Hothotレビュー
2通りのスキャンが行なえる新モデル「ScanSnap iX1300」はドキュメントスキャナの決定版か
2021年10月5日 13:00
PFUのドキュメントスキャナ「ScanSnap」シリーズに、新モデル「ScanSnap iX1300」が登場した。ScanSnapでは、最大50枚の原稿をまとめてセットできるハイエンドモデルと、スティック状の筐体で1枚ずつスキャンを行なうモバイルモデルがメジャーな存在だが、今回のiX1300はちょうどその中間に位置するモデルだ。
かつての「S1300i」の後継に当たるこのモデルは、2通りの読み取り方法に対応するなど、かなり個性的な性格を備えた製品だ。メーカーから実機を借用したので、レビューをお届けする。
なお本稿では、上位にあたる現行モデル「iX1600」について、同じ外観の旧モデル「iX1500」を外観写真などで使用している。速度以外のスペックはほぼ同じで、外観やギミックの比較においては特に問題はないはずなので、その旨ご了承いただきたい。
2Lのペットボトルとほぼ同等サイズ
まずはざっと特徴を比較してみよう。といっても詳細な比較はメーカーサイトを見れば明らかなので、ここでは筆者なりの視点で、特徴的な項目を抜粋しつつ、独自の項目を加えた表を掲載する。
iX1600 | iX1300 | iX100 | |
---|---|---|---|
本体サイズ | 大サイズ (292×161×152mm) | 中サイズ (296×114×87mm) | 小サイズ (273×47.5×36mm) |
読み取りの向き | 上→前 | Uターン:上→上 リターン:前→後→前 | 前→後 |
最大セット枚数 | 50枚 | Uターン:20枚 リターン:1枚 | 1枚 |
読み取り速度(毎分) | 40枚 | Uターン:30枚 リターン:12枚 | 11.5枚 |
プロファイル切替 | PCまたは本体タッチパネル | PC | PC |
電源 | 専用ACアダプタ | 専用ACアダプタ | USB(バスパワー駆動) |
スキャン時に原稿は反るか | 多少反る | かなり反る(Uターン) 反らない(リターン) | 反らない |
PFUダイレクト価格(税込) | 52,800円 | 35,200円 | 24,200円 |
ScanSnapのフラッグシップモデルであるiX1600は、最大50枚もの原稿をADFにまとめてセットでき、毎分40枚というスピードでスキャンが行なえる。大量の紙を電子化するにはぴったりだが、筐体はそのぶん大きく、またトレイを展開させたときの体積も相当なものだ(奥行きがおよそ50cm必要)。
一方、バスパワーもしくはバッテリで駆動するモバイルタイプのiX100は、スティック形状で邪魔にならないものの、セットできる枚数は1枚ずつ、また片面ずつしか読み取れず、多くの書類をスキャンするには不向きだ。
今回のiX1300はこの両者の中間に相当する製品で、筐体サイズは2Lのペットボトルと同等、また読み取った原稿を手前ではなく上部に排出する構造ゆえ、設置スペースもかなりコンパクトだ。同時セット枚数は最大20枚と、iX1600の半分以下だが、そこまで多くなくてよいユーザーも多いだろう。
また読み取り速度は毎分30枚と、毎分40枚を誇るiX1600には及ばないものの、モバイルタイプのiX100に比べると高速だ。本製品はローラーがパッド式で、あまりにスキャンが高速だと原稿がきちんと分離しない特性があることを考えると、かなり健闘していると言える。
セットアップ手順は、まず機種を選んだのち、PCにUSBで接続。起動モードを選択したあと、あらためて有線か無線かを選び直し、必要に応じてWi-Fi設定を行なうことで、専用ソフト「ScanSnap Home」で認識できるようになる。
なお過去に別のScanSnapで使っていたプロファイルを使うためには、いったんエクスポートしたあと、本製品が選択された状態で、あらためてインポートを行なう必要がある。これらプロファイルはスキャナごとに用意されているため、共用するのではなく、複製して使わざるを得ないわけだ。多少面倒だが、手動でいちから作り直すよりはマシだろう。
2つの読み取り方式に対応
さて本製品の最大の特徴は、2つの読み取り方式に対応することだ。1つは「Uターンスキャン」、もう1つは「リターンスキャン」という名前がつけられており、原稿のセット方法はもちろん、排出方法も異なっている。順に見ていこう。
まずUターンスキャンだが、従来のiX1600と同じように、上面のカバーを開け、給紙トレイに原稿をセットする。これでスキャン後に手前に原稿が排出されれば、iX1600と大きくは変わらない設計ということになるが、本製品はこの原稿を読み取り直後にUターンさせ、本体の上方向に排出させる構造になっている。トレイはSCANボタンを押すと自動的に開くので、手動で立てるなどの手間はかからない。
この方式では、本体手前に原稿の排出スペースを必要とせず、設置スペースが節約できる利点がある。本製品はiX1600に比べて同時にセットできる原稿枚数が少ないため、Uターンした原稿を保持するにしても、重さで負けたり、トレイからはみ出すこともない。ただし原稿は大きくカールすることから、厚手の原稿をスキャンするには向かない。
もう1つは、従来のiX100とほぼ同じ、本体正面から原稿を差し込んでのスキャンで、リターンスキャンと呼ばれている。なぜこのような名称かというと、iX110であれば背面にそのまま排出されていた原稿が、本製品は読み取り後に再び手前に戻ってくる構造になっているからだ。
具体的な挙動は動画をご覧いただきたいが、いったん原稿が背後から顔をのぞかせたのち、再びスキャナの中に吸い込まれていく。背面に排出されるわけではないので、背面に排紙スペースを用意しなくて済む利点がある。
こちらは原稿は1枚ずつしかセットできないものの、厚みのあるカードや通帳、封筒、さらに折りたたんだパッケージなど、Uターンさせるのが難しい原稿も問題なくスキャンできる。またiX100では不可能な、両面読み取りにも対応している。
ただしこのリターンスキャン、原稿に付箋などが貼られていた場合、進行方向が逆向きになることで、中で引っかかることがある。試しに、4枚の付箋それぞれが上下左右を向くように貼り付けた原稿で実験したところ、進行方向に貼った付箋と、進行方向とは逆向きに貼った付箋が、それぞれ内部でひっかかって折れる事故が発生した。
こうした原稿のために、従来のiX100のように背面に排出できる機能があって切り替えられればよいのだが、本製品の排出方向はあくまで「リターン」一択だ。折りたたまれて段差のあるパッケージなどをこの方法でスキャンすると容易に引っかかるため、利用にあたっては気をつけたほうがよいだろう。
スキャン設定は従来とほぼ同様。正面からのスキャンは両面に対応
本製品のスキャン設定自体は、従来とは大きく変わっていない。本製品はiX1600のようにタッチ液晶を備えていないため、読み取り設定の選択はPCにインストールしたユーティリティ「ScanSnap Home」で行なう(PC以外にスマホやタブレットにも対応するが本稿では割愛する)。本体側でできるのは、SCANボタンを使ったスキャンの開始と終了だけだ。
読み取り速度は従来と同じで、300dpi(スーパーファイン)までは高速だが、600dpi(エクセレント)は速度がやや低下する。読み取りカラーは白黒/グレー/カラーの3種類で、自動的に切り替えることもできる。このほか両面/片面の選択も可能だ。
相違点として、通常スキャンか継続スキャンかを、Uターンスキャンとリターンスキャンで別々に設定できることが挙げられる。また前述のキャリアシートは、リターンスキャンでは利用できるが、Uターンスキャンでは項目がグレーアウトしている。
一方の、正面から原稿を挿入してのリターンスキャンでは、モバイルタイプのiX100と異なり、両面スキャンに対応するのが利点だ。自分にとっては1枚ずつの手差しスキャンで十分だが、表裏をひっくり返す手間だけは面倒だったという人には、嬉しい機能だろう。白紙の裏面までスキャンされるのが無駄ならば、白紙自動削除をオンにしておけばよい。
一方でマイナスとなるのは、外部電源が必要になることだ。本製品はたとえiX1600比ではコンパクトでも、iX100比では筐体サイズが大柄なため、環境によっては毎回引き出しに片付けざるを得ない場合も多いと考えられ、そのたびにACアダプタをつないで、また外して、という手間が発生する。
これがiX100であれば、Wi-Fi接続×バッテリ駆動で、完全ワイヤレスでのスキャンも行なえたが、本製品はこの外部電源の問題からは逃れられない。毎回片付けるのではなく、テーブルサイドにスペースを作って、常設しておくのが無難かもしれない。また有線接続も、USB Standard AではなくUSB Type-Cには対応しておいてほしかった。
「自炊」を行なうのに便利な仕様とそうでない仕様
ところでスキャナの用途の1つに、裁断した紙の本を電子化する、いわゆる「自炊」がある。かつて電子書籍のラインナップが充実しておらず、自分でコンテンツを調達しなくてはならなかった時代の名残だが、いまでも紙でしか存在していない書籍、また手元にしかない古い本の電子化には、こうした電子化の作業は欠かせない。
さて本製品は、この自炊には向くだろうか。本製品は同時にセットできる枚数が20枚に制限されており、本1冊をまるごとセットするのは不可能だ。小分けにしたページを何度も追加しなくてはならず、最大50枚のセットが可能なiX1600などと比べると、あまり向いているとは言えない。
もっとも一方で本製品は、本のスキャンに向いた機能も備えている。正面から原稿を差し込んでのリターンスキャン機能は、原稿を一切カールさせずに読み取れるため、本の表紙のような厚手の紙をスキャンするのに向いている。
このリターンスキャンは、本体の上部で行なうUターンスキャンと1回のスキャンの中で混在させられるので、裁断した本を用意し、まず表紙をリターンスキャン。続いて本体上部のトレイを開き、本文をUターンスキャン。最後にもう一度本体正面のリターンスキャンで裏表紙をスキャンし、本まるごと一冊のスキャンを完了させることができる。
この仕組みでは、途中でスキャン設定をカラーからグレーに変更するといったことはできないが、本の自炊には非常に向いた仕様だ。筆者自身、本の自炊をする時は2台のスキャナの使い分けをしているくらいなので、この使い方は非常に合理的だ。
ただし前述のように、本文のページ数が多いと、トレイに載せる原稿を小分けにしなくてはならないので、本は本でも「薄い本」、つまり同人誌や小冊子などの電子化に向いていると言える。
また本の自炊以外にも、例えば封書に入った手紙や書類について、まず封筒をリターンスキャンし、そのあと中に入っていた手紙や書類を上部のUターンスキャンするといった具合に、ひっくるめて1つのファイルとして電子化したい場合には、本製品は非常に重宝する。
なお気をつけたいのは、リターンスキャンで、背面に原稿を置いていると、リターン時に巻き込まれかねないことだ。今回、たまたま本製品の背後に原稿を山積した状態でリターンスキャンを行なっていたところ、原稿が手前に戻る時にこれらの一部が巻き込まれる事故が発生した。
リターンスキャンという名前からして、本製品と手元だけで原稿が往復するように感じるが、実際には背面にも相当な奥行き(15cm弱)が必要で、そこに障害物があると、原稿が突き当たったり、あるいは今回の筆者のように、別の原稿が巻き込まれる事故が起こってしまう。背後を壁にピッタリ寄せて設置できるわけではないことは、知っておくべきだろう。
初心者がハズレを引かずに済む最良の選択肢
以上のように本製品は、上位のiX1600と、下位のiX100の中間に位置するモデルで、両者のいいとこ取りといっていい製品に仕上がっている。これらモデルにできて本製品にできないことが皆無なわけではないが、どちらの製品が自分に合っているか決めかねているユーザーにとっては、ハズレを引かずに済むよい選択肢と言える。
それゆえ本製品は、ドキュメントスキャナの初心者が、最初に手に入れる1台としておすすめできる。本製品を使い込んでいくうちに、最大セット枚数と読み取り速度が上のiX1600に興味を持ったり、モバイルでも使えるiX100に惹かれるかもしれないが、そこまで使い込んだのであれば、その時は買い換えればよいだけだ。
やや不安要素があるとすれば、可動部が多く、それらの耐久性が未知数なことだ。本製品には、本体上面のカバーを開くとシューターが伸びるギミックに加えて、SCANボタンを押すと原稿を受け止めるトレイが起き上がり、さらに自動的に伸びる仕組みを備えている。
このギミックは、手でわざわざ開かなくてよい点で画期的で、またメーカーとしても十分な試験は行なっているはずだが、可動部分がそもそも存在しないモデルと比べた場合、耐久性はどうしても懸念点となる。これらについては長期間使っていかなければ判断できない。
また、ひとめ見れば紙を通す方向が把握できた従来モデルと異なり、どこに原稿をセットすればよいか直感的に分からないのは、初心者にとっては多少ハードルが高い。あらゆる用途に対応しうるオールラウンドなモデルではあるが、敢えて懸念点を挙げるならば、そうした点ということになりそうだ。