撮影したものだ。なお、Intel版MacBook Proは使用年数が長いこともあり、購入時からのベストパフォーマンスが出ていないであろうことに注意されたい。

 写真を通してみると分かりづらいが、実際並べて直視するとM1版MacBook Proの暗部はRGBで(10.10.10)まで階調が分かるがIntel版MacBook Proは(20,20,20)がなんとか分かる程度だ。明部はどちらも最後まで階調が残っている。色のグラデーションも途中からの落ち込みがIntel版MacBook Proの方が大きいようだ。

階調性やグラデーションの比較。左がIntel版MacBook Pro、右がM1版MacBook Pro

 次に、グレーRGBで(150,150,150)を表示させてカメラはデイライト(5650K)設定で撮影した。見ての通り、M1版MacBook Pro(右)はややY寄りだが均等なグレーだ。それに比べてIntel版MacBook Pro(左)はBが強くCにも振れている。並べてみるとあまりにも色が違いすぎる。

グレーRGBで(150,150,150)での比較。左がIntel版MacBook Pro、右がM1版MacBook Pro

 上記の写真の明るさを揃えてグレースケールに変更。それをトーンカーブで極端なコントラストにしてみた。これによりわずかなムラも大きく見えるようになるのだ。その結果は見ての通りIntel版MacBook Proのムラは酷い物だ。それに比べて極端なコントラストにもM1版MacBook Proのムラはわずかな高性能ディスプレイであることが分かる。

輝度ムラの比較。左がIntel版MacBook Pro、右がM1版MacBook Pro

 M1版MacBook Proの画質はMacのホームページに書いてある「Liquid Retina XDR。ノートブック史上最高のディスプレイ」というだけあって階調性から彩度そしてムラも少なく予想以上の結果だった。輝度調整で中間ぐらいのほどよい明るさを中心に明るさを前後させても暗部や明部の階調性は保たれている。

 自宅やスタジオのPCでの画像調整はハードウェアキャリブレーションのできるEIZO「ColorEdge CS2740」なので、Photoshopでのレタッチなどは問題ないが、Premiere Proでの作業や、いろいろな作業効率を考えると、M1版MacBook Proの効果はてきめんだ。

M1版MacBook Proはカメラマンの欠かせないツールに

 M1版MacBook Proは14.2インチで、13インチのIntel版MacBook Proよりもやや重く大きくなり、携帯性は少し損なわれているが、そんなの関係ない! カメラマンにとってはストレスなく仕事ができるスピードの方が圧倒的に優先度が高いからだ。

 これからコロナ禍という状況がさらに落ち着きを見せ、日本や世界を気軽に飛び回れる日常が戻ってくることを考えれば、現地から最高の状態に整えた写真データを即座に送ることができるM1版MacBook Proは、現状で最良の選択肢と言えるだろう。今回最新のM1版MacBook Proを購入し、もはやカメラマンにとってM1版MacBook Proは、カメラの次に予算をかけるべき欠かせないツールであると確信した。

著者プロフィール
若林直樹(STUDIO海童)
雑誌、広告等の仕事の傍ら、ライフワークとして自然や癒される空間を求めて国内外を旅している。撮影対象はICチップからアフリカ象まで幅広い。デジタルカメラは1995年からコンパクトからプロ機までテストレビューに携わる。自宅ではフェレットをこよなく愛し、現在2匹と暮らしている。いつかフェレットの写真集を出そうと企み中