イベントレポート

これまでとは逆のプロセスで開発された"曲がる"ノート「ThinkPad X1 Fold」

Lenovo「ThinkPad X1 Fold」

 既報のとおり、Lenovoは6日(米国時間)、CES 2020にあわせてディスプレイが曲がって折りたためる「ThinkPad X1 Fold」を発表。同日に報道向けに新製品の説明会を開催した。

 ThinkPad X1 Foldも、従来のThinkPadシリーズ同様、日本のレノボ大和研究所で開発された。開発がはじまったのは4年前である。当時は着脱式や、いわゆるYOGA式などいろいろな2in1フォームファクタが登場していた時期だが、着脱式については、結局ユーザーはいつもキーボードをセットで持ち歩いて使っていることがわかりはじめていた。

 キーボードを持ち歩くのは、ThinkPadがターゲットとするビジネスユーザーが業務を行なううえで、物理キーボードのほうが生産性が高いからである。他方、とくに日本を含むアジア地域では、電車通勤が多く、コンパクトに持ち運びたいというニーズもあった。そこで、出てきたのが、折りたためるThinkPadというアイディアだ。

 これまでのThinkPad製品は"インサイドアウト"、つまり現状、こういうCPUや規格があり、それをこのようにパッケージするとこういう製品ができあがるという手法で開発されていた。しかし、ThinkPad X1 Foldは、上述のようなユーザーニーズが先にあり、それを満たすためにはどうしたらいいかという"アウトサイドイン"の思想で開発された。

大和研究所Director & Principal Engineer, System Innovation Commercial Notebook Developmentの塚本泰通氏(左)

 しかし、言うは易しで、まだ当時はスマートフォンですらディスプレイが折りたためるものはなく、堅牢性や、広げたさいにヒンジ部分が平らになるといったことを実現するには、さまざまな試行錯誤が必要だった。とくに本製品はThinkPadのブランドを冠しており、ユーザーには完璧さが求められる。果たして、ディスプレイ部分の開発には3年近くがかかった。

 曲がるという特性を実現するにあたり、パネルの選択肢はOLEDのみだった。堅牢性を確保するため、それと組み合わせる筐体素材は、固いものがいいだろうと、最初は金属素材を検討した。15以上の素材で検証したが、落下テストなどでThinkPadに求められる基準を満たすことができなかった。

 そんななか、たまたまOLEDパネルをテーブルに置いたまま検証を行なったところ、テストを通過できた。そこから判明したのが、筐体には、衝撃を吸収する仕組みが必要だということだった。そこから行き着いたのがカーボンファイバーの筐体だった。カーボンファイバーについては、ThinkPad X1 Carbonなどで培った長年のノウハウがある。そうして、必要な堅牢性を満たす筐体を完成できた。

【お詫びと訂正】初出時に、カーボンファイバー採用の理由について「固さよりもある程度の柔軟性が必要だから」としておりましたが、正しくは「衝撃を吸収する仕組みが必要だから」となります。お詫びして訂正させていただきます。

 ヒンジ部分についてもさまざまな試行錯誤を行ない、数mm程度の隙間を残して曲げることで、OLEDを割らずに折りたためるようになった。これも言葉にすると簡単だが、ヒンジの内側は一定間隔の隙間を残しつつ、ヒンジ外側はじょじょに膨らむような精密な機構になっている。また、ヒンジが動くさいに埃などが侵入しないように密閉されている。

 前述のとおり、ヒンジ内部には数mmの隙間が残されている。そのため、本体のみを折りたたむと、先端のほうが細いくさび形となる。しかし、本製品には専用のBluetoothキーボードが付属する。このキーボードは縦横のサイズが、PCを折りたたんだときと同じで、厚みは、このヒンジの隙間と同じになっている。そのため、キーボードを挟んだまま折りたたむと、内部の隙間がなくなるようになっている。なお、このキーボードは、本体から無線で充電できる。

平らに広げたところ
専用キーボードを載せたところ
キーボードを挟んだまま折りたたむと隙間なく閉じられる

 折りたたみ式のスマートフォンの場合は、完全に閉じた場合と完全に開いたときの2パターンでしか使われないが、ThinkPad X1 Foldの場合は、クラムシェルスタイルでも使うため、利用時の折りたたみ角度はいつも変わることになる。その上で、安定性、信頼性を確保できる設計となっている。耐久性については3万回の開閉テストを通過。これにも開発には2~3年がかかった。

ThinkPad X1 Foldの開閉の様子
ThinkPad X1 Fold。7型での利用から、13.3型での利用への移行の例
ThinkPad X1 Fold、ヒンジ部の接写

 ヒンジ部分とあわせて外装にもこだわりがある。ヒンジ部分が直接肌に触れるのはあまり好ましくない。そこで、革製のカバーを取りつけた。

 スペックについてもSkylake、Kaby Lake、Amber Lakeなど幅広く検討を行ない、プロダクティビティ用途で十分な性能を発揮し、かつ消費電力が少ないと言うことで、最終的には3D積層ヘテロジニアスマルチコアのLakefieldを選択した。Lakefieldは、薄型・小型の製品を想定されたプロセッサで、ファンレス駆動が前提となっている。しかし、ファンレスのプロトタイプでは、手に持ったまた使っていると熱を持ちすぎるということで、特別な設計を行ないファンを搭載可能とした。

 このような過程を経て生まれたThinkPad X1 Foldは、さまざまな使い方ができる。まず、折りたたんでクラムシェルのように使うときは、上下2画面のノートPCとなる。片方にブラウザで情報を表示しながら、片方にWordを開いて文書を作成したりできる。この時、キーボードはPCの手前に置いておく。

 パネルはもちろんタッチ対応で、付属のペンによる入力も可能。あるいは、下側の画面にソフトキーボードを表示して、ハードウェアキーボードなしでの利用も可能だ。

ペン操作にも対応。ペンは使わないときは、革カバーのタブに引っかけておける
下画面にはソフトキーボードも表示できる

 キーボードはマグネットで下側の画面の上に装着できる。こうすると7型相当の小型ノートPCとして使える。

 キーボードを取り外し、本体を広げると13.3型の1画面となる。革製のカバーは、一部が折り曲げ可能となっており、これがキックスタンドとなる。こうして、より大きな画面でExcelなど細かい入力を行なったり、あるいはタブレットスタイルで動画などのコンテンツを楽しむこともできる。

革カバーは、一部を折り曲げてキックスタンドにできる
このように13.3型相当のタブレットあるいはノートPCとしても利用可能

 2020年中頃の発売当初は、OSはWindows 10となるが、独自のソフトで2画面の制御などを行なうが、その後、より2画面での操作に最適化されたWindows 10X版が発売される。5Gモデムの搭載も想定されており、ベゼル部分は5Gアンテナの実装を想定した設計となっている。

 また、キーボードについては、ThinkPad特有のトラックポイントつきのものも現在検討されており、後日追加発売となる可能性もあるという。