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自作PC派の俺も「ぐぬぬ」。高性能ミニPC「AtomMan G7 Pt」が最強すぎた

AtomMan G7 Pt利用イメージ(ディスプレイ/マウス/キーボードは別売り)

 このところミニPCをリリースし続けるMINISFORUM。10万円前後の価格帯で高性能モバイル向けのCPUを搭載するのが定番となっており、「高性能ゲーミングノートに匹敵するCPU性能を持ち合わせていて、普段遣いには十分な性能。内蔵GPUの性能が高くなっていることもあって、AAAゲームタイトルも画質調整次第である程度プレイ可能」というのが、筆者の中でのセオリーだ。

 しかしこのほど投入された「AtomMan G7 Pt」は、AMD Advantageに準拠した初のミニPCとして、16コア/32スレッドというデスクトップCPU上位に匹敵するRyzen 9 7945HXだけでなく、ディスクリートGPUとしてRadeon RX 7600M XTも内蔵しており、そのセオリーを覆す性能を持ち合わせたモデルだ。

 今回、サンプル提供があったため、レビューをお届けしていこう。7月10日時点の直販価格は、ベアボーンが17万2,780円、メモリ32GB+1TB SSDモデルが20万7,180円だ。

十分小型な筐体に驚異的なスペック

 AtomMan G7 Ptは冒頭で述べた通り、CPUにRyzen 9 7945HX、GPUにRadeon RX 7600M XTを搭載した、れっきとした“ゲーミング”ミニPCだ。まずはこれについて改めて紹介とおさらいをしておこう。

 執筆時点で本体サイズが公式サイトで記載されていないが、実測はおよそ60×153×268mm(縦置き時、スタンド除く)だった。さすがに1辺が140mmを切るような一般的なミニPCと比較しては大きし、スタンドの設置部はおよそ150×210×21mm、ACアダプタも300Wタイプのため大きいのだが、巨大化しているビデオカードの昨今の現状も踏まえて、ミニPC 2台分程度の大きさと考えれば、むしろ驚異的なサイズだ。

AtomMan G7 Pt
一般的なミニPC(右、AtomMan X7 Ti)と比較すると2倍ぐらいの大きさ
付属のスタンドで縦置きにする。スタンドなしだとDCプラグが邪魔で自立できない。横置きだとLEDパネルが見えなくなるし、メモリ/SSDの吸気も少し苦しくなりそうだ
ACアダプタは300W。サイズは約172×75×39mmと相応
プラグは4ピンとなっている
4ピンのため向きは1方向のみで、ほかの向きでは挿せないようになっている
このようにACアダプタのケーブルは後部に這い出す

 CPUとして採用されているRyzen 9 7945HXは、“モバイル向け”という肩書ではあるのだが、その実質はデスクトップ向けのRyzen 9 7950Xをモバイル向けにパッケージングして転用したもので、当初よりモバイル向けに設計された「Ryzen 9 7940HX」とは性質がまったく異なる。演算や(CPUにおける)ゲーム性能に直結するCPUコア数やキャッシュ容量が2倍以上だが、内蔵GPUは1世代前のアーキテクチャで、規模も小さいといった具合だ。

【表1】CPUの比較
CPURyzen 9 7945HXRyzen 9 7940HSRyzen 9 7950X
コア数16816
スレッド数321632
CPUアーキテクチャZen 4
ベースクロック2.5GHz4GHz4.5GHz
最大クロック5.4GHz5.2GHz5.7GHz
L1キャッシュ1MB512KB1MB
L2キャッシュ16MB8MB16MB
L3キャッシュ64MB16MB64MB
GPURadeon 610MRadeon 780MRadeon 610M
GPUアーキテクチャRDNA2RDNA3RDNA2
CU数2122
GPUクロック2,200MHz2,800MHz2,200MHz
デフォルトTDP55W35~54W170W
製造プロセス5nm+6nm4nm5nm+6nm
ダイ構成チップレットモノリシックチップレット
パッケージFL1FP7/FP7r2/FP8AM5

 一方GPUであるRadeon RX 7600M XTはモバイル向けそのものだが、大手ではこれを採用したゲーミングノートは少なく、最近はGPDやOne-Netbook、AYANEOといった中国のポータブルゲーミングPCメーカーから外付けGPUドックに採用されることが増えている。つまりAMDとしては、こうした中国メーカーでの展開に注力している製品だと言える。

 ちなみにAMDのモバイル向けGPUはトップエンドが「Radeon RX 7900M」だが、その真下が7600M XTであり、デスクトップ向けのような7800/7700シリーズはない。下表でデスクトップ向けに投入されているRadeon RX 7600 XTとの比較を掲載するが、クロックが低くメモリ容量が半分となっているため、Radeon RX 7600に近い仕様となっている。それ以外大差はなく、Ryzen 9 7940HS内蔵のGPUと比較すれば約2.6倍の規模といったところだ。

【表2】GPUの比較
GPURadeon RX 7600M XTRadeon RX 7600 XTRadeon RX 7600Radeon 780M
アーキテクチャRDNA3
製造プロセス6nm4nm
CU数3212
SP数2,048768
Ray Accelerator数3212
AI Accelerator数6424
ROPユニット数6424
ゲームクロック2,300MHz2,470MHz2,250MHz2,800MHz
ブーストクロック非公開2,755MHz2,625MHz非公開
AMD Infinity Cache32MB-
メモリ容量8GB-(メインメモリ共有)
メモリ速度18Gbps-(メインメモリ共有)
メモリバス幅128bit-(メインメモリ共有)
メモリ帯域288GB/s-(メインメモリ共有)
消費電力(TBPまたはGPU Power)最大120W190W165W-

 Radeon RX 7600 XTの性能については既にレビューしているが、ざっくり言えばフルHD(1,920×1,080ドット)やWQHD(2,560×1,600ドット)解像度でのゲームに過不足はないGeForce GTX 4060辺りという位置づけなので、AtomMan G7 Ptも「メインストリームのゲーミングPC相当の性能を持っている」という認識で間違いないだろう。

前衛的で派手なデザイン

 続いて本体を見ていこう。冒頭で本体サイズを述べているが、このことからも分かる通り、一般的なミニPCの「四角い」イメージから逸脱したやや平べったい筐体となっている。ミニPCを2台重ねた感じで、Intelが過去に投入したKaby Lake-Gを搭載NUC「Hades Canyon」(NUC8i7HVKまたはNUC8i7HNK)を二回り大きくした印象だ。

 本製品は縦置きが前提であるためそれをベースに話を進めよう。左側面はほぼ吸気口となっており、平行四辺形パターンを無数に並べたデザイン。そこから内部に蜘蛛の巣のような不定形な八角形のフレームが見え、中央が赤いアクセントとなっている。さらにその中にブロワーファンが2基搭載されている形だ。

 一方、右側面は一見無地で下にAtomManのロゴが入っただけのデザインなのだが、電源を付けると魔法陣を彷彿とさせる模様が、派手なRGB LEDのランダム点灯によって浮かび上がる。この部分は以前同社が投入した「UM780 XTX」の虎の模様と似た仕組みで、眩しいと言っても差し支えないほどの大型のLED導光板が用いられている(シートで眩しくない程度に減光される)。

やや平べったいデザイン
通風孔側のデザインはなかなか前衛的
RGB LEDはランダムに発光する
ライティングはかなり大型のLEDシートが2枚。エッジングシートを介して模様が浮かび上がる。ちなみにLEDライト自体は非常に眩しいのだが、側面パネルでかなり減光されるため眩しさはあまり感じない

 この模様はユーザーがエッジングシートでカスタマイズする可能だが、デフォルトでは「有名漫画家との共同デザイン」(製品ページ原文ママ)のものが採用されている。当然、有名漫画家って誰? という疑問が湧くが、調べたところ台湾のMingKun Liu氏であり、同氏による「ASAKU」シリーズのようだ。同氏のサイトには「Always powered from AMD」といった文字列もあり、AMD繋がりでデザインが入ったものと思われる。

 本体に話を戻そう。上部と背面ともに排気口が設けられており、負荷動作中は上部と後部から熱い空気が出てくる。電源ボタンは珍しく本体上部の後部にあるが、操作性は悪くない。前面には電源LEDと動作モードのLED、ファン動作モードの切替、USB 3.1 Type-C、USB 3.1、3.5mm音声入出力を搭載。一方、背面はDisplayPort 2.0、HDMI 2.1出力、USB 3.1 Type-C(DisplayPort Alt Mode兼用)、USB 3.1×2、2.5Gigabit Ethernet、音声入出力を備える。

 ミニPCとしてみれば、インターフェイスの類はむしろ少ないほうだし、Ryzen 9 7940HSのようにUSB4が搭載されていないのがやや弱点だが、一般用途には十分だ。特にUSB 3.1 Type-CにDisplayPort Alt Modeを統合しているため、モバイルモニターとの相性も抜群だ。なおモニター出力は同時3画面までとなっている。

前面のインターフェイスはUSB 3.1 TypeCとUSB 3.1、ヘッドフォンジャック
DisplayPort 2.0、HDMI 2.1出力、USB 3.1 Type-C(DisplayPort Alt Mode兼用)、USB 3.1×2、2.5Gigabit Ethernet、音声入出力を

 ちなみに内部へのアクセスは、まずLEDパネル側の外装を外してから底部2本のネジを緩める。底部に分解用のヘラを入れる隙間が用意されているので、そこにヘラを入れてゆっくりツメを外していく。基本に、ユーザーがアクセスできるのはメモリとSSD部分となっている。

内部にアクセスしてSSDやメモリの換装が可能

AMD Advantage初準拠で静音性にも優れる

 本機はAMDのCPUとGPUを両方搭載し、「AMD Advantage Premium」プログラムに準拠した初の認定ミニPCであることも謳われている。現時点でAMDのサイトにはノートPC向けの要件しか書かれておらず、ディスプレイやキーボード温度の上限設定といった項目が本機には適用されないと思われるが、AMDと共同開発されており、規定の動作音(騒音値)を超えないようになっている点はクリアしていると思われる。そしてこの効果は抜群だ。

 MINISFORUMによれば、この製品には独自の「Cold Wave Ultra」という冷却機構が採用されており、45dB未満の静音性と、最大205Wにおよぶ冷却能力を達成するという。具体的に言えば、液体金属による熱伝導材、合計8本におよぶヒートパイプ、上部と背面両方への排気、そしてCPU/GPUのみならず、メモリとSSDも冷やす両面の4ファン設計だ。

公式サイトより。4つのファンが搭載されている

 4つのファンにデザイン上の大きな開口部……などと聞くといささか騒音がヤバそうというイメージしか沸かないのだが、AtomMan G7 Ptはこの先入観を覆す静音性だ。

 動作モードは2種類あり、前面のボタンで切り替えてすぐ真上のインジケータで確認できる。LEDがブルーの静音モード(デフォルト)は、電源投入からアイドル状態まではほぼ無音と言っても差し支えないレベル。ゲームやCinebench R23を走らせても「サー」という風切り音がする程度で、不快な騒音は皆無だ。この際のCPUは65Wで動作するように制限されている。

 一方LEDがレッドに光る高性能モードはアイドル時で騒音がやや増すものの、大きく体験を損なわないレベルに収まっている。負荷時の騒音は増加するが、多くが風切り音成分で、不快な軸音はほぼない。比較的静かな部屋でも3m離れれば気にならないレベルに低下する。この際のCPUは85W前後で動作するようだ。

2つの動作モードがあり、前面のボタンで切り替えられる
ステータスはボタンすぐ上部のLEDで確認できる。写真の赤は高性能モード

 なお、いずれのモードもGPUの電力制限は短時間156W、持続で130Wとなっており、ゲーム性能にはあまり影響がない。ベンチマーク結果は後述の通りだが、実際にもあまりスコアに大差がなく優秀だ。そしてこのゲームの際の騒音だが、静音モードはミニPCとしてはかなり静かな類、高性能モードでも耳障りというほどの騒音を発しておらず、部屋を跨げば聞こえなくなるレベルだった。

 ミドルレンジとは言え、ある程度の性能を持つゲーミングPCと言えば騒音とは縁を切っても切れないし、ましてや大型ファンを採用しにくい筐体で、「静音」と公式で謳われていてもあまり期待ができないことが多い中、AtomMan G7 Ptの静音性について言えば期待を大きく上回る。

 さらに言えば本機はミニPCなので、本体を設置する場所の自由度が高い。ゲーミングノートのように騒音源が常に目の前に置いておかなければということはない。机の下に置く、モニターの背面に置くといった工夫で遠ざければ、耳に届く騒音はより少なくなるのがメリットだ。

Core i9-12900Kよりも高い性能

 最後にベンチマークをお届けしよう。今回はCPUを計測する「Cinebench R23」、PC全体の性能を計測する「PCMark 10」、GPU性能を計測する「3DMark」、そして実ゲーム性能を反映する「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク」を利用した。比較用として、普段使っているCore i9-12900KおよびGeForce RTX 4090を搭載した自作PCを用意した。

【表】検証環境
マシンAtomMan G7 Pt自作PC
CPURyzen 9 7945HXCore i9-12900K
メモリDDR5-5200 32GBDDR5-4800 64GB
SSDKingstone OM8PGP41024Q-A0 1TBSamsung 980 PRO 1TB
GPURadeon RX 7600M XTPalit GeForce RTX 4090 GameRock OC
OSWindows 11 Pro

 まずはCinebench R23だが、高性能モードではSingle-Coreでスコア1,934、Multi-Coreでスコア31,993を叩き出した。筆者が普段使っているメインマシンはCPUにCore i9-12900Kを搭載しているが、そのスコアはそれぞれ1,871、25,446であるため、いずれも上回っている……ということになる。ちなみに静音モードでも1,921と27,801なので、これも自作PCより速いということになる。

【グラフ1】Cinebench R23の結果

 PCMark 10に関しても同様で、こちらは静音/高性能かかわらず自作PCを凌駕するスコアを記録した。普段遣いなら十二分に快適だ。

【グラフ2】PCMark 10の結果

 一方、3DMarkやファイナルファンタジーXIVベンチマークに関してはGeForce RTX 4090と比べるまでもないのだが、そもそも消費電力やフォームファクタが大きく異なるし、製品のターゲットも異なる。だが、Radeon RX 7600M XTがターゲットとしているようなフルHD/WQHDゲーミングではまったく問題ないレベルの性能だ。

【グラフ3】3DMark Steal Nomad
【グラフ4】3DMark Time Spy
【グラフ5】3DMark Night Raid
【グラフ6】3DMark Fire Strike
【グラフ7】3DMark Wild Life
【グラフ8】ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク

 実際にゲームとして、「崩壊スターレイル」や「Apex Legends」など試してみたが、いずれも標準で設定される画質設定はWQHD解像度でも非常にスムーズに動作し、快適なプレイが可能だった。

自作の筆者も「ぐぬぬ」。高性能デスクトップがほしいなら「買い」

 AtomMan G7 Ptを評価する初日から、筆者はその静音性の高さと性能の高さに驚かされっぱなしで、「ここまでミニPCが進化してきたのか! 」と感慨深くなってしまった。

 筆者が初めてレビューしたMINISFORUMのミニPCは2020年末に登場した「H31G」で、その時もCPUとdGPUを内蔵しながらも驚異的な小ささと静音性を実現したことに感心していた。しかし「(大きくなったものの)静かになって、CPUとGPU性能が5倍以上になりました」と言われると、もはやH31Gクラスを使い続ける理由は皆無になった……と断言してもいいだろう。3年とちょっとで、ミニPCはここまで性能が向上した。

 2022年初旬頃に組み立てたCore i9-12900Kの自作PCと比較してもCPUの性能面で圧倒しており、ここまで来るとさすがに筆者も「ぐぬぬ……もうそろそろ買い替え時か……」とならざるえない。

 「高性能デスクトップPCは必要だけど、できれば設置スペースは小さいほうがいい」といったユーザーはもちろんだが、「まだ戦える」と思ってる4~5年前のハイエンドPCユーザーも、そろそろ買い替え先として検討してみてはいかがだろうか。

 MINISFORUM「AtomMan G7 Pt」をライブ配信で解説します。仕様や特徴の解説から、小さなボディに秘められた性能の検証結果、実機の動作までお見せします。解説は劉デスク。