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ダイヤルパッドが付いた「Zenbook Pro 14 OLED」はクリエイターノートの決定版か
2023年6月2日 06:24
ノートPC向けのGeForce RTX 40シリーズがリリースされて以降、同GPU搭載のノートPCが続々と登場してきている。今回レビューするASUSの「Zenbook Pro 14 OLED(UX6404VV)」もそんな1台。比較的大きな画面サイズとモビリティ性能を両立する14型クラスで、クリエイター向けを謳うモデルだ。
だが、これまでのよくある「性能だけクリエイター向け」とは少し異なる、ユニークな一面も持ちあわせている。早速その中身を紹介していきたい。ASUS Storeでの価格は24万9,800円。
RTX 4060搭載でメモリは最大48GB。DCI-P3を100%カバー
【表】Zenbook Pro 14 OLED(UX6404VV)の主な仕様 | |
---|---|
OS | Windows 11 Home |
CPU | Core i7-13700H (14コア/20スレッド、最大5GHz、Processor Base Power 45W) |
GPU | Iris Xe Graphics GeForce RTX 4060 Laptop GPU(GDDR6 8GB) |
メモリ | 16GB(DDR5-4800、最大48GB) |
ストレージ | 512GB(NVMe/M.2、PCIe 4.0 x4) |
ディスプレイ | 14.5型有機EL(2,880×1,800ドット、120Hz、光沢) |
インターフェイス | Thunderbolt 4、USB 3.1 Type-C、USB 3.1、HDMI出力、SDXCカードスロット、ヘッドセット端子 |
通信機能 | Wi-Fi 6E |
WAN | - |
カメラ | 207万画素(Windows Hello対応) |
サウンド | ステレオスピーカー(1W×2) |
キーボード | 84キー日本語キーボード |
バッテリ容量 | リチウムポリマー 76Wh |
バッテリ駆動時間 | 約8.8時間 |
バッテリ駆動時間 | 約1.6時間 |
同梱品 | ACアダプタ(200W) |
ソフトウェア | WPS Office 2 Standard Edition |
サイズ | 321.8×223.3×18.54~20.2mm |
重量 | 約1.6kg |
カラー | テックブラック |
価格 | 24万9,800円 |
今回レビューするZenbook Pro 14 OLEDは、直販モデルとして2つあるグレードのうち、スペックとしては下位モデルにあたる。といっても、Core i7-13700H(14コア/20スレッド、最大5GHz)に加えて、ディスクリートGPUのGeForce RTX 4060 Laptop GPUも搭載し、装備は十分にハイスペックだ。
メモリは16GB(最大48GB)、ストレージは512GBのSSD(NVMe PCIe 4.0 x4接続)。5万円アップとなる直販モデルの上位グレード(価格29万9,800円)は、それぞれCore i9-13900H、RTX 4070、メモリ32GB、SSD 1TBとなっていて、ハードウェア面の違いは主にこの4点に絞られる。OSにはWindows 11 Homeがプリインストールされる。
ボディカラーはテックブラックの1種類のみ。角度によっては濃紺にも見えるシックな色合いで、表面のマットな手触りも心地良い。天板にはロゴのほか、モデル名が小さく記されているだけで、外観はごくシンプルだ。MIL-STD-810H、いわゆるMILスペックにも準拠しており、耐衝撃、耐振動、高温・低温環境での動作など、数々の試験をパスする耐久性能をもっているのも特徴となる。
ディスプレイは14.5型なので、14型クラスとは言えやや大きめ。2,880×1,800ドットの高解像度な光沢有機ELディスプレイで、120Hzのリフレッシュレートを誇る。しかもDCI-P3の色空間を100%、sRGBを133%それぞれカバーした上で、カラーマッチングが施されたPantone認証を取得済み。DisplayHDR True Black 500/600準拠という高コントラストも達成している。カラーキャリブレーションにも対応しているようだ。
インターフェイスは、本体左側面にUSB 3.1、HDMI出力、ヘッドセット端子が、右側面にThunderbolt 4とUSB 3.1 Type-C、SDXCカードスロット(UHS-II対応)が用意されている。ネットワークはWi-Fi 6E対応の無線LANのみで、Webカメラは207万画素(フルHD解像度、30fps)。Windows Helloの顔認証に対応する。
Thunderbolt 4を含むType-Cポート2つは、DisplayPort Alternate Modeによる外部モニター出力と、USB PDによる給電に対応している。出先でもType-Cケーブル1本で充電できる利便性の高さはあるが、ディスクリートGPUを搭載していることもあり、フル稼働時は最大200W出力の付属ACアダプタとの併用が前提となるところだけ注意したい。
内蔵バッテリは76Whという大容量で、スペックシート上は約8.8時間の電池持ちを実現している。後ほど紹介するが、ベンチマークテストでも推定で7時間近くの動作時間となっており、ハイスペックなノートPCのわりにスタミナもそこそこある、という印象だ。
重量は約1.6kg(実測1,579g)と14型クラスとしてはややずっしり感があるものの、ディスクリートGPU搭載かつ大容量バッテリであることを考慮すれば許容範囲内だろう。
ダイヤルパッドでクリエイティブ作業の効率が一気に向上
Zenbook Pro 14 OLEDは、ただ単にディスクリートGPU搭載によるパワフルな性能と、高解像度、ハイリフレッシュレート、広色域の有機ELディスプレイを持つだけではない。クリエイター向けモデルとして、それらに加えてさらに特別なハードウェアとソフトウェアを搭載しているのがユニークな点だ。
その1つが、タッチパッド内に設けられた「ASUS DialPad」。タッチパッドの右上から左下にスワイプすることでこのダイヤルパッド機能のオン/オフを切り替えられ、オンにすると、タッチパッド左上でドーナツ状に凹んで見えるダイヤルパッドが有効になる。これをなぞったり、中央部分をタップしたりすることで、OS設定の変更やクリエイティブアプリの操作を直感的に行なえるのだ。
たとえばドーナツ状の部分を指先でぐるぐるなぞると、ディスプレイ輝度や音量の調整が可能。メディアプレーヤー使用時は再生/一時停止、早回し/早戻しなどの操作ができる。また、Adobe Photoshopでは画像の拡大/縮小やブラシサイズの変更、Adobe Premiere Proではタイムラインのズームイン/アウト、プレビュー再生位置の前後スキップなどが可能だ。
ダイヤルパッドは、使い始めてすぐにはその操作性のよさを実感しにくいかもしれないが、慣れてしまえば明らかに効率的だ。マウスだと手順が多くなったり、繊細な操作が難しかったりするような場面でも、ダイヤルパッドなら手間なくスムーズにでき、クリエイティブ作業の生産性アップを図れることは間違いない。
ダイヤルパッドの動作は、独自ユーティリティの「ProArt Creator Hub」を使うことで、自由度高くカスタマイズすることもできる。アプリケーションごとに割り当てる機能や動作を変えることも可能で、デスクトップではアプリケーションウィンドウの切り替えに割り当てるように設定できるし、Photoshopではフォントや消しゴムのサイズ調整、選択レイヤーの切り替えといった機能を追加で割り当てられたりもする。
ちなみにダイヤルパッドはデフォルト設定のままだと一部機能が正しく動作しない場合がある。たとえば最新バージョンのAdobe Premiere Proでダイヤルパッドの「タイムラインズーム」機能を使ってもズームアウトしかできなかった。こういった場合は、Premiere Pro上でキーボードショートカットの設定を調整し、それにあわせてProArt Creator Hubの「機能をカスタマイズ」で新規に割り当てを追加すればよい。
そしてもう1つ、「ProArt Creator Hub」にはZenbook Pro 14 OLEDのさらなるパフォーマンスを引き出すための設定も用意されている。冷却ファンを常時フル回転させる「フルスピードモード」だ。
ASUSのノートPCの多くは、プリインストールの「MyASUS」で冷却ファンの動作モードを設定できるようになっている。しかし、そこで用意されているのは静音動作の「ウィスパーモード」、標準設定の「スタンダードモード」、冷却性能を動的に最大化する「パフォーマンスモード」の3種類のみだ。
一方、「ProArt Creator Hub」では「パフォーマンスモード」の1段階上となる「フルスピードモード」が選択でき、Zenbook Pro 14 OLEDのポテンシャルを100%発揮できる。実際のところ、このモードにすると冷却ファンのノイズが盛大なものとなり、本体後方と左右側面から噴き出す風(場合によっては熱風)もそこそこ強いため、普段の作業中に利用するのははばかられる。写真の現像、動画のエンコード、3DCGレンダリングなど、マシン負荷が大きく、同時にほかの作業をすることがない状況で活用するのがおすすめだ。
1年前のフラグシップを余裕で上回る性能、ただしメモリ不足がネックになる場面も
それではベンチマークテストでZenbook Pro 14 OLEDの実力を検証してみることにしよう。本機はCPU内蔵GPUも活用でき、負荷状況に応じて自動で内蔵GPUとディスクリートGPUとを切り替える「MUXスイッチ」(Advanced Optimus)という仕組みも備えている。だが、ここではバッテリ動作でモードが制限されるテストなど一部以外は、いずれも「ディスクリートGPU」のみで動作する設定とし、冷却ファンは「フルスピードモード」とした。
また、一部のベンチマーク項目については、比較用としてCore i7-12700H搭載機である「Zenbook 16X OLED(UX7602)」(メモリ32GB、GeForce RTX 3060 Laptop GPU)のデータも併記した。サイズは異なるものの同じクリエイター向けということで、1世代前のフラグシップ機との差がどれくらいなのかも見ておきたい。
ビジネスアプリケーションも3Dグラフィックス絡みの処理も文句なく高速で、さすが第13世代CPU+RTX 4060の組み合わせだな、という感じではある。1世代前のZenbook 16X OLEDとの比較でも、ほとんどの項目でZenbook Pro 14 OLEDが一段上の性能を発揮しているようだ。
ただし、「UL Procyon」における「Video Editing Benchmark」では、スコアとしてはZenbook 16X OLEDより20%以上低くなっている。これはCPUやGPUの性能というよりも、メモリ容量の差が大きく出ているものと思われる。あるいはストレージのアクセス速度が影響している可能性もありそうだ。動画編集も含めハイエンドの性能を手に入れたいなら、やはり上位グレードを検討すべきということだろう。
なお、「Photo Editing Benchmark」は実行中にエラーが発生しやすい状況だったため、Photoshopのバージョンを古い22.2にしたうえで、「MUXスイッチ」はCPU内蔵GPUも使用する「MSHybrid」としている。そのためZenbook Pro 14 OLEDのスコアは参考値として見ていただきたい。
本格的な3Dゲームにおいては、画質設定を変えながら、RTX 40シリーズがもつDLSS 3の「フレーム生成」機能の有無でパフォーマンスがどう変わるかチェックした。「サイバーパンク2077」では「レイトレーシング: ウルトラ」だと荷が重いが、フレーム生成オンにすれば「ウルトラ」画質で十分に楽しめる。「ホグワーツ・レガシー」も快適に遊べるフレームレートを60fps以上と考えれば、こちらもフレーム生成オンで画質「中」もしくはギリギリ「高」でもいけそうだ。
「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」は画質設定に関わらず「とても快適」以上となり、不満なくプレーできる。これら3つのゲームはいずれも2,880×1,800ドットの解像度でテストした結果であり、もしフルHDなどに落としてプレーするのであれば、さらに快適になることは間違いない。Zenbook Pro 14 OLEDはゲーミングPCとしても高い実力を兼ね備えていると言っていいだろう。
少し気になるのは「CrystalDiskMark」のライトが1,800MB/s前後と、PCIe 4.0 x4接続のわりにやや低速なことだろうか。実用上は目立って体感できるほどではないレベルと思われるが、昨今はより高速なSSDが低価格で入手できることを考えると、もう一声のパフォーマンスが欲しいところではある。
スペックも実用性能も高い、ノマドなクリエイターにうってつけのモデル
高いマシンスペックもさることながら、「ASUS DialPad」という正しくクリエイター向けの機能を備えているところは、ほかとの差別化ももちろんあるだろうけれど、クリエイティブ用途でユーザーに何が求められているか、という点をメーカーがしっかり意識して物づくりしているように感じられる部分だ。
16型のクリエイター向けモデルではタッチパッド外にDialPadが独立しているのに対し、本製品では筐体サイズの関係からかタッチパッド内に収まっているため、どうしても有効/無効の切り替えをワンクッション挟まざるを得ないのが残念ではある。だが、外部マウスを使うなら常時有効のままにするのもアリで、さらに作業性アップにつながるはずだ。
また、直販モデルではなく、カスタマイズが可能な販売店であれば(もしくは自己責任でのユーザー作業で)、という前提になるものの、メモリ容量を最大48GBまで拡張できるのもクリエイターとしてはありがたいところではないだろうか。標準の16GBでは複数アプリケーションを同時起動したときに心もとないが、48GBに増設できれば何の不安もなく使いこなせるに違いない。
ディスプレイが光沢のみなのは、好みの問題かもしれないけれど、気になる人もいそうだ。有機ELディスプレイの鮮明さや精細感、高コントラストをフルに活かすためなのかもしれないが、周囲の照明を反射しやすく、ビジネス用途では少し使いにくいシーンもありそう。
そのあたりだけ踏まえておけば、ゲーミング性能も十分に高く、プライベート用途で存分に楽しめる性能を備えていることも含め、クリエイターとしては間違いのない選択肢の1つになるものと思われる。14.5型というサイズも、ちょっと重いけれど大きすぎず、ノマドなクリエイターにとっても魅力的なのではないだろうか。