Hothotレビュー

抜群の“目立たなさ”がいい。単行本サイズのデスクトップPC

「MousePro-M610F」

コンパクトなデスクトップPC「MousePro-M610F」

 大型筐体のPCを高性能にするのはできて当然。だからこそ、可能な限り小さな筐体に高性能を詰め込むというのは、ある種ロマンと言えるものだ。また、そんなロマンとは無関係に、物を置くスペースが限られる、あるいは物をできるだけ目立たなくしたいシチュエーションで、それでも十二分なPC性能をもつ作業環境がほしい、というニーズも特にビジネス用途では少なくない。

 マウスの「MousePro-M610F」は、まさにそんなところをターゲットにしただろうミニサイズのデスクトップPCだ。直販価格は12万6,280円から。

MousePro-M610Fの同梱物

設置方法は平置き、スタンド、VESAマウントの3Way

 MousePro-M610Fの最大の特徴であり、一番の魅力となるのは、やはりその筐体のコンパクトさ。194×150×28mm(幅×奥行き×高さ)、約620g(今回の試用機は実測612g)というサイズ/重量は、手に持ってみると「ちょっと重い単行本かな」という感覚。厳密に言うと単行本サイズ(B6判、128×182mmなど)よりもひと回り大きく、A5判(148×210mm)よりは幅が小さい、といったところだが、いずれにしても本棚に軽く収まるようなサイズ感であることは間違いない。

重量は実測で612g

 片面にゴム脚を備えているので、そのまま平置きできるし、付属のスタンドで立てて設置することも可能。もしくは、同じく付属のVESA対応マウントを使ってモニター背面やモニターアームなどに固定して使えるようにもなっている。平置き状態ならモニター下などに置けば目立たないだろうし、デスクの天板下にトレイがあるようなら、そこに置いて目につかない状態でも運用できる。

片面の四隅にゴム脚があるため、平置きできる
こんな風にモニターの下に置いても邪魔にならない

 付属スタンドで立てて使う場合は、デスク周りのちょっとした隙間に差し込む形で置いたり、モニターの背面側に隠すように置いたりしてもいい。スタンドを装着した状態でもさほど重くはならないので、そのときどきで置き場所を変更したりするのも苦にならないだろう。そしてVESAマウントを利用する方法は、モニターの背面に固定することで完全に視界から消えるため、最もスタイリッシュな設置方法と言える。

付属スタンド
スタンドで立てる場合は隙間に差し込む形で置いたりもできる

 ただ、付属VESAマウントは「モニターがVESA準拠で、VESAのねじ穴をスタンドでふさいでいないタイプ」を前提にした作りとなっていることに注意する必要がある。たとえばモニターの標準スタンドがVESAのねじ穴を利用して固定しているものや、ねじ穴のある一帯を覆うようにして取り付けているものには、そのままでは使えない。別途、NUC用の汎用延長プレートなどを用意する必要がある。

付属のVESAマウント

 とはいえ、これほどの小ささであれば、オフィスでも自宅でも置き場所に悩むことはほとんどなさそうだ。オフィスではフリーアドレスの各席に据え置きしてもいいだろうし、もちろん受付のような場所でもその“目立たなさ”を存分に活かせるはず。

 会議室のプレゼン用PCとして、あるいは出退勤の記録や会議室の管理など、業務システムの操作用端末としてもぴったりではないかと思われる。自宅の作業スペースが狭く大きなデスクトップPCが置けない、という状況にある在宅勤務の人も、これなら無理なく使えるはずだ。

小さいながらも拡張性は高く、インターフェイスも充実

 と、ここまで「場所を問わずさまざまなシーンで活躍できるコンパクトさ」を強調してきたが、そのためには必要十分な機能/性能を備えていなければならない。そうした意味でMousePro-M610Fは、この小ささで一般的な事務作業をしっかりカバーできる性能と、かなり充実したインターフェイス類を備えている。

 今回試用したのはカスタマイズしていない標準構成のモデルで、CPUは第12世代Core i3-1215U(Alder Lake、6コア/8スレッド、最大4.40GHz、Processor Base Power 15W)、GPUは内蔵のUHD Graphicsとなっている。Core iシリーズの中ではローエンドだが、マルチコアによって並列処理もしっかりこなせることを考えれば、Officeソフトや画像編集などのマルチタスク作業でも全く問題なし。へビーな動画編集やゲームをメインにするのでなければ力不足を感じることはないはずだ。

CPUは第12世代Core i3-1215U

 メモリ搭載量は標準で8GB、ストレージは256GB(NVMe SSD、PCIe 3.0)となっており、ここは用途に応じてカスタマイズした方がよさそう。それに絡んで面白いのが、メモリは最大64GBまで、ストレージは最大2TB×2までカスタマイズで拡張できる点だ(SSDは1つだけPCIe 4.0接続を選択可)。CPUパワーはそこまで重視しないが、メモリやストレージを大量に要求するような用途、たとえば社内/部署内のファイルサーバー、個人用途ならキャプチャデバイスも組み合わせた動画配信用端末などにもマッチするのではないだろうか。

直販サイトでのカスタマイズページ。メモリは64GBまで増設できる
内蔵SSDは2TBまで増量可。さらに2台目も追加可能

 インターフェイスは小柄であるにも関わらず豊富だ。前面にはUSB 3.1 Type-Cポートが1つ、USB 3.1ポートが2つ、USB 2.0ポートを2つ備え、SDXC対応のSDカードスロットも用意されている。背面にはUSB 3.1ポートがさらに2つ設けられ、HDMIとミニD-Sub15ピンによる映像出力、Gigabit Ethernet、マイク端子とヘッドフォン端子が利用可能だ。無線LANはWi-Fi 6で、最大転送速度は2.4Gbpsとなる。

前面インターフェイス。USB Type-Cは最大10Gbps
背面インターフェイス。USBポートのほかにGigabit Ethernetも用意

 このうち前面に1つだけあるType-CポートはThunderboltではないものの、DisplayPort Alternate Modeによる映像出力とUSB PDによる外部機器への給電に対応したものとなっている。

 MouseProはもともと法人向けのシリーズであり、多数の周辺機器を同時に接続しておけるこうした装備は、ビジネスにおける多様な用途を念頭に置いたものなのだろうと想像する。ただ、インターフェイスが充実していることは当然ながらプライベート用途であっても困ることはないし、SDカードスロットまで用意されているのはカメラが趣味の人にとってもありがたいところだ。

SDXC対応のSDカードスロットはデジカメデータの取り込みに便利

 なお、USB接続のキーボードとマウスも標準で付属するのは、法人ユーザーとしては別途手配する必要がなく手間が省ける、と感じるところかもしれない。キーボードはメンブレンのテンキー付きフルサイズで、奥行きが少ない省スペースタイプ。マウスはホイール付きの3ボタンで、いずれも実用性としては十分なもの。

 ただし、決して高級なキーボード/マウスというわけではないので、タイプ時のフィーリングやマウスのクリック音の大きさなどで不満に感じる人もいるだろう。個人的にはPC本体のコンパクトさをさらに活かすことも考えて、できれば配線不要なBluetooth接続のキーボード/マウスを組み合わせたいところだ。

USB接続のキーボードとマウスが付属
フルキーボードだが、奥行きが抑えられた省スペースタイプ

実務アプリケーションは満足できるパフォーマンスを発揮

 MousePro-M610Fはハイパフォーマンスを狙ったモデルではなく、ゲーム向けでもないが、いつものように各種ベンチマークテストでその性能をチェックしてみた。

「Cinebench R23」の結果
「PCMark 10 Extended」の結果
「PCMark 10 Applications」の結果

 CPU性能を検証する「Cinebench R23」のスコアは、第12世代Core iシリーズらしい良好な結果になった。

 主にビジネスアプリケーションでの実用性能を測る「PCMark 10」では、総合スコアこそ苦手なカテゴリに引っ張られて低いものの、「Productivity」のカテゴリーでは同世代のCore i5/i7搭載ノートPCに迫るか、あるいは超えている項目がある。「Essentials」についてもせいぜい1割ちょっと落ち込んでいる程度で、なかなかに健闘している様子。Officeソフト各種を実際に動作させるベンチマーク「PCMark 10 Applications」も同様の傾向にあるようだ。

「3DMark」の結果
「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」の結果

 一方で画像/動画編集、ゲームに関わる項目はやはり苦手。「PCMark 10」の「Digital Content Creation」や「Gaming」のカテゴリ、あるいは「3DMark」においてそれが如実に表れている。

 参考までに「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」を実行してみたが、さすがに本格的な3Dゲームは低解像度でも厳しい状況。このあたりはメモリやストレージを増量/高速化したとしてもさほどスコアアップにはつながらないので、その意味でもMousePro-M610Fは実務アプリケーションの利用に的を絞った方がよさそうなモデルだ。

「CrystalDiskMark」の結果(内蔵SSD)
「CrystalDiskMark」の結果(SDカード)
「CrystalDiskMark」の結果(外部SSD)

 「CrystalDiskMark」では内蔵SSDのほか、SDカードスロットとUSB 3.1 Type-Cで接続した外部SSDについても速度計測してみた。内蔵SSDはシーケンシャルリードで3,000MB/s超で、シーケンシャルライトなどほかの項目は超高速とまでは言えないものの、全体としてはごく標準的なPCIe 3.0接続のNVMe SSDといったところだ。

 SDカードスロットの方はリード最大300MB/sのUHS-II対応カードで計測したところ、概ね80~90MB/sで、UHS-Iに相当するデータ転送速度となった。外部SSDは1GB/sを超え、最大10GbpsのUSB 3.1らしい速度だ。ビジネス向けの、しかも小型なPCとしては満足度の高い結果で、SDカードや外部ストレージも積極的に活用したくなる。

 なお、動作時の冷却ファンの音は、やや甲高い。ピーク時であってもノイズは騒々しいと言うほどではないが、ごく静かな環境だと、稼働状況に応じてファンの回転数が細かく追従し、ノイズ音量が波打つかのように上下するのが少し気になるかもしれない。ただし、そもそもある程度人がいて、環境ノイズもあるオフィスなら気になるレベルではないと思える。

本体内の熱は側面の2箇所から排気される。冷却ファンの音は甲高く、回転数の変動は頻繁

省スペースを求めるユーザーのハートをガッチリつかむ合理的なPC

 なんといっても単行本に近いサイズ感というコンパクトなスタイルがMousePro-M610Fの魅力。PCに過剰なパワフルさは求めず、省スペースであることや、目立たずさりげなく使えることに重きを置くユーザーのニーズには、見事に応えてくれる1台となっている。周辺機器との接続性も高く、オフィスではもちろん、プライベートユースでも利便性の高いインターフェイスの豊富さもうれしい。

 CPU/GPU性能だけは変えようがないが(Core i5の上位モデル「MousePro-M610H」は用意されている)、メモリやストレージの容量カスタマイズの自由度が高いのは、ビジネスシーンでの応用幅の広さにもつながる。コロナ禍の影響で移転やレイアウト変更などオフィスの衣替えをする動きが活発になっているが、ワークスペースをコンパクト化するのであれば、PC環境もこうしたコンパクトなモデルに置き換えていくのも合理的な流れではないだろうか。