Hothotレビュー

超小型PCでも圧倒的性能。Ryzen搭載のMINISFORUM「EliteMini HM80」は新時代を感じさせる存在

CPUにRyzen 7 4800Uを搭載する「EliteMini HM80」

 手の平サイズの超小型PCというと、従来はIntelの「Celeron N」シリーズなど、低消費電力でローエンドなCPUを搭載することが多かった。そのため、純粋にPCとして考えると、性能面で少々不満のあるモデルが多かったのだ。

 しかし最近増えてきた超小型PCやベアボーンPCでは、RyzenシリーズやCore iシリーズといった高性能なCPUを採用するモデルが増えている。

 こうした最新CPUを搭載する超小型デスクトップPCは、従来の低消費電力型CPUを搭載するモデルと比べると、CPUの処理性能や内蔵グラフィックス性能が段違いに高いこともあり、PCとしての使い勝手は大きく向上している。

 今回紹介するMINISFORUMの「EliteMini HM80」(以降HM80)もまた、そうした高性能な超小型デスクトップPCの1つである。幅と奥行きは149.6mmというコンパクトボディに、なんと8コア16スレッド対応の「Ryzen 7 4800U」を搭載する。ここではHM80の機能性や実際の性能を、様々な角度から検証してみたい。

手の平サイズの8コア16スレッド対応PC

 MINISFORUMは、今回取り上げるHM80のようなサイズ感の超小型PCを数多く手がけるメーカーだ。RyzenシリーズやCore iシリーズを始めとして、従来のようなCeleron NシリーズやAtomシリーズを搭載するモデルもラインナップしており、用途や予算に合わせて好きなモデルを購入できる。

MINISFORUMでは、様々なタイプの小型PCをラインナップしている

 HM80は、ノートPC向けの「Ryzen 4000」シリーズを搭載する「HM」シリーズの最上位モデルにあたり、CPUには前述の通りRyzen 7 4800Uを搭載する。

 これはAMDのノートPC向けAPU(GPUを内蔵するCPU)で、CPUコアは第3世代Ryzenと同じ「Zen2」アーキテクチャ、GPUコアは「Radeon RX Vega」世代のアーキテクチャという組み合わせだ。動作クロックは1.8GHz(最大時は4.2GHz)で、発熱の目安となる標準的なTDPは15W。

 今回試用したのは16GBのメインメモリと、256GBのSSDを搭載するモデルだ。このほかに32GBもの大容量メモリと、512GBのSSDを搭載するモデルをラインナップしている。前者の直販価格は9万8,980円、後者は11万90円だ。

【表1】MINISFORUM「EliteMini HM80」のスペック
OSWindows 10 Pro 64bit版
CPU(最大動作クロック)Ryzen 7 4800U(8コア16スレッド、1.8GHz)
搭載メモリDDR4-3200 SO-DIMM 16GB(最大64GB)DDR4-3200 SO-DIMM(最大64GB)
ストレージ256GB(PCI Express 3.0 x4)512GB(PCI Express 3.0x4)
通信機能Wi-Fi 6、Bluetooth 5.0
主なインターフェイスUSB Type-C(DisplayPort対応)、USB 3.1×2、USB 3.0×4、2.5Gigabit Ethernet、Gigabit Ethernet、DisplayPort、HDMI
本体サイズ149.6×149.6×55.5mm(幅×奥行き×高さ)
重量650g
直販価格9万8,980円11万90円

 デザイン的には、筐体の幅と奥行きは149.6mm、厚みは55.5mmという小さなお弁当箱のようなスタイルを採用する。超小型デスクトップPCとしては、スタンダードなデザインだ。天板のフチにはスリットが設けられており、両側面はメッシュ構造になっている。

 ベンチマークテストなど負荷の高い作業中は、メッシュ構造の側面から暖かい風が吹き出してくることを考えると、天板のスリットは吸気口として機能しているのだろう。

真上から見ると、149.6mmの正方形になる。フチの黒い部分はスリットになっている
側面はこのようにメッシュ構造になっており、排気口として機能する

 前面には電源ボタンとサウンド入出力端子、2基のUSB 3.1 Type-Aポート、DisplayPort Alternate Mode対応のType-Cポートを搭載する。映像出力端子を前面に搭載するのはちょっと珍しい構成ではある。

 背面には4基のUSB 3.0 Type-Aポート、2.5Gigabit Ethernetポート、Gigabit Ethernetポート、DisplayPort、HDMI、ACアダプタとの接続で利用するType-Cコネクタを装備する。

 このType-Cコネクタは純粋にACアダプタとの接続だけに使うものらしい。またUSB PDには対応しないようで、付属のACアダプタと同じ65W出力対応のUSB PD充電器や、USB PDパススルー機能付きのHub経由で充電器を接続しても、HM80は起動しなかった。

前面にはUSB 3.1ポートやType-Cコネクタを装備
背面には4基のUSB 3.0ポートやディスプレイ出力端子、有線LAN端子などを装備

 ディスプレイ出力機能としてはHDMI、DisplayPort、前面のType-Cという構成になる。これらはいずれも4K解像度でリフレッシュレート60Hzの出力に対応しており、かつ3画面同時出力が可能だ。

 付属品としては、VESAマウント穴を使って液晶ディスプレイや壁掛けなどが行なえるVESAマウント用のアダプタやネジ、内部に2.5インチSSDを組み込んで本体のマザーボードと接続するためのケーブルなどが入っていた。

VESAマウント穴を利用して固定するためのマウント用のアダプタや、2.5インチSSDをマザーボードに接続するためのケーブルを同梱する

6コア12スレッド対応のデスクトップCPUとほぼ同等の性能

 このようにデザインや構造は、高性能なCPUを搭載する超小型PCとしてはスタンダードなものだ。では実際の性能はどうか。いくつかのベンチマークテストを通して、そのパフォーマンスを検証してみた。

 ただ筆者が検証してきた機材の中には、HM80が搭載するRyzen 7 4800Uと同クラスのCPUを搭載するシステムがない。今回は同じくAMDのデスクトップPC向けAPU「Ryzen 5 PRO 4650G」を利用した自作PCと比較してみた。

【表2】比較機のスペック
CPURyzen 5 Pro 4650G(6コア12スレッド)
マザーボードGIGABYTE B550I AORUS PRO AX(rev. 1.0)(AMD B550)
メモリCFD販売 CFD Selection W4U3200CM-8GR(PC4-25600、8GB×2)
SSDMicron Crucial P1 CT1000P1SSD8JP(1TB、PCI Express 3.0 x4)
PCケースRAIJINTEK Metis(Mini-ITX)
電源ユニットCorsair SF450 CP-9020104-JP(450W、80 PLUS Gold)
CPUクーラーサイズ 風魔 弐(サイドフロー、12cm角×2)

 Ryzen 5 PRO 4650GのCPUコア部分は6コア12スレッド対応なので、CPUの処理性能自体はRyzen 7 4800Uに及ばない部分もあるかもしれない。ただ、消費電力や発熱が高く設定されているデスクトップPC向けのAPUなので、Ryzen 5 PRO 4650Gのほうが動作クロックはかなり上だ。

 対してノートPC向けにチューニングされたRyzen 7 4800Uが、デスクトップPC向けのRyzen 5 PRO 4650Gにどこまで肉薄できるのか、あるいは立場が逆転する場面があるかどうかなどが見所となるだろう。

【表3】ベンチマーク結果
MINISFORUM EliteMini HM80Ryzen 5 PRO 4650G搭載自作PC
PCMark 10 Extended v2.1.2508
PCMark 10 Extended score4,3774,955
Essentials8,9929,853
App Start-up score11,21313,210
Video Conferencing score8,0308,518
Web Browsing score8,0758,501
Productivity7,7408,447
Spreadsheets score9,70010,166
Writing score6,1777,020
Digital Content Creation5,4876,200
Photo Editing score8,1399,195
Rendering and Visualization score5,6195,995
Video Editting score3,6144,324
Gaming2,5983,158
Graphics score3,4004,189
Physics score16,36218,644
Combined score1,0971,300
3DMark v2.18.7185
Time Spy1,2651,465
Fire Strike3,1463,817
Night Raid13,56215,848
Cinebench R23.0
CPU9395 pts9056 pts
CPU(Single Core)1245 pts1192 pts
Cinebench R20.0
CPU3635 pts3516 pts
CPU(Single Core)484 pts488 pts
Cinebench R15.0
CPU1639 cb1497 cb
CPU(Single Core)187 cb188 cb
Crystal Disk Mark 8.0.2
Q8T1 シーケンシャルリード2537.72 MB/s1864.22 MB/s
Q8T1 シーケンシャルライト1266.06 MB/s1691.17 MB/s
Q1T1 シーケンシャルリード1744.62 MB/s1564.94 MB/s
Q1T1 シーケンシャルライト1230.48 MB/s561.32 MB/s
Q32T16 4Kランダムリード500.18 MB/s561.73 MB/s
Q32T16 4K ランダムライト380.98 MB/s434.99 MB/s
Q1T1 4Kランダムリード59.02 MB/s51.78 MB/s
Q1T1 4K ランダムライト207.03 MB/s108.06 MB/s
TMPGEnc Video Mastering Works 7
※約3分のフルHD(15~16Mbps)動画をH264/AVCとH.265/HEVC形式で圧縮
H.264/AVC2分22秒2分20秒
H.264/AVC(Video Coding Engine有効)47秒43秒
H.265/HEVC5分16秒4分31秒
H265/HEVC(Video Coding Engine有効)49秒44秒

 一般的なアプリを利用する場合の性能をスコアで比較できる「PCMark 10」では、全ての項目でRyzen 5 PRO 4650Gの自作PCのほうがスコアが高かった。コア数よりも動作クロックのほうが影響しやすいベンチマークテストなので、順当な結果と言える。3Dグラフィックス性能を計測できる「3DMark」でもRyzen 5 PRO 4650Gの方が上だった。

 一方、対応するコア数やスレッド数が強く影響する「Cinebench」では、概ねHM80のほうが優れていると言ってよいだろう。Ryzen 5 PRO 4650Gの自作PCもかなり健闘しているが、これはRyzen 5 PRO 4650Gの高い動作クロックが、コア数やスレッド数の差を埋めたものと思われる。

 TMPGEnc Video Mastering Works 7も、CPUのコア数やスレッド数が影響しやすいベンチマークテストだ。H.264/AVCのテストではほぼ同等、H.265/HEVCのテストではRyzen 5 PRO 4650Gの方が15%短い時間で処理を終えた。

 ただH.265/HEVCの結果がちょっと変だな、と思ってHM80の作業中の様子を見ると、エンコード作業の後半で動作クロックや消費電力が若干低下していた。CPU温度の冷却が追いつかない状況になって動作クロックが低下し、それがテスト結果に反映されたものと思われる。

 3Dゲームの適性を検証するため、「ファイナルファンタジーXIV:漆黒のヴィランズ ベンチマーク」を実行したところ、フルHD解像度でグラフィックス設定が「標準品質(デスクトップPC)」ならScoreは4361で、「快適」と判定された。

ファイナルファンタジーXIV:漆黒のヴィランズ ベンチマークの結果

 また比較的描画負荷は低めの3Dゲーム「レインボーシックス シージ」では、解像度がフルHDでグラフィックス設定が「低」なら平均fpsは78、最低fpsは65、最高fpsは97と、十分にプレイできるレベルのfpsだった。

レインボーシックス シージの結果

 まとめると、軽作業中心に考えるならRyzen 5 PRO 4650G搭載の自作PC、CPUコアやスレッド数が重要になるテストではRyzen 7 4800Uがやや有利、という結果になった。Ryzen 5 PRO 4650Gはミドルクラスではあるが、歴としたデスクトップPC向けCPUだ。そうしたCPUと互角に渡り合う性能を叩き出したということ自体、かなり驚くべきものと言えるだろう。

拡張性も十分確保、使い道を選ばない汎用性の高さ

 HM80は単体でPCとして機能するので、メモリやSSDを自分で組み込む必要はない。ただし底面を開ければ、内部へのアクセスが可能だ。底面を固定している4つのネジを外し、側面の隙間に薄いプラスチックのへらを挿し込みながらゆっくりと固定用のツメを外していくと底面が外れ、メモリスロットやM.2スロット、2.5インチSSDを固定できるシャドウベイなどにアクセスできる。

底面を開けると、メモリスロットなどにアクセスできる
底面には2.5インチSSDを2基まで固定できるシャドウベイを装備

 メモリは今回試用したモデルでも16GBを搭載しており、不自由は感じない。ただSSDは256GBだったので、メインPCとして使うならちょっと物足りなく感じる場面はある。最近安くなってきた1~2TBクラスのM.2対応SSDに換装するもよし、同じく大容量の2.5インチSSDを増設し、データやアプリはそこに保存するのもいいだろう。

 また、こうした高い性能や拡張性とともに注目すべきは、消費電力の低さだ。検証部分で紹介したRyzen 5 PRO 4650G搭載の自作PCの場合、アイドル時の消費電力は22.5Wだった。それに対してHM80は5.5W。そしてCPU性能をほぼ100%利用するCinebench R23を実行中の消費電力は、自作PCが106~107Wであるのに対し、HM80は50~51Wだった。

 ノートPC向けのCPUなのだから当たり前、という考え方はある。しかし性能面ではほぼ互角なのだから、消費電力と性能のバランスはHM80の方がずっと優れている。この手の小型PCはいくつか検証してはいるが、改めてスゴイ時代が来たものだと感じる。

 4K対応の液晶TVの脇に置いて、PCのコンテンツを楽しむためのサブPCとして使うもよし。軽作業主体ならメインPCとして使っても十分にその役割を果たせるだろう。4K解像度で3画面までのマルチディスプレイに対応するので、テレワークの作業性を高めるのも容易だ。息抜きに軽い3Dゲームを楽しみたくなっても、問題なくプレイできる。

 実務とエンタテイメントを強力にサポートし、非常に幅広い用途で快適に利用できる優れたデスクトップPCと言ってよいだろう。