Hothotレビュー
RTX A3000とOLEDを搭載したASUSのプロ向けノートの実力を堪能する
2022年11月7日 11:00
ASUSの「ProArt Studiobook Pro 16 OLED W7600Z3A」は、同社のプロクリエイター向けPC「ProArt Studiobook」シリーズに加わった最新モデルだ。
第12世代Core i9、NVIDIA RTX A3000 Laptop GPU、4TBストレージなどのハイスペックに加えて、16型の有機ELディスプレイ、左手操作用の物理ダイヤル「ASUS Dial」などの独自の付加価値も備える。
豪華な内容だけに希望小売価格は49万9,800円と高価だ。プロのクリエイターといえど簡単に購入できるものではないが、最新のプロ向けクリエイターノートPCの実力はどのようなものなのか、じっくり見ていこう。
ProArt Studiobook Pro 16 OLED(W7600Z3A) | |
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CPU | Core i7-12900H |
CPUコア/スレッド数 | 14コア20スレッド (6Pコア12スレッド+8Eコア8スレッド) |
CPU周波数 | Pコア:2.5~5GHz Eコア:1.8~3.8GHz |
メモリ | 32GB(DDR5-4800) |
ストレージ | 4TB SSD(2TB×2、PCIe 4.0x4) |
グラフィックス機能 | NVIDIA RTX A3000 Laptop(12GB) Intel Iris Xe Graphics(CPU内蔵) |
ディスプレイ | 16型有機ELディスプレイ、光沢 |
表示解像度 | 3,840×2,400ドット |
サウンド | ステレオスピーカー(1W×2) クアッドアレイマイク |
インターフェイス | HDMI、SDメモリーカードリーダ(SDXC対応)、Type-C(Thunderbolt 4)×2、Type-A(USB 3.2 Gen 2)×2、ヘッドフォン/マイク兼用 |
通信機能 | 2.5GBASE-T対応有線LAN Wi-Fi 6、Bluetooth 5.1 |
カメラ | 92万画素 Windows Hello対応IRカメラ内蔵 |
バッテリ駆動時間 | 約11.8時間 |
ACアダプタ | 240W、独自端子 |
サイズ(幅×奥行き×高さ) | 357×264×19.9~21.86mm |
重量 | 約2.4kg |
OS | Windows 11 Pro |
上質感が際立つ筐体は石板のような存在感
ブラックの筐体は、シンプルなデザインながら、上質感が際立つ。アルミニウム合金の素材に上質な塗装、特殊な耐指紋加工が施されており、美しいビジュアルを持つ。
持ち上げてみると金属製らしい重厚感がある。外郭が硬質で中身も詰まっている感触があり、高級な石板のようなイメージだ。堅牢性については、開発段階で米軍調達の基準である「MIL-STD 810H」に含まれるテストをクリアしている裏付けもある。
筐体の具体的なサイズは、362mm×264mm×19.9~21.86mm(幅×奥行き×高さ)、公称重量は約2.35kgだ。ACアダプタも大柄なので持ち運ぶ用途には向かないが、かさばらないフォルムで堅牢性も優れているため、短距離の移動や車移動であれば、不安なく持ち出すことができる。
パワフルな第12世代Core i9を搭載
CPUはCore i9-12900Hを採用する。第12世代Coreプロセッサの高性能ノートPC向けシリーズ(開発コードネーム=Alder Lake-H)の中でも上位の性能をもつモデルだが、この第12世代はデキが良く、旧世代からの進化が大きい。
このAlder Lake世代では、2種類のCPUコアを搭載するハイブリッド構造を新たに導入。性能優先のPコアと電力効率優先のEコアを最適に使い分けることで、性能と電力効率を大幅に向上させている。
本製品が搭載するCore i9-12900Hは、6Pコア12スレッドと8Eコア16スレッド、Pコアの最大ブースト周波数が5GHzというパワフルな仕様。CPUのマルチスレッド性能が効くクリエイティブワークで高いパフォーマンスを発揮することが期待できる。
メモリはDDR5-4800、ストレージも高速なPCIe 4.0 x4対応SSDと、いずれも高速なものを搭載する。容量は、メモリは32GB(16GB×2)、ストレージは2TBを2基、合計4TB搭載する豪華な内容になっている。欲を言えば、メモリも64GBあったほうが上級クリエイター層には受けそうな気がするが、いずれにしても豪華な内容である。
プロユース向けNVIDIA RTX A3000 Laptop GPUを搭載
外部GPUとして、NVIDIA RTX A3000 Laptop(12GB)を搭載する。コンシューマ向けのNVIDA GeForceシリーズに対し、NVIDIA RTXシリーズは、プロユースのグラフィックス/エンジニアリングツールがターゲットだ。
ワークステーション向けのより厳しい基準に基づいた信頼性を備えることに加えて、50以上のプロフェッショナル向けアプリケーションの独立系ソフトウェアベンダー(ISV)の認証を受けており、高い互換性が担保されている。機構設計や建築向けのCAD系ツールはシビアな描画の互換性、安定性が求められるため、重要な意味をもっている。
もちろん、プレビュー等の高速描画、エンコードの高速化、AIを活用した超解像やオートリフレームなど、NVIDA GeForceシリーズと同様の恩恵も受けられる。
NVIDIA RTX A3000 Laptop(12GB)のハードウェア的なスペックはというと、アーキテクチャはAmpere(GA104コア)、CUDAコア数が4,096基。NVIDA GeForce RTX 3060 Laptop(CUDAコア3,840基)に近い内容だが、グラフィックスメモリは12GBと大容量だ。最近はクリエイティブ活用の幅が増え、ビデオ編集や写真編集でもかなりグラフィックスメモリを多く利用するようになっているので、12GBの大容量グラフィックスメモリは歓迎だ。
超画質の16型有機ELディスプレイを搭載
画面としては、本格的なクリエイター仕様の有機ELディスプレイを採用する。サイズはアスペクト比16:10の16型で、いわゆる4K UHDを超えるWQUXGA(3,840×2,400ドット)の高解像度に対応する。
色域はDCI-P3比100%(sRGB比133%)、カラーサイエンス大手のPANTONE、CalMANの認証を取得しており、工場出荷状態でキャリブレーションを行ない、色差(色の精度)は「デルタE2未満」、「正しい色」が表示できる状態で出荷される。
また、ブルーライトを最大で約70%低減することが可能で、こちらについてもドイツの認証機関であるテュフラインランド認証を取得しているという。
Thunderbolt 4、シャッター付きカメラ、クアッドマイクなど装備充実
スリムな筐体だが、本体装備の端子類は豊富だ。通信機能は、2.5GBASE-T対応有線LAN、Wi-Fi 6対応の無線LAN、Bluetooth 5.1を標準装備する。
USBは、Thunderbolt 4対応のType-CとUSB 3.2 Gen 2対応のUSB Type-Aを2基ずつ備えている。プロユースで普及しているビデオキャプチャデバイスや高速ストレージにはThunderboltを利用するものも多く、Thunderbolt 4(またはThunderbolt 3)を必須としているクリエイターは多い。
画面の上には、プライバシーシールド(スライド式の物理シャッター)付きのWebカメラ(92万画素)とクアッドアレイマイクを搭載。マイク/スピーカー/ヘッドフォン(接続時)のAIノイズキャンセリング機能も搭載しており、ビデオ会議もスマートにこなせる。
また、顔認証カメラに加えて、電源ボタン一体型の指紋センサーも装備しており、セキュリティを確保しつつ、スピーディなログインが可能になっている。
ペンタブとしても使えるタッチパッドやASUS Dialを搭載
キーボードも非常に上質だ。キートップに指を置きやすい凹みがあるほか、カーソルキーにモールドを入れて判別しやすくするなどミスタイプしにくい工夫もされている。
スイッチの感触も絶妙。軽い力で押し込むことができ、指に吸い付くように戻る低反発仕様。音もほとんど発生しない。さりげなくコストがかかっていることが実感できる。このあたりは高級品ならではの体験だろう。
キーボードの手前にはタッチパッドがある。このタッチパッドは1,024レベルの筆圧検知に対応したデジタイザを内蔵しており、ペンタブレットとしても利用できる。写真編集の肌レタッチなどでペンタブレットを利用している方には、ありがたい機能だろう。
タッチパッド下には3つのボタンを搭載。左右はタッチパッドの左右ボタン、中央部はホイールの代用として、押しながらパッドを上下になぞる操作でスクロールができる。
ASUSの資料によると「パン、回転、オービッドなど3DCADなどで効率の良い操作を行なえます」とされているが、評価機ではホイール以外の機能を使うことはできなかった。
また、パッド脇には「ASUS Dial」と呼ばれるダイヤルがある。システムの音量や画面の明るさの変更ができるほか、Photoshop CCでのブラシサイズ変更、ズーム、Premiere Proのタイムラインズーム、オーディオトラック幅の拡大縮小など、アドビのクリエイティブアプリの機能をダイヤル操作で行なえる。
ダイヤルの物理的な機構はしっかりしており、音量や明るさ操作などは手元を見なくても細かく操作ができてフィーリングは良い。しかし、肝心のアドビのクリエイティブツールにおいては、多くの機能がまともに機能しなかった。タイムラインズームやオーディオトラックの幅は片方向にしか動かず、Lightroom Classicの現像パラメータもまったく反応しなかった。
評価機が製品発売前の試作機であったこと、今回はアドビの大型アップデートがあって間もないこともあり、タイミングが悪かったのかもしれないが、タイムラインズームやオーディオトラック幅については、過去にレビューしたASUS Zenbook Pro 16X OLED(UX7602)でも同じ現象を経験しており、きちんと検証されているのか、という疑念は残る。
ハイレベルのパフォーマンスを実証
ベンチマークテストの結果を掲載する。ProArt Hubで設定できるモードは「パフォーマンス」と「スタンダード」の両方で行なっている。参考として2022年8月にレビューした「ASUS Zenbook Pro 16X OLED(UX7602)」のスコアも掲載している。
Cinebench R23のCPUスコアは、18,383pts。Core i9-12900H搭載機としても上位の性能をしっかりと発揮できている。薄型のフォームファクターながら、放熱がしっかりできていることの証明だろう。
PCMark 10は、実際のアプリを利用し、日常操作(Essentials)、オフィス(Productivity)、コンテンツ制作(Digital Content Creation)それぞれの用途をシミュレートする内容。高負荷が長く続く処理が少ないため動作モードによる差はあまりなく、一部では逆転しているものもあるが、いずれにしても優秀なスコアだ。
UL Procyon Benchmark Suitesでは、PhotoshopとLightroom Classicを利用して写真編集を行なう「Photo Editing」、Premiere Proを利用してビデオのエンコードテストを行なう「Video Editing」を実行している。どちらもCore i7-12700H、GeForce RTX 3060 Laptop(6GB)を搭載する比較対象をきっちりと上回るスコアをマークしている。
動作音についてはパフォーマンスモードの高負荷時は大きな音になるが、スタンダードモードならばだいぶ抑えられる。両者の性能差はさほどあるわけでもないので、スタンダードを基本に、ここぞという時だけパフォーマンスに切り替えて使うのがよさそうだ。
発熱の処理も優秀で、手がよく触れるパームレストの温度は、上部で体温より少し高い程度。不快な熱を感じることなく利用することができた。
高価だが満足感の高い高付加価値クリエイターPC
ASUS Storeでの直販価格は、49万9,800円だ。プロのクリエイターといえども簡単に手が出せる価格ではないものの、ワークステーション向けのNVIDIA RTX A3000 GPU、プロユースの色再現性を備える有機ELディスプレイ、4TBのPCIe 4.0 x4 SSDを搭載するうえ、ASUS Dialやペンタブレットとしても使えるタッチパッドなどクリエイティブ向けの付加価値も備える。
全部入りという印象のASUS Zenbook Proシリーズよりもクリエイティブにフォーカスしており、クリエイターにとってはより満足感の高い内容に感じる筐体の上質感、キーボードの打ち心地なども別格の印象で、高級車のような体験ができるプレミアムな1台となっている。特にワークステーション向けGPUに魅力を感じるユーザーにとっては大いに検討する価値はあるだろう。