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伝統と革新が融合した意欲作!レノボ「ThinkPad Z13 Gen 1」を試す
2022年8月31日 06:08
レノボ・ジャパンから、モバイルノートPC「ThinkPad」シリーズの新モデル「ThinkPad Z」シリーズが登場した。ThinkPadは2022年に登場30周年を迎えたが、今回登場したThinkPad Zシリーズは、次の30年を見据えた新たなシリーズとして投入。既存ThinkPadユーザーだけでなく新たなユーザーもターゲットとした意欲的なモデルと位置付けられている。
今回はこのThinkPad Zシリーズの13.3型モデル「ThinkPad Z13 Gen 1」を取り上げる。すでに発売中で、直販価格は31万7,680円から。
従来のThinkPadシリーズとは一線を画すデザイン
冒頭でも紹介したように、ThinkPad Zシリーズは次の30年を見据えて投入された新シリーズだ。新たなユーザー層もターゲットとしており、従来までのThinkPadシリーズとはやや異なるアプローチの製品となっている。それは、デザイン面にも現れている。
ThinkPadシリーズといえば、カラーがブラックで、“弁当箱スタイル”と呼ばれるフラットかつ直線的な筐体が長年受け継がれている。もちろん、時代とともに少しずつデザインは変化しているが、それでも基本となるデザインコンセプトは大きく変わっていない。
それに対し「ThinkPad Z13 Gen 1」(以下、Z13)のデザインは、フラットかつ直線的な弁当箱スタイルを継承しつつも、ひと目でこれまでのThinkPadシリーズと大きく異なる印象が伝わってくる。その大きな要因となっているのが、金属の質感をほぼそのまま活かした側面フレームと、ビーガンレザーを貼り付けたの天板だ。
筐体には75%再生素材を利用したアルミニウム合金を採用。そして、側面は光沢感のある金属の質感をそのまま活かしつつヘアライン処理が施されており、角度によって微妙に輝きが変化する。光沢感の強い筐体のThinkPadはこれまでほとんどなかったため、かなり新鮮な印象だ。
また、アルミニウム合金製の天板には、95%再生プラスチックを使用したビーガンレザーが貼り付けられている。しっとりとした手触りの天板も、これまでにはなかったもので、非常に新鮮味がある。もちろん、このビーガンレザーにはThinkPadロゴが彫り込まれており、ThinkPadシリーズであることをしっかりアピールしている。
そういった中、1つ賛否の分かれそうな部分が、ディスプレイ上部の突起だ。この突起部にはカメラやマイクなどを内蔵しており、ベゼル幅を狭めつつそれらを搭載するための措置だ。ディスプレイを閉じた状態でも、突起部が側面から飛び出す形となるだけでなく、天板側にも飛び出しているため、ディスプレイを開く時には、この突起があるため開きやすいという面もあるが、デザイン的に少々気になってしまう。ただ、この突起部がデザイン上のアクセントとなっているのも事実で、これもThinkPadの新たなチャレンジの1つと言えるだろう。
こういったイメージのデザインは、競合メーカーの製品ではよく見られるものの、これまでのThinkPadシリーズにはなかったもので、ThinkPadのイメージを大きく変えるものと強く感じる。これまでのユーザーからすると、ThinkPadらしくないと感じるかもしれないが、筆者の個人的な印象では、これまでの概念にとらわれず、ThinkPadの可能性を広げるという意味で、いいチャレンジだと感じる。
CPUにAMD Ryzen PRO 6000シリーズを採用
今回試用したZ13の仕様は、表1にまとめたとおり。プロセッサにAMDのRyzen PRO 6000シリーズを採用。試用機ではRyzen 7 PRO 6860Zを搭載していた。
メモリはオンボード搭載で16GBまたは32GB。内蔵ストレージは512GBまたは1TBのPCIe 4.0 SSDを搭載可能。試用機では、メモリは32GB、内蔵ストレージは512GB SSDを搭載していた。
ネットワーク機能は、IEEE 802.11ax(Wi-Fi 6/2×2)準拠無線LANとBluetooth 5.2を標準搭載。無線LANは6GHz帯域に対応するWi-Fi 6Eもサポートしているが、現時点では国内では非対応となる。また、オプションでLTE対応のワイヤレスWANも搭載可能となっている。
側面のポート類は、左側面にUSB4×1、右側面にオーディオジャックとUSB4×1と、必要最小限という印象。ただ、USB4が2ポートあるためポートリプリケータなどを利用することでポート類を簡単に増設できるのはもちろん、ディスプレイの接続も不安がなく、拡張性に関して不安はないと言える。
生体認証機能は、Windows Hello対応の顔認証カメラと指紋認証センサーを同時搭載。顔認証カメラは1080P Webカメラとしても利用できる。カメラには、従来のThinkPadシリーズのような、物理シャッター方式のプライバシーシャッターは非搭載。それに対し、カメラの電源を切ることでプライバシーを守る、eプライバシーシャッターを搭載している。ファンクションキー列のF9キー部分にeプライバシーシャッター機能が割り当てられており、簡単にカメラを電気的にオン、オフ制御できるようになっているので、物理プライバシーシャッターがなくても同等のセキュリティ性が確保されている。
表:ThinkPad Z13 Gen 1(試用機)の主なスペック | |
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プロセッサ | Ryzen 7 PRO 6860Z 8コア16スレッド/2.70GHz/ターボ時4.73GHz |
メモリ | 32GB |
内蔵ストレージ | 512GB PCIe 4.0 SSD |
ディスプレイ | 13.3型有機EL、2,880×1,800ドット、10点マルチタッチ、光沢 |
無線LAN | IEEE 802.11ax 2x2(Wi-Fi 6) |
Bluetooth | Bluetooth 5.2 |
キーボード | 日本語、約19mmフルピッチ、キーストローク約1.5mm、キーボードバックライト |
カメラ | 1080P Webカメラ、電子式プライバシーシャッター搭載 |
生体認証 | Windows Hello対応顔認証カメラ、指紋認証センサー |
インターフェイス | USB 4(Thunderbolt 4)×2 オーディオジャック |
OS | Windows 11 Pro 64bit |
駆動時間 | 最大約22.8時間 |
サイズ/重量 | 294.4×199.6×13.99mm(幅×奥行き×高さ)/約1.19kgから |
ThinkPadシリーズといえば、優れた堅牢性を確保している点もシリーズを通した特徴だが、それはZ13も同じだ。筐体素材にアルミニウム合金を採用しているというのは先に紹介した通りだが、手にしてみると非常に優れた剛性を備えていることがすぐに伝わってくる。ThiniPadシリーズおなじみのさまざまな堅牢性テストをクリアしているのはもちろん、米国国防省調達基準「MIL-STD-810H」に準拠する12のメソッド、および26のプロシージャの堅牢性テストにもクリアしているとのことで、堅牢性に関しては全く不安がないと言える。
本体サイズは、294.4×199.6×13.99mm(幅×奥行き×高さ)。ディスプレイが4辺狭額ベゼル仕様となっていることもあり、サイズは十分コンパクトだ。それに対し重量は約1.19kgからと、やや重い印象。試用機は最軽量スペックではないこともあり、実測では1,269.5gだった。実際に本体を手にすると、サイズ以上にずっしりと感じる。もう少し軽いとありがたいのは事実だが、モバイルノートPCとして特別重いわけではなく、そこまで苦にならず持ち運べそうだ。
2,880×1,800ドット表示、タッチ対応の有機ELパネルを搭載
ディスプレイは、アスペクト比16:10の13.3型ディスプレイを搭載する。パネルの種類は複数用意されているが、試用機では2,880×1,800ドット表示対応の有機ELパネルを搭載していた。こちらは10点マルチタッチ対応のタッチ操作にも対応している。このほか、1,920×1,200ドット表示対応のIPS液晶もあり、こちらはタッチ対応モデルとタッチ非対応モデルが用意される
。
試用機の有機ELパネルは、タッチ対応ということもありパネル表面が光沢仕様となっている。有機ELの優れた発色性能と合わせ、非常に鮮やかな表示が可能となっている。ビジネス利用はもちろん、映像クリエイターも十分納得できる表示クオリティを備えており、写真や動画の編集作業も本来の色をしっかり確認しながら行なえるだろう。
ただ、光沢パネルのため、外光の映り込みはやや気になる。もし文字入力が中心の作業であれば、タッチ非対応の非光沢液晶パネルの選択もありだ。
また、ディスプレイ部はほかのThinkPadシリーズとは異なり、135度ほどまでしか開かない。ビジネスシーンではディスプレイが180度開くことで便利な場面もあるが、このあたりは使い方次第なので、そこまで大きな欠点とはならないだろう。
キーボードの扱いやすさはシリーズ共通だが、物理クリックボタン非搭載は残念
キーボードは、試用機ではキーの間隔が開いたアイソレーションタイプの日本語キーボードを搭載。また、オプションで英語キーボードが用意される点は、ThinkPadシリーズらしい特徴だ。キーボードバックライトも標準で搭載する。
主要キーのキーピッチは19mmフルピッチを確保。最下段の右Ctrlの横に指紋認証センサーを配置している関係で、右Ctrlや右Altなど一部キーのピッチが狭くなってはいるが、それ以外は均一のピッチを確保しており、問題なくタッチタイプが可能。
キーストロークは1.35mmと、やや浅い。ただ、タイピングしてみると適度な硬さとクリック感が感じられるおかげで、そこまでストロークの浅さは感じられず、良好な打鍵感が確保されていると感じる。このあたりのキーボードへのこだわりは、さすがThinkPadシリーズという印象だ。
ただ、右カーソルキーが1段下がっていない点は、ほかのThinkPadシリーズのキーボードと異なる部分。少々残念ではあるが、上下幅の狭い↑と↓のカーソルキーはそこまで使い勝手が悪くないため、そこまで不便とは感じなかった。
ポインティングデバイスは、スティックタイプのTrackPointとタッチパッド「クリックパッド」を同時搭載するという、おなじみのスタイル。ただし、タッチパッドは振動によるフィードバック機能を備える感圧式のものを採用。従来までのクリックボタン一体型のクリックパッドとはやや異なる使い勝手だが、振動のフィードバックがあることで、しっかりとしたクリック操作が可能だった。
ところで、従来のThinkPadシリーズでは、クリックパッド上部にTrackPoint用の物理クリックボタンを配置しているが、Z13では物理クリックボタン非搭載で、クリックパッドの上部をタッチセンサー式のクリックボタンとして利用するようになっている。
これは、近年のノートPCで大型のタッチパッドを搭載する例が増えており、その流れを汲んだ措置のようだ。確かに物理クリックボタンがないことで、クリックパッドはかなり大型化されている。
ただ個人的には、手探りでクリックボタンの位置が把握できず、かなり扱いづらいと感じた。クリック操作時には振動のフィードバックが得られるものの、物理ボタンとの操作性の違いはかなり大きい印象だ。
以前ThinkPadで、ファンクションキーをタッチ式にした「Adaptiveキーボード」を採用したことがあったが、ユーザーに不評で、わずか1年ほどで廃止された歴史がある。今回のTrackPoint用クリックボタンについても、それと同じようにならないかと個人的に心配になる。
とはいえ、ThinkPad Zシリーズは新たなユーザー層もターゲットとしていることもあり、こういった仕様を積極的に採用したのだろう。そういう意味では、これも新たなチャレンジと言っていいだろう。
ところで、TrackPointには新たな機能が追加されている。それは、TrackPointを軽くダブルタップすると、「Communication Quick Menu」というメニューが起動するというものだ。
Communication Quick Menuでは、カメラの画質調整やマイクのミュート、音声文字起こし機能の呼び出し、マイクのAIノイズ除去機能の設定などが行なえる。テレワークなどでWeb会議を行なうシーンが増えている現在では、なかなか便利に活用できる機能と感じる。
Ryzen PRO 6000シリーズの優れた性能を確認
では、ベンチマークテストの結果を紹介しよう。今回利用したベンチマークソフトは、UL LLCの「PCMark 10 v2.1.2563」、「3DMark Professional Edition v2.22.7359」、Maxonの「CINEBENCH R23.200」の3種類だ。結果は下にまとめたとおりで、比較用としてCPUにCore i7-1260P搭載の「dynabook R8/V P1R8VPBL」の結果も加えてある。
結果を見ると、Z13のスコアの高さがよく分かると思う。PCMark 10では、一部でCore i7-1260P搭載のdynabook R8/Vに劣っている部分もあるが、ほとんどの項目で上回っていることが分かる。
Cinebenchの結果も、マルチスレッドのテストではdynabook R8/Vを上回っており、マルチスレッド性能の高さが伝わってくる。同時に、以前はIntel製CPUに劣っていると言われることの多かったシングルコアのテストも、大きな差をあけられていない。
そして3DMarkのスコアは、全て上回った。Ryzenに内蔵されるグラフィックス機能は優れた描画能力を備えることで定評があり、この結果はある意味当然だろう。
これらベンチマークテストの結果を見る限り、ビジネス用途はもちろん、ホビー用とまで柔軟に対応できる性能を備えていると言っていいだろう。
なお、高負荷時の空冷ファンの動作音は、そこそこ大きい印象。ゲーミングPCのようなうるささではないものの、動作音や風切り音が比較的しっかり耳に届く。ただ、高負荷な作業を行なわない状態ではほとんど動作音は気にならないため、通常は動作音がうるさく感じることはほとんどないだろう。
続いてバッテリ駆動時間だ。Z13の公称の駆動時間は最大約22.8時間(JEITA測定法 Ver.2.0での数字)となっている。それに対し、Windowsの省電力設定を「バランス」、バックライト輝度を50%、無線LANをオン、キーボードバックライトをオフに設定し、PCMark 10のBatteryテスト「PCMark 10 Battery Profile」の「Modern Office」を利用して計測してみたところ、10時間22分を記録した。
公称の半分以下の時間ではあるが、このあたりはディスプレイに高解像度の有機ELパネルを採用していることなども影響していそうだ。それでも、実利用でも7時間以上は十分利用可能と考えられるため、1日程度の外出での利用は十分まかなえるだろう。
なお、ACアダプタは出力65Wで、USB Type-C接続仕様のものが付属する。サイズは特別コンパクトではなく、重量も付属電源ケーブル込みで実測307gとやや重く、本体との同時携帯にあまり向いていない。より軽く持ち歩きたいなら、小型軽量の汎用USB PD ACアダプタの利用がお勧めだ。
ThinkPadシリーズの新たな可能性を示す1台
今回見てきたようにZ13は、ThinkPadシリーズの伝統を受け継ぎつつも、さまざまな部分で新しいチャレンジが盛り込まれた、意欲的な新モデルに仕上がっている。今回実機を触ってみて、その認識がさらに強まった。
もちろん、古くからのファンには、こういった変化はあまり好まれないかもしれない。しかし、デザインや機能面などでの新しいチャレンジは、今後のシリーズの進化を考えると不可欠なのも事実。そのうえで、ThinkPad Zシリーズでは新たなユーザー層の獲得も目指していることを考えると、恐れることなくこういった変化を実現した開発陣の意欲を大いに買いたいと思う。
ThinkPad Zシリーズは、性能面や携帯性は当然の仕上がりで、そのあたりは全く心配無用。そのうえでThinkPadの新たな可能性を示す1台として、魅力的な製品と言っていいだろう。