石井英男のデジタル探検隊
5万円を切る低価格3Dプリンタ「ダヴィンチ Jr.1.0」レビュー
~筐体サイズもダヴィンチに比べて大幅に小型化
(2015/8/4 13:36)
一時は「何でも作れる夢の機械」のような報道もなされた3Dプリンタだが、最近はそうした過剰な反応も落ち着いた感がある。しかし、その間も3Dプリンタは着々と進化を続けている。
数年前まで安いものでも数十万円はしていた3Dプリンタだが、2013年あたりから10万円前後の製品が登場し、個人でも手が届く範囲に下りてきたということで、パーソナル3Dプリンタへの注目が高まった。2014年3月にXYZプリンティングジャパンから登場した「ダヴィンチ 1.0」は、税込69,800円(その後2014年9月に価格改定が行なわれ、現在は64,800円)という価格の安さと使い勝手の高さで、人気を集めた。筆者も、ダヴィンチ 1.0を試用してレビューを書いたが、印刷の失敗も少なく、印刷品質も価格を考えれば十分満足がいくものであった。しかし、ダヴィンチ 1.0は、筐体サイズが468×558×510mm(幅×奥行き×高さ)と、個人で使うにはやや大きいことが難点であった。
XYZプリンティングジャパンが2015年4月に発売した「ダヴィンチ Jr.1.0」は、その名の通り、ダヴィンチシリーズの弟分にあたるパーソナル3Dプリンタであり、ダヴィンチシリーズの印刷品質や使い勝手のよさはそのままに、筐体サイズをコンパクトにし、価格を49,800円に下げた製品だ。ダヴィンチ Jr.1.0の特徴や詳しいスペックについては、発表会の記事を見ていただきたいが、ここでは実機を試用する機会を得たので、早速レビューしていきたい。
セットアップ作業は簡単
まず、ダヴィンチ Jr.1.0を箱から取り出して、3Dプリントを行なうまでの手順を紹介する。箱を開けて付属品や本体を取り外したら、エクストルーダやプラットフォームが配達中に動かないように固定している発泡スチロールやダンボールを外す。次に付属のSDカードをPCのSDカードスロットに挿入して、SDカードから専用ソフト「XYZware」をインストールする。
XYZwareには自動アップデート機能があり、起動時に最新版があるかどうかのチェックを行なう。SDカードからインストールせずに、最初からXYZプリンティングのサイトから最新版をダウンロードしてインストールしても良い。次に、ACアダプタを本体に接続し、付属のUSBケーブルを利用してPCと接続後、電源スイッチを入れると、PCにドライバが組み込まれる。
次に、フィラメントが送られる際の経路となるガイドチューブを取り付ける。ガイドチューブの片側を本体上面のチューブ移動エリアのスリットを通して、エクストルーダ上部のフィラメント口に挿入し、反対側を材料注入モジュールの上部の穴に挿入すれば完了だ。
ガイドチューブの取り付けが終わったら、フィラメントのロードを行なう。ダヴィンチ Jr.1.0では、基本的にサードパーティ製フィラメントは利用できず、XYZプリンティングジャパン純正のPLAフィラメントを利用する必要がある。別売りの純正フィラメントは1巻600gだが、ダヴィンチ Jr.1.0に付属しているフィラメントはお試し用で、重量が半分の300gとなっている。
付属フィラメントにはフィラメントリールが装着されている。フィラメントリールには、フィラメントの色や種類などの情報が格納されたセンサーチップ(NFCチップ)が内蔵されている。このセンサーチップがないフィラメントは利用できないようになっているのだ。付属フィラメントをそのまま使う場合は、フィラメントリールを外す必要はないが、ほかの純正フィラメントを利用する場合は、フィラメントリールを外して中のセンサーチップを交換する必要がある(センサーチップは純正フィラメントに付属するが、フィラメントリールは本体に付属のものを使う)。
フィラメントを本体内部左側のフィラメントホルダーに取り付け、フィラメントを引き出し、材料注入モジュールの材料注入口の手前のリリースアームを引いて、フィラメントの先端を材料注入口に押し込む。ダヴィンチ Jr.1.0のメニューから「ユーティリティ」→「フィラメントヲコウカン」→「ロードフィラメント」の順に選択すると、エクストルーダのヒーターの加熱が開始される。加熱が完了すると、材料注入モジュールのフィラメントフィーダーが動き出し、フィラメントのロードが行なわれる。フィラメントがエクストルーダへ送り込まれ、先端のノズル穴から溶けたフィラメントが出てくればOKだ。
SDカードからスライスデータを読み込みスタンドアロンでの印刷が可能
ダヴィンチ Jr.1.0は、ダヴィンチシリーズには搭載されていなかったSDカードスロットを備えており、PCを接続しなくても、SDカードから印刷用のスライスデータを読み込んで印刷することが可能だ。実は、ダヴィンチシリーズでも、スライスデータをPCからダヴィンチ本体に転送してしまえば、PCの接続を外してもそのまま続けて印刷できるのだが(公式には推奨されていないとは思うが)、スライスデータを転送する際にはPCを接続する必要がある。それに対し、ダヴィンチ Jr.1.0では、PCとダヴィンチ本体を接続する必要が一切なく、ダヴィンチ本体とPCを別々の部屋に置くこともできるので、より便利だ。
通常、3Dプリンタで印刷を行なう場合、3D CADや3D CGソフトを使って作成したり、Thingiverseなどの3Dデータ共有サイトからダウンロードしたSTLデータをスライサーと呼ばれるソフトを使って、3Dプリンタを制御するためのスライスデータに変換、その後、3Dプリンタ制御ソフトで3Dプリンタにスライスデータを転送して、印刷を行なうという手順になる。大手メーカー製3Dプリンタの場合は、スライサーと3Dプリンタ制御ソフトが1つになっていることが多いが、STLデータをスライスデータに変換するという手順は同じだ。
ダヴィンチ Jr.1.0では、ダヴィンチシリーズと同じく「XYZware」と呼ばれるスライサー/3Dプリンタ制御ソフトを利用する。XYZwareは、オブジェクトの拡大縮小や回転など、必要十分な機能を備えており、UIもシンプルなので初心者にも使いやすい。
PCとダヴィンチ Jr.1.0を接続して印刷する場合は、「印刷」をクリックすれば良いが、SDカードにスライスデータを書き出す場合は、「書出す」をクリックすれば良い。ダヴィンチ Jr.1.0では、3w形式のスライスデータが使われており、書き出し先をSDカードに指定すれば、SDカードにスライスデータが書き出される。
印刷中の動作音も静かで、嫌な臭いもしない
ダヴィンチ Jr.1.0は、PLA専用でヒートベッドは搭載していないため、プラットフォームが熱くならず、火傷などの心配もない。プラットフォームはガラス製なので、そのままではフィラメントの食いつきが弱く、印刷中に造形物が剥がれてしまうことがある。そこで、フィラメントの食いつきを良くするためにプラットフォームテープを貼る必要がある。プラットフォームテープは3枚付属しているが、なくなったらマスキングテープで代用できるほか、糊を塗るという方法もある。
スライスデータを保存したSDカードをダヴィンチ Jr.1.0のSDカードスロットに挿入し、メインメニューから「SDカードプリント」を選択し、スライスデータを指定するだけで、出力が開始される。動作中の騒音もかなり小さく、夜でもあまり気にならないレベルだ。また、ABSと異なり、PLAは溶解時に嫌な臭いがしないこともメリットである。
印刷品質は兄貴分のダヴィンチと同等以上
ダヴィンチ Jr.1.0のスペックは、最大出力サイズを除けば、ほぼ兄貴分のダヴィンチシリーズと同じだが、メカ設計は大きく変わっている。そこで、Thingiverseに公開されている「TreeFrog」と「Owl statue」を印刷してみた。条件は、ラフトとサポートは無し、品質は「非常に良い」に設定した。印刷結果は下の写真に示した通りである。
TreeFrogは、カエルの顔の下の部分がかなりきつめのオーバーハングになっており、サポート無しではなかなか綺麗に印刷できないのだが、ダヴィンチ Jr.1.0では顔の下の部分もあまり乱れずに綺麗に出力されていた。ABSとPLAという材質の違いもあるだろうが、同じものをダヴィンチ 1.0で印刷したものと比べても、カエルの顔の下の部分の印刷品質はダヴィンチ Jr.1.0のほうが上であった。
積層段差の目立ち方や位置決め精度については、ダヴィンチとほぼ同等であり、このクラスのパーソナル3Dプリンタとしては満足できるレベルだ。もちろん、AFINIA H480など、印刷品質がさらに高い3Dプリンタもあるが、4倍程度の価格差があることを考えれば、コストパフォーマンスは高いと言える。
プラットフォームの調整はオフセットの値のみ
FDM方式の3Dプリンタは、プラットフォームの水平出しとプラットフォームとノズルの隙間の調整が重要である。ダヴィンチシリーズでは、キャリブレーション機能が搭載されており(全自動ではないが)、メニューからキャリブレーションを選ぶことで、プラットフォームとノズルの間隔が適切か、またプラットフォームが水平になっているかを知ることができる。
ダヴィンチシリーズでキャリブレーションを実行すると、液晶に3つの数値が表示されるので、その数値が適切な範囲内で揃うように3本のネジを回せば良い。キャリブレーション機能を装備していない3Dプリンタに比べれば手間はかからないが、それでも初心者にはなかなか面倒なものだ。
しかし、ダヴィンチ Jr.1.0では、プラットフォームの水平出しが不要な設計になっており、ネジを回して調整を行なう必要はない。プラットフォームとノズルの隙間については、「ユーティリティ」→「Zオフセット」によって調整できる。基本的には、出荷時に正しい値が設定されていると思われるが、筆者の試用機の場合、出荷時の値ではうまく出力ができず、Zオフセットの値を3.0mmにすることで、問題なく出力されるようになった。
また、ダヴィンチ Jr.1.0は、FDM方式の3Dプリンタの最も重要なパーツであるエクストルーダを簡単に交換できる構造になっていることも高く評価できる。ドライバーなどの工具を使わずにエクストルーダの取り外しや取り付けが可能なので、メンテナンスもしやすい。
3Dプリンタの入門機としてお勧めの1台
ダヴィンチ Jr.1.0は、ダヴィンチシリーズの弟分として位置付けられる製品だが、ダヴィンチシリーズには搭載されていなかったSDカードスロットを備え、プラットフォームの水平出しも不要な設計になっているなど、進化している点も多い。
筐体サイズが、ダヴィンチシリーズの約半分に縮小されたことで、日本の一般家庭にも置きやすくなったことも評価できる。PLAしか利用できないというのは、用途によっては弱点となるだろうが、機械的強度や加工性をそれほど重視しない用途なら、そう問題はない。3Dプリンタとはどういうものか、実際に使ってみたいという人に特にお勧めしたい製品と言える。